肝疾患についてのまとめ

 急性ウイルス性肝炎(acute viral hepatitis)
定義肝細胞で特異的に増殖する肝炎ウイルスによって起こる肝の急性炎症疾患。
病因
[HAV]通常A型肝炎の患者の糞便が下水道を通して河川に流れ、そのHAVを摂取したカキなどをさらに生で人間が食べた時にA型肝炎が発症する。
[HBV]感染源としては血液が主であるが、唾液・尿・便・精液も感染源になりうる。分娩時の経産道感染や夫婦間感染などが多い。
[HEV]HAV同様、経口により感染する。インド・ミャンマー・中国などの発展途上国における劣悪な衛生環境での水系感染により発症することが多い。
病態肝炎ウイルスが肝細胞に感染・増殖すると、これを排除しようとしてT細胞による免疫反応が惹起される。この結果、肝細胞が急激に障害され、急性肝炎を発症する。
病理
腹腔鏡像
急性ウイルス性肝炎の極期においては、一般に肝の腫大、肝辺縁の鈍化がみられ、肝表面波びまん性に発赤調を呈する。
肝の組織像
肝細胞の変性所見(空胞変性および細胞質の膨化に伴う風船細胞)と壊死所見(好酸小体)、炎症所見(小リンパ球・好中球浸潤およびKupffer細胞の腫大・増生)が認められる。また、肝細胞にはFe染色によりFeの沈着が認められる。さらに再生所見として、肝細胞の敷石状配列がみられる。
門脈域はやや浮腫状に腫大していることが多く、小リンパ球・好中球などの細胞浸潤が少しみられる。
 臨床症状  ・前駆期…1~2週間の潜伏期の後、全身倦怠感、発熱、食欲不振、悪心・嘔吐などが認められる。
・黄疸期…眼球結膜の黄染、濃厚尿、皮膚掻痒感が自覚される。
・回復期…ほとんど自覚症状はなくなる。
検査所見
血液生化学検査
・血清ビリルビン…直接型優位の増加がみられる(間接型も増加する)。
・血清トランスアミナーゼ…GOT(AST)・GPT(ALT)の著増がみられる。
・胆道系酵素…通常は正常~軽度上昇。胆汁うっ滞型を呈する場合には、有意に上昇する。
・凝固能…肝由来の血液凝固因子が減少し、しばしばPTの低下がみられる。
・膠質反応…一般に軽度上昇する。A型肝炎ではチモール混濁試験(TTT)の上昇が著明である。
診断
[HAV]IgM型HA抗体の検出により確定診断される。
[HBV]一般的には、HBs抗原陽性、IgM型HBc抗体陽性、HBc抗体低力価にて診断され、慢性肝炎の急性増悪とはHBc抗体価にて鑑別される(急性増悪時にはHBc抗体高力価となる)。
[HEV]HEV抗体の測定により診断される。
鑑別診断肝炎ウイルス以外のウイルスでは、EBウイルス・サイトメガロウイルスなどが重要であり、それぞれのウイルスマーカーを測定して診断する。また、これらのウイルスでは伝染性単核球症、またはこれに類似した病態を呈することが多い。
薬物アレルギー性肝炎では薬物使用歴の聴取が重要である。本人が薬物として認識していない場合もあるので注意する。白血球増加、好酸球増加、薬物リンパ球刺激試験(LST)陽性などが診断の助けとなる。
治療急性肝炎は自然治癒傾向が強いので、重症化例を除いて特殊治療の必要はない。
   ・急性期…安静、補液、栄養補給などを行う。
   ・重症化をきたした場合…ステロイドや抗癌剤の投与あるいは抗ウイルス療法(IFN治療など)などが行われる。
予後
[HAV]通常は自然に治癒するが、まれに劇症化したり、重篤な合併症(腎不全など)を生じたりする。
[HBV]治癒する場合が多いが、劇症化することもある。成人では慢性化することはないが、母子感染時にはキャリアとなり、慢性肝炎を起こす場合がうち10%程度ある。
[HCV]急性肝炎の症状自体は軽いが、多くは慢性化して、肝硬変→肝癌という経過をとる。急性肝炎で治癒するのは1/3程度である。
 劇症肝炎(fulminant hepatitis)
定義肝炎のうちで、経過中に広範な肝細胞死により、肝性昏睡をはじめとする種々の肝不全症状をきたすもののことで、"症状発現後8週以内に高度の肝機能障害に基づいて肝性昏睡Ⅱ度以上の脳症をきたし、PT 40%以下を示すもの"が診断基準とされる。
肝炎発症後10日以内に脳症が出現する急性型と、それ以降に発現する亜急性型がある。
疫学日本全国で年間約1,000例発症すると推定されている。原因別頻度では、薬物性が約10%、A型肝炎が約20%、B型肝炎が約25%、非A非B型が約45%である。C型肝炎は非A非B型に含まれるが、C型肝炎による劇症肝炎の頻度は少ない。
発生機序十分には解明されていないが、免疫複合体の関与や細胞性免疫の関与、Shwartzman反応の関与など考えられている。
病理肉眼的には縮小した軟らかい肝、組織学的には肝細胞の壊死脱落と出血がみられる。急性型では広範な肝細胞壊死、亜急性型では亜広範細胞壊死像を示すことが多い。
 臨床症状 肝性昏睡が必発であるが、軽度のものから完全な昏睡まで広く含まれる。肝性昏睡以外の主要な臨床所見としては、進行性の黄疸、強い全身倦怠感と食欲不振、悪心・嘔吐、肝性口臭(←血清アンモニアの上昇による)、発熱、頻脈、出血傾向、浮腫、腹水、乏尿、肝濁音界の縮小(肝の萎縮)、羽ばたき振戦などがある。
   ※羽ばたき振戦…腕を前方に伸ばし、手指をできるだけ広げて手指を背屈させると
         律動性の運動が交互に手関節・中手指関節に出現する。劇症肝炎以外でも、
         尿毒症やCO2ナルコーシスなどの代謝性脳症でも出現する。
検査所見

診断
血液生化学検査
・白血球増加がみられる。DIC合併時には血小板減少もみられる。
・血清ビリルビン…増加がみられる(間接型優位では予後不良)。
・血清トランスアミナーゼ…GOT・GPTは病初期に著増するが、比較的早期に低値となる。
・凝固能…PTは著明に低下し、40%以下となる。経時的な測定が必要である。
・血漿遊離アミノ酸…ほとんどすべてのアミノ酸が増加する(特にメチオニンの増加が顕著)。
・その他、血清コリンエステラーゼ・総コレステロール・アルブミンの減少がみられる。
脳波検査
昏睡Ⅱ~Ⅲ度で脳波は徐波化し、3相波が出現する。昏睡Ⅳ度以上になると平坦化してくる。
腹部超音波検査、CT検査
肝の大きさ(萎縮の程度)、内部構造の変化(肝実質構造の不均一、脈管系の狭小化など)、腹水の有無、脾腫の程度などの判定に有用である。
治療治療の基本は、肝細胞壊死の阻止と肝細胞再生の促進であり、そのために、①全身管理、②特殊療法、③合併症対策が行われる。
①全身管理…安静、栄養・呼吸・循環の管理を行う。
②特殊療法…血漿交換などの血液浄化法、免疫抑制療法、抗ウイルス療法、抗サイトカイン療法などが行われる。
③合併症対策…感染症・消化管出血・DIC・脳圧亢進などに対して適宜、適切な予防措置を行う。
また、実施可能な場合には、肝移植が行われることもある。
予後劇症肝炎の救命率は30~50%であり、特に亜急性型は予後が悪い。救命には、肝炎の劇症化を予測し、早めの対応をとることや、病因や病態に応じた適切な治療法を選択することが重要である。
 慢性ウイルス性肝炎(chronic viral hepatitis)
定義肝炎ウイルスの持続感染により、通常血液生化学的肝障害が6か月以上持続している状態のこと。B型慢性肝炎とC型慢性肝炎がその代表である。
疫学慢性肝炎のうち、B型が10~20%、C型が70~80%を占める。非B非C型慢性肝炎や自己免疫性肝炎はそれぞれ数%である。慢性肝炎患者は潜在例も含め、全国で200万人程度いることが推測されている。
病因
[HBV]感染源としては血液が主であるが、唾液・尿・便・精液も感染源になりうる。分娩時の経産道感染や夫婦間感染などが多い。
[HCV]輸血をはじめとする種々の医療行為、血液製剤、刺青などによる感染が主。
病態肝炎ウイルスの持続感染が存在し、感染肝細胞に対する細胞性免疫反応の結果、持続的な肝細胞壊死とこれに伴う線維化が惹起される。進行例では門脈-門脈、および門脈-中心静脈間の線維化が起こり、肝小葉構造が改築され、最終的に再生結節が形成される(肝硬変)。また、線維化が進むと肝細胞癌の合併率が高くなる。
病理・壊死炎症反応…巣状壊死(数個の肝細胞壊死)、融合壊死、ピースミール壊死(門脈周囲の壊死)
・肝細胞の再生…多中心的に不規則におこる
・門脈域の炎症反応、線維化
 臨床症状 多くは症状を認めないが、他覚所見として肝の軽度腫大がみられる。全身倦怠感、食欲不振、腹部不快感などの非特異的症状を認めることもある。急性増悪時には黄疸が出現する場合がある。
検査所見

診断
血液性化学検査
GOT・GPTの持続的変動があり、γ-グロブリンや膠質反応の上昇を認める。ICG停滞率は、肝病変の進行度に応じて悪化する。また、血小板が病気の進行に伴って減少していくことが多い。
ウイルスマーカー
B型慢性肝炎では、HBs抗原持続陽性でHBc抗体が高力価陽性となる。HBe抗原・抗体、HBVポリメラーゼ、HBV-DNAの測定は病態の把握に有用である。
C型慢性肝炎では、HCV抗体陽性となる。ウイルス血症の確認にはPCR法でHCV-RNAを測定する。
画像診断
腹部超音波検査によって、肝縁の鈍化、内部エコーの不均一化が認められる。
組織所見
慢性肝炎の診断や病態の把握にきわめて有用である。基本的な病変は、門脈域の線維性拡大と単核球浸潤、および実質の壊死炎症反応である。
治療
[HBV]自然軽快例(HBe抗体陽性無症候性キャリア)も多い。しかし、症例によっては急速に肝硬変へ進展するので、このような症例では肝庇護薬に加え、抗ウイルス薬(ラミビジンIFN)や免疫抑制剤による積極的な治療を行う。
[HCV]自然治癒はきわめてまれであり、長年の経過で肝病変は徐々に進行する。IFNはC型慢性肝の治療に有効であり、約30%の症例でHCVが排除され肝炎が治癒する。その他の症例では、肝庇護薬やグリチルリチン製剤を投与し、肝病変の進行を遅らせるように努める。
 自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH)
定義自己免疫の機構により肝細胞破壊が持続して進行、早期に肝硬変への進展傾向を示す慢性活動性肝炎。
疫学患者数は6,000~7,000人。男女比は1:8くらいである。10~30歳での発症もみられるが、多くは40歳以降の中年女性である。
病因原因は不明である。免疫調節機構の異常によって、自己成分(特に肝細胞膜抗原)と反応する免疫担当細胞の出現により発症する疾患といえる。遺伝的素因も認められ、欧米ではHLA-DR3、わが国ではHLA-DR4をもつ症例が多い。自己抗原は不明である。ミノサイクリン・メサラジン・IFNなどの薬剤が原因となることもある。
抗核抗体・抗平滑筋抗体などの自己抗体と、γ-グロブリン(特にIgG)の高値などのB細胞機能異常を示唆する所見、およびB細胞・形質細胞の肝への浸潤が特徴的である。また、慢性関節リウマチ、Sjo¨gren症候群、慢性甲状腺炎など、他の自己免疫性疾患を合併することも多い。
病理
活動性の高い慢性肝炎~肝硬変。広範な肝細胞脱落が特徴的である。
肝表面所見
赤色紋理、溝状陥凹、広範な陥凹、なだらかで粗大な盛り上がりが特徴。
病理組織学的所見
多小葉にわたる肝細胞脱落、bridging necrosis、小葉の変形・改築、肝細胞の門脈域での島與状遺残、ロゼット形成、高度な巣状壊死、高度なinterface hepatitis所見、リンパ濾胞形成、形質細胞浸潤などの特徴がみられる。
 臨床症状 初発症状として、全身倦怠感、食欲不振、発熱、関節痛、黄疸などがある。しかし、自覚症状に乏しく偶然の血液検査で発見される場合もある。急性肝炎様に発症する場合もあれば、腹水・肝性脳症などを伴って激症or重症肝炎として発症し、肝不全より死に至るものもある。
検査所見
血液生化学検査
CRP高値と血沈の亢進がみられる。GOT・GPTは高度に上昇し上昇、総ビリルビン・γ-グロブリン・IgGも高値を示す。
血清検査
抗核抗体・抗平滑筋抗体・肝腎ミクロソーム1抗体・SLA抗体などの自己抗体が陽性となる。原則として肝炎ウイルスマーカーは陰性。
肝生検
肝細胞壊死とpiecemeal necrosisを伴う慢性肝炎~肝硬変で、しばしば著明な形質細胞浸潤を伴う。時に急性肝炎像を呈する。
診断まず、ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害、薬物性肝炎、Wilson病を除外診断する。同時に、自己抗体・γ-グロブリン・IgG・血沈の測定を行う。
治療原則として、免疫抑制作用のある副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど)を投与する。多くの症例はこれにより症状、血液生化学検査所見・組織所見も改善する。ただし、長期投与を必要とするため、副作用の出現には注意を要する。
ステロイドの効果が少ない時や重篤な副作用が出現した場合、アザチオプリンを併用する。
軽度の肝障害の場合は、経過観察orウルソデオキシコール酸投与を行うこともある。
予後劇症肝炎様の発症例を早期に診断し、ステロイド治療を開始することが非常に重要である。機を逸すると、肝不全から死亡する例がみられる(肝硬変に進展した症例などで高率となる)。
 肝硬変(hepatic cirrhosis)
定義種々の原因疾患により、病理組織学的に、慢性の肝細胞の破壊と再生、線維の増生により線維性隔壁で囲まれた再生結節(偽小葉)が肝全体にびまん性に形成された状態。
疫学患者数は年々増加し、わが国では現在10~20万人の有病率と推定されている。国内では、西高東低の傾向にあり、西日本にウイルス性肝炎・肝硬変の発症が多い。
原因別には、50%以上がHCV、15%程度がHBV、10%強がアルコール、残りは特殊型・原因不明である。
男女比は原因疾患に依存し、ウイルス性・アルコール性は男性優位、自己免疫性は女性優位となっている。
分類
病期による分類
・代償期…臨床症状に乏しい。
・非代償期…肝性脳症・腹水・食道静脈瘤などの典型的な症状を示す。
原因による分類
・ウイルス性…HBV、HCV、その他
・薬剤&毒素性…アルコール、メチルドーパなど
・代謝性疾患…Wilson病、ヘモクロマトーシス、α1-アンチトリプシン欠損症など
・自己免疫性…自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎など
・胆管・血管性…2次性胆汁性、Budd-Chiari症候群、うっ血性心不全など
重症度分類(Child-Pugh分類
脳症・腹水・ビリルビン値・アルブミン量・プロトロンビン時間により規定される。これらの合計点数によって、grade A~Cに分けられる。
病態線維性隔壁で囲まれた再生結節(偽小葉)が肝全体にびまん性に形成され、肝細胞の機能不全状態と血流異常に基づいて以下の病態を呈する。
蛋白・脂質
合成障害
肝細胞の傷害・血流低下により、アルブミン(浮腫・腹水の原因)、血液凝固因子(出血傾向)をはじめ多くの蛋白・脂質合成低下が生じる
代謝障害ビリルビンの代謝障害による黄疸、アンモニア、その他の肝不全物質の排泄低下による肝性脳症、薬物の代謝・排泄低下による血中での停滞など
血流異常再生結節や線維性隔壁による肝血流の低下、門脈圧亢進による脾腫と食道・胃静脈瘤、消化管血流うっ滞、腹壁静脈怒張、脾機能亢進による汎血球減少など
 臨床症状 
非特異的全身症状
全身倦怠感、易疲労感、食欲不振などがみられる。
他覚所見
・肝腫大…触診により、肝左葉の辺縁が硬く鈍、表面不整
       (一般に、左葉は腫大するが、右葉は萎縮することが多い)
・皮膚症状…手掌紅斑、くも状血管腫、女性化乳房、皮膚掻痒感、caput medusae(メズサの頭)
・浮腫、腹水、胸水…原因はこちら(重要)
・出血傾向(鼻出血、歯肉出血、皮下出血)…脾腫に伴う血小板破壊・プール、肝機能低下による凝固因子の産生低下による
・黄疸(総ビリルビン≧2mg/dl)…眼底所見が分かりやすい
・腎障害(肝腎症候群 HRS
重篤な肝疾患時に合併し、2~3週間で死亡することが多い。腎には病理学的に異常がなく、肝移植により腎機能も改善する。尿中Naの低下、沈渣異常なしなどの腎前性腎不全所見を呈するが、1500mlの輸液を行っても症状が改善されない。原因はこのように考えられている。
・精神症状(肝性脳症)…異常行動、意識レベルの低下、羽ばたき振戦
    原因としては、血清アンモニアの増加、アミノ酸分画の変化、GABAの増加などが考えられている。
・感染症(特発性細菌性腹膜炎 SBPが特異的)
    Kuppfer細胞の機能低下、門脈-大循環短絡により、腸管から菌が全身へ移行しやすくなっているため。
検査所見

診断
血清検査
HBs抗原、HBc抗体、HCV抗体、自己抗体(抗核抗体・抗ミトコンドリア抗体など)の検索を行う。肝癌の合併の検索としてα-フェトプロテイン(AFP)、PIVKA-Ⅱが行われる。
末梢血液検査
貧血、白血球数減少、血小板数減少がみられる(汎血球減少)。
血液生化学検査
総ビリルビン・総胆汁酸の上昇、GOT・GPT値の上昇(GOT>GPT)、アルブミン・コレステロール・ChEの低下、γ-グロブリンの上昇(通常肝で処理される抗原が血中に入るため)、血清アンモニア高値などが認められる。アミノ酸分析では、分岐鎖アミノ酸/芳香族アミノ酸(Fischer比)の低下がみられる。
凝固系
PTの延長、ヘパプラスチンテストの低下が認められる。
ICG(インドシアニングリーン)排泄能
ICG負荷後15分の血中停滞率(正常で10%以下)が15~40%、時にそれ以上となる。
画像診断(カラードップラー法を含む腹部超音波、CT、MRI)
肝辺縁鈍化、表面凹凸、脾腫、血流異常、肝癌の合併などがみられる。
内視鏡検査
食道・胃静脈瘤の存在とその程度、治療の必要性をみる。
治療肝硬変そのものの病態を治癒させることは不可能で、治療は一般状態の改善と合併症の予防・治療に限られる。
 ・汎血球減少に対して、鉄剤・ビタミンB12・葉酸の投与、摘脾が行われる。
 ・肝性脳症の予防のために、蛋白制限、分岐鎖アミノ酸製剤投与などが行われる。
 ・腹水に対しては、安静、塩分制限、利尿薬投与などを行うが、重症例では腹水穿刺や手術も行われる。
 ・肝腎症候群に対しては、肝移植、血管収縮剤投与などが行われる。
 ・特発性細菌性腹膜炎に対しては、早期の抗生物質投与が必要である。
 ・食道静脈瘤に対しては、内視鏡的食道静脈瘤硬化術・結紮術を行う。
 原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis:PBC)
定義肝内の小葉間および隔壁胆管など中等大の胆管の破壊・消失により、慢性の肝内胆汁うっ滞を示す疾患である。定型的には、皮膚掻痒感を初発とし、黄疸が出現すると消退することは少ない。病期が進行すると、肝不全や門脈圧亢進症が高頻度に出現する。
疫学まれな疾患といわれてきたが、有病率は10万人あたり3~4人で、患者数は推定約12,000人とされている。最近は皮膚掻痒感・黄疸を欠く無症候性PBCが新規症例の2/3を占めており、無症候性PBCも含めると、それほどまれな疾患ではない。発症年齢は40~60歳代に集中し、約90%が女性である(閉経後の中年以降の女性に好発)。
分類
症候性PBC(s-PBC)
PBCのうちで黄疸を呈するものをいい、予後不良。終末像である胆汁性肝硬変の治療法は肝移植のみである。
無症候性PBS(a-PBC)
皮膚掻痒感・黄疸など肝障害に基づく症状を欠くもののことをいい、予後は比較的良好。
病因

病態
原因は不明であるが、自己抗体の出現や、他の自己免疫疾患を合併することから、自己免疫機序により胆管が破壊されると考えられている。
胆管障害により胆汁がうっ滞し、肝細胞障害・線維化をきたし、やがては肝硬変となる。また、門脈域の炎症や肉芽腫形成などにより肝内門脈枝が閉塞し、早期から門脈圧亢進症をきたしやすい。
病理小葉間胆管or隔壁胆管の慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)とよばれる特徴的な組織学的所見を呈し、胆管上皮細胞の多層化や乳頭状配列などの増殖性変化、壊死および胞体の腫大や抗酸性変化などの変性像、胆管の破綻に代表される胆管の壊死性変化などが認められる。
 臨床症状 ・無症候性PBC…一般に無症状。他覚所見として肝腫大がみられることが多い。
・症候性PBC…皮膚掻痒感、黄疸、全身倦怠感が多い。進行例では、消化管出血や褐色尿、体重減少、浮腫、腹水など。
検査所見

診断
末梢血液検査
肝硬変期では血小板数減少。
血液生化学検査
ALP・γ-GTPなどの胆道系酵素の上昇、総ビリルビン・コレステロール・チモール混濁試験(TTT)高値が認められる。
血清検査
抗ミトコンドリア抗体(AMA)陽性、IgM高値。HBs抗原・HCV抗体は一般に陰性。
腹部超音波、CT、MRI
閉塞性黄疸の否定と肝の慢性変化の程度をみる。
肝生検
小葉間胆管or隔壁胆管の慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)が認められる。また、Scheuer分類に基づいた組織学的病期の決定に重要である。
上部消化管内視鏡検査
食道・胃静脈瘤がみられる。
合併症約25%の症例で他の自己免疫疾患を合併し、その中でもSjo¨gren症候群、慢性関節リウマチ、慢性甲状腺炎の頻度が高い。また、腸管からのカルシウム吸収を促進する活性型ビタミンDの産生が低下するために骨粗鬆症を合併したり、コレステロール排泄能の低下による高脂血症を合併したりすることもある。
治療
PBCに対する原因療法はない。
ウルソデオキシコール酸(UDCA)
現在広く用いられている治療薬剤。胆汁分泌作用と免疫抑制作用をもつとされる。
コレスチラミン
皮膚掻痒感に対して用いられるが、その効果については疑問がある。
肝移植
進行例に対して適応があり、わが国においても生体肝移植が一部行われるようになってきている。
 アルコール性肝障害(alcoholic liver disease)
定義アルコールの長期・過剰摂取に起因する肝障害で、その機序はアルコールによる直接肝細胞傷害であり、アルコール摂取に伴う栄養障害がそれを修飾する。
疫学近年わが国では、アルコール消費量の増大に伴ってアルコール性肝障害の頻度は増加傾向にある。全肝疾患に占める割合は約10%である。アルコール性肝障害の発生には個体差・性差があり、絶対数は男性に多いが、発病率は女性に優位に多い。
日本では、HCV重複感染例が多く、飲酒によってウイルス性肝障害からの肝細胞癌発生頻度が高まるとともに、若年での発癌のリスクが高まるので、問題となっている。
病型分類・非特異的変化群…肝機能検査では異常を認めるが、組織学的には非特異的変化を認める。
・アルコール性脂肪肝…小葉中心部に著明な脂肪肝がみられるのみで、肝の構造破壊は伴わない。
・アルコール性肝線維症…肝組織病変の主体が線維化であり、炎症細胞浸潤や肝細胞壊死は軽度。
・アルコール性肝炎…小葉中心部の肝細胞の風船化、肝細胞壊死、Mallory体、多核白血球の浸潤がみられる。
・アルコール性肝硬変…定型例では小結節性、薄間質性の肝組織病変がみられる。
病態生理エタノールは、肝においてアルコール脱水素酵素によりアセトアルデヒドに代謝され、さらにアセトアルデヒド脱水素酵素により酢酸を経て二酸化炭素と水になる。肝での代謝機構を上回るアルコール摂取が続いた場合には以下のような病態を生じる。
アルコールの
肝細胞傷害作用
アルコール代謝過程でのNAD補酵素系の還元型へのシフトにより、同補酵素を共役する種々の代謝系への影響(脂肪酸の増加、低血糖、乳酸アシドーシスなど)、肝細胞ミトコンドリア呼吸鎖の機能亢進による酸素消費の増大、およびアセトアルデヒドのミトコンドリア傷害や微小管傷害などによる肝細胞傷害がおこる。エタノールの代謝酵素の局在および肝血流の特徴から、肝小葉中心部(zone 3)が特に障害を受けやすい。
アルコールの
線維増生作用
アルコールによるコラーゲン合成酵素の活性化、アセトアルデヒドによる肝の伊東細胞・筋線維芽細胞のコラーゲン合成能亢進がおこる。
栄養障害長期・過剰飲酒による膵や消化管障害のための消化吸収不良、食事摂取の不足により低栄養や、高脂肪食など食事の偏りにより肝障害の増悪がおこる。
病理Mallory体(肝細胞内空胞出現)、脂肪沈着、肝細胞の風船様膨化、肝細胞周囲線維化、中心静脈の肥厚とその周辺への線維化の波及などがみられる。
 臨床症状  ・アルコール性脂肪肝・アルコール性肝線維症…肝腫大の他には、特有な自・他覚症状はない。
・アルコール性肝炎…連続的大量飲酒後に発症し、倦怠感、腹痛、発熱、黄疸、悪心・嘔吐、肝腫大などを伴う。
・アルコール性肝硬変…全身倦怠感、食欲不振、下痢が飲酒継続時にみられ、低栄養の合併が多い。
検査所見

診断
血液生化学検査
γ-GTPの著しい上昇、GOTの上昇が共通してみられる。その他、病型によって、IgAの上昇、中性脂肪・尿酸値の上昇、血清アンモニアの上昇などが認められる。
末梢血液検査
アルコール性肝炎では白血球増加を呈する。
腹部超音波、CT、MRI
肝腫大、慢性変化、脂肪肝、脾腫などが認められる。
治療禁酒以外に有効な治療法はなく、アルコール依存症に対する治療も必要である。
アルコール性脂肪肝は、基本的に無治療でよいが、節酒と肥満の解消が必要である。
予後断酒をきちんと行えば、重症型アルコール性肝炎を除いて、予後は比較的良好である。しかし、断酒が行えない場合には、肝不全・静脈瘤出血などにより死亡することが多い。
 薬物性肝障害(drug-induced hepatic injury)
定義投与された薬剤が原因となって発症する肝障害のことで、発症機序には以下の3つがある。
分類
発症機序による分類
①中毒性肝障害、②薬物代謝異常による肝障害、③薬物アレルギ―性肝障害の3つに分けられるが、大多数の肝障害は③の機序による。
臨床的分類
肝機能検査成績より、①肝細胞障害型、②胆汁うっ滞型、③混合型の3型に分類される。
発症機序
中毒性肝障害
投与量依存性に病態が出現する。薬物自体orその活性中間代謝産物により、フリーラジカルなどが生じ、肝細胞が障害される。
薬物代謝異常による肝障害
シトクロームP-450(CYP)などの薬物代謝酵素の先天的欠損or活性低下により、引き起こされる。
薬物アレルギ―性肝障害
薬物orその中間代謝産物が肝細胞成分と結合し、ハプテンキャリアとなり抗原性を獲得し、免疫系の攻撃を受ける。特定の人に発症するが、その機序は十分には解明されていない。
病因多種多様な薬剤でおこりうるが、抗生物質(セフェム、アミノ配糖体、抗腫瘍・抗酸性菌薬(リファンピシン)など)、中枢神経系用薬(消炎鎮痛薬、向精神薬、抗てんかん薬など)、循環器官用薬(抗不整脈薬、血管拡張薬など)、腫瘍用薬(代謝拮抗薬など)、ホルモン剤、化学療法剤(サルファ剤、抗結核薬、合成抗菌薬など)が高頻度である。
 臨床症状 ・アレルギーによる症状…発熱、発疹、皮膚掻痒感を肝障害出現前にみることがある。
・肝障害による症状…全身倦怠感、食欲不振、悪心、黄疸などがみられることがある。
検査所見

診断
末梢血液検査
白血球の増加がみられ、中でも好酸球の増加が著しい。
血液生化学検査
総ビリルビン(直接型優位)の上昇がみられる他、胆汁うっ滞型ではALP・γ-GTPの上昇、肝細胞障害型ではGOT・GPTの著明な上昇、混合型では両者の特徴を有する。
薬物感受性試験
リンパ球刺激試験(LST)が起因薬物の同定にある程度有用であるが、陰性でも否定はできない。
治療治療の基本は、起因薬物の中止or他系統のものへの変更である。多剤投与例では疑わしい順に中止or変更し経過をみていく。薬物投与中止後速やかに改善するものが多いが、時に黄疸の遷延することがあり、ウルソデオキシコール酸・副腎皮質ステロイド・フェノバルビタールなどの治療を必要とする。
 先天性高ビリルビン血症(congenital hyperbilirubinemia)
定義肝細胞の先天的ビリルビン代謝異常による黄疸。
分類

病態
間接ビリルビン優位のもの
肝細胞小胞体のビリルビンUDP-グルクロン酸転位酵素(UGT1A1)の活性の低下or完全欠如によって、ビリルビンのグルクロン酸抱合能が低下するために、血中に非抱合型ビリルビンが停滞する。UGT1A1の活性低下の程度、遺伝型式により、以下の3病型に分類される。
  ・Gilbert症候群…UGT1A1の活性低下。常染色体優性遺伝が多い。若年発症。
  ・Crigler-Najjar症候群Ⅰ型…UGT1A1の活性の欠如。常染色体劣性遺伝。生後1~3日に発症。
  ・Crigler-Najjar症候群Ⅱ型…UGT1A1の活性の著名な低下。常染色体劣性遺伝。生後1年以内に発症。
直接ビリルビン優位のもの
肝細胞でのグルクロン酸抱合段階以降のビリルビン代謝の先天障害(主に抱合型ビリルビンの毛細胆管への排泄障害)により、血中に直接ビリルビンが増加する。Dubin-Johnson症候群とRotor症候群の2病型が知られており、両者とも小児期に黄疸のみで発症することが多い。
疫学Gilbert症候群(人口の2~7%)以外はごくまれな疾患である。
 臨床症状 各病型によって症状出現の時期は異なるが、いずれも黄疸が主症状で、他に特有の症状がない場合が多い。
検査所見直接型or間接型優位の血清ビリルビン高値を示すが、ビリルビン以外の一般肝機能検査成績は、胆汁酸を含め正常である。
合併症胆石が時に認められる。
治療最重症のCrigler-Najjar症候群では、核黄疸の予防のための種々の治療が行われるが、Crigler-Najjar症候群以外の体質性黄疸はきわめて予後良好であり、原則的に治療の必要はない。
 代謝性肝疾患(metabolic hepatic disease)
ヘモクロマトーシス
(hemochromatosis)
【概   念】体内貯蔵鉄が増加し、ヘモジデリンが肝・膵・心臓・副腎などの実質細胞に大量に蓄積し、臓器障害をきたす疾患。一方、ヘモジデローシスは鉄が主として細網内皮系に沈着し、臓器障害を伴わないものをいう。
【分   類】
1次性(遺伝性)ヘモクロマトーシス
HFE遺伝子(第6染色体短腕)の点突然変異で生じる常染色体劣性遺伝病。日本ではきわめてまれで、白人では1/300。
2次性(続発性)ヘモクロマトーシス
無効造血亢進を伴う鉄芽球性貧血、ある種のポルフィリン症、血液透析患者、鉄剤の経静脈的過剰投与患者などでヘモクロマトーシスがおこることがある。
【疫   学】日本ではまれな疾患(10万人あたり50程度)。40歳以後の発症が多く、男性に多い。
【病   態】腸管からの鉄の吸収量の増加と体内への鉄の異常蓄積がみられる。過剰の鉄は全身の実質細胞に沈着する。鉄の組織への沈着は不可逆的でほとんど取れないため、長い年月をかけて徐々に臓器障害をきたしていく。
【症   候】肝硬変皮膚色素沈着(青銅色)、糖尿病を3大症状とする。その他の自覚症状としては、易疲労感、性欲減退、関節痛、腹痛、不整脈などがある。
【検   査】体内貯蔵鉄の増加を示す所見として、血清鉄上昇、トランスフェリン飽和度上昇(不飽和鉄結合能の低下)、血清フェリチン値上昇などが重要である。一方、尿中の鉄排泄は正常である。
また、肝硬変を示す所見として、肝CT値上昇があるが、確定診断は肝生検組織の鉄染色にて行われる。
【合併症】肝細胞癌が結構高率で起こる他、うっ血性心不全、肝不全などが起こることもある。これらは死につながりうる合併症なので、治療の上でできるだけ防がなければならない。
【治   療】喀血療法…最も有効な治療法。長期間にわたって定期的に行う必要がある。
・キレート化剤(デフェロキサミン)…消極的な治療法で、喀血困難時に適応となる。
【予   後】早期に治療しないと予後不良である。
Wilson病
【概   念】先天性銅代謝異常により、肝・脳(特に基底核)・角膜・腎などに銅が過剰に蓄積し、臓器障害をきたす常染色体劣性遺伝疾患
【疫   学】頻度は世界的には100万人に5例とされているが、日本では少し高く、4~9万人に1例とさている。発症のピークは10~15歳であり、多くは青年までに発症する。
【病   因】胆汁への銅排泄およびセルロプラスミン前駆体への銅キレートに関与するP型ATPase遺伝子(第13染色体長腕)の変異が原因である。
【症   候】肝硬変(全身倦怠感・腹部膨満感・腹痛などを呈する)、神経障害(錐体外路症状が主)、眼症状(Kayser-Fleischer角膜輪)が3主徴。他には、腎近位尿細管障害などもおこる。
【検   査】銅代謝異常を示す所見として、血清セルロプラスミン値低下血清銅低下(アルブミン結合銅増加・セルロプラスミン結合銅低下)、尿中銅排泄量の増加などがみられる。画像診断では肝CT値上昇などが参考となる。
【治   療】キレート剤(D-ペニシラミン)…神経症状出現前に投与する必要がある。
・その他、銅制限食、亜鉛摂取(腸管からの銅吸収を抑制)、肝移植など。
【予   後】早期診断、早期治療が予後をよくする上で最も重要。
 門脈圧亢進症(portal hypertension)
肝硬変門脈圧亢進症の原因疾患として最も頻度が高く、全体の過半数を占める。
肝硬変においては、に示すようなメカニズムで循環亢進がおこる。
特発性門脈圧亢進症
(IPH)
【概   念】脾腫・貧血・門脈圧亢進を示し、しかも原因となるべき肝硬変、肝外門脈・肝静脈閉塞、血管疾患、寄生虫症、肉芽腫性肝疾患、先天性肝線維症などを証明し得ない疾患。
【徴   候】脾腫(肝硬変に比して大きい)、側副血行路形成、貧血、腹水など。
【検   査】血液検査で、汎血球減少、ほぼ正常~軽度低下の肝機能、高γ-グロブリン血症、各種自己抗体陽性など。
門脈末梢枝が閉塞し、門脈造影を行うと門脈末梢枝と肝表面との間にavascular areaを認める。肝静脈造影で"しだれ柳状"所見を呈する。
【合併症】SLEなどの自己免疫疾患を合併することもある。
【治   療】選択的シャント術、摘脾術などが行われる。
【予   後】静脈瘤出血をコントロールできれば、比較的予後は良好。
肝外門脈閉塞症
(EHO)
【概   念】肝門部を含めた肝外門脈の閉塞と、それによる門脈圧亢進をきたす疾患。小児に多い。
【検   査】画像上、肝外門脈の閉塞、海綿状血管増生(←側副血行路の形成)などがみられる。
【治   療】肝外門脈の閉塞の除去を行う(抗血栓療法)。
【予   後】静脈瘤出血をコントロールできれば、きわめて予後は良好。
Budd-Chiari症候群
【概   念】肝静脈3主幹or肝部下大静脈の閉塞ないし狭窄、もしくはこの両者の並存によって門脈圧亢進症などをきたす疾患。
【病   因】後天的血栓形成、血管疾患、経口避妊薬の使用、AT-Ⅲ欠損症などの凝固異常症が背景にあるとされる。
【分   類】杉浦の分類により、Ⅰ型(下大静脈の膜様閉塞)、Ⅱ型(下大静脈の広範な完全閉塞)、Ⅲ型(下大静脈の広範な狭窄とその上部の膜様閉塞)、Ⅳ型(肝静脈のみの閉塞)に分類される。肝部下大静脈の閉塞を伴わないⅣ型が狭義のBudd-Chiari症候群である。
【治   療】経皮的バルーン拡張術、金属ステント留置術、直達術、シャント術、肝移植など。
【予   後】保存的治療は概して予後が悪い。肝癌の合併もみられる。
 肝細胞癌(hepatocellular carcinoma:HCC)
定義肝細胞由来の悪性腫瘍であり、わが国において大多数が慢性ウイルス性肝疾患(HBVorHCV)に続発する。
疫学肝細胞癌は原発性肝悪性腫瘍の90%以上を占める。悪性腫瘍による死亡の中で肝細胞癌は第3位を占め、年間およそ3万の死亡を数え、年々増加を示している。男性が女性に比べて著しく多い。
 臨床症状 ほとんどすべてが肝硬変を合併しているので、肝硬変の症状や理学的所見を伴う。肝細胞癌由来の症状には、上腹部~右季肋部痛、肝腫大、腹水、浮腫、黄疸、吐血(←食道静脈瘤・門脈圧亢進性胃症の悪化による)などがあげられるが、相当進行しないと現れない。
肝細胞癌は腫瘍随伴症候群をよく起こす腫瘍で、低血糖、赤血球増加症、高コレステロール血症、高Ca血症などを呈する。腫瘍からのホルモン様物質の分泌や腫瘍の代謝異常が原因と考えられている。
肝細胞癌の主な転移は血行性で、肺・骨・副腎などに多い。骨転移ではその部位の疼痛がみられる。
検査所見

診断
血液検査
ALPの上昇、GOT/GPT比の上昇、LDH の上昇(LDH4<LDH5)がみられる他、HBs抗原・HCV抗体のいずれかが陽性を示すことが多い。
腫瘍マーカー
α-フェトプロテイン(AFP)とPIVKA-Ⅱの上昇が重要である。
胸部X線検査
進行癌では右横隔膜の不規則な挙上がみられる。
腹部超音波検査
モザイク状内部エコーの腫瘍の周囲に低エコー帯(被包型肝癌)がみられる。
腹部CT検査
単純CTで低吸収域、造影早期CTで高吸収域、造影後期CTで周囲肝に比べて低吸収域を示す。
腹部MRI検査
T2強調で高信号をきたすことが多い。
腹部血管造影検査
肝動脈造影にて血管豊富な腫瘍陰影、A-Pシャント(肝動脈門脈瘻)、貯留像を認める。
腫瘍生検
腫瘍径2cm以下の鑑別診断不可能例には不可欠な検査である。
治療
外科的切除
治療効果は最も確実であるが、侵襲が大きく、肝機能が保たれている症例が適応となる。通常、腫瘍の存在する部分に対する部分切除術が行われる。
経皮的エタノール注入療法(PEIT)
腫瘍径3cm以下、3病変以下の小肝癌に対して超音波下で細径針にて腫瘍部にエタノールを注入し、癌部を凝固壊死させる治療。切除例と同等な長期生存が得られる。
ラジオ波焼灼療法
経皮的に病変部に挿入した電極の周囲をラジオ波により誘導過熱し、腫瘍部を壊死させる方法。現在最も有用な小肝細胞癌の局所治療法である。
経カテーテル肝動脈塞栓療法(TAE)
門脈本幹ないし1次分枝に腫瘍栓がなく、4病巣以上の結節性進行癌の症例によい適応となる。Seldinger法でカテーテルを腫瘍支配動脈に選択的に挿入し、ゼラチンスポンゼルにて塞栓し阻血性壊死をもたらす。
化学療法
上記治療の適応とならない進行症例に適応となる。全身的に投与するのではなく、カテーテルを用いて局所的に投与する。抗癌剤にはマイトマイシンC、フルオロウラシル(5-FU)、シスプラチン(CDDP)などが用いられている。
 胆管細胞癌(cholangiocellular carcinoma:CCC)
定義胆管上皮由来の悪性腫瘍であり、肝内胆管癌ともよばれ、左右肝管合流部より末梢の胆管から発生したものをいう。
疫学わが国では原発性肝悪性腫瘍の3~5%を占める。発病年齢は50~60歳に多発し、男女差はない。
分類・肝門型…肝門部付近に発生してしばしば閉塞性黄疸をきたす。
・末梢型…末梢の胆管から発生し、症状に乏しい。
病因胆石、トロトラスト(静注用造影剤)の肝沈着、肝吸虫、原発性硬化性胆管炎(PSC)、潰瘍性大腸炎、良性多発性嚢胞などがあげられる。
 臨床症状 ・肝門型…閉塞性黄疸、発熱(←胆管閉塞に伴う感染)ガ多い。
・末梢型…高度に進行してから上腹部痛をきたす。発熱もみられることが多い。
検査所見

診断
血液検査
腫瘍の肝内胆管閉塞に伴い、胆道系酵素の上昇を認め、総ビリルビン(直接ビリルビン優位)・ALP・γ-GTPの上昇がみられる他、腫瘍マーカーとしてCEA・CA19-9 の上昇が認められる。
経皮経肝胆管造影(PTC)、内視鏡的逆行性胆管造影(ERC)
胆管像からほぼ診断がつけられる。
腹部血管造影検査
血管に乏しい腫瘍陰影として描出されることが多い。
腹部CT検査
単純CTで低吸収域の腫瘤として認められることが多い。
腫瘍生検
最も的確な診断法であり、組織学的に線維性基質を伴った腺癌の所見を認めることが多い。
治療肝切除は可能な症例では行われるが、治癒切除率は低い。多くの場合、手術不可能である。肝門部の胆管の閉塞のある場合は、経皮経肝胆管ドレナージ(PTCD)が行われる。手術不能例では、皮下埋め込み式リザーバーを用いた動注化学療法や放射線療法が行われる。


 ドミノ肝移植
   ある人が移植を受けた場合、通常は摘出された臓器はもう「使えない」ぼろぼろの状態にあるから、捨ててしまう。ところが、特殊な病気の場合には、摘出した臓器を他の人が利用できるということがある。
   FAP(家族性アミロイドポリニューロパチー)は、肝臓でトランスサイレチンという物質が産生されるために、その代謝産物のアミロイドが臓器や神経に沈着して発症する病気である。アミロイドは約20年かかって他の臓器や神経に沈着して、手足の感覚障害や全身倦怠感を引き起こす。しかし、FAPの肝臓は、それ以外の機能については正常で、見た目も健康な肝臓と変わらない。そのため、残りの寿命が約20年以下である場合には、(理論的には)FAPの肝臓を移植することで問題は生じない。さらにまた、もう一度移植を受けるまでのつなぎとして利用できる。

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