放射線の物理学

電離放射線
   放射線は、物質を通過する際に、その物質を電離させる
≪分類≫
  a. 発生の仕方による分類
・電気的エネルギーによるもの(制動X線;Bremsstrahlung)
    加速電子が原子核のそばを通過するとき、核の影響で電子は負に加速され、方向を曲げられエネルギーを失う。そのとき放出される、失ったエネルギーに相当する波長のX線のことを制動X線とよぶ
・原子の放射性崩壊によるもの(放射性同位元素;Radioisotope)
    核が不安定で、放射線として原子核から電子を放出することによって、安定になる同位元素のことを、安定同位元素に対して放射性同位元素(略称:RI)とよぶ

  b. 物理的性質による分類
電磁波X線・γ線波長が同じであれば、両者は本質的に同じ
粒子線α線大きい質量・電荷をもつヘリウム核(陽子・中性子各2個)
β線電荷をもつ電子線
中性子線質量が大きい

放射能の強さ
   放射性核種を含んだ物質について、単位時間あたりの崩壊数を、その物質の放射能あるいは放射能の強さという。放射能の強さは、その放射性核種の総数Nと単位時間あたりの崩壊の確率の積により求められるのでλNであり、また単位時間あたりに減る数であるから-dN/dtである。そこで、
     -dN/dt=λN
となる。単位として毎秒の崩壊数(disintegration per second:dps)で表す。つまり、1秒間にいくつ(mol数じゃなくて個数)の放射性同位元素が壊れたかで表す。dpsの固有の名称としてベクレル(Becquerel:Bq)を用いる。しかし、医学研究の場では毎分の崩壊数(dpm)を使う場合がしばしばある。放射能の強さは放射線のエネルギーの大きさ(→下記参照)と混同してしまうことがあるので、頭の中でしっかりと区別しておくことが必要である。

≪参考≫電磁波のエネルギー(高校物理の範囲で、あまり関係ありません)
   電波・光・X線などの電磁波は波動性とともに粒子としての性質をあわせもつ。この粒子を光子とよび、そのエネルギーEはE=hνで表される。νは振動数(1秒間にいくつの波がやってくるか)、hはプランク定数(1つの波がいくらのエネルギーをもってるかを表す物理定数)で6.6×10-34J・sec である。


放射線と物質(水)との相互作用

物理的過程→化学的過程
   各種の電離放射線エネルギーは、それが照射された物質を構成する原子の中の電子の位置・運動エネルギーに変換される。この変換されたエネルギーが化学反応を促進する。

放射線生物作用
放射線生物作用の発現過程と経過時間

物質との相互作用

放射線
の種類
透過性物質との相互作用特徴利用
γ線
(X線)
よいγ線のエネルギーは一部あるいは全部が電子の位置・運動エネルギーに変換され、そうしてエネルギーを与えられた電子はまわりの物質や生体内で電離・励起を引き起こす電荷をもたないため、物質との相互作用の確率が低く、透過性がよい。指数関数的に強さ(数)は減少するが、いつまでたってもゼロにはならない断層シンチグラフィー(CT)
β線悪い原子を構成する電子と核に対して、クーロン力による相互作用を起こす電子との衝突を繰り返してジグザグ状に進むが、その強さ(数)は指数関数的に減少し、ある厚さで強さはゼロになる(その物質中での最大飛程という)
→体内に入ってしまうと危険だが、遮蔽すればO.K.
Autoradiography
エネルギーの低いβ線を用いて、分子の動きの電顕で観察
α線悪い大きな運動エネルギー、+2eの電荷をもち、物質中を進むとき主に核外電子の電気的相互作用によって、電子の電離や励起を引き起こす質量が大きいため電子をいろいろな方向に飛ばすが、自身はほとんど曲がらずに進む。同じ核種から放出された同じエネルギーをもつα線はどれも同じ距離だけ進むため、ある距離を越えると突然にその数がゼロになる深部の組織にエネルギーを集中できるため、癌治療に利用される
中性子
たいへん
大きい
電荷がないので、物質中を通過するときクーロン力による相互作用がなく、主に原子核との衝突によりエネルギーを失う原子核の大きさは原子に比べ非常に小さいので、中性子が衝突する確率は小さい
放射線の物質との相互作用


放射線生物作用の化学的過程

水の放射線分解
   生物体に共通であり、しかも最も多量に含まれているのは水であり、重量の80%にも達する。したがって放射線の生物作用には水との相互作用(ラジカルの生成)が重要な働きをする。ラジカルの生成には励起と電離の2種類がある。

直接作用と間接作用
   水溶液に放射線を当てたときの溶質分子(あるいは標的分子)が受ける放射線の作用には、直接作用と、間接作用とが知られている。
・直接作用光子の吸収によって飛び出した二次電子とDNA分子との直接的な相互作用によってDNAに損傷が生じる
・間接作用飛び出した二次電子が水分子と反応し、ラジカルを形成し、ラジカルがDNA分子を傷つける
直接作用と間接作用
   電離放射線による生物に対する効果は、染色体DNAの損傷が原因である。種々の損傷の中で最も大きな効果をもたらすのは、2重鎖切断である。
DNA2重鎖切断によっておこる現象


放射線の“強さ”についての生物学的定義〜Linear Energy Transfer (LET)
1999年度本試 設問(3)

吸収線量
   吸収線量Dは、ある物質が放射線から与えられるエネルギーを表す。単位は [J/kg] で、Gy(グレイ)とよばれる。吸収線量は放射線・物質の種類によらず使用できる。

   それぞれの放射線が生体に対し、どのような影響を与えるかを見るときに、2つの面があることに注意する必要がある。その1つは、生体内での飛程である。上述のようにγ線・中性子線は透過力が強いが、β線・α線は透過力が弱い。もう1つは、局所的な影響である。α線・中性子線(反跳陽子による効果)はβ線・γ線に比べ、飛跡に沿って光に電離を起こす。この局所的影響は線エネルギー付与(LET;linear energy transfer)で表現される。LETは電離の分布密度の高さを示す数値で、単位飛跡あたりのエネルギー損失と定義され、単位はkeV/μmなどを用いる。一般にLETは放射線の荷電の2乗に比例して増加し、粒子の速さにほぼ反比例する。LETを高い順に並べると、@核分裂生成物、A低原子番号の原子核、Bα線・重陽子線・陽子線、C低エネルギーの電子線およびX線、D高エネルギーの電子線・X線・γ線である。

線量当量
   線量当量H とは、放射線の種類による生物に対する影響の違いを加味して、同じ数値なら同じ生物学的影響を与えるようにしたものである。線量当量H は、生物の組織の吸収線量D から次式で計算される。
     H =DQN
ここでQ は線質係数とよばれる値で、放射線の性質による生物学的な影響の強さを表す。Q は放射線の水中における衝突阻止能(前述の線エネルギー付与と同じ)の関数である。さまざまなエネルギーの放射線に対してQ の値を求めるのは困難なので、実用的にはγ線・X線・β線に対してはQ の値を1、中性子線に対しては10、α線に対しては20としている。N は吸収線量の空間分布・線量率など、その他のあらゆる影響を補正する項であるが、現在は1とされている。D の単位がGyであるとき、線量当量H の単位はSv(シーべルト)である。なお、放射線の安全管理のためにはこのSvを用いる。
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