細菌感染症と自然免疫(innate imunity)
   グラム陽性菌とグラム陰性菌とは、菌体壁の構造において大きく異なっている。グラム陽性菌は、最内層に脂質二重層があり、その外に分厚いペプチドグリカン層があって、最外層にLipoteichoic acid(LTA;LPS類似化合物)があるという構造をしている。一方、グラム陰性菌は、最内層に脂質二重層があり、その外に薄いペプチドグリカン層があって、最外層にLPS(Lipopolysaccharide)が脂質二重層にまみれて存在するという構造をしている。
   グラム陰性菌の最外層にあるLPSは、1分子の中に、親水性の多糖類・リン酸基と、疎水性の脂肪酸を含んだ両媒性の分子である。この中で、LPSの活性にとって大事なのは疎水性のLipid Aとよばれる部分である。一方、グラム陽性菌の最外層にあるLTAも、LPS同様、生物活性をもっており、その生物活性をもつ最小単位はMuramyl dipeptide(MDP)とよばれる。これらの分子は、免疫細胞を活性化する働きももっている。
   LPSは血液中ではミセルを形成して存在しているが、LBP(LPS binding protein)によって可溶性CD14分子と結合させられる。続いて、LPSは、単球・マクロファージ・好中球上にある膜面上CD14分子に引き渡され、Toll-likeレセプターを活性化することによって、細胞内に取り込まれる。そこで、炎症を引き起こすサイトカイン(TNF-α・IL-6・IFN-γなど)が分泌される。

敗血症(sepsis)の病態
   敗血症とは、LPSをはじめとする菌体成分が過剰な免疫応答を誘発した結果として起こる病態のことをいい、SIRS(systemic inflammatory response syndrome)ともよばれる。何らかの基礎疾患や病的状態にある患者(血管疾患、悪性腫瘍、骨髄抑制状態、未熟児・新生児)に発症する。敗血症の起炎菌の多くはグラム陰性菌であったが、抗生剤開発の影響からか近年はグラム陽性菌が起因菌である敗血症が増加傾向にある。
   敗血症に似た言葉に菌血症(bacteremia)というものがあるが、こちらは血液中に細菌が存在する状態のことをいう医学用語であり、敗血症とは根本的に概念が異なったものである。
   上述のような、敗血症を起こしやすい状態にいる人(易感染性宿主)が熱を出した場合には、まずエンドトキシンの定量を行う必要がある。この方法は感度が高い上に、血液中での細菌の検出に先行してエンドトキシンが陽性となることから、敗血症の診断に際して非常に重要な検査となっている。
   敗血症に陥ると、内分泌系や凝固系の異常、補体の活性化、炎症による血管透過性亢進・血管拡張・血管内皮傷害を伴って、最終的にショックあるいは多臓器不全を呈しながら、死に至るケースが少なくない。さらに、未熟児・新生児の場合には、髄膜炎の発症の危険性が高く、エンドトキシンの定量とともに髄液のチェックが必要である。
   未熟児や新生児では、症状の訴えが乏しいために、他覚所見から判断しなければならない。一般に未熟児・新生児の場合、症状として現れるのは"not-doing-well"とよばれる現象で、無欲情・遺残の量の増加・活動性の低下・皮膚蒼白・黄疸・嘔吐・下痢・傾眠傾向などがこれにあたる。
   敗血症の治療は非常に難しい。抗生剤を投与すると、菌体の破壊により、菌体成分が体中にばら撒かれて、逆効果になってしまうこともあるため、抗生剤の投与は慎重に行わなければならない。抗生剤治療の他には、血液をトキシカラムに通して、LPSを吸着・除去するという方法がとられることもある。また、ショック状態に陥った場合には、昇圧剤の投与や呼吸管理、透析が行われる。

おもな細菌感染症
連鎖球菌(グラム陽性球菌)
   溶連菌感染症は、小児の細菌性上気道炎の原因の第1位を占める。膿皮症、扁桃炎、中耳炎、肺炎、膿胸、敗血症、心内膜炎、腹膜炎、猩紅熱、丹毒などの症状を呈するほか、急性糸球体腎炎やリウマチ熱を合併することもある。迅速診断キットで診断可能である。
   猩紅熱は、A群溶連菌によって起こる。2〜5日の潜伏期を経た後、悪寒・発熱・咽頭痛・頭痛・嘔吐・下痢・発疹・口囲蒼白・苺舌などの症状を呈する。発疹は発熱1〜2日目からみられ、第3週頃より落屑化していく。検査では、白血球(好酸球)の増加がみられるとともに、2〜3週間後にASO値の上昇がみられる。川崎病との鑑別が必要である。治療はペニシリンによって行う。感染症新法では第4類感染症に分類された。
   B群連鎖球菌感染症は、新生児感染症として重要である。産道感染によっておこるため、出産前に腟からB群連鎖球菌が検出された場合には、母体への予防的抗生剤投与が行われる。出生直後から呼吸困難・敗血症・(時に)髄膜炎を呈する早発型と、生後2〜3週間に髄膜炎を発症する遅発型に分類される。治療には、ペニシリン系薬剤が用いられるが、アミノ配糖体と併用されることもある。
肺炎球菌(グラム陽性球菌)
   上気道炎・中耳炎・副鼻腔炎などの起炎菌で、乳幼児では肺炎を起こすこともある。また、敗血症や髄膜炎を起こすこともある。治療は基本的にペニシリン系薬剤で行われるが、近年耐性菌が増加傾向にある。
   IgG2サブクラス欠損症の患者は、肺炎球菌とインフルエンザ菌に対して易感染性を示す。
ブドウ球菌(グラム陽性球菌)
   グラム陽性菌の中では最も重要な菌。コアグラーゼ産生性の黄色ブドウ球菌と、非産生性の表皮ブドウ球菌に分けられる。黄色ブドウ球菌は、鼻腔内の常在菌であるが、病原性が強く、近年のMRSAの増加で問題となっている。一方の表皮ブドウ球菌は、皮膚の常在菌で、病原性はほとんどないが、時に日和見感染症の原因となることがある。
   ブドウ球菌感染症の症状は、皮膚症状、肺炎(膿胸・膿瘍を伴うこともある)、敗血症、心内膜炎、骨髄炎、関節炎などで、非常に多彩である。
   ブドウ球菌はたくさんの種類の菌体外毒素を産生する。食中毒を起こす腸管毒エンテロトキシンや、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)・伝染性膿痂疹(いわゆる「飛び火」)を引き起こす表皮剥奪毒、中毒性ショック症候群(TSS)を引き起こすTSS毒などがある。新生児TSS様発疹症は、TSS産生性のMRSAによる新生児感染症で、突発性の発疹ができるという疾患である。
ディフィシル菌(グラム陽性桿菌)
   A・B 2種類の毒素を産生する。菌交代現象によって発症し、多くの症例で抗生物質の投与と関連がある。水様性・血性下痢、腹痛、吐き気、発熱、脱水症、白血球増多などの症状を呈する。治療は、原因となった抗生物質の投与を中止した上で、バンコマイシンなどを投与する。
インフルエンザ菌(グラム陰性桿菌)
   咽頭の常在菌である。小児の気道感染症の主たる起因菌で、乳児〜幼時期の細菌性髄膜炎の病原菌としての頻度が高い。その他、咽頭喉頭炎、肺炎、膿胸、中耳炎、副鼻腔炎などの症状を呈する。治療はアンピシリンが第1選択であるが、耐性菌が増加傾向にある。
細菌性髄膜炎のおもな起因菌(参考)
新生児B群連鎖球菌、大腸菌
乳児インフルエンザ菌タイプb(Hib)
幼児インフルエンザ菌タイプb(Hib)、肺炎球菌
 学童以降 肺炎球菌、インフルエンザ菌タイプb(Hib)

病原性大腸菌O-157:H7(グラム陰性桿菌)
   ベロ毒素とよばれる出血毒を作り、出血を伴った激しい下痢を引き起こす。通常、10日程度で回復するが、感染者の4〜7%が溶血性尿毒症症候群(HUS;溶血性貧血+腎不全)を起こし、このうち3〜5%が主に脳症により死亡する。治療においては、水分補給が最も重要である。腸管運動抑制剤は菌の腸内遺残を引き起こすため、使用を避けなければならない。また、抗生物質の投与は、かえって菌体中のベロ毒素を放出させる危険があるため、症状がしっかりみられる症例では抗生物質は投与しない方がよいと考えられている。腎不全に陥った場合には、時機を逸することなく透析に踏み切らなければならない。
緑膿菌(グラム陰性桿菌)
   湿度の高いところに広く分布する弱毒菌で、日和見感染・院内感染の原因となる。病型はきわめて多彩で、呼吸器感染症、尿路感染症、腸管感染症、敗血症などを呈する。
   緑膿菌の他に、クレブシエラ・プロテウスなども日和見感染原因菌として重要である。
サルモネラ菌(グラム陰性桿菌)
   腸チフスやパラチフスの原因となる。生卵に含まれるとされ、食中毒の原因菌の1つである。菌血症を起こしやすいが、敗血症を起こすことはまれである。
カンピロバクター(グラム陰性らせん状菌)
   小児の食中毒菌として重要。家畜の糞便、鶏肉の摂取、動物との接触を介して経口感染により体内に入る。ギラン・バレー症候群を発症することがある。治療には、エリスロマイシンやホスホマイシンなどが使われる。
最近の市中感染症における主な起因菌
 1位2位3位備考
急性咽頭・扁桃炎化膿レンサ球菌
(64%)
インフルエンザ菌
(14%)
黄色ブドウ球菌
(13%)
乳児では2位・3位が多い
急性中耳炎肺炎球菌
(42%)
インフルエンザ菌
(14%)
黄色ブドウ球菌
(13%)
 
下気道感染症マイコプラズマ
(44%)
インフルエンザ菌
(25%)
肺炎球菌
(17%)
新生児では腸内細菌・B群溶連菌が多い
乳幼児では2位・3位が主体
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