急性腎不全(acute renal failure;ARF)
 概念 何らかの原因によって急激に腎機能が低下し、その結果、高窒素血症や血清クレアチニンの上昇をきたし、水・電解質や酸塩基平衡などの生体の恒常性が保てなくなった状態で、多くの場合には可逆性の病変である
分類

原因
@腎前性急性腎不全
   腎臓に入ってくる血流量自体が低下するために、糸球体濾過量が減少した状態のことで、原因としては脱水や出血、うっ血性心不全、肝硬変、ショック、低血圧(←過度の降圧薬の使用)、腎動脈閉塞などがあげられる
A腎性急性腎不全
   糸球体の破壊(←急速進行性糸球体腎炎・Goodpasture症候群・ループス腎炎など)によって起こるものが約5%を占め、残りの約95%は急速尿細管壊死による。なお、急速尿細管壊死の原因は、腎虚血(←@からの移行)と腎毒性物質(←ヘモグロビン尿症・ミオグロビン尿症・造影剤・抗生物質・シスプラチンなどによる)に大きく分けられる
B腎後性急性腎不全
   両側性の尿管閉塞によるもので、原因としては子宮癌、後腹膜の転移性腫瘍、両側性尿管結石などがあげられる
症状

検査
@腎前性急性腎不全
   腎血流減少に起因するため、乏尿を呈する(両側性腎動脈閉塞では例外的に無尿)。腎臓は循環血漿量の減少に対して、Na+・水の再吸収を亢進させるので、低Na+尿高浸透圧尿を呈する。また、血液検査では、血清BUN/Cr比の著増がみられる
A腎性急性腎不全
   糸球体性の腎性急性腎不全では、@と同じ尿所見を呈する
   急性尿細管壊死では、最初乏尿期として発症し(両側腎皮質壊死では例外的に無尿)、数日〜数週間の経過を経て尿細管上皮の再生が起こるために、利尿期へと移行する。乏尿期には、Na+濃度の高い等張尿、体液過剰による高血圧・浮腫・肺水腫・うっ血性心不全など、血清BUN/Cr比の上昇、電解質異常(低Na血症・高K血症・代謝性アシドーシス・高Pi血症・低Ca血症)、貧血などを呈する。一方、利尿期には、低Na血症・低K血症をきたしやすい
B腎後性急性腎不全
   突然の無尿で発症する場合が多く、尿所見は急性尿細管壊死と同じNa+濃度の高い等張尿を呈する。また、血清BUN/Cr比の著増がみられる。その後、腎瘻作成などによって閉塞が解消されると、とたんに多尿となり、低Na血症・低K血症をきたしやすくなる
鑑別
腎前性腎不全と腎性腎不全の鑑別
   腎前性腎不全では、腎臓が循環血漿量の減少を補うために尿細管での再吸収を亢進させるために、Na+濃度の低い高張尿を呈する。一方、腎性腎不全では、腎臓自体の機能が低下しているため、Na+濃度の高い等張尿を呈する。それぞれの検査所見の違いをまとめると以下の表のようになる。
 尿浸透圧尿中Na+濃度尿中Na+排泄率BUN/Cr比尿中Cr/血清Cr比
腎前性>500mOsm/L<20mEq/L<1%>20>40
腎性≒300mOsm/L>40mEq/L>1%10〜20<20
腎後性腎不全
超音波エコーにより閉塞性病変を発見すればよい
治療
@腎前性急性腎不全
   原疾患に対する治療が行われる
A腎性急性腎不全(急性尿細管壊死)
   乏尿期の治療としては、高K血症の是正(グルコン酸カルシウム静注、陽イオン交換樹脂注腸、重炭酸ナトリウムなどの静注)、水・Na+・K+の摂取制限、食事療法(蛋白質の摂取制限・高カロリー食)、透析療法などが行われる。一方、利尿期には、低Na血症・低K血症に対する治療が行われる
B腎後性急性腎不全
   原疾患に対する治療が行われる
 慢性腎不全(chronic renal failure;CRF)
 概念 数ヶ月〜数年単位で慢性に経過し、かつ不可逆的に進行する腎機能障害
病態

症状
排泄機能の障害
・高窒素血症(BUNやクレアチニンなどの蓄積)
・水代謝異常(末期では乏尿を呈するが、それまでは血液中の浸透圧活性物質が増加するために糸球体過剰濾過の状態となる上、Henleループの対向流交換系の破綻によって尿の濃縮・希釈機構が働かなくなって、多量の等張尿を呈し、夜間尿が目立つようになる)
・Na+代謝異常(尿細管からの再吸収の抑制のために、血清Na値は若干低下ぎみとなる=Na+排泄率の上昇)
・K+代謝異常(血清K値は末期では上昇するが、それまではK+排泄率の上昇によって代償される)
・代謝性アシドーシス(HCO3-の再吸収低下とアシドーシスに対する腎性代償機能の低下による)
・Mg2+代謝異常(血清Mg値は末期では上昇するが、それまでは正常範囲)
リンとカルシウムの代謝異常
・Pi代謝異常(排泄量の減少による高Pi血症⇒続発性副甲状腺機能亢進症をきたす)
・腎性骨異栄養症(続発性副甲状腺機能亢進症による線維性骨炎+活性型ビタミンDの低下による骨軟化症)
・異所性石灰化(関節周囲・皮膚・動脈壁・球結膜などにリン酸Caが沈着⇒低Ca血症)
高血圧
  糸球体濾過量の減少に伴う細胞外液の過剰っとRAA系の亢進、キニン系の抑制が原因
腎性貧血
  エリスロポエチン産生低下・高窒素血症による赤血球寿命短縮などにより、主に正球性正色素性貧血を呈する
糖・脂質の代謝異常
・糖代謝異常(血糖調節機能の破綻により、高血糖or低血糖が起こる)
・脂質代謝異常(高TG血症・低HDL血症を特徴とする)
免疫
  細胞性免疫の低下が起こり(液性免疫もある程度低下)、易感染傾向を呈する
治療・食事療法(低蛋白・高カロリー食の他、高血圧・浮腫が著明な場合には塩分摂取制限、乏尿をきたす末期腎不全では水分摂取制限も行われる。また、高K血症に対しては、Kの摂取制限が必要)
・降圧療法(サイアザイド系利尿薬orループ利尿薬、ACE阻害薬・Ca拮抗薬などの降圧薬が用いられる)
・高Pi血症・高PTH血症に対する治療(沈降炭酸Ca薬の投与、活性型ビタミンDの大量・間欠投与)
・貧血に対する治療(エリスロポエチン製剤の投与)
 尿毒症(uremia)
 概念 急性・慢性腎不全の終末像で、腎機能の高度低下に伴って全身の臓器に障害が及び、多彩な症状を呈するに至った病態
臨床
症状
・精神神経症状(易疲労感、頭重感、記銘力低下、幻覚、昏睡、羽ばたき振戦など)
・末梢神経障害(左右対称で四肢末端優位の末梢神経障害、restless legなどの異常感覚)
・循環器症状(高血圧、心不全、浮腫、心膜炎など)
・呼吸器症状(肺水腫、Kussmaulの大呼吸)
・消化器症状(食欲不振、悪心・嘔吐、下痢、吐血、下血、アンモニア臭を伴う口臭、消化性潰瘍など)
・その他、貧血・出血傾向、易感染傾向、皮膚掻痒感

 血液浄化法
透析療法
   拡散現象と濾過現象を利用して、血液中の不要成分を人為的に体外に排出する方法で、その方法に血液透析と腹膜透析の2種類がある。
 血液透析
(hemodialysis;HD)
腹膜透析
(peritoneal dialysis;PD)
方法透析器(dialyser)、透析液、透析される人の血液が3要素。
透析器は現在中空糸型構造のものが主。
一般に、透析液は、低K+、低BUN、低クレアチニン、高HCO3-とされる。また、Na+に関しては、患者の血液濃度と同じくらいにするのが主流である。
透析を行う際には、毎分200ml以上の血液の採取が必要なため、外シャント(橈骨動脈と皮下静脈の両方に人工血管を挿入)あるいは内シャント(橈骨動脈と皮下静脈を手術的に皮下で吻合)などのblood accessがとられる。また、採取された血液には抗凝固剤としてヘパリンや低分子ヘパリンが投与され、体内に戻す前にヘパリンの阻害剤のプロタミンが投与される。
体表面に匹敵する面積をもち、毛細血管が豊富に分布する腹膜を半透膜として利用した方法である。主流はCAPDとよばれる方法である。
まず、腹腔内に専用のカテーテルを留置する手術が行われる。そして、2Lの透析液を腹膜に入れては6時間後に抜くという操作を1日4回くり返す。この操作は、透析液を入れておくバッグと腹との位置関係を変えるだけで簡便に行うことができる。
特徴2〜3日に一度、5時間くらいで行うため、血液の浄化が急激であり、また社会生活への影響も大きい。除水効率はよいが、中分子蛋白質の除去にはあまり効果がない持続的で緩徐な透析が可能で、社会生活に対する支障が少ない。blood accessが不要ではあるが、腹膜カテーテルを介した感染の危険や、蛙腹などの美容上の問題がある。また、中分子除去には優れているものの、除水効率はあまりよくない
 合併症 不均衡症候群…血液浄化のスピードが速すぎるために、血液と髄液との間にpHや浸透圧の差が生じ、頭痛、悪心・嘔吐などを呈する
・低血圧…急激な濾過による循環血漿量の低下が原因
・アミノ酸、水溶性ビタミンなどの欠乏症
Al中毒…透析液へのAlの微量混入により、脳症(痴呆・不随意運動・意識障害など)や骨軟化症を呈する
透析アミロイドーシス…β2-ミクログロブリンの蓄積により、長期透析患者で手根管症候群などが起こる
後天性腎嚢胞…長期透析患者に起こる。腎癌へ移行することもある
腹膜炎…腹膜カテーテルを解した感染による。腹膜炎の反復により、腸管の通過障害を伴う硬化性腹膜炎とよばれる予後不良の病態を呈することがあり、注意が必要である
   急性腎不全の場合は可逆性の病変であるため、必要があれば躊躇なく透析療法が開始されるが、不可逆性病変である慢性腎不全の場合には、いったん透析療法を導入すると一生継続する必要があるため透析導入は遅い方がよいが、時機を逸すると致命的な尿毒症を引き起こす危険性があり、透析導入のタイミングが問題となる。臨床の現場では、血清Cr値≧8mg/dlまたはCcr≦10ml/分という検査数値に加えて、臨床症状と日常生活の障害度からの総合的な判断が求められる。
   透析療法により改善されるのは腎臓の濾過機能のみで、内分泌機能は改善されない(貧血や骨異栄養症は改善されない)。また、尿毒症における末梢神経障害もあまり改善されない。
その他の血液浄化法
 血漿交換吸着療法
 方法 

特徴
血液を体外に取り出した後、遠心分離などの方法によって、これを血球成分と血漿成分に分ける。血球成分はそのまま体内に戻し、血漿成分は捨てて新しいものと交換する。
非常にコストがかかる治療法のため、適応がGuillain-Barre´症候群、原発性マクログロブリン血症、血栓性血小板減少性紫斑病、家族性高コレステロール血症(ホモ型)、劇症肝炎などに限られる。
取り出した血液をそのまま(or血漿成分を分離した後)特定の吸着剤に接触させる。これにより目的の物質が特異的に除去される。
あまり高価な方法ではないが、吸着剤として実用化されているのが現在のところLDL吸着剤と抗A・抗B抗体吸着剤くらいで、腎不全の治療として用いるには限界がある。

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