胃疾患についてのまとめ

 急性胃炎(acute gastritis)
定義胃粘膜の急性炎症で、臨床的には急激な上腹部痛、悪心・嘔吐、消化管出血などで発症する。機械的・化学的刺激、細菌や毒素の刺激など発症の契機となる何らかの原因が存在し、内視鏡的には浮腫・発赤などを伴う。さらにびらんや潰瘍を伴う場合には急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)として診断される。
疫学急性胃炎の定義や概念は不明瞭で、その頻度を正確に把握することは非常に困難であるが、10〜20%程度と考えられている。
病因
細菌感染
α溶連菌・大腸菌・黄色ブドウ球菌などがきわめてまれに急性蜂窩織性胃炎をきたす。臨床的にはH. pylori が重要であるが、本菌は急性胃炎よりも萎縮性胃炎などの慢性胃炎の原因の1つとして注目されている。以前は内視鏡検査後の胃カメラ洗浄が十分に行われていなかったため、内視鏡検査が誘因となって急性H. pylori 感染に伴う急性胃炎を引き起こしていた
粘膜傷害物質
NSAIDsやアルコールが最も一般的であるが、他には自殺目的で服飲する強酸性or強アルカリ性の腐蝕性物質なども含まれる。
ストレス
重症火傷に伴うCurling潰瘍や中枢神経系の外傷・外科手術に伴うCushing潰瘍など。他にはまれではあるが、放射性潰瘍などもある。
分類
内視鏡所見による分類
びらん性胃炎、出血性胃炎、出血性びらん性胃炎の3つに分類される。
原因による分類


単純性胃炎暴飲暴食、アルコール、種々の薬物などによる
腐食性胃炎誤飲、あるいは自殺の目的で腐食性薬物を飲用することによっておこる


感染性胃炎インフルエンザ、腸チフス、敗血症などの経過中に2次的に起こるものや、H. pylori 感染によって一過性におこるものなどがある
アレルギー性胃炎牛乳や卵、魚などの摂取による
化膿性胃炎連鎖球菌、大腸菌などの感染により、粘膜下層を中心に蜂窩織炎をおこすもので、きわめてまれではあるが重篤な疾患である
病理胃粘膜の発赤・浮腫が著明で、粘稠な粘液が厚く粘膜を覆い、血液が付着していることもある。組織学的には上皮細胞の変性・壊死・脱落と粘膜固有層の充血、浮腫ならびに白血球浸潤を認める。
 臨床症状 何らかの原因に引き続いて急激に発症し、上腹部痛、悪心・嘔吐、食欲不振、腹部膨満感を訴える。吐血・下血を伴うこともある。他覚的には心窩部圧痛がある。短時間で症状が改善することも多い。
急性化膿性胃炎では、悪寒・戦慄・発熱・腹膜刺激症状が出現し、重篤である。
検査所見

診断
内視鏡検査
胃粘膜の浮腫、発赤、びらんがみられる。出血を伴うことも多い。
一般血液検査
白血球数増加などの炎症所見と、嘔吐による脱水、電解質異常が出現することがある。
治療 治療の原則は誘因の除去であり、大多数の症例は特別な治療を必要としないが、場合によっては以下のような誘因除去療法を行うこともある。
   ・外因性胃炎→原因除去の目的での胃洗浄、胃を安静に保つための絶食
   ・腐食性胃炎→飲用した物質の中和剤の投与
   ・感染性胃炎→起炎菌に対する抗生物質の投与
   ・化膿性胃炎→起炎菌に対する抗生物質の投与、重篤例では胃切除
症状が強い場合にはそれぞれの対症療法を行う。
   ・悪心・嘔吐を訴える場合→禁食、制吐薬の投与
   ・出血がひどい場合→輸液、止血薬の投与
   ・心窩部痛・胸やけ感が強い場合→制酸薬・酸分泌抑制薬の投与
   ・びらんや潰瘍を伴う場合→抗潰瘍薬の投与
 慢性胃炎(chronic gastritis)
定義胃粘膜における表層性胃炎に始まり、萎縮性胃炎の過程を経て、最終的に胃萎縮に至る進行性過程の総称である。すなわち、慢性胃炎は、胃粘膜の欠損(表層性変化)とその再生過程における不完全構築(萎縮性変化)よりなるダイナミックな状態である。
病因
外因性因子
食事内容、香辛料の摂取、アルコール・コーヒーなどの嗜好品、喫煙、薬剤など
内因性因子
遺伝因子、加齢、免疫学的機序、血液型A型など
分類
内視鏡学的分類(Schindler分類)
原発性胃炎と随伴性胃炎(←腫瘍・潰瘍・術後)の2つに大きく分類した上で、原発性胃炎をさらに、表層性胃炎、萎縮性胃炎(過形成性)、肥厚性胃炎(間質性/増殖性/腺性)の3つに分類。
病態生理学的分類(Strickland-Mackay分類)
 発生部位と変化原因特徴
A型胃炎胃体部に高度の萎緒自己免疫
(壁細胞抗体など)
高ガストリン血症がみられる。ECLカルチノイド腫瘍を高頻度に伴う
B型胃炎前庭部に萎縮性変化(過形成性胃炎)H. pylori 感染慢性萎縮性胃炎→腸上皮化生→癌化という進行パターン
AB型胃炎前庭部から胃体部に病変部が広がっていく
The Sydney System
1990年、シドニーで開催された世界消化器病学会で、これまでの胃炎分類を統合し、混乱を解消する目的で提唱された。このシステムは生検組織所見とH. pylori 感染の有無を基本としており、大きく組織学的区分と内視鏡的区分に分かれている。それぞれについて部位と性状を客観的に記載することで、報告に統一性をもたせ、多施設間での比較を可能にしようとしている。1996年には改訂シドニー分類も提唱された。日本ではまだ一般化していない。
病理@粘膜上皮の欠損、再生、A粘膜固有層のリンパ球・形質細胞の浸潤、B固有胃腺の萎縮・過形成、C腸上皮化生
 臨床症状 
表層性胃炎
食直後の比較的強い心窩部痛がみられる他、心窩部重圧感、悪心、胸やけ時の消化管出血、上腹部痛、腹部膨満感、食欲不振などがみられる。
萎縮性胃炎
持続する上腹部の不快感・疼痛・膨満感・圧迫感などがふだんからみられるが、食直後に特に強くなる。その他、体重減少、食欲不振などがみられ、心身症的要素の強い全身倦怠感などもみられる。さらに消化管運動機能の失調に関連した症状を有する、NUD(non-ulcer-dyspepsia)という病態もその範疇に入る。
検査所見

診断
胃内視鏡検査
胃粘膜の表層性変化(発赤・浮腫・粘液付着)や萎縮性変化(粘膜の褪色・血管透見)の所見により診断する。色素内視鏡(コンゴーレッド法:萎縮の有無、メチレンブルー法:腸上皮化生の有無)も有用である。
上部X線検査
表層性胃炎の診断はかなり困難である。萎縮に関しては粘膜ヒダの減少・消失、胃小区の不整などで診断できる場合もあるが、良好な二重造影像でなければ難しい。
胃液検査
萎縮性変化の進展に伴い、酸分泌の低下がみられる。
血液検査
血清ガストリンの上昇や、血清ペプシノーゲンT・U値の低下なども萎縮性変化の参考となる。
治療香辛料やアルコールなどの誘因の回避、食事指導の他、制酸薬・抗コリン薬・粘膜保護薬などを用いた薬物療法が行われる。最近では、H. pylori の駆除による本症の治療の可能性が検討されている。
予後慢性胃炎は胃潰瘍や胃癌の発生母地となることが多いので、症状が改善しても定期的に内視鏡検査を行って、これらの病変がないかを調べる必要がある。
 胃・十二指腸潰瘍(gastric ulcer, duodenal ulcer)
概念消化管の粘膜下層以下に及ぶ組織欠損で、胃液の消化作用が重要な役割を演じているものを消化性潰瘍(peptic ulcer)とよぶ。胃潰瘍は胃角部に発生しやすく、十二指腸潰瘍はほとんど十二指腸球部(中でも幽門近くに多い)に発生する。
疫学わが国において、胃潰瘍の頻度は約2〜3%で、発生率は年間1.8%(多くが再発)、十二指腸潰瘍はおよそその1/2〜2/3程度と考えられている。欧米では十二指腸潰瘍が多く、わが国では胃潰瘍が多い(しかし、最近わが国においても十二指腸潰瘍の頻度が増加している)。好発年齢は、胃潰瘍は40〜50歳代、十二指腸潰瘍は20〜40歳代にある。また、近年、高齢者や小児においても増加傾向にある。性比では、いずれも男性に多くなっている。
病因
H. pylori 感染
幽門部付近に感染すると、菌の産生するアンモニアによってpHが中性寄りとなるため、G細胞が活性化されて、ガストリンが産生される。このガストリンは胃体部にある壁細胞のレセプターに結合し、胃酸分泌を活性化させる。そのため、粘膜が攻撃を受けやすくなると考えられている。
ストレス
天災や手術などによる精神的および身体的ストレスは、迷走神経を介した胃液分泌の亢進などの機序により、攻撃因子の増強と防御因子の低下に関与する。
NSAIDs
NSAIDsはプロスタグランジン合成酵素COXの阻害剤なので、胃粘膜におけるプロスタグランジンの産生が低下する。そのため、ロイコトリエンなどの濃度が相対的に上昇し、好中球が活性化されて、血管内皮細胞との接着が誘発され、その結果フリーラジカルなどの傷害物質が遊離されると考えられている。
その他の原因
アルコール、タバコ、不規則な食事、血液型O型、血管異常、Zollinger-Ellison症候群(→ガストリン産生腫瘍が生じ、十二指腸潰瘍をおこすことがある)など
病態生理
バランス説(by Shay & Sun)
上記のような病原因子を攻撃因子(酸・ペプシン・H. pylori ・NSAIDs)と防御因子(粘液)の2つに分類し、両者のバランスがとれていれば潰瘍は発生せず、攻撃因子増強or防御因子低下の方向にバランスが傾けば潰瘍が発生するという考え方である。
 臨床症状 自覚症状として最も多いのが心窩部痛であり、上腹部不快感、悪心・嘔吐、吐血(大量出血では新鮮血、中等量以下では黒色血壊orコーヒー残渣様)・下血(タール便)、背痛(関連痛)などが主なものである。高齢者では無症状であることも多い。
検査所見
上部消化管X線造影検査
直接所見としてはニッシェ(組織欠損にバリウムが蓄積)と胃本体の間にHampton線(潰瘍周辺の浮腫状隆起)を認める。
間接所見としては、胃潰瘍では、瘢痕収縮による胃の変形(大弯の弯入によるfinger sign、砂時計胃、小弯短縮による嚢状胃など)、粘膜集中像などがある。十二指腸潰瘍では、球部変形、タッシェ(球部潰瘍の瘢痕収縮により球部に憩室の隆起) が認められることがある。
内視鏡検査
潰瘍は白苔を有する粘膜欠損として観察される。内視鏡所見は潰瘍の時相(活動期・治癒期・瘢痕期)によって特徴があり、経過観察・治癒判定に有用である。
超音波内視鏡検査
潰瘍の深さや深部の修復状態(線維化の状態)の観察に適している。
胃液検査
消化性潰瘍の診断自体には不可欠ではないが、難治性・再発性を知るために有用である。
H. pylori
難治性・再発性の潰瘍の成因に最も大きな関与が疑われていて、その存在の有無を細菌培養、組織学的検査、血清抗体検査、菌の再生するウレアーゼの有無のテストなどで診断する。
診断

鑑別診断
胃潰瘍の好発部位は胃角小弯・体下部小弯であり、大弯側の潰瘍は悪性を考えるべき
・胃潰瘍では、胃癌・リンパ腫などの悪性腫瘍、胃結核、胃梅毒、胃Crohn病などとの鑑別が必要
十二指腸潰瘍の好発部位は球部前壁・後壁であり、多発潰瘍や線状潰瘍も多く認められる
・十二指腸潰瘍との鑑別には、胃癌の球部浸潤、肝・胆道・膵からの腫瘍浸潤による潰瘍形成など
治療
潰瘍の初期治療
・安静療法(心身の安静が最も大切)
・食事療法(消化のよい栄養豊富な食事、規則正しい食事時間、アルコールなどは控える)
・薬物療法
     酸分泌抑制薬プロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2レセプター拮抗薬など
     防御因子増強薬…粘膜保護薬、粘液分泌・組織修復促進薬、粘膜血流改善薬など
出血性潰瘍に対する対応
・全身的な処置、管理(輸血・輸液など)
・内科的な止血(内視鏡下止血あるいはH2レセプター拮抗薬、セレクチンの投与を行う)
・手術(穿孔、狭窄性潰瘍、内科的に止血困難な出血性潰瘍は絶対的手術適応となる)
再発予防
・維持療法(治癒後も投薬を続ける)
H. pylori 除菌(アモキシシリン、クラリスロマイシン、PPIの3剤で行う)
 胃アニサキス症(gastric anisakiasis)
定義サバ、アジ、タラ、ニシン、イカなどの魚に寄生したアニサキス幼虫が胃内に達し、消化管壁に潜入し症状を引き起こす疾患である、アニサキスは魚類の内臓の表面や筋肉中に被嚢して寄生しており、体長は20〜30mm、幅は0.4〜0.6mmで頭端には穿孔歯とよばれる突起がある。幼虫移行症の1つで、人畜共通感染症である。
 臨床症状 魚・イカの刺身などを摂取後、数時間で急激な胃症状(上腹部痛・悪心・嘔吐)を引き起こす。特に再感染例では強い即時型過敏反応を引き起こし、時に急性腹症として開腹手術が行われることがある(激症型)。
診断問診で、発症前の生魚摂取の有無を確認することが大切である。画像検査として、X線検査や内視鏡検査を行い、診断は確定する。
治療内視鏡下に生検鉗子で虫体を摘出する。
 胃癌(gastric cancer)
定義胃の粘膜上皮から発生する悪性腫瘍で、胃原発性悪性腫瘍の95%を占める。
疫学胃癌の発見率は集団健診において0.1%ほどである。胃癌の死亡率は年々減少しつつあるが、わが国において部位別頻度は肺癌に次いで第2位であり、なお多数を占めている。
わが国は世界的にみても胃癌の多発国で,男女とも訂正死亡率の比較では最多である。
男女比では、約1.8:1で男性に多く、50〜60歳代がピークとなっている。
寒冷地に多発する傾向がみられる(秋田・山形・新潟などの北日本に多く、南九州・沖縄に少ない)。
病因
内因(宿主要因)
性別、人種、発癌遺伝子(p53 遺伝子、K-ras 遺伝子など)およびその産物など。
外因(環境要因)
食物および嗜好品に関しては食塩、タバコ、焼け焦げた肉類などと正の相関があり、胃内における亜硝酸塩(野菜など)と2級アミン(肉類など)から生じるニトロソ化合物、ある種のアミノ酸が熱変性して生じるヘテロサイクリックアミンなどの発癌性物質。また、最近ではH. pylori 、EBウイルスの関与も多く報告されている。
分類
早期胃癌
癌の浸潤範囲が粘膜内(m)or粘膜下層(sm)にとどまるもので、リンパ節転移の有無は考慮されていない。早期胃癌の肉眼分類としては、日本内視鏡学会分類が用いられ、Ucとその複合型が最も頻度が高い。
進行胃癌
癌の浸潤が粘膜下層(sm)を越えて、固有筋層(mp)・漿膜下層(ss)・漿膜(s)に達するものと定義される。通常、Borrmann分類に準じて1型〜4型までの肉眼型に分類され、さらに5型を分類不能としている(Borrmann分類の0型は早期胃癌にあたる)。
(参考)スキルス胃癌…明らかな腫瘤を形成せず、びまん性に浸潤し胃壁が硬く肥厚する癌。予後が悪い
病理
一般型
・乳頭腺癌(pap)
・管状腺癌(tub)…国際分類の腸型にあたる。高分化型(tub 1)と中分化型(tub 2)に細分類
・低分化型腺癌(por)…国際分類の胃型にあたる。充実型(por 1)と非充実型(por 2)に細分類
・印環細胞癌(sig)
・粘液癌(muc)
特殊型(1%以下)
・腺扁平上皮癌   ・扁平上皮癌   ・カルチノイド腫瘍 など
 臨床症状 初期では胃癌に特有な症状はなく、進行するにしたがって局所の症状や転移による症状が加わる。局所症状として潰瘍を伴っていれば、心窩部痛や吐血・下血を生じることもあり、噴門や幽門に通過障害が生じれば、嚥下困難・嘔吐・上腹部膨満感などが生じる。進行するにつれて、るいそう・食欲不振・全身倦怠感などが生じる。
検査所見

診断
一般臨床検査
早期胃癌ではほとんど異常を認めず、進行すれば貧血、低蛋白血症、CEA・CA125・CA19-9・組織ポリペプチド抗原(TPA)などの腫瘍マーカーの上昇、肝転移があればALP・LDHの上昇、黄疸などが認められるが、すべて胃癌に特異的なものではない。
画像検査
存在診断および進展度診断のために行われる。
   ・胃X線検査…胃癌のタイプによりまったく異なる所見が得られる
   ・内視鏡検査…存在診断・質的診断に最も重要
   ・超音波検査…病巣の深達度診断に有用
   ・CT・MRI検査…他臓器への浸潤・転移の有無を診断するのに有用
鑑別診断・胃ポリープ:大きさが 2cm 以上のものはT型早期胃癌との鑑別
・胃異型上皮:Ua型早期胃癌との鑑別。表面の性状が比較的平滑
・びらん性胃炎:Ua+Uc型早期胃癌との鑑別。多発傾向がある
・胃粘膜下腫瘍:Borrmann 1型進行胃癌、T型早期胃癌との鑑別。表面平滑で周囲粘膜と同様、架橋ヒダあり
・胃潰瘍:Borrmann 2型進行胃癌、陥凹型早期胃癌との鑑別。クレーター・周堤が比較的整っている
・胃リンパ腫:Borrmann 2型・3型進行胃癌、陥凹早期胃癌との鑑別。潰瘍は比較的浅く、周縁は比較的平滑
・胃反応性リンパ網内系過形成(RLH):陥凹型早期胃癌との鑑別。多発傾向で、周囲粘膜は比較的整っている
・Menetrier病(巨大皺襞症):Borrmann 4型進行胃癌との鑑別。胃壁の伸展性は良好で、びらん・潰瘍の合併症は少ない
治療・早期胃癌:内視鏡的粘膜切除or胃局所切除or分節切除などを行う。
     ※内視鏡的粘膜切除術の適応…長径2cm以内、転移なし、潰瘍なし、高分化型、粘膜内癌
・進行胃癌(根治切除可能):リンパ節廓清を含めた外科的切除(Billroth 1法・2法など)を行う。
・進行胃癌(根治切除不能):姑息的手術、化学療法、放射線療法などを行う。
転移

予後
胃癌は、進行すると分化型では血行性、未分化型ではリンパ行性・播種性転移をきたすことが多い。血行性では肝が多く(肝転移がおこると5年生存率がほぼゼロ)、肺・骨にもみられる。特別な名称のついたものとして、左鎖骨上窩リンパ節転移をVirchow転移、Douglas窩への直接播種をSchnitzler転移、卵巣への脈管行性or播種性転移をKrukenberg腫瘍という。
術後も再発が多く、約1年半後におこる腹膜再発が一番の問題となっている。
また、早期胃癌の転移率は、上皮内・粘膜内癌で数%、粘膜下層に及ぶ癌で20%程度であり、ほとんどはリンパ節転移である。
 胃悪性リンパ腫(gastric malignant lymphoma)
定義リンパ細網細胞組織における腫瘤形成を主体としたリンパ球の悪性腫瘍であり、節外である胃に原発したリンパ腫をいう。
疫学全悪性リンパ腫の約9%を占め、消化管悪性リンパ腫の中では最も多い。また、胃肉腫のうちでも最も頻度が高い。性別は一般に男性にやや多く、年齢は50〜60歳代に多い。
分類非Hodgkinリンパ腫がほとんどで、Hodgkinリンパ腫はきわめてまれ
・Rappaport分類では、組織球型が最も多く、次に低分化型リンパ球型となっている
・腫瘍浸潤形態としては、びまん性が多く、結節型は少ない
・LSG分類では、びまん性大細胞型リンパ腫が最も多い
・細胞表面マーカーでは、B細胞型がほとんどである
     ※MALTリンパ腫…粘膜関連性のリンパ組織(MALT)から発生する非ホジキン型の
        リンパ腫である。B細胞性リンパ腫で、粘膜・粘膜下層に長期間とどまり、きわめて
        予後良好。 病理所見では、粘膜上皮内のlymphoepithilial lesionが特徴的である。
        なお近年、H. pylori との関連が示唆されている。
 臨床症状 腹痛(心窩部痛・上腹部痛)、体重減少、貧血、腹部腫瘤触知、悪心・嘔吐などが多いが、初期には無症状の場合が少なくない。
検査所見

診断
内視鏡所見
腫瘍細胞は粘膜下を主体に増殖するが肉眼的に粘膜下腫瘍を形態をとるものはまれであり、多くは非連続性で多発性の潰瘍型を呈する。 表層を巻き込んだ場合は表面に出血やびらんがみられる。
治療病期・組織像などにより治療方針は決定される。外科的切除が行われる場合もあれば、化学療法や放射線療法が行われる場合もある。化学療法では、CHOP療法(シクロホスファミド・アドリアマイシン・ビンクリスチン・プレドニゾロン)、CHOP+Bleo(ブレオマイシン)療法、VEPA療法(ビンクリスチン・シクロホスファミド・メルカプトプリン・プレドニゾロン)などが広く行われている。
予後胃原発性悪性リンパ腫は一般に胃癌よりも良好であるといわれている。
 胃平滑筋肉腫(gastric leiomyosarcoma)
定義胃壁内筋層より発生する筋原性の非上皮性悪性腫瘍である。良性腫瘍は胃平滑筋腫である。
近年、GIST(gastrointestinal stromal tumor)という新しい概念が導入されつつある。これは消化管運動のペースメーカー細胞で、神経筋接合部の周囲に存在するCajalの介在細胞に由来する悪性腫瘍であり、これまで平滑筋肉腫と診断されていた多くの症例がGISTの概念に含まれることになる。
 臨床症状 上腹部痛、胃部不快感、出血、腫瘤触知など。
診断基本的に粘膜下腫瘍の形態or壁外性の圧迫様所見をとるため、胃外性の圧迫との鑑別が必要で、超音波内視鏡・CT・血管造影などを用いられる。
治療放射線療法・化学療法の効果が低く、外科的切除が最良の治療法ではあるが、発見時に肝転移が多くみられることから、根治させるのは困難である。
 胃ポリープ(gastric polyp)
定義胃粘膜上皮が限局性に増殖して、胃内腔に突出した病変のことをいう。形状は有茎・無茎を問わず、良性を前提とする。
疫学日本では欧米に比べて頻度が高い。50歳以上の高齢者に多く、男女差はない。部位としては幽門前庭部に多い。
分類
形態分類(by山田・福富)
山田・福富の分類
病理分類(by中村)
T型(過形成性ポリープ最も頻度が高い。胃小窩上皮の過形成により生じるもので、幽門前庭部or体下部に単発することが多い。癌化はきわめてまれ
U型(再生性ポリープ)同じ箇所にびらんがくり返すことにより、その修復過程において過剰に増生した腺管によって生じたもので、腺境界に出現したタコイボ様隆起として観察される。胃体部に弧状に配列し、多発する。癌化はきわめてまれ。
V型(腺腫)幽門前庭部に単発性に発生することが多い。異型細胞性のポリープで、以前は前癌病変として考えられたが、実際に癌化することはほとんどない。
W型(腫瘍性隆起)非常にまれではあるが、乳頭状増殖を伴って、大腸腺腫に類似した構造を形成する。癌化の危険性が高い。
病因胃粘膜損傷に対する粘膜上皮の代償性過形成による。
 臨床症状 特有の症状はなく、無症状で胃集団検診において発見されることが多い。背景胃粘膜は萎縮性胃炎・萎縮性過形成性胃炎を示すことが多く、低酸・無酸症例が多い。
診断X線検査や内視鏡検査である程度診断が可能であるが、悪性腫瘍との鑑別が問題となる場合が多く、確定診断は直視下生検による。
治療生検を行った上で大きさが1cm以下のものは経過観察とする。大きいもの、増大するもの、異型のあるもの、出血を伴うものでは、内視鏡的ポリペクトミーや粘膜切除術を行う。また、H. pylori 陽性症例に対しては、除菌も行われる。
 胃腺腫(gastric adenoma)
定義通常良性の、上皮組織の新生物で、異型上皮などとよばれるもの。腫瘍細胞は基質中に腺or腺様構造を形成する。
疫学高齢の男性に多く、体下部〜幽門前庭に多い。早期胃癌と並存して発見されることも多い。
病理形態は過形成性ポリープとUa型早期胃癌との中間の特徴をもち、大きさや形の不整も良悪性の中間を示し鑑別が難しい。
診断病理診断も困難な場合があり、生検をくり返し行う必要がある。
治療癌化する確率は低いので、通常は経過観察とするが、レーザーorマイクロ波による焼灼療法、内視鏡的ポリペクトミー、粘膜切除などを行うこともある。
 胃カルチノイド腫瘍(gastric carcinoid tumor)
定義胃に発生した内分泌系細胞の腫瘍。良性のものが多く、H. pylori 感染には無関係。ECL細胞由来のECLカルチノイド腫瘍が頻度としては最も高く、その背景にはA型慢性胃炎やZollinger-Ellison症候群に伴う高ガストリン血症があることが多い。
 その他
急性胃粘膜病変(acute gastric mucosal lesion:AGML)
顕出血・上腹部痛などの急激な腹部症状の出現後、緊急に内視鏡検査により出血性びらん・出血性胃炎・急性潰瘍の所見が認められたもの。
NUD(non-ulcer-dyspepsia)
上腹部の不定愁訴を有するが、通常行われる各検査において、症状を説明しうるだけの器質的異常がみられない一群の患者をさす疾患概念。上腹部痛・胸骨後方部痛・不快感・悪心・嘔吐or上部消化管関連症状が4週間以上持続し、身体の運動に関係なく、局部病変や全身疾患が見出されないものと定義されている。
Zollinger-Ellison症候群
胃液分泌過多を伴う消化性潰瘍と膵島のガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)を伴う。時に家族性多内分泌腺腫症(MEN)を合併する。
胃切後症候群(postgastrectomy syndrome)
早期ダンピング症候群胃容積の減少と幽門機能の喪失のため、食物が胃腸吻合部より空腸内へ急速に墜落するので、上部空腸の伸展拡張・運動亢進が惹起される。続いて糖質を主体とした高張な食物が空腸内に流入することにより、腸粘膜より大量の水分が分泌されるため、循環血漿量の減少をきたし自律神経症状を呈する。
症状としては、血管運動性症状(冷汗・動悸・顔面紅潮・頭痛・めまいなど)、消化器症状(悪心・嘔吐・腹痛・腹部膨満感・下痢など)があげられる。
後期ダンピング症候群
(食後低血糖症)
ダンピング症候群により生じた急速かつ一過性の大量糖分吸収のリバウンド反応として、インスリンが過剰に分泌されるために、食後2〜3時間後に低血糖症状が生じる。
症状としては、血管運動神経性症状(脱力感・めまい・発汗・心悸亢進など)や軽い意識障害などがあげられる。
輸入脚症候群BillrothU法において形成された輸入脚、およびその吻合部において通過障害が生じるために、輸入脚内に胆汁・膵液が停滞し、内圧の上昇とともに、突然胃内に逆流し、胆汁性嘔吐をおこすもので、頻度は0.5〜2%程度である。食後15〜60分に生じ、胆汁性嘔吐の他、上腹部疼痛・膨満感などの症状を伴う。
消化吸収障害十二指腸・上部空腸のバイパスと胃酸分泌低下による鉄・カルシウムの吸収障害により、貧血や骨粗鬆症をおこす。胃全摘例での、ビタミンB12吸収不全に伴う巨赤芽球性貧血などがこれにあたる。他の症状としては、下痢・脂肪便・腹部膨満感・体重減少など。

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