腸疾患についてのまとめ

 先天性腸疾患
Hirschsprung病
(先天性巨大結腸症
先天的に拡張・肥大した結腸。直腸と直腸上部の種々の連続する長さの消化管の腸筋神経叢の神経節細胞が欠如(神経節細胞欠損)or著しく減少(神経節細胞減少)するために、直腸・結腸の蠕動運動が障害され、機能性通過障害と口側腸管の異常拡張をきたす。頻度は4000〜5000例に1例程度で、男性に多い。Swenson・Soave・Duhamel法などの根治手術が6ヶ月以降に行われる。
消化管重複症胎生初期における神経管と消化管の分離過程の障害。
腸回転異常症
(総腸間膜症)
胎児期の腸回転の異常により生じる腸管の位置異常。胆汁性嘔吐・腹部膨満・下血などがみられ、ショックとなるため、Ladd靱帯の切離や壊死腸管の切除などの緊急手術を行う必要がある。
鎖肛膜性中隔(総排泄腔膜の遺残)の存在、あるいは肛門管の完全欠如による肛門開口の先天的欠損。
憩室症
空・回腸憩室(仮性憩室)
腸間膜付着側の壁抵抗減弱部に生じる圧出性憩室。
Merkel憩室(真性憩室)
臍腸管の遺残による先天性憩室。憩室炎・腸重積・憩室出血を伴うことが多い。
大腸憩室(仮性憩室)
腸管壁の抵抗減弱部(血管貫通部位)に生じる圧出性憩室。ほとんどは後天的におこり、高齢者ほど頻度が高くなっている。憩室炎から憩室周囲炎→傍結腸膿瘍→汎発性腹膜炎や憩室出血を合併することが多い。軽症例では食物繊維の摂取の促進と適度な運動療法などで症状は改善するが、憩室炎を伴った場合には抗生物質の投与などによる治療が必要となる。
 細菌感染症
サルモネラ菌生卵の経口摂取による。最近増加傾向にある。治療は脱水に対する輸液以外は特に必要ないが、ニューキノロンの投与を行うこともある。


毒素原性大腸菌海外旅行中に水道水を飲んで下痢をおこす時(Traveler's diarrhea)の起炎菌。エンテロトキシン(グアニリン類似物)を産生し、軽症例が多い。治療は基本的に不要だが、重症例ではニューキノロン投与も。
腸管出血性大腸菌代表菌は-157。赤痢菌と同じ志賀毒素を産生し、血管内皮細胞破壊を引き起こす結果、溶血性尿毒症症候群(HUS;急性腎不全・溶血性貧血・血小板減少症)や脳症を呈する。治療はホスホマイシン投与により行われるが、大腸全摘が最終的に必要となるケースもある。
MRSA院内感染・日和見感染の起炎菌として重要。腸炎の他、肺炎なども引き起こす。治療はバンコマイシンによる。
エルシニア家畜・鶏・犬を介して感染する。リンパ節が主病変で、回腸末端〜盲腸が冒されやすい。慢性化すると、Crohn病に似た臨床症状を引き起こす。治療にはアミノグルコシドなどが使われる。
カンピロバクター生の鶏肉から感染する。主に小腸が冒される。ギランバレー症候群の原因ともなる。Skirrow培地によって菌の同定を行った上で、エリスロマイシンによる治療を行う。
結核菌回腸末端〜上行結腸が冒されやすい。Crohn病と類似した組織像を呈するため、鑑別が非常に重要である。Crohn病と誤って、ステロイド治療を開始すると、腸結核に対しては悪影響をもたらすからである。
腸炎ビブリオ菌がヒトの体内で生き続けて、毒素を出すタイプ(生体内毒素型)の細菌。海水中に生息し、近海で採れた生魚から経口感染する。夏に頻発し、細菌性食中毒の中で最も多い。通常2〜5日で回復するが、肝硬変の患者に感染した場合には、肝で菌が殺菌されずに全身性に広がって、重症化することがある。
食中毒…食餌中に含まれる毒素によって下痢などの下部消化管症状が引き起こされることをいい、腸感染症の概念とは一致しない。起因菌として、重要なのは@腸炎ビブリオ(生体内毒素産生型)、Aブドウ球菌(生体外毒素産生型)、Bサルモネラ菌(細胞侵入型)、Cカンピロバクター(細胞侵入型)、D病原性大腸菌O-157(生体内毒素産生型)などがあげられる。
 ウイルス性胃腸炎
サイトメガロウイルス
(CMV)
日和見感染の原因ウイルスとして重要。胃腸炎の他、肺炎・肝炎なども引き起こす。胃炎では地図状のびらんを形成する。ガンシクロビルにより治療が行われる。
Epstein-Barr(EB)ウイルス胃炎の原因ウイルスとなり、CMV同様、地図状のびらんを形成する。日本人の胃癌の約10%に関係しているといわれている。
エンテロウイルスポリオウイルス・コクサッキーウイルス・エコーウイルスなど。腸炎の原因ウイルス。
ロタウイルス腸炎の原因ウイルスで、嘔吐・水様性の下痢・発熱をきたす。咳嗽・鼻汁・中耳炎などの上気道炎症状を伴うことが多い。
ノーウォークウイルス胃腸炎の原因ウイルスで、冬季に散発性or集団発生することが多い。悪心・嘔吐・下痢・微熱・筋肉痛・倦怠感・腹痛・めまいなどの症状を呈する。
小型球形ウイルス生がき摂取後の水様下痢の原因ウイルス。
 抗生物質起因性腸炎
定義抗生物質投与に伴っておこる腸炎。菌交代現象によるものと考えられている。
 腸炎の 
種類
偽膜性腸炎
原因菌は、嫌気性菌のClostridium difficile 。C. difficile の検出のためには、Bartlett法による嫌気性培養を行わなければならない。リンコマイシン・クリンダマイシン・ホスホマイシンなどの抗生物質によって誘発される。治療にはバンコマイシンしかない。
急性出血性大腸炎
原因菌はクレブシエラ(Klebsiella oxitoca )。ペニシリンやセファロスポリンによって誘発される。
治療本症を誘発している抗生物質の投与中止が何よりも重要。その後、バンコマイシンなどの投与が行われる。
 寄生虫感染症
アニサキスサバ・サンマ・イカなどの生魚に含まれており、胃腸炎を引き起こす。腸炎の場合、小腸の好酸球性肉芽腫と消化性潰瘍or腫瘍に類似する症状を特徴とする。
赤痢アメーバ海外旅行時に起こりやすく、同性愛者間の性交渉で媒介されるといわれており、現に若い人で直腸に発生することが多い。所見は潰瘍性大腸炎と酷似し、生検組織による原虫の検出をもって診断が行われる。メトロニダゾールにより治療される。
 放射線照射性腸炎(radiation-induced enteritis)
定義泌尿器や産婦人科領域における腹腔内悪性疾患に対する放射線治療の晩期合併症。
病態血管や結合組織への照射により虚血と線維化が生じた結果、腸管障害をきたす。
 臨床症状 下血、渋り腹、下痢など。
治療完全に有用な治療法は今のところない。
 Crohn病(Crohn disease)
定義原因不明で、主として若い成人にみられ、線維化や潰瘍を伴う肉芽腫炎症性病変からなり、消化管のどの部位からも起こりうる。臨床像は病変の部位や範囲による。発熱、栄養障害、貧血、関節炎、虹彩炎、肝障害などの全身性合併症が起こりうる疾患である。
疫学北欧の白人に多く、わが国では非常にまれといわれていたが、わが国においても欧米でもCrohn病は増加傾向にある。現在日本では人口10万人あたりの有病率は約5人、罹患率は0.5人程度と推定されている。初発年齢は10代後半〜20代前半にピークがあり、男女差は若干男性に多い。
分類肉眼的病変(縦走潰瘍・敷石像・狭窄など)の存在する部位によって、小腸型、小腸・大腸型、大腸型、直腸肛門型などに分類される。これらの病変を欠く場合は特殊型(多発アフタ型、盲腸虫垂限局型など)とされる。小腸・大腸型が全体の半分を占め、小腸型と大腸型がそれぞれ1/4を占める。
病因原因は不明であるが、病理像で単球-マクロファージ系細胞とCD4陽性細胞を中心とした免疫異常がみられるため、食事・細菌・ウイルスなどの外因性因子と腸管との相互作用で、腸管に慢性炎症性変化がおこった結果生じたものとする免疫異常説が有力である。また、家族内発症が比較的高率にみられ、HLA-DR4と有意の相関を示すことから、遺伝性のファクターの存在も考えられている。
病理
肉眼所見
粘膜面の縦走潰瘍(longitudinal ulcer)敷石像(cobblestone apearance)が特徴的で、これらは健常粘膜をはさんで非連続性に分布することが多く、飛び石病変(skip lesion)とよばれる。
組織所見
主として形質細胞とリンパ球よりなる全層性炎症がみられる。通常、炎症は粘膜下層で最も強く、非乾酪性類上皮細胞肉芽腫が特徴的所見として観察される。
 臨床症状 腹痛(一般に軽い下腹部痛)、下痢、発熱、体重減少を4主徴とする。その他、肛門病変(裂肛・肛門潰瘍・痔瘻・肛門周囲膿瘍など)、全身倦怠感、血便などが比較的高頻度でおこる。これらの症状は慢性に経過し、徐々に進行する。
検査所見

診断
血液検査
70〜90%に軽い貧血を認める。赤沈亢進・CRP陽性などの炎症所見が80%以上の症例で認められる。栄養障害として、低アルブミン血症・低コレステロール血症・各種ビタミン欠乏症を認める。
内視鏡検査
主に大腸病変の観察に利用される。縦走潰瘍(正常粘膜に囲まれた潰瘍)、敷石像(cobblestone appearance)、病変の非連続性などを観察する。
X線検査
Crohn病では、回腸末端を含む下部回腸に病変が多いが、内視鏡では小腸の観察は不十分であり、X線検査は病変部位やその程度の診断に優れる。腸間膜側の縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変の存在、非対称性の狭窄、瘻孔を示す深いとげ状のバリウム像などがみられる。
生検
非乾酪性類上皮細胞肉芽腫の存在、病変の非連続性の証明を行う。
鑑別診断
潰瘍性大腸炎
Crohn病が全層性炎症を伴うskip lesionを呈するのに対して、潰瘍性大腸炎は粘膜下層までの炎症のみで、病変がびまん性・連続性である。
腸結核
臨床症状・一般検査所見は類似。X線・内視鏡所見から鑑別する(腸結核では横走・横列潰瘍、萎縮性瘢痕帯、盲腸・上行結腸の短縮などがみられる)。
虚血性大腸炎
縦走潰瘍を高頻度に伴うため、鑑別の対象となることがある。しかし、縦走潰瘍周囲の敷石像の有無、年齢、病変部位、発症様式、臨床経過などから鑑別は容易である。
合併症
腸管合併症
狭窄、閉塞:腸壁の全層性肥厚による線維性狭窄、閉塞により、食後の腹痛,腹部膨満感などの通過障害の症状を生じる。
瘻孔:通常は無症状であるが、下痢、吸収障害を生じることがある。腸管膀胱瘻による気尿、尿路感染症、腸管子宮瘻による性器便、腸管皮膚瘻では皮膚便がある。
その他:出血や穿孔などを認めることもある。
腸管外合併症
最も多い腸管外合併症は皮膚病変で、結節性紅斑やアフタ性口内炎がある。次いで関節炎や関節痛などの関節症状である。Crohn病においては、皮膚病変や関節病変は大腸型に多い。また、胆石症や腎・尿路結石、ぶどう膜炎や結膜炎などの眼病変、脂肪肝、アミロイドーシスなどの合併が知られている。
治療潰瘍性大腸炎と同じく、基本的には対症療法で、栄養療法と薬物療法による内科的治療が中心である。
栄養療法完全中心静脈栄養や成分栄養療法といった栄養療法は、栄養状態の改善、腸管の安静だけではなく、食餌抗原への曝露をなくすことにより、Crohn病の免疫異常の是正をし、緩解導入を可能にする。
薬物療法副腎皮質ステロイド、サラゾスルファピリジンが中心である。サラゾスルファピリジンは大腸型には有効であるが、小腸型では無効で、ステロイドがより有効といわれている。メサラジンはいずれにも有効である。
外科的治療閉塞・狭窄症状の高度なもの、瘻孔・膿瘍を形成するもの、重症の肛門病変や中毒性巨大結腸症を伴うものが手術適応となる。しかし、外科的治療は高率に再発をきたすため、内科的治療が基本である。
予後本症は慢性に経過し、一時的に緩解を得ても高率に再発・再燃する。年余にわたって狭窄・変形が進行し、15年以上の経過例では約半数に手術がなされている。一方、発癌などは少なく、生命予後に関してはあまり影響しないといわれている。主な死因は術後敗血症や中毒性巨大結腸症、穿孔などである。
 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)
定義主として粘膜を侵し、しばしばびらんや潰瘍を形成する、大腸の原因不明のびまん性非特異的炎症である。大腸粘膜および粘膜下層が主たる炎症の場であり、病変は直腸からびまん性連続性に広がっている。
疫学わが国で最も多い大腸の慢性炎症性疾患で、人口10万人あたりの罹患率は2.0であるが、欧米に比べて低率である。男女比は1:1。年齢分布はCrohn病に比べて若干高く、25歳前後にピークがあり、60歳前後に第2のピークがある。
分類
罹患部位による分類
全大腸炎型、左側結腸炎型、直腸炎型、右側結腸炎型に分類される。 
病期による分類
活動期と寛解期に分類される。
重症度分類
排便回数・顕血便・発熱・頻脈・貧血・赤沈という6つの症状の臨床的重症度から、軽症、中等症、重症に分類される。
臨床経過による分類
再燃寛解型、慢性持続型、急性激症型、初回発作型に分類される。
病因原因不明であるが、感染説、アレルギー説、酵素説、血管炎説などが唱えられている。最近では微生物などに対する免疫機構の関与が有力とされている。さらに、免疫学的機序におけるHLAなどの遺伝素因や、自律神経との関連が考えられている。
病理病変は主として結腸・直腸の粘膜・粘膜下層に限られ、一般に長期にわたり増悪と寛解をくり返す。その中で、粘膜表層のびらんや粘膜のうっ血に始まり、慢性的に経過するにしたがって、大腸の長さの短縮や腸管ハウストラの消失などが認められるようになる。
 臨床症状 下痢、腹痛(疝痛で、腹部全体or下腹に限局)、粘血便・血便などを主症状とする。持続性・反復性の粘血便・血便が最も特徴的な症状で、程度はさまざまである。重症例では悪心・嘔吐、心窩部痛などがみられることもある。また、発熱・頻脈・全身倦怠感などの全身症状は、炎症の強さや病変の範囲の広さにより程度が異なる。
検査所見

診断
臨床検査所見
末梢血液では出血による低色素性貧血がみられる。活動期にはCRPの上昇、赤沈の亢進、白血球数(特に好中球数)の増加、血小板数の増加がみられる。重症例では、頻回の下痢による脱水、電解質異常(Na+・K+低下)がみられることがある。また、重症発作時には、播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併することがある。
X線造影検査、内視鏡検査
X線造影検査では、ハウストラの消失に伴い鉛管様(lead pipe)とよばれる特徴的な像がみられる。内視鏡検査ではさらに白帯などの偽ポリープが観察される。
生検
杯細胞の減少or消失、陰窩膿瘍などが特徴的。
合併症
腸管合併症
中毒性巨大結腸症:潰瘍性大腸炎の最も重篤な合併症で、腸管の運動低下のために拡張をきたした状態である。腹部は腸管拡張により膨隆し、腸動は減少or消失する。注腸検査、大腸内視鏡検査、抗コリン薬や麻薬の使用、電解質異常などが誘因とされており、重症の大腸炎では腸管運動を抑制する薬物の頻回の使用は禁忌である。
合併大腸癌:若年発症、全大腸型、10年以上の長期経過例で発生頻度が高い。平坦型で多発性の低分化腺癌・粘液産生癌の頻度が高い。
腸管外合併症
皮膚粘膜系(壊死性膿皮症・結節性紅斑)が最も多く、肝(脂肪肝・肝硬変・胆管周囲炎)、膵(膵炎・高アミラーゼ血症)、関節(強直性脊椎炎など)、泌尿生殖系(尿路結石など)などの他、橋本病、大動脈炎症候群なども合併しやすい。
治療
全身管理
安静の上、脱水、電解質アンバランス、貧血、低蛋白血症、栄養障害の補正を行い、腸管の休養を保つ。
薬物療法
サラゾスルファピリジンと副腎皮質ステロイドを中心に行われてきた。最近はサラゾスルファピリジンの副作用軽減を目的とし、有効成分5-アミノサリチル酸製剤が開発され、広く用いられてきている。この他にアザチオプリンや 6-メルカプトプリンなどの免疫抑制剤が用いられることもある。重症例には、中心静脈栄養や経管栄養が行われる。
外科的治療
内科的治療に反応しない全結腸型や再燃を繰り返す症例、癌を合併したものは外科手術の適応となる。
予後本症は慢性の経過をたどることが多く、寛解再燃を繰り返す。再燃率は50%前後である。
 腸管Behcet病(intestinal Behcet disease)
定義原因不明の難治性全身性炎症疾患であるBehcet病の特殊病型の1つで、消化管に病変の主体を認めるもの。
疫学20〜40歳代に多く、性別では男性にやや多い。食道から直腸までの全消化管に起こりうるが、ほとんどは回盲部に発生する。
病態主として回盲部に潰瘍を形成するが、病変は全消化管に起こりうる。Behcet病の病因は不明であるが、好中球機能の亢進が病態の基本にあり、病変部位は病理組織学的に好中球浸潤を主体とする非特異的炎症像を呈する。
 臨床症状 右下腹部痛(圧痛)の他、発熱、腫瘤触知、下痢、下血など。
検査所見

診断
血液検査
白血球数の増加、赤沈値亢進、CRP上昇などの炎症反応がみられる。
消化管X線検査
円形〜類円形の打ち抜き様で、下掘れ状の境界鮮明な深い巨大な潰瘍が、主として回盲部に認められる。
大腸内視鏡検査
X線検査同様、深い潰瘍の存在が認められる。
治療特異的治療法はなく、栄養療法(完全静脈栄養・成分栄養など)や薬物療法(サラゾスルファピリジン、副腎皮質ステロイド剤、免疫抑制剤など)による保存的内科療法が主体である。穿孔例・瘻孔形成例・出血例などでは外科的切除が行われるが、吻合部やその口側に再発するケースが多い。
 吸収不良症候群(malabsorption syndrome)
定義脂肪・脂溶性ビタミン・糖質・蛋白質・無機質など、各種栄養素の消化管からの吸収が障害され、それらの欠乏症を生じることを主徴とする症候群をいう。消化器系諸臓器それぞれの機能障害or相互の調節障害によりおこる。
病因
管腔内消化障害
・消化液と食塊のタイミング不調(胃全摘後、BillrothU胃切除後)
・膵外分泌機能不全(慢性膵炎、膵切除後)
・胆汁分泌不全(閉塞性黄疸、胆摘後)   など
腸粘膜吸収障害
・吸収面積減少(セリアック病、Crohn病、腸結核、強皮症、アミロイドーシスなど)
・細胞内代謝障害(無βリポ蛋白血症)
・刷子縁膜酵素欠損or低下(二糖類分解酵素欠損or低下、ジペプチダーゼ欠損症)   など
輸送経路障害
・リンパ管系異常(腸リンパ管形成不全、腸リンパ管拡張症)
・血管系異常(慢性腸間膜静脈血栓症、慢性腸間膜動脈閉塞症)
 臨床症状 消化吸収障害の程度・期間により、さまざまな程度の栄養障害がみられる。本症に共通してみられる症状としては、慢性下痢(←脂肪の吸収障害)、体重減少(←カロリー不足)、貧血・倦怠感(←鉄の吸収障害)、浮腫(←蛋白の吸収障害)、舌炎、皮疹、出血傾向などがあげられる。また、原疾患による症状も伴う。その他、他覚所見として、るいそう、脱毛、口角炎などもみられる。
検査所見

診断
血液・生化学検査
低栄養状態を反映して、低蛋白血症、低アルブミン血症、総コレステロール値低下がみられる。また、貧血症状として、赤血球数減少、ヘマトクリット低下がみられる。
消化吸収試験
・糞便のSudanV染色…橙赤色に染まる脂肪滴を計数する
・便中脂肪定量…1日摂取脂肪量が50g以上で、便中脂肪排泄量が1日6g 以上となる
・D-キシロース吸収試験…D-キシロース負荷後の尿中排泄量の低下がみられる
・乳糖負荷試験…乳糖20g負荷後の血糖値上昇が10mg/dl以下となる
・Schilling試験…ビタミンB12の吸収試験
消化管造影検査
本症に特徴的なdeficiency[sprue] patternとよばれる空腸の拡張像・分節像・断片像・過分泌像などがみられ、経口投与した造影剤の通過時間の短縮もみられる。
消化管内視鏡検査、生検
消化管の形態、病変の存在、通過形態、絨毛の形態学的観察、組織診断を確認する上で有用である。
治療 ・食事療法…高エネルギー・高蛋白・高ビタミン食(ただし低脂肪)で消化吸収しやすいものを素材とする
・経腸高エネルギー療法…経口的に十分な食事が摂取できない場合に適応となる
・完全静脈栄養…腸管吸収面積の著減や高度の栄養障害・消化吸収障害がみられる場合に適応となる
・薬物療法…消化酵素薬の投与の他、止痢薬(下痢がひどい場合)やビタミン剤の投与などが行われる
・原疾患に対する治療
 蛋白漏出性胃腸症(protein-losing gastroenteropathy)
定義 血漿蛋白、特にアルブミンが胃腸管壁を経て胃腸管腔内へ異常に漏出することにより惹起される、低タンパク血症を主徴とする症候群。
疫学本症の原疾患は、消化器疾患のみならず、心疾患・膠原病などの全身性疾患を含むきわめて多彩な疾患で認められるため、本症に遭遇する頻度は高い。
原疾患・胃疾患…Me´ne´trier病、胃ポリポーシスなど
・腸疾患…腸リンパ管拡張症、Crohn病、非特異性小腸潰瘍、アレルギー性胃腸症など
・心疾患…収縮性心外膜炎、うっ血性心不全
・全身疾患…肝硬変、SLE、Sjo¨gren症候群、アミロイドーシスなど
病態健常者においても、アルブミンは消化管に排出され、再吸収されて肝において再合成されるため、糞便中に排泄される量はほとんどない。本症では、再吸収や肝のアルブミン合成能を超えてアルブミンが消化管腔内へ漏出し、低蛋白血症・低アルブミン血症が生じてくる。
蛋白以外にも血漿成分、Ca、Fe、Cu、リンパ球、脂質が管腔に漏出する。
漏出の機序についてはいまだ不明な点が多いが、腸リンパ系の異常、毛細血管透過性の亢進、H. pylori 感染・炎症・潰瘍・悪性腫瘍などによる胃腸粘膜上皮の異常、局所線溶の亢進、自己免疫的機序などが複数にわたり関与していると考えられている。
 臨床症状 原因となる疾患によってさまざまである。
 ・下痢、悪心・嘔吐、腹痛、体重減少…消化管に蛋白が漏出することによる
 ・浮腫、腹水貯留による腹部膨隆…低蛋白血症による
 ・テタニー症状(痙攣・感覚異常・Trousseau徴候)、貧血症状(めまい・動悸・息切れ)…Ca・Fe・ビタミンの漏出による
検査所見

診断
血液生化学検査
低蛋白血症、低アルブミン血症、低γ-グロブリン血症、低Ca血症がみられる。原疾患によっては、貧血、リンパ球数減少、好酸球増加を伴うことがある。
α1アンチトリプシン(α1AT)腸管クリアランス(蛋白漏出を証明する検査)
(糞便中α1AT濃度)×(糞便量)/(血中α1AT濃度)の式で計算される。本症では、この数値が著増する。
消化管内視鏡検査、消化管造影検査、消化管シンチグラフィー
原疾患を特定するために行われる。
治療原疾患を明らかにし、その疾患に対する治療を進める。
 ・食事療法…高蛋白低脂肪食や成分栄養を摂取させる
 ・薬物療法…低蛋白血症・浮腫に対しプラズマネート、アルブミン製剤、利尿薬を投与する。
 過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)
定義便通異常(便秘・下痢・交替性)が持続し、種々の腹部症状を訴えるが、腸管に器質的な病変はなく、機能異常によって起こる病態。
疫学消化器症状を訴える者のなかで最も頻度が高く、一般人の約15%がIBSの症状をもっているといわれる。社会が複雑になり精神的ストレスも多くなったためか、近年次第に増加してきている。20〜40歳代に好発し、女性にやや多く、肉体労働者よりも知的労働者に多い。
病態もともと神経症的な素質や自律神経系の不安定な素地のある者に、情緒的緊張やストレス、食品による刺激が加わった時、腸管が運動亢進状態となり症状を起こしてくる。便秘型ではS状結腸の運動が亢進しており、腸内容物の移動が妨げられる。一方、下痢型では大腸全体が細かく痙攣し、急速に腸内容物が移動し、S状結腸で保持できずに下痢となる。
その他、内臓知覚の過敏や中枢の機能異常、免疫学的異常(肥満細胞機能異常)などが関連していると考えられる。
 臨床症状 
消化器症状
腹痛(主に腸管の痙攣による。食後に多い)、便通異常(便秘、下痢or両者が交互にくることがある)、腹部膨満感、悪心、腹鳴など。
全身症状
心悸亢進・四肢冷感・発汗・顔面紅潮・肩こり・頭痛などの自律神経失調症状や、不安感・不眠・無気力・緊張感・全身倦怠感などの精神神経症状などを伴うことが多い。
検査所見

診断
血液検査や糞便検査では、異常は認められない。また、注腸造影検査・内視鏡検査では、器質的な異常所見は認められない。
臨床検査からは特徴的な所見は得られず、腹部不定愁訴を訴えるすべての器質性疾患が除外診断の対象となる。
治療心理的治療と生活指導を基盤にして、その上で消化器症状に応じた薬物治療を行う。過労を避け、十分な睡眠をとらせ、規則正しい日常生活を送らせるための生活指導を行う。腹痛や便通異常に対しては抗コリン薬や整腸薬を、情動の不安定な者には精神安定薬を用いる。
 虚血性大腸炎(ischemic colitis)
定義大腸の血行障害により炎症が引き起こされる疾患。主幹動脈には明らかな閉塞はなく、腸間膜動脈の分枝である結腸動脈末梢枝に閉塞or狭窄がおこるために、腸粘膜の一部が虚血性変化を示す。
疫学50歳以上の高齢者に好発する。近年、人口の高齢化、高血圧・糖尿病・心疾患などの基礎疾患を有する患者の増加とともに、増加傾向にある。
分類
Marston分類
臨床経過によって、跡形を残さず治癒する一過性型、治癒過程で腸管の狭窄を生じる狭窄型、腸管の壊死穿孔をきたす壊疽型に分類されているが、狭義の虚血性大腸炎は前2者を指す。
病因高血圧・動脈硬化・糖尿病・心疾患などの循環系の基礎疾患を有する者に、うっ血性心不全・ショックなどが加わり、腸管への血流が低下した時に発症する。その他、腸管側の因子として、便秘などの腸管内圧の上昇も重要な誘発因子となりうる。
病態生理腸管の支配動脈の解剖学的分布から、血流が粗となる脾弯曲部の上・下腸間膜動脈吻合部と、S状結腸・直腸移行部の下腸間膜動脈・中下直腸動脈吻合部に好発する。
 臨床症状 腹痛・下痢・下血を 3主徴とする。発症は急激であり、腹痛が始まり,まもなく下痢・下血をみる。症状は通常1〜2週間以内に消失することが多いが、狭窄型ではさらに狭窄による症状が持続する壊疽型では、腹痛が強く、持続性かつ進行性で、数日以内に腹膜炎の症状を伴ってくる。
検査所見

診断
一般検査
白血球数増加・赤沈亢進・CRP上昇などの炎症所見を認める。非壊疽型では経過とともに炎症所見は消退する。
注腸造影検査
粘膜下の浮腫や出血による母指圧痕像、縦走潰瘍が特徴的で、一過性型では数日でこれらの所見が消失する。狭窄型では、治癒過程で瘢痕による狭窄や嚢形成をきたす。また、病変部と健常部との境界が鮮明であるという特徴をもつ。
内視鏡検査
急性期には、区域性に粘膜の浮腫・発赤・出血・びらん・縦走潰瘍を認める。治癒期には多数の潰瘍瘢痕の時期を経て正常に戻る。狭窄型では管腔の狭小化を残す。
生検
粘膜の生検よりヘモジデリン沈着細胞が認められれば確定診断される。
治療絶食・輸液・抗生物質投与などの保存的治療により数日程度で症状が消失することが多い。壊疽型で麻痺性イレウス、腹膜炎(腸壁の壊死・穿孔)の所見がみられた場合、狭窄型で狭窄症状が強い場合には、外科的治療(腸管部分切除)を行う。
予後非壊疽型(一過性型・狭窄型)は予後良好であるが、壊疽型は予後不良で、腹膜炎を伴う場合が多い。
 腸管アンギーナ(intestinal angina)
定義大血管(特に上腸間膜動脈)の粥状硬化による腸管の慢性血流障害に起因して、腹痛発作が起こる疾患。
 症候&診断 高齢者に好発し、食後20〜50分に生じる腹痛を特徴とする。
診断は諸検査で他疾患を除外した上で、血管造影を行い確定診断とする。
治療急性腸管不全の前駆病変であるので、診断が確定したら、できるだけ早期に血行再建術を行う。
 巨大結腸症(megacolon)
定義大腸の内径が異常に拡張する症候群。
分類
先天性巨大結腸症
代表的疾患として、Hirschsprung(HSP病)がある。
後天性巨大結腸症
さらに、原因不明の特発性巨大結腸症と、原因疾患のある症候性巨大結腸症に分類される。
 臨床症状 頑固な便秘、腹痛、腹部膨満感、便柱の細小化、嘔気、嘔吐、食欲不振、発育不良など。重症例では、腸穿孔、下血、敗血症、ショックを併発する。
検査所見

診断
注腸X線検査
鋸歯状の不規則な辺縁をもつnarrow segment、漏斗状狭小化とそれに続く口側正常腸管の拡張像が特徴的。
生検
神経節細胞の欠如を直接証明する。
直腸肛門内圧測定
肛門内括約筋の弛緩反射欠如をみる。
治療根治的手術療法が原則である。Swenson法、Duhamel法、Soave法が術式として用いられる。
 腸閉塞(intestinal obstruction,イレウス ileus)
定義種々の原因により腸管の通過障害が生じ、腸管内容の肛門側への輸送が障害されることによって生じる病態。
疫学緊急に外科的処置を必要とする腹部疾患の中では、急性虫垂炎に次いで多く、その約2割を占めるとされる。70歳以上の高齢者で特に多いが、中でも開腹手術後の発症が多い。
分類
機械的イレウス(腸管内腔の器質性の狭窄・閉塞によって、腸管内容の通過障害が生じる)
単純性イレウス
(閉塞性イレウス)
単に腸管内容の通過障害のみが生じているもの
 ・腸管内容物による閉塞:誤嚥した異物、不消化物、糞塊、胆石など 
 ・腸管壁の変化による閉塞:大腸癌、Crohn病、先天性腸閉鎖症など 
 ・腸管外の病変による閉塞:腹腔内癒着、腹腔内腫瘍など
複雑性イレウス
(絞扼性イレウス)
腸管内腔の閉塞に腸管膜の血行障害を伴うもの
 ・腸ループ絞扼(腹腔内癒着で生じた索状物などで腸管が腸間膜とともに絞扼される)    ・ヘルニア嵌頓(腸管が腹壁・腹腔内の裂隙を通って進入し、絞扼される)
 ・腸管軸捻転症    ・腸重積症    ・腸管結節形成
機能的イレウス(腸管に器質性の狭窄・閉塞がなく、腸管内容の通過障害が生じる)
・麻痺性イレウス:急性腹膜炎、開腹術後早期、脊髄損傷、腸間膜血栓症など
・痙攣性イレウス:鉛中毒などの脳神経疾患
病態生理閉塞部から口側の腸管は内容物貯留により拡張し、嘔吐や、腸管からの吸収障害による脱水・電解質失調をきたす。さらに、腸管の血行障害や腸管内細菌の増殖から敗血症やショック状態に至る。また、腹腔内圧が増加するため、呼吸・循環・腎機能の低下がおこることもあり、適切な治療が行われないと、ショック状態・多臓器不全・DICが発生する。
 臨床症状 ・腸管の閉塞による症状…悪心・嘔吐、疝痛性の腹痛、腹部膨隆、排便・排ガスの停止など。
・脱水・電解質異常による全身症状…口喝、全身倦怠感、脱力感など。
身体所見
腹部所見
腹部膨隆、圧痛がみられる。聴診により、単純性イレウスでは腸雑音の亢進、金属性雑音の聴取。複雑性イレウスでは初期は腸雑音の亢進、進行すると減弱・消失。麻痺性イレウスでは腸雑音の減弱・消失。
脱水・電解質異常による所見
皮膚・粘膜の乾燥、脈拍数・呼吸数の増加、血圧の低下など。
検査所見

診断
血液検査
白血球数の増加。脱水による血液濃縮のため、赤血球数・ヘマトクリットの増加。BUNの上昇。電解質異常(Na・Cl・K値の低下など)。
X線検査
腹部単純X線撮影では多量の腸管ガス像と立位像で鏡面像(niveau)を認める。消化管造影検査で閉塞部位やその性状を診断する。小腸造影は通常イレウス管より水溶性造影剤を用いて施行される。大腸閉塞が疑われる場合や腸重積の整復のためには注腸造影が施行される。
腹部超音波・CT検査
腸管の拡張像、閉塞の原因となる腫瘤や結石像、腸重積では重積像(同心円状の腫瘤像)などを認める。
治療・全身状態の改善…水分・電解質の補正、経静脈栄養、ショックに対する治療など。
・吸引減圧療法…イレウス管を経鼻的に空腸まで挿入し吸引することにより、腸管の減圧をはかる。
・手術…複雑性イレウスでは急速に病状が悪化するため、早急な外科手術が必要である。
 腸ポリポーシス(intestinal polyposis)
   腸ポリポーシスとは、単に腸管にポリープが多発した状態を表す言葉で、一疾患単位ではない。ポリープは組織学的特徴をもとに腫瘍性、過誤腫性、炎症性、過形成性などに分類される。
腫瘍性前癌病変と考えられており、管状or絨毛状に増殖する。
   (例)家族性大腸ポリポーシスとその亜型(Gardner症候群・Turcot症候群)



過誤腫性正常組織の異常な構成からなる、発育異常性の腫瘤といわれている。
   (例)Peutz-Jeghers症候群、若年性ポリーポーシス、Cowden病
炎症性炎症性変化を基盤として増生したもので、炎症性大腸疾患の治癒期によくみられる。
   (例)炎症性ポリポーシス、Cronkhite-Canada症候群
過形成性腺管上皮の過形成からなるポリープで、異型は伴わない。
   (例)過形成性ポリポーシス
家族性
大腸
 ポリポーシス 
【概   念】大腸全域に無数の腺腫が発生する常染色体優性遺伝性の疾患。
【疫   学】発生頻度は5,000人〜15,000人に1例程度と推定されている。20〜30歳代で自覚症状が現れて、診断がつく場合が多い。
【病   因】第5染色体の長腕に存在するAPC 遺伝子の変異が高率に認められる。
【症   候】軟便、下痢、(時に)粘血便などが認められる。しかし、癌化するまで明らかな症状がない場合もある。
【診   断】注腸X線検査で大腸全域に多発or無数の隆起性病変を認める。生検or内視鏡的ポリペクトミーにより確定診断がなされる。診断がつけば、骨腫・軟部組織腫瘍・他臓器癌の合併の有無と歯牙形成異常の有無をチェックする必要がある。
また、家族歴のある人に対しては、明らかな症状がなくても定期的に内視鏡検査を行う必要がある。
【合併症】種々の随伴病変を伴うことが多く、軟部組織腫瘍と骨髄・歯牙形成異常を伴うものをGardner症候群、中枢神経系腫瘍を伴うものをTurcot症候群とよんでいる。また、胃・十二指腸・小腸にもポリポーシスの合併を認める場合が多く、高率に眼底の網膜色素斑を認める。さらに、悪性病変として大腸癌の他、十二指腸乳頭部癌・甲状腺癌・胃癌・副腎癌・デスモイド腫瘍などを重複発生しやすい。
【治   療】外科的に全大腸を切除するのが理想的である。しかし実際には、人工肛門を避けるために、全結腸切除+回腸直腸吻合術or回腸肛門吻合術を行うことが多い。
Peutz-
Jeghers
症候群
【概   念】皮膚・粘膜にメラニンの異常沈着を伴う消化管ポリポーシスで、常染色体優性遺伝性の疾患である。
ポリープは全消化管にみられるが、小腸(特に空腸)が最も多い。数個〜数十個の多発性の場合が多いが、単発性のこともある。肉眼像では通常有茎性であり、組織学的には粘膜筋板の形成不全がみられ、癌化のポテンシャルをもっているといわれている。
【症   候】色素沈着(比較的鮮明な褐色〜黒褐色の色素斑)が左右対称性に生後まもなく現れることが多く、ポリープ出現に先行する。ポリープは小腸に出現することが多いため、腸重積を引き起こしやすく、その際に強い腹痛、下血を伴う。
【診   断】全消化管のX線・内視鏡検査によるポリープの分布と肉眼的・組織学的特徴から診断するが、色素斑の存在が診断において最も重要である。
【治   療】腸重積による急性腹症に対しては緊急手術が必要である。また、消化器癌や他臓器癌を合併したり、次々とポリープが発生することもあるので、長期にわたる経過観察が必要である。
Cronkhite-
Canada
症候群
【概   念】@消化管ポリポーシス、A皮膚の異常色素沈着、B脱毛、C爪甲萎縮・脱落、D低タンパク血症、E貧血を特徴とする疾患。
ポリープは全消化管に分布する。急性期には、発赤した小さい半球状隆起がびまん性に散らばって存在する、"イクラ"状外観を呈する。このポリープは上皮性の増殖性変化による隆起ではなく、炎症に起因した腸腺単位の異常腸腺の集簇によって形成されているものである。したがって軽快すると自然に消失し、癌化のポテンシャルはない。
【疫   学】非遺伝性で、発症は高齢者に多く60歳代にピークがあり、致死率が高い。まれな疾患であるが、日本では欧米に比べて多い。
【症   候】下痢、食欲不振、腹痛、下肢浮腫、舌の味覚異常などが初発症状として多いが、重症化すると全身衰弱状態に陥る。随伴症状としての皮膚のメラニン色素沈着は、境界不鮮明な淡い褐色調でびまん性のことが多い。
【診   断】高齢者の激しい水様性下痢と舌の味覚異常は本症を疑わせる重要な所見となる。診断は特徴的な外胚葉性異常とX線・内視鏡検査から比較的容易に行うことができる。
【治   療】原因療法はなく、電解質異常・低タンパク血症・貧血に対する内科的対症療法を行う。
 大腸癌(colorectal cancer)
定義大腸粘膜に発生する悪性腫瘍。
発生部位から結腸癌と直腸癌とに分けるのは、臨床症状や解剖学的特徴から治療・予後が異なるためである。さらに深達度により、粘膜下層までの早期癌と固有筋層より深部の進行癌に分けられる。
疫学好発年齢は50〜60歳代であり、男女比では男性の方が多くなっている。食生活の欧米化(高脂肪・高蛋白・低繊維食)により増加傾向にある。高脂肪・高蛋白食は消化管を通過するうちに、胆汁酸・腸内細菌などによって発癌性をもった物質に転換される。一方、高繊維食は糞便量を増やし、その大腸内通過を速めるため、発癌率が低い。
発生機序
ポリープ癌(多段階発癌
まず、APC(癌抑制遺伝子)の変異がおこって低・中等度異型腺腫となり、続いてK-ras (癌遺伝子)の変異がおこって高度異型腺腫となり、最終的にp53 (癌抑制遺伝子)の変異がおこって癌となる。この上に他の染色体異常が加わると、進行癌となって転移するようになる。
de novo 癌
何らかの原因によって形成された微小病変に、p53 の変異が加わることによって癌となる。癌の発生において腺腫を経ず、またK-ras の変異も伴わない。
遺伝性非ポリポーシス性大腸癌(HNPCC)
DNA修復遺伝子の異常を遺伝的に引き継いでおり、何らかの原因によって大腸粘膜に微小病変が形成された際に、高率で大腸癌に移行する。
分類
肉眼的分類
・0型(表在型)…深達度が粘膜or粘膜下層までの癌で、早期胃癌分類にしたがって細分類される。
・1型(腫瘤型)、2型(限局潰瘍型)、3型(浸潤潰瘍型)、4型(びまん浸潤型)…進行胃癌に対するBorrmann分類と同じ。
・5型(分類不能型)         ※早期癌では隆起型(T型)が、進行癌では限局潰瘍型(2型)が多い。
Dukes分類(癌の深達度&リンパ節転移の有無による直腸癌の分類。予後と相関する)
・Dukes A…浸潤は筋層以内で、リンパ節転移がない
・Dukes B…浸潤は筋層を越し、リンパ節転移がない
・Dukes C…浸潤は筋層を越し、リンパ節転移がある
 臨床症状 
右側結腸癌
腸管内腔は広く、内容は液性であり、症状が発現しにくい。軽度の腹痛、不定の腹部愁訴を認めることが多い。便通は一般に下痢に傾く。大きくなって腫瘤を触れたり、貧血(←病変部からの慢性出血)で発見されることも少なくない。
左側結腸癌
腸管内腔が狭く、内容は固形化しているため、腹痛を伴った通過障害が出現する。血便を認めることも多い。
直腸癌
肛門に近いため、早くから症状が出現する。排便時の不快感、糞便の狭小化、通過障害、渋り腹、粘血便などをみる。
身体所見進行すると腹部腫瘤として触れるか、狭窄を生じて、イレウスを起こすまで異常を呈さないこともある。腫瘤は盲腸・上行結腸癌で触知することが多いが、左側結腸癌では少ない。直腸癌では直腸指診が重要である。進行すれば、貧血・体重減少をきたす。
検査所見

診断
スクリーニング検査
便潜血検査が特に重要である。簡便な化学便潜血検査と感度・特異度の高い免疫便潜血検査の両方を用いる。
腫瘍マーカーではCEAが上昇することがあるが、大腸癌全体の陽性率は低く臨床的意義はあまりないが、肝転移・肺転移の指標にはなる。その他、進行すれば貧血、赤沈亢進、低蛋白血症などを認める。
注腸造影検査
病変の存在部位・大きさ・性状をとらえ、治療方針(ポリペクトミーの適否)を決定するのに必須の検査である。進行癌で輪状狭窄を示すものは、その形状からapple core signとよばれる。
内視鏡検査
生検により組織的診断可能であり、確定診断に有用である。また、大腸癌では病変が多発することも多く、併存する病変の発見に有用である。
腹部超音波検査
肝転移やリンパ節転移の有無に有用である。
CT検査
肝転移やリンパ節転移の診断に有用である。また、隣接臓器への浸潤、直腸癌の再発、骨盤内進展の程度を知るのにも有用である。
治療
外科的治療
根治手術は原病巣の切除とリンパ節の廓清からなる。子宮・膀胱など周囲臓器への浸潤がある場合は、合併切除を行う。周囲臓器への浸潤があって切除不能であったり、遠隔転移などがあって治癒手術が不可能な場合には、腸管吻合術や人工肛門造設術などの姑息的手術を行う。
内視鏡的ポリペクトミー
リンパ節転移の全くない、m癌(粘膜内癌)とsm1癌(粘膜下層の深達程度が上1/3にとどまるsm癌)に対して行われる。
化学療法
外科的切除とあわせて積極的に行われている。
予後進行すると、近接臓器への浸潤、リンパ管および血管を介して肝や肺への遠隔転移を起こし、予後不良となる。

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