下気道の閉塞性疾患
   下気道の閉塞性疾患の主なものとしては、気管支喘息とCOPDとがある。両者の違いは以下の表のようになっている。
 気管支喘息COPD
年齢全年齢層中高年
病因抗原、NSAID、職業性物質など主に喫煙
症状喘鳴、呼吸困難、咳・痰
(発作性・変動性)
呼吸困難、咳・痰、喘鳴
(固定性・労作時)
気流閉塞の可逆性あり
(一部なし:リモデリング)
なし
(一部あり)
喀痰中の細胞好酸球↑
肥満細胞↑
好中球↑
マクロファージ↑
(急性増悪時には好酸球↑)

気管支喘息



定義さまざまな細胞あるいは細胞成分、特に肥満細胞・好酸球・Tリンパ球・好中球・上皮細胞が関与する気道の慢性炎症性疾患である。感受性のある人では、気道過敏性の亢進に伴って生じた慢性炎症の結果、反復する喘鳴・呼吸困難・胸部絞扼感・咳嗽などの発作が起こるが、発作は特に夜間・早朝に多い。発作は通常、広範なさまざまな程度の可逆性の気道狭窄によって起こるが、多くは自然に、あるいは治療によって回復する。(NIHガイドライン)
頻度はっきりした全国規模での統計はないが、成人気管支喘息の有症率は約3%、小児気管支喘息の有症率は3〜5%ほどであるとされている
予後・小児喘息は半数以上が18歳までに寛解する(ただし、内15〜30%は再発)
成人喘息の寛解率は低く(10〜20%)、慢性疾患としての対応が必要
・人口10万人に対して5.0人ほどが喘息死(年間5000〜6000人が喘息で死亡


病因による分類
・アトピー型(小児喘息、頻度が高い、IgE抗体が認められる)
・感染型(成人喘息、内因性、慢性化しやすい、IgE抗体は認められない)
・混合型(小児喘息・成人喘息の両方)
発作の起こり方による分類
・発作型喘息(間欠的に発作が起こる)
・慢性型喘息
季節性の有無による分類
・季節型喘息(主にアトピー型と多くの混合型、春秋に増悪しやすい)
・通年型喘息(多くの感染型)
重症度による分類
・軽症間欠型(発作は週に1〜2回まで、夜間の症状は月に1〜2回まで)
・軽症持続型(発作が週に2回以上、夜間の症状も週に2回以上)
・中等症持続型(日常生活や睡眠が週に1回以上妨げられる。夜間の発作は週に1回以上)
・重症持続型(症状が持続してとぎれず、日常生活が制限される。夜間の発作もしばしば)






喘息発作とは、過敏性のある気道に種々の刺激が加わることによって生じる気道狭窄のこと
気道狭窄
(気流制限)
の機序
@気管支平滑筋の収縮、A血管透過性亢進による気道粘膜浮腫、B分泌亢進および排泄遅延による粘液貯留、C気道壁リモデリング
気道に
加わる刺激
IgE依存性機序による喘息反応(T型アレルギー)
・即時型反応(IAR):抗原曝露後15〜30分
    気管支平滑筋の収縮と肥満細胞からのメディエーター放出
    β刺激薬が有効
・遅発型反応(LAR):抗原曝露後3〜8時間
    好酸球の著明な浸潤、気道粘膜浮腫・粘液貯留などによる気道狭窄
    ステロイドが有効
・後遅発反応(P-LAR):LAR後数日間
    好酸球を中心とする炎症細胞浸潤が持続→気道過敏性亢進
IgE非依存性機序による喘息反応
・迷走神経を介する機序(軸索反射を介した神経原性炎症による)
・ウイルス感染(高齢者に多い、炎症による気道上皮傷害などによる)
・運動誘発喘息(EIA;小児に多い、過換気による気道の水分喪失が原因)
アスピリン喘息(AIA)
    酸性NSAIDによる(対策としては酸性NSAIDの使用回避)
    鼻茸合併例や慢性副鼻腔炎合併例が多い
    重症例が多い(喘息入院患者の3割がAIAと言われている)
・その他、精神的ストレス、アルコール、大気汚染、喫煙など
気道過敏性
先天的要因(遺伝的要因)
・βアドレナリン受容体遺伝子多型など
後天的要因
・喘息そのものによる気道の慢性炎症
    炎症細胞から放出されるケミカルメディエーターや気道上皮傷害による
・気道壁リモデリング
    基底膜肥厚、平滑筋増生などによる永続的な気道壁肥厚
    不可逆的な気流制限をきたし、治療によっても改善しにくい
・気道感染、喫煙、大気汚染など


臨床症状
呼吸困難、喘鳴、咳嗽、喀痰、胸部絞扼感などの症状が発作性・変動性に出現する。重症発作では、起坐呼吸、チアノ−ゼ、不隠、意識障害、失禁、不整脈などが起こる。
※症状の好発期は、夜間〜早朝、寒冷、雨天とその前
   増悪因子には、上気道炎、過食、過労、月経、妊娠、精神的ストレス、環境要因など
理学的
所見
・軽度の発作
連続性ラ音(高音性のwheeze/低音性のrhonchi)、呼気延長、鼓音(打診)、頻脈など。時に正常のこともある
・重症の発作
連続性ラ音、呼気延長の増強(さらに悪化すると呼吸音が減弱)、脱水、チアノ−ゼ、不整脈、失禁、意識障害など
合併症
気胸、縦隔気腫・皮下気腫、好酸球性肺炎、アレルギ―性気管支肺真菌症(ABPA)、無気肺(粘液栓)、肋骨骨折、咳嗽失神など
※喘息と診断した際には、胸部単純X線写真を必ず撮り、合併症の有無を調べる必要がある
検査所見・末梢血:軽度〜中等度の好酸球増多
喀痰:好酸球増多、Creola body、Charcot-Leyden crystals、Crushman's spirals
・内分泌機能:全身ステロイド長期投与時には血中コレステロール・ACTH値↓
・胸部X線:異常所見が認められない場合が少なくないが、他疾患との鑑別には有用
    喘息所見としては、過膨脹、気管支壁肥厚tram lines、無気肺(粘液栓による)
    合併症所見としては、気胸、縦隔気腫・皮下気腫、好酸球性肺炎、ABPA、感染症
・呼吸機能:発作時に、閉塞性換気障害(1秒率FEV1.0%↓など)
・気流制限の可逆性検査:発作時に気管支拡張薬を投与し、1秒量の改善率を測定(≧20%)
・気道過敏性検査:種々の濃度での気管支収縮剤吸入時の気道収縮の程度をみる
・アレルゲン検査:感受性のよい皮膚反応あるいは簡便なin vitro IgE検査が行われる
診断@発作性・反復性・変動性の呼吸困難・喘鳴・咳嗽、A可逆性の気流制限、B気道過敏性の亢進、Cアトピー素因、D他の心肺疾患の排除、E気道炎症の存在を目安として診断が行われる。
鑑別診断にあがるのは、左心不全("心臓喘息")、気管〜主気管支の腫瘍、気管・気管支結核、急性気管支炎、喉頭浮腫、COPD、気道内異物など。


原因療法
・抗原および非抗原性刺激の回避
ハウスダスト・ダニ、動物(イヌ・ネコ)、職業性物質、運動、タバコ、食物、刺激ガス・粉塵、非ステロイド系消炎鎮痛剤、β遮断薬
・減感作療法
薬物療法
気管支拡張薬
・キサンチン誘導体(内服薬:徐放性テオフィリン、注射薬:アミノフィリン)
    有効血中濃度域が狭く、個人差あるいは他薬剤との併用で血中濃度が大きく変化
・β受容体刺激薬
    吸入薬は発作時に頓用される(対症救急薬 reliever)。副作用に頻脈・動悸・頭痛・振戦
・抗コリン薬…吸入薬のみで、COPD合併例などに有用
ステロイド薬(強力な抗炎症剤)
・全身ステロイド薬…増悪時の間欠的投与が原則(対症救急薬 reliever
吸入ステロイド…定期吸入による維持療法(予防維持薬 controller
    副作用が少ない(咳、発声障害、カンジダ症、高用量使用時には全身副作用も)
    有効性が高く、喘息治療の第一選択薬となりつつある
抗アレルギー薬
・メディエーター遊離抑制薬(クロモグリク酸ナトリウム(DSCG)など)
・ヒスタミンH1拮抗薬
・その他、トロンボキサンA2阻害薬、ロイコトルエン拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬

慢性閉塞性肺疾患(COPD)
定義末梢気道の慢性炎症に伴って、完全に可逆的ではない気流制限(閉塞性換気障害)が起こる疾患。この気流制限は通常進行性で、有害な粒子(主にタバコ)やガスに対する異常な炎症反応と関連している。(GOLDの定義)
呼気時の出口が閉塞するために気流制限の起こる慢性気管支炎と、肺胞の断裂によって弾性収縮力が低下するために呼気時の気流制限が起こる肺気腫のうち、気道閉塞を伴う状態のものをCOPDという。




問診病歴(咳・痰・喘鳴・労作時呼吸困難等の発症時期、呼吸困難の強度、診断時期、他院での治療歴)、職業歴(粉塵暴露の有無)、喫煙歴、家族歴








気管短縮、胸鎖乳突筋・斜角筋の活動性亢進&肥大、呼気時の外頚静脈怒張、吸気時の鎖骨上窩の陥凹、胸郭変形(樽状胸)、肋間腔の開大、心拍最強点の心窩部への偏移
呼吸性の運動異常
奇異運動呼吸筋疲労などにより胸郭と腹部の協調性運動がみられない
交代性呼吸腹式呼吸と胸式呼吸が周期的に交互に観察される
口すぼめ呼吸呼気相に気道内圧をなるべく高く陽圧に保持することによって気道が早期に虚脱するのを防ぐ
Hooverの徴候呼気に際して横隔膜を過度に収縮させようとするため両側季肋部が逆に内方へ牽引される

肺胞呼吸音の低下、呼気の延長、喘鳴の有無、
肺動脈弁・三尖弁の逆流or肺動脈領域での第U音の亢進(右心不全・肺性心の徴候)
検査所見・動脈血液ガス測定      ・呼吸機能検査      ・心電図
・胸部X線…他疾患との鑑別用
    →心臓が細長くなる涙滴心、肺の高さの増大、肺野の透過性亢進、横隔膜低位or平坦化
・胸部CT…黒く抜けた点が散在してみられる
・喀痰検査→一般細菌・抗酸菌の培養、細胞診
・(必要に応じて)気道可逆性試験、気道過敏性試験、運動負荷試験
    ※気管支拡張薬投与後の、1秒量<80%対予測値、1秒率<70%




現在の状態よりも悪化させないために、行われる
気管支拡張薬
β2刺激薬抗コリン薬の吸入薬(定量噴霧式吸入器を使用)が゙第1選択
吸入が困難な患者の場合は経口テオフィリンを使用
吸入ステロイド薬
効果はあまりない
感染予防
急性悪化の主な原因である感染を予防するため、インフルエンザワクチンの接種なども行われる
患者教育
喫煙の危険性の説明+禁煙指導、散歩等のリハビリ指導、悪化時の対応の説明




チェック項目
全身状態(意識状態、症状、呼吸状態、呼吸音・心音、体温、脈拍など)
酸素飽和度・動脈血液ガス分析(低酸素血症or高炭酸ガス血症の有無)
その他、気流制限の程度の検査、胸部X線撮影、心電図など
酸素投与
動脈血液ガスにて呼吸不全(PaO2≦60mmHg)があれば、PaO2を65〜70mmHgを目標に、酸素投与を行う。呼吸性アシドーシスの進行が認められる場合や極度の疲労状態などでは、非侵襲的人工呼吸(NIPPV)や人工呼吸管理などが必要となることもある
気管支拡張薬
短時間作動性のβ2刺激薬の吸入投与が第1選択で、抗コリン薬吸入の併用も有効。頻回に投与を行う
コルチコステロイド薬
まだ確立されていないが、最近の報告では、全身的に投与する方が気流制限や呼吸困難の改善を促進し、入院期間の短縮につながるとされている
抗生物質
感染の徴候があれば、抗生物質の投与を検討する。通常、ペニシリン系、マクロライド系、第1・2世代セフェムなどを選択する
気胸・心不全などの合併症がある場合
各病態に準じて治療を行う

末梢気道病変
びまん性汎細気管支炎(DPB)
   細気管支の全層にわたる炎症の結果、細気管支内腔の狭窄が起こって、慢性に持続する咳、痰、労作時息切れなどを呈する。胸部X線写真上で、両側肺(特に下肺野)にびまん性に散布する小粒状・粟粒状陰影がみられ、診断に有用とされる。
   治療には、初期例ではステロイドが有用であるとの報告もあるが、進行例では菌交代症にまで進展するために治療は難渋する。適切な抗生物質の選択、気管支拡張薬、去痰薬、水分の補給、体位ドレナージなどを指導していく。
 
閉塞性細気管支炎(BO)
   多発性に小気管支・細気管支を中心に、その粘膜固有層・粘膜下層が肉芽組織性に著しく肥厚するために、これら気管支の内腔が狭窄する。症状としては、持続性の咳、喘鳴、特に労作時に目立つ呼吸困難が特徴的で、喀痰は目立たない。
   気道閉塞は固定性で可逆性に欠け、気管支拡張薬の効果も十分ではない。ステロイド薬投与により治療が行われるが、治癒は期待しがたい。末期には対症療法の域を出ないが、低酸素血症に在宅酸素療法が適応となる。
 
びまん性嚥下性細気管支炎(DAB)
   誤嚥性要素のある老年者にみられるびまん性汎細気管支炎に類似した画像・病理所見を呈する疾患。病理学的には、終末細気管支から呼吸細気管支にかけての肉芽腫性細気管支炎で、病巣内に異物or異物型巨細胞をみる。臨床像として、反復する誤嚥、感染、急性の喘鳴、呼吸困難が特徴的で、高齢者発症の気管支喘息と類似している。
   本疾患に対しては、気管支拡張薬やステロイドの効果は少ないとされる。むしろ、感染合併時の抗生物質使用と誤嚥対策が重要である。
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