視床下部の機能とその破綻によって起こる病態
 機能 内分泌調節、摂食調節、飲水調節、体温調節、自律神経系調節が視床下部独自の機能である。その他、記憶・情動・意識・睡眠などにも関与している。
破綻次のようなものが考えられる。
    ・内分泌調節機構の破綻→下垂体前葉機能低下症、尿崩症、性器発育不全、性早熟など
    ・摂食調節機構の破綻→肥満orやせ
    ・飲水調節機構の破綻→高ナトリウム血症
    ・体温調節機構の破綻→変動体温、高体温、低体温
    ・自律神経系の破綻→間脳自律神経てんかん、心血管症状、消化器症状など
このように視床下部機能の破綻によって起こるさまざまな症状をまとめて視床下部症候群とよんでいる。
 視床下部ホルモンとその負荷試験
ホルモン名負荷試験
甲状腺刺激ホルモン
放出ホルモン
(TRH)
【方   法】TRH投与後、TSH(orプロラクチン)のピークが現れるまでの時間を測定する。
【正常値】10〜40分。
【目   的】
甲状腺機能低下症の異常箇所を調べる
・原発性甲状腺機能低下症、慢性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎などでは、TRHの基礎値が高く、TSHの反応も著しい。
・2次性(下垂体性)甲状腺機能低下症、下垂体腺腫、Sheehan症候群では、TRHの基礎値が低く、反応に乏しい。
・視床下部性甲状腺機能低下症、頭蓋咽頭腫などでは、TRHの基準値はそれほど変化なく、ピークが60分以降。基礎値へ戻るのも遅い。
<参考>甲状腺機能亢進症では、TRHの基礎値が低く、反応が少ない。
プロラクチン産生腫瘍
正常では前値の2倍以上の増加するが、PRL産生腫瘍では低反応。
黄体形成ホルモン
放出ホルモン
(LHRH)
【方   法】LHRH投与後、30分、60分に採血し、血漿FSH・LHを測定。
【正常値】LHは5〜10倍、FSHは1.5〜2.5倍に上昇する。
【目   的】
性腺機能低下or下垂体性or卵巣・精巣の障害?
・基礎値が低く反応なし→下垂体機能低下
・基礎値低め、低反応→視床下部性機能低下、下垂体機能低下+神経性食欲不振症
・基礎値上昇、反応あり→卵巣障害、ターナー症候群、早発閉経症
・基礎値FSH正常、LHやや上昇、反応あり→多嚢胞卵巣、非腫瘍性の排卵障害
・(男性で)FSH過剰反応→精巣機能障害、クラインフェルター症候群
副腎皮質刺激ホルモン
放出ホルモン
(CRH)
【方   法】朝空腹時、仰臥安静で静注。
【正常値】正常では30〜60分でピークに達するが、下垂体に障害があったり、ネガティブフィードバックがかかっている時は反応しない。
【目的】
副腎皮質機能低下
・基礎値上昇、ピークあり→Addison病
・基礎値低下、無反応→下垂体性副腎皮質機能低下症
・基礎値低下、遅延低反応→視床下部性副腎皮質機能低下症
Cushing症候群
・基礎値上昇、低〜過剰反応→下垂体性(Cushing病:ACTH産生腫瘍)
・基礎値低下、無反応→副腎性(副腎腫瘍)
・基礎値上昇、無反応→異所性ACTH症候群(肺小細胞癌・甲状腺髄様腫カルチノイド・悪性胸腺腫)
成長ホルモン
放出ホルモン
(GHRH)
【方   法】GHはいろいろな因子で変動するので採血条件を一定にするため、インスリンによる低血糖負荷試験が行われる。
【目   的】
低身長が下垂体性のものかどうか。
ピークの有無で判断する。
 視床下部症候群(hypothalamic syndrome)
 定義 視床下部の器質性病変により、下垂体ホルモンの分泌異常や、自律神経機能・精神神経機能の異常をきたす疾患群の総称
病因脳腫瘍(特に頭蓋咽頭腫の頻度が高く、胚芽腫、奇形腫がこれに次ぐ)が最も多い
症候視床下部症候群で起こる症状については前述の通り。この中で最も重要なものは内分泌障害で、多くは複数の向下垂体ホルモンの分泌不全により下垂体前葉機能低下症をきたす。ただし、プロラクチンは、放出抑制因子が低下することにより、高プロラクチン血症となる
治療原疾患に対する治療+ホルモン補充療法(下垂体前葉機能低下症や尿崩症がある場合)
 神経性食欲不振症(anorexia nervosa)
 定義 精神的原因による食欲不振のためるいそうをきたし、2次的に内分泌・代謝機能に異常を起こす疾患
頻度日本での患者数は10,000〜15,000人と推定されている。ほとんどが女性で、30歳以下の場合が多い(特に10代後半〜20代前半に多い)
病因やせ願望がまず根底にあって、その上に家庭環境に対する反抗や社会に対する抵抗などの心理的な要素が加わって増悪する
症候@食欲不振、Aるいそう、B無月経を3主徴とする。その他には、徐脈、低体温、低血圧など
検査飢餓により2次的に貧血、白血球減少、低Na血症、低K血症、代謝性アルカローシスがみられる。空腹時血糖は低下し、インスリン分泌反応も低下する。また、内分泌検査でも異常を示す(高GH血症、低LH血症、TRH負荷試験に対するTSHの反応遅延など)
診断
診断基準
@標準体重の-20%以上のやせ、A食行動異常(不食、大食、隠れ食いなど)、B体重や体型について歪んだ認識(体重増加に対する極端な恐怖など)、C発症年齢:30歳以下、D(女性ならば)無月経、Eやせの原因と考えられる器質性疾患がない
鑑別診断
精神分裂病・うつ病などによる拒食や食欲不振の他、視床下部腫瘍・悪性腫瘍・慢性消耗性疾患などの器質的疾患による食欲不振・るいそうとの鑑別が必要。下垂体機能低下症との鑑別点としては以下のようなものがあげられる
 性差年齢食欲不振活動性検査所見
神経性食欲不振症女性が
ほとんど
30歳以下著明活動的栄養失調所見
下垂体機能低下症性差なしあらゆる
年齢で発症
著明でない無欲状態血漿コルチゾール低値
                など
治療原則として入院治療。精神的治療(面接療法・行動療法)、薬物療法(向精神薬の投与)などが行われる。栄養失調がひどい場合には高カロリー輸液も


 視床下部ホルモンのまとめ
ホルモン名機能・特徴など
 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン
 thyrotropin-releasing hormone(TRH)
下垂体前葉に作用して、甲状腺刺激ホルモン(TSH)・プロラクチン(PRL)の分泌を促進する。視床下部以外の中枢神経系にも広く分布し、種々の中枢作用を示す。
 黄体形成ホルモン放出ホルモン
 luteinizing hormone-releasing hormone(LHRH) 
下垂体前葉に作用して、黄体化ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を刺激する。そのため、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)ともいわれる。性成熟や性周期の発現に関連が深い。
 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン
 corticotropin-releasing hormone(CRH)
下垂体前葉に作用して、副腎皮質刺激ホルモン(コルチコトロピン)とその関連ペプチド(βリポトロピン・βエンドルフィン)の分泌を刺激する。
 成長ホルモン放出ホルモン
 growth hormone-releasing hormone(GHRH)
下垂体前葉に作用して、成長ホルモン(GH)の分泌を刺激する。
 ソマトスタチン
 somatostatin(SS)
下垂体前葉に作用して、GHとTSHの分泌を抑制する他、末梢性にインスリン・グルカゴン・ガストリンなどの各種ホルモンの分泌と、消化液の分泌を抑制する。
 ソマトスタチン-28
 somatostatin-28(SS-28)
膵ラ氏島D細胞や消化管粘膜に主に含まれ、インスリンとグルカゴンの分泌を抑制する。
 血管作動性腸ポリペプチド
 vasoactive intestinal polypeptide(VIP)
循環呼吸器系、消化器系、内分泌・代謝系、血液系と多方面に対して種々の作用をもっている。
 バソプレシン
 vasopressin(VP)
下垂体後葉ホルモンの1つで、抗利尿ホルモンである。神経軸索を通じて、下垂体後葉まで輸送された後、そこで血液中に放出される。VPは、腎の尿細管に作用して水の再吸収を促進する他、血管平滑筋にも作用して平滑筋収縮を引き起こす。
 オキシトシン
 oxytocin(OT)
下垂体後葉ホルモンの1つ。神経軸索を通じて、下垂体後葉まで輸送された後、そこで血液中に放出される。オキシトシンは、分娩誘発or刺激因子として働く他、授乳期の射乳の促進に重要な役割を果たしている。

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