6月24日 出血性素因  担当:高山(講師)
※レポートの解答で書くべきところは赤で示している 
1)血小板の構造について以下の項目と説明せよ。
a)α顆粒(α-granule)
   血小板中の顆粒の1つで、β-トロンボグロブリン、血小板第4因子、フィブリノーゲン、フィブロネクチン、von Willebrand因子(vWF)、血小板由来成長因子(PDGF)などを含む。血小板の粘着・凝集に関与する
b)濃染顆粒(dense granule)
   血小板中の顆粒の1つで、ADP、ATP、Ca2+、セロトニン、ピロリン酸を含む。血小板内外の交通路として働く
c)開放小管系(open canalicular system)
   血小板内に存在する顆粒を放出する系のことをいう
2)血小板凝集計を用いて以下のことがらはどのように観察されるかを説明せよ。
a)形態変化
b)一次凝集
c)二次凝集
3)安定化(不溶性)フィブリンと不安定化(可溶性)フィブリンの違いを説明せよ。
   不安定化フィブリンは、フィブリノーゲンにトロンビンが作用してできた物質である。同時にトロンビンは第XIII因子を活性化してXIIIaとし、XIIIaによって不安定化フィブリンの分子間に架橋結合が形成されて、フィブリン線維は安定化される。こうしてできたのが安定化フィブリンである。
4)次の事柄を説明せよ。
i)トロンボキサンA2(TXA2
   アラキドン酸などのエイコサポリエン酸から合成される生理活性物質の一種で、血小板から放出され、血小板活性化作用、血管・気管支平滑筋収縮作用などの強力な生理活性を有する。
ii)フォンウィルブラント因子(vWF)
   血小板のα顆粒や血管内皮細胞の中に貯蔵されている糖タンパク。第VIII因子、GPIb/IX複合体、GPIIb/IIIa、コラーゲンなどと結合する多機能接着分子である。コラーゲン-vWF-GPIb/IX複合体-血小板という組を形成して、血小板の血管内皮下組織への粘着に関与する働きなどをもつ。
iii)血小板フィブリノーゲン受容体
   血小板凝集の際に、血小板どうしをつなぎあわせるフィブリノーゲンが結合する血小板の表面レセプター。GPIIb/IIIaという糖タンパクからできている。
iv)血小板粘着能
   血管が破綻した際に、血小板が内皮下組織に粘着する能力のこと。内皮下組織のコラーゲン、血小板表面のGPIb/IX複合体、血漿中のvWFが血小板の粘着機構のキー分子となっている。
v)血友病因子
   X染色体上の第VIII因子(抗血友病因子)および第IX因子(Christmas因子)のこと。これらは内因系の凝固因子であり、第VIII因子の先天的活性低下により血友病Aが、第IX因子の先天的活性低下により血友病Bがおこる。
vi)プロトロンビン時間(PT)
   検体である血漿に、第III因子(組織因子)とCa2+を加えて、フィブリンが析出するまでの時間を計ったもの。外因性凝固系の第V・VII・X因子およびプロトロンビン(第II因子)を総合的に検査する方法で、これらの各凝固因子の量的・質的異常があれば延長する(PT延長をきたす主な疾患には、肝障害・ビタミンK欠乏・DICなど)。正常値は10〜14秒。
vii)活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)
   検体である血漿に、XIIa・XIa・リン脂質などを含んだAPTT試薬とCa2+を加えてから、フィブリンが析出するまでの時間を計測したもの。内因性凝固機序に関与する第VIII・IX・X・XI・XII因子の凝固活性を総合的に評価する検査法である。正常値は25〜40秒で、血友病・von Willebrand病・肝障害などの疾患で延長する。
viii)出血時間
   皮膚網細血管を穿刺して生じた出血が自然に止まるまでの時間、すなわち血管が破綻してから一次止血栓(血小板血栓)が形成されるまでに要する時間を測定したもの。この時間は、毛細血管機能、血小板の数や機能、vWFなどにより影響を受け、Ehlers-Danlos症候群・血小板減少症・血小板機能異常症・von Willebrand病などの疾患で延長をきたす。穿刺する皮膚の部位の違いにより測定方法は何種類かに分けられ、正常値も測定方法により異なってくる。耳朶穿刺により行われるDuke法(正常値:3分以下)は日本で普及している方法であるが、感度が鈍く標準化が困難であるため、国際的には前腕屈側で穿刺を行うIvy法(正常値:2〜6分)が広く用いられている。
   ※Ehlers-Danlos症候群(EDS)…遺伝性全身性結合組織疾患の1群で、@皮膚の過伸展・弛緩性、
         A関節の過伸展性、B皮膚血管の脆弱性を3主徴とする。コラーゲンの量or質の欠乏によって
         おこる。
ix)第XIII因子
   フィブリン安定化因子(FSF)。強固な止血栓の形成に不可欠な分子で、トロンビンとCa2+により活性化されると、フィブリン分子間に架橋結合を形成してフィブリン線維を安定化させる作用とともに、フィブロネクチンやα2プラスミンインヒビターをフィブリンに架橋する作用ももつようになる。第XIII因子はフィブリン網の形成後にその安定化因子として働くので、PTやAPTTには影響を与えず、したがって、第XIII因子欠乏症ではこれらの検査は正常となる。
x)組織因子(TF)
   凝固系の第III因子のこと。外因系の凝固因子で、血管内皮下組織に存在する。血管内皮細胞障害時に活性化され、第VII因子・Ca2+とともに、第IX・X因子の活性化に寄与する。
血液凝固因子の種類とその特徴・性質
因子慣用名特徴・性質
Iフィブリノーゲン共通系。フィブリノーゲンの減少or質的異常は、トロンビン時間の延長をおこす
IIプロトロンビン共通系。肝で産生される際にビタミンKが不可欠。FXa-FV-Ca2+-リン脂質複合体の働きによってできるトロンビンは、肝で合成されるアンチトロンビンIII(ATIII)や、血管内皮細胞から分泌されるトロンボモジュリン(TM)によって不活化され、調節を受けている
III組織因子(TF)外因系。血管内皮下組織などで産生され、血管内皮細胞障害時に血中のFVIIaなどと複合体を形成し、外因系の凝固反応を開始させる
IVCa2+内因系・外因系・共通系のすべてで働く、凝固因子で唯一の無機物質(他はすべて分子量約5万以上の糖タンパク)
V不安定因子
(プロアクセレリン)
共通系。肝で合成されるプロテインC(PC)によって不活化される
VII安定因子
(血清プロトロンビン転化促進因子)
外因系。肝で産生される際にビタミンKが不可欠
VIII抗血友病因子(AHF)内因系。肝・脾のマクロファージにより産生される。血友病Aは第VIII因子の先天的活性低下によっておこる。プロテインCによって不活化される
IXChristmas因子内因系。肝で産生される際にビタミンKが不可欠。血友病Bは第IX因子の先天的活性低下によっておこる。アンチトロンビンIIIによって不活化される
XStuart因子共通系。肝で産生される際にビタミンKが不可欠。アンチトロンビンIIIによって不活化される
XI血漿トロンボプラスチン
前駆物質(PTA)
内因系。内因系のカスケードにおいて2番目に活性化される
XIIHageman因子内因系。高分子キニノーゲン・プレカリクレインとともに、内因系のカスケードの最上位に位置する
XIIIフィブリン安定化因子(FSF)共通系。強固な止血栓の形成に不可欠な分子で、フィブリン網の形成後にその安定化因子として働く。アレルギ―性紫斑病(Scho¨nlein-Henoch紫斑病)の多くで第XIII因子の低下が認められる
vWFvon Willebrand因子血小板の膜表面の糖タンパク(GP)Ib/IXが、血管内皮下組織のコラーゲンと結合する際(血小板の粘着)に、"糊"として働く糖タンパク。血小板中のα顆粒内に存在する
凝固系のカスケード
5)次の疾患について診断、検査異常、治療について述べよ。
i)血小板無力症
定義血小板膜の糖タンパク(GP)IIb/IIIa複合体の量的・質的異常に起因する血小板凝集能の障害による先天性出血性疾患。常染色体劣性遺伝形式をとる
病態血小板の凝集は、血小板表面のGPIIb/IIIaにフィブリノーゲンが結合し、血小板相互間を架橋することによって起こる。血小板無力症では、GPIIb遺伝子またはGPIIa遺伝子の構造異常や点突然変異によってGPIIb/IIIaの欠損や機能異常をきたし、血小板凝集能が低下して、止血障害を起こす
臨床症状生後まもなくから、皮膚・粘膜出血をきたす。鼻出血、紫斑、歯肉出血、月経過多などがみられる
検査所見出血時間は著明に延長。ADPやコラーゲンによる凝集は低下。血餅退縮の不良。血小板膜糖タンパクの解析によるGPIIb/IIIaの異常を検出
ただし、血小板の数・形態、PT・APTT、リストセチン凝集は正常
      ※血餅退縮…試験管内で血液が凝固し、その凝血塊が収縮して試験管壁から離れ、
            血清が中から絞り出される現象。これはフィブリンが血小板のGPIIb/IIIaに結合し
            て起こるため、血小板無力症では血餅退縮の不良をきたす
診断出血傾向があり、血小板数は正常で出血時間は著明に延長し、血餅退縮が不良ならば、本症が疑われる。ADP凝集の欠如があれば確定的である。検査が可能であればGPIIb/IIIaの異常を確認する
治療止血困難時に血小板輸血を行う
ii)血友病B
定義第IX因子の活性の先天的欠乏により出血傾向をきたす疾患(第VIII因子の活性の先天的欠乏によるものは血友病Aとよばれる)。伴性劣性遺伝で、男性が発症し、女性は保因者となる
病態X染色体上の第IX因子の遺伝子の異常による、これらの因子の産生低下や、機能の低下した異常な因子の産生に起因する。第IX因子は内因系血液凝固反応に重要であり、活性低下により血液凝固が遅延し、止血障害が起こる。凝固因子は、正常の30%程度あれば凝固は遅延しないため、もう1つのX染色体が正常である女性保因者は止血障害をきたさない
臨床症状出血症状の重症度は、患者のこれらの因子の欠乏の程度による。1%以下は重症、1〜5%は中等症、5〜25%は軽症となる。重症例では、乳幼児期から打撲部の皮下血腫、関節内出血(熱感と腫脹を伴う激痛)、筋肉内出血、血尿、頭蓋内出血などを生じる。軽症例では、抜歯や外傷後の止血困難で気づくことがある
検査所見APTT・全血凝固時間は重症度に応じて延長する。第IX因子の活性の低下(25%以下)
ただし、PTとフィブリノゲン濃度、血小板数と出血時間、vWFの活性・抗原量は正常
診断上記の症状を呈する男性患者に対し、APTTが延長しPTが正常であり、第IX因子の活性が低下していれば、診断がつく
治療・補充療法:出血時や手術時に部位と程度に応じて、第IX因子を輸注
・血友病性関節症に対するリハビリテーション
iii)フォンウィルブラント病(von Willebrand病;vWD)
定義血中のvWFの欠乏or質的異常による血小板の粘着障害に起因する先天性出血性疾患。常染色体優性(一部の病型は劣性)遺伝形式をとる
病態vWFの欠乏or質的異常に起因する血小板粘着不全による1次止血障害をきたして、出血傾向を生じる。また、血中でvWFは第VIII因子と複合体をつくり、第VIII因子を安定化させる作用をもつため、vWFの欠乏や異常に伴って第VIII因子活性も低下する。
vWFの異常の内容により、T型(量的減少)、U型(質的異常)、V型(欠如)、血小板型(血小板膜の異常によるvWFの吸着)の4病型に分けられる
臨床症状病型や vWF活性の低下の程度によって異なる。多くは幼児期から皮膚・粘膜出血をきたす。特に鼻出血が多く、紫斑、歯肉出血、消化管出血、月経過多などもみられる。関節内や筋肉内の深部出血は通常みられない
検査所見出血時間延長。APTT延長(第VIII因子活性の低下による)。リストセチン凝集は異常(通常低下)。vWF活性(リストセチン・コファクター活性として測定)やvWF抗原量は低下
ただし、血小板数と血小板形態、PT、ADPやコラーゲンによる凝集は正常
診断皮膚・粘膜出血があり、血小板数正常、出血時間延長、APTT延長があればvWDを考え、vWF活性の低下が認められれば、診断は確定する
治療・vWFを含んでいる加熱第VIII因子濃縮製剤の静注
・デスモプレシン(DDAVP)の点鼻or静注(T型に対して有効)
     ※DDAVP…出血時に、血管内皮細胞からのvWF放出刺激作用がある
iv)ベルナールスーリエ症候群(Bernard-Soulier症候群)
定義血小板減少症・巨大血小板・出血傾向を特徴とする疾患。常染色体劣性遺伝形式をとる
病態血小板粘着に必須の粘着タンパクであるvWFのレセプターであるGPIb/IX複合体の欠如or分子異常のために血小板粘着障害がおこり、その結果として種々の凝固障害の症状を呈する
臨床症状通常、幼時期・小児期に皮下出血斑、鼻出血、歯肉出血などの出血症状を呈し、それ以後は過多月経、消化管出血、外傷後の止血困難などを時折認める
検査所見リストセチン凝集の欠如(正常血漿添加によっても是正されない)、血小板数は軽度減少
ただし、ADPやコラーゲンによる凝集、vWF抗原量は正常
診断皮膚・粘膜出血があり、リストセチン凝集が欠如し、ADPやコラーゲンによる凝集は正常であるが、vWF抗原量は正常であり、血小板数が軽度減少し、多くは大型血小板であるという特徴から診断可能である
治療輸血


出血性疾患の分類
@血管の異常によるもの
     ・先天性:遺伝性出血性末梢血管拡張症など
     ・後天性:アレルギー性紫斑病など
A血小板の異常によるもの
     ・血小板減少
          血小板産生の低下:再生不良性貧血など
          血小板の破壊・消費:特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、
                                     血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、
                                     播種性血管内凝固症候群(DIC)など
          分布の異常:脾腫を伴う疾患
     ・血小板機能異常
          内因性:血小板無力症など
          外因性:vWD、薬物性など
B凝固・線溶の異常によるもの
     ・凝固因子活性の低下
          先天性:血友病など
          後天性:ビタミンK不足や凝固因子インヒビター
     ・線溶の亢進:先天性プラスミンインヒビター欠損症など

出血性疾患の検査所見
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