消化器系

消化器系は@口腔・唾液腺,A食道,B胃,C十二指腸,D小腸,E大腸,F肝臓,G胆嚢・胆道,H膵臓と膨大な範囲に思えますが,重要なところがはっきりしていてむしろ得点しやすいところだと思います.
最近2年間(1998年&1999年)の過去問の分析
@口腔・唾液腺…「唾液腺に好発する腫瘍」「シェーグレン症候群」
A食道…「食道癌の組織型」「食道静脈瘤 esophageal varices」
B胃…「慢性胃炎とHelicobacter pylori 」「胃癌の早期癌分類進行癌分類転移」
C十二指腸…「ファ一夕ー乳頭部と癌」
D小腸
E大腸…「家族性大腸ポリポーシス」「クローン病,潰瘍性大腸炎の比較」
F肝臓…「肝炎」「門脈圧亢進」「肝癌」「胆汁性肝硬変」「counciiman body(?)」
G胆嚢・胆道
H膵臓…「膵炎の起こるメカニズムと膵炎の組織学的に特徴的な所見」
授業で扱ったその他の重要そうな疾患・概念(予想が外れても怒らないでください)
@口腔唾液腺…「エプーリス Epulis」「白板症」「濾胞性歯嚢胞」「Ameloblastoma」(豊國先生の範囲なので細かい疾患を問われるかもしれません)
A食道…「バレツト食道」「アカラジア achalasia」「マロリーワイス症候群」
E大腸…「大腸癌」
F肝臓…「バッドキアリ症候群」「マロリー小体」「ウイルス肝炎→肝硬変→肝癌」「胆管癌や転移性癌と肝細胞癌の鑑別点」「黄疸」
G胆嚢・胆道…「胆石症のリスクファクターやその転帰」「胆嚢炎の組織学的特徴」(シラバス参照)
I膵臓…「急性膵炎が起こる期序を分類」(シラバス参照)
勉強の仕方としては,まずは最低限これらの疾患概念について理解を深め,なお余裕があれば実習の課題について復習すればよいと思います.なお今回は過去問とその解答という形式になっていません.


@口腔・唾液腺
唾液腺の腫瘍
唾液腺腫瘍の中では耳下腺腫瘍が最も頻度が高く50〜75%であり,ついで小唾液腺,顎下腺が10〜20%の頻度で,舌下腺腫瘍は最も少ない.上皮性腫瘍がほとんどで,腺腫の中でも多形腺腫pleomorphic adenomaが過半数を占める.唾液腺の腫瘍には4つ覚えるべきものがある.
T多形腺腫 pleomorphic adenoma
最も頻度の高い良性腫瘍30代の女性に多い.Mixed tumorという別名があるのは,上皮と間質の両方の成分が腫瘍の構成成分になっているからである.Epthelial componentとしては2層の腺上皮扁平上皮化生,筋上皮性性質を持ち,Stroma componentとしては粘液腫様あるいは軟骨のような間葉型細胞が混在して増殖する.
Uワルティン腫瘍 Warthin tumor
唾液腺から発生する良性腫瘍で,とくに耳下腺の下極から顎角部にかけて好発する.時に,両側性に発生することがある.50歳以上の高齢者に発生し,男女比は5:1と男性に多い.この腫瘍の発育は比較的緩徐.肉眼的には周囲との境界が明瞭で薄い線維性被膜で包まれている.腫瘍は,組織学的に,上皮とリンパ性組織との増殖から成り立たっている.リンパ球には異型性は見られない.上皮細胞は円柱状,細胞質は好酸性である.核の大小不同はない.上皮細胞は嚢胞を形成し,その嚢胞内へは著しい乳頭状増殖がみられる.上皮は2層性に配列している.そのような上皮嚢胞の間の間質にはリンパ質性細胞の増殖があり,リンパ濾胞構造がみられる場合がある.上皮成分とリンパ組織成分との割合はさまざまであるが,リンパ濾胞構造が多い場合には,一見,癌のリンパ節転移のようにみえる.
V表皮腫 mucoepidermoid tumor
子供における唾液腺の悪性腫瘍で最も頻度が高い.
W腺様嚢胞癌 adenoid cystic carcinoma
この腫瘍の多くは小唾液腺とくに口蓋腺から発生する癌腫である.耳下腺、顎下腺,舌下腺からはでない.40〜60歳代の女性にやや多い.この癌の発育は一般的に緩徐であり,経過は長い.肉眼的には腫瘍組織は灰白色,均質である.組織学的に,癌細胞は比較的小型立方状ないし多角形で,大小不揃いの嚢胞形成を伴う蜂巣構造を呈し,その癌蜂巣から連続して腺管様構造を形成しながら周囲間質へ浸潤性に発育している.癌細胞は,二層性に配列する傾向がみられる.癌組織は,全体的に,篩状を呈している(腺癌の一型である cribriform pattern).一般的に,腫瘍細胞の異型性は弱い.篩状の腔内には粘液性または硝子性の物質が見られる.間質は線維性で,硝子化した部分が認められる場合もある.神経に沿って浸潤する(perineural invasion).とても悪性度の高い腫瘍である.
シェーグレン症候群
同義語:乾燥症候群 sicca syndrome
乾性角結膜炎,口腔乾燥症,慢性関節リウマチその他の結合組織疾患(膠原病)を三主要症状とする症候群である.男女比は1:9と女性に多い.乾燥症状のみで膠原病の合併がない場合は,乾燥症候群と呼ばれる.唾液腺組織には,著明なリンパ球浸潤が認められる.臨床検査は,高γグロブリン血症のほか,リウマチ因子,抗核抗体などの自己抗体,とくに抗SSA,抗SSB抗体が高率に陽性を示し,HLA-B8およびDW3の陽性率が高い.組織所見およびこれらの臨床検査所見は,自己免疫の関与を示しており,涙腺,唾液腺以外の外分泌腺にも異常が認められるので,本症は自己免疫性外分泌腺症 autoimmune exocrinopathy と考えることができる.

エプーリス あるいは歯肉腫
歯肉上に発生した良性限局性腫瘤をいい、炎症性、反応性の新生物(腫瘍ではない!!)である.20〜30歳代に好発し,上顎前歯部で唇側歯間乳頭部に多い.組織学的に肉芽腫性,線維性,血管腫性,線維腫性,骨形成性,巨細胞性に区別するが,その他の特殊なものとして,妊娠性,先天性の各エプーリスがある.エプーリスは歯肉の結合組織歯根膜から生ずるので,この組織を含めて切除する.

口腔白板症
粘膜の白色斑病変の臨床名である.「臨床的に,あるいは病理学的に他のいかなる疾患の特徴も有しない白色の病変」とされる.40歳以後の男性に多く,人種間の差も認められる.頬粘膜,歯肉,舌に多くみられる.原因は多彩で,不明のことも少なくないが,う歯,不適な義歯などによる慢性機械的刺激,アルコール,喫煙,ビタミンA・B複合体の欠乏などが考えられている.症状は多彩で,限局性のもの,びまん性のもの,単発性のもの,多発性のもの.色調は淡白色から真珠様白斑に至るもの,また表面の平滑なものから粗造,皺状に隆起するものまである.肉眼的に疣贅状のもの,紅斑を伴うもの(speckled type)は悪性化しやすいという.組織学的には種々の程度の角化亢進,棘細胞層肥厚,固有層のリンパ球・形質細胞浸潤がみられる.上皮内に異形成がみられる場合には癌化する率が高い.白板症は前癌病変といわれ,3〜6%が悪性化するといわれる.

濾胞性歯嚢胞
歯胚の発育過程でエナメル器に嚢胞化が起こったものである.下顎智歯部,小臼歯部,上顎犬歯部・智歯部が好発部位であり,性差はほとんどない.10〜20歳代に多くみられ,初期は無症状であり,緩慢に増大するが,大きくなると骨質は菲薄となり,羊皮紙様感,波動を触知し,顔面の腫脹をみる.

エナメル上皮腫 ameloblastoma
歯原性腫瘍(歯を形成する組織に由来する腫瘍)の一つで,歯胚のエナメル上皮より発生する良性腫瘍である.下顎角部に好発し,上顎ではまれである.好発年齢は20〜30歳代で 男女差はほとんどない.発育は緩慢で,嚢胞状を呈することが多く,嚢胞性エナメル上皮腫 cystic ameloblastoma といい,嚢胞形成の明らかでないものを充実性エナメル上皮腫という.X線的には多く顎骨内の多房性の透過像としてみられる.本腫瘍は局所的には浸潤性に増殖するため,顎骨部分切除・離断術を行う.ときに悪性化することがある.実習の設問にある,この腫瘍によく似た組織像を示す他の臓器の腫瘍は,頭蓋咽頭腫 craniopharyngioma と脛骨の長骨アダマンチノームである.


A食道
食道癌
食道 esophagus に存在する癌腫で,大部分が原発性で転移性の食道癌はきわめてまれである.わが国では病理組織型は90%以上が扁平上皮癌であるが,欧米の場合 食道癌のなかに胃噴門部癌を含めていることが多いので,腺癌の割合が多くなっている.特に男性に多い癌といわれており,男女比は近年約5:1となっている食道癌患者の約75%が飲酒と喫煙習慣をもっており,誘引の一つとも考えられている.発生部位は胸部中部が最も多く半数以上を占め,次いで胸部下部が20%程度である.自覚症状は多くが食物のつかえによるもので,そのほかに嚥下痛異物感などがある.

食道静脈瘤 esophageal varices
食道壁の静脈網は,粘膜固有層,粘膜下層に形成され,下部食道の静脈叢は左胃静脈・短胃静脈系を介して門脈へ,上部食道の静脈叢は奇静脈・半奇静脈などを介して上大静脈に流入する.門脈系の循環障害により門脈圧亢進症が発生すると,門脈系から上大静脈系への副血行路として,この食道静脈叢は拡張,蛇行し,食道静脈瘤が形成される.原疾患としては肝硬変,バンティ症候群,日本住血吸虫症,その他肝前・肝後性閉塞症があげられる.

マロリー・ワイス症候群 Mallory-Weiss syndrome
Mallory と Weiss (1929)がアルコール中毒者で,頻回の嘔吐後,大量出血を起こして死亡した4症例を剖検し,食道・胃接合部に粘膜裂傷を認め,それに起因する出血死と判定し,以来このような病変をマロリー・ワイス症候群と呼んでいる.激しい嘔吐が続いた後に吐血が起こるが,必ずしも過度のアルコール摂取だけでなく,他の病変に伴う嘔吐でも発生する.X線検査では確定できず,緊急内視鏡検査で,噴門周辺に1条から数条の縦走する粘膜裂傷を認める.通常粘膜裂傷は数日間で白苔を生じ瘢痕化する.

バレット食道
先天性・後天性(逆流性食道炎による食道下部の重層扁平上皮の脱落に続発することが多い)を問わず,下部食道がほぼ全周性に胃,または腸管に類字した円柱上皮に置き変わった状態をいう.一般的には,本来の食道胃接合部より口側に3cm以上にわたって,円柱上皮が広がっていることが基準とされている.Barrett食道に生じた消化性潰瘍をバレツト潰瘍 Barret's ulcer といい,深く難治性である.また,Barrett食道には腺癌が発生しやすく,癌発生の危険率は通常の人の30〜40倍,またBarrett食道患者の約10%に腺癌が発生するといわれている.

アカラシア achalasia
食道下端1〜4cm辺りの狭窄(機能的開大欠如)とその口側食道の異常拡大をきたす食道運動障害疾患である.原因は不明.固有筋層内のアウエルバッハ神経叢の神経節細胞の減少,または消失がみられるので,これらの異常のために蠕動の伝達とそれに続く食道下部端開大が連動しないものと考えられる.主症状は嚥下障害であり,食道内に食物の停滞・逆流がみられたり,胸骨後部痛もみられる.発症は環境の変化や精神的ストレスを契機に比較的急激にみられる.経過は慢性に経過することが多く,症状は軽快,増悪をくり返す.特に感情の乱れのつよい時に増悪しやすい.食道内圧検査では下部食道内圧は継続的に高値を示し,口側食道は拡張しているにもかかわらず陽圧を呈する.


B胃
急性胃炎
胃粘膜固有層の充血,浮腫,好中球浸潤,粘膜上皮および腺上皮の変性,剥離を主体とした胃の急性炎症で,軽症では数日で治癒するが,激症例では死の転帰をとるものもある.原因によって急性外因性胃炎(単純性胃炎,薬剤性胃炎,細菌性胃炎,腐食性胃炎),急性内因性胃炎(アレルギー性胃炎,化膿性胃炎など)に分類する.心窩部痛,悪心,嘔吐などの症状を伴い,急性胃潰瘍を含めて急性胃粘膜病変 acute gastric mucosal lesion(AGML)と総称されることが多い.

慢性胃炎
元来病理組織学的名称で,長年月にわたる胃粘膜の欠損(びらんなど)とその再生を繰り返した結果生じた胃腺の萎縮を本態とする不可逆の変化をいい.通常幽門腺領域に発生し,胃底腺領域に向かって広がっていくものが多い.一方,悪性貧血患者の胃粘膜像は胃底腺領域に著明な萎縮性胃炎がみられるが,幽門腺領域には萎縮がみられないか,あっても軽度なものが多いことが知られている.この特異な胃炎は壁細胞抗体が陽性,血中ガストリン値が高く,内因子抗体が証明されることが多いことから Strickland ら(1973)はその成因に自己免疫が関与しているものと考え,これをA型胃炎 type A gastritis,炎症の再生過程に生ずる通常型をB型胃炎 type B gastritis と呼ぶことを提唱している.また近年胃粘膜内にらせん形をしたグラム陰性桿菌 Helicobacter pylori(HP)が発見され,その菌の作用によって胃内にアンモニアを生じ,粘膜障害を起こすことが明らかにされ,慢性胃炎の成因の一つとして注目されている.慢性胃炎はX線検査でもある程度診断が可能であるが,内視鏡検査を行えばより確実である.従来最もよく知られていた Schindler の3型分類(表層性,萎縮性,肥厚性)のうち,現在肥厚性胃炎 hypertrophic gastritis の存在は否定されており,表層性胃炎(表在性胃炎)と急性胃炎との間に類似性がみられるなど再検討の時期にきている.1990年シドニーで開かれた世界消化器病会議でHPとの関係を織り込んだ新しい胃炎分類(シドニー分類 Sydney system)が提案され,わが国でも徐々に浸透してきている.

胃癌
分類が大切なようです.分類には腫瘍細胞のタイプによる分類、進行胃癌分類(ボルマン)、早期胃癌分類があります.胃の悪性腫瘍には上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍があるが,胃癌は上皮性の悪性腫瘍である.わが国における癌死亡の第1位であるが,近年増加率の低下がみられている.これは胃癌検診の普及による成果と考えられている.組織学的には主に腺癌であるが,細胞および組織構造の分化により分類されている.すなわち, 1)一般型:乳頭腺癌 papillary adenocarcinoma,管状腺癌 tubular adenocarcinoma,低分化腺癌 poorly differentiated adenocarcinoma,印環細胞癌粘液癌, 2)特殊型:腺扁平上皮癌 adenosquamous carcinoma,扁平上皮癌カルチノイド腫瘍, 3)そのほかの癌,などである.進行胃癌の肉眼的形態分類は,0型(表在型):病変の肉眼形態が,軽度な隆起や陥凹を示すにすぎないもの.1型(腫瘤型):明らかに隆起した形態を示し,周囲粘膜との境界が明瞭なもの.2型(潰瘍限局型):潰瘍を形成し,潰瘍を取り巻く胃壁が肥厚し周堤を形成する.周堤の周囲粘膜との境界が比較的明瞭なもの.3型(潰瘍浸潤型):潰瘍を形成し,潰瘍を取り巻く胃壁が肥厚し周堤を形成するが,周堤と周囲粘膜との境界が不明瞭なもの.4型(びまん浸潤型):著明な潰瘍形成も周堤もなく,胃壁の肥厚・硬化を特徴とし,病巣と周囲粘膜との境界が不明瞭なもの.5型(分類不能):上記0〜4型のいずれにも分類しがたい形態を示すもの(正確に言うと5型はボルマンの分類にはありません),の5型に分類している.一方、臨床的には癌組織の浸潤が粘膜に止まっているものを早期胃癌として区別して取り扱っている.臨床症状として胃癌特有な症状はないが,吐血,嘔吐,狭窄などの随伴症状により発見されることがある.現在,わが国では,癌の壁深達度が固有筋層以深と定義されている進行期胃癌の肉眼分類に,ボルマン分類として用いている.
胃癌の分類
早期胃癌
胃壁は組織学的に層を粘膜層(粘膜筋板を含む)(m),粘膜下層(sm),固有層(筋層)(mp),漿膜下層(ss),漿膜(s)に分けているが,癌の浸潤が粘膜下層(sm)までにとどまっている場合を早期胃癌と称して,進行胃癌 advanced gastric cancer と区別している.肉眼的形態により隆起型から陥凹型をT〜V型に分類し、隆起型(T型)、表面隆起型(Ua型)、表面平坦型(Ub型)、表面陥凹型(Uc型),陥凹型(V型)としている(上の右図参照).書物によっては粘膜内癌 intramucosal carcinoma として表現されていることがある.最近では超音波内視鏡検査で直視下に癌浸潤の深さ(深達度)を確認し,深達度m であれば内視鏡的粘膜切除術により十分に治療できるとの考えが普及しつつある.

クルケンベルグ腫瘍 Krukenberg's tumor
卵巣の転移性腫瘍の一つで,間質細胞中に粘液を充満した印環細胞の増殖を特徴とする.症例の80%以上が胃癌(印環細胞癌,低分化腺癌)の転移で,他には結腸癌(大腸癌),乳癌,胆嚢癌,胆管癌の転移による.卵巣の悪性腫瘍全体の2〜3%を占める.40歳代にピークがあり,日本人は白人に比較して若年側にピークがある.多くは両側性(80%以上)で,肉眼的に卵巣は球状〜粗大分葉状の硬い腫瘤を形成し,割面は灰白色黄色,赤褐色のゼラチン様性状を呈する.粘液様,水様の内容をいれた嚢胞を伴うことも少なくない.肉眼的に線維腫その他の充実性卵巣腫瘍と類似するが,組織学的には印環細胞 signet-ring cell の存在,粘液染色により診断は容易である.臨床症状は症例の約90%に腹痛,腹部膨満感など卵巣腫瘤に関連する症状があり,不正性器出血もみられる.消化器症状を示す症例はあまり多くはない.予後は不良でほとんどの症例は診断後1年以内(平均7ヵ月)に死亡する.


C十二指腸
十二指腸癌
十二指腸に原発する癌はきわめてまれで,剖検例中での頻度は0.03〜0.08%,全癌症例中でも0.25〜0.42%にすぎない.その多くは第二部に発生する.Vater乳頭を基準として,1)乳頭上部癌,2)乳頭部癌,3)乳頭下部癌に大別されるが乳頭部癌と報告されるもののなかには総胆管膨大部原発のものが混入しているため除外すべきとする意見(Resnik)もある.食後の上腹部痛,下血などのほか,嘔吐などの通過障害,間欠的胆道閉塞などを症状とする.


E大腸
家族性大腸ポリポーシス
大腸に多数の腺腫性ホリーフが存在し,家族性に発生する疾患.常染色体優性遺伝形式をとる.ポリープの発生時期は多くは思春期前後である.おそくとも20歳頃までにはほとんどすべての大腸に本症に特徴的な広基性の多発性ポリープがカーペット状に認められる.本症は悪性か傾向が高く,未治療群においてはほとんどすべての例に癌化が生ずる.癌化の平均年齢は35〜39歳である.本症に特異的な症状はなく,時に血便,下痢,下腹部不快感を認めるにすぎない.

クローン病 Crohn's disease
Crohn(1932)が限局性回腸炎として記載したのでこの名がある.主として小腸・大腸またはその両者に生じることが多いが,現在では食道・胃など消化管すべての部位に発生することが知られている.病因は不明であるがアレルギーと関係があるともいう.消化管壁全層にわたる炎症性変化が見られ、非連続性に深い潰瘍が生じる.組織学的には非乾酪性肉芽腫を特徴とする.症状として,長期にわたる臍周囲部および回盲部痛,間欠性発熱,下痢,嘔吐などを訴え,体重減少,貧血が現れる.右腸骨窩に腸詰様腫瘤を触れることもある.膀胱や膣などの隣接臓器や腹壁に瘻孔を作ることがあり,肛門周囲膿瘍や難治性痔瘻などの肛門部病変も生じやすい.また,結節性紅斑,壊死性膿皮症,関節炎,虹彩炎などの全身合併症を伴うことがある.急性虫垂炎または慢性虫垂炎腸結核〔症〕,潰瘍性大腸炎,虚血性腸炎などとの鑑別が必要であり,X線や内視鏡による小腸の縦走潰瘍や大腸の敷石状外観 cobble stone appearance が本症に重要な所見であるが,確定診断は症状,X線,内視鏡組織像を総合して行われる.

潰瘍性大腸炎 idiopathic ulcerative colitis(UC)
潰瘍性大腸炎は主として大腸粘膜を侵し,びらんや潰瘍を形成するびまん性非特異性炎症である.30歳以下の成人に多いが,小児や50歳以上のものにもみられる.病因は不明であるが,反復持続する何らかのnoxaが関与し,これには自己免疫的機序の関与が考えられている.わが国では,人口10万人当たり0.3人前後の年間発生率とされる.粘血便 mucous and bloody stool,血便 bloody stool,下痢が主な症状であり、また腹痛発熱食欲不振体重減少,易疲労感などもみられる.本症は病変の部位と広がりにより,1)直腸炎型,2)区域性大腸炎型,3)左側結腸型,4)右側結腸型,5)全大腸型,に分けられるが,2)と4)の頻度は少ない.活動期にはびまん性かつ連続性にびらんや潰瘍,腸管の狭小化,ハウストラ haustla の消失などが認められ,寛解期には腸管の狭小化やハウストラは回復し炎症性ポリープを認める.長期経過例では,癌の合併がまれでない.診断は,細菌性赤痢,アメーバ赤痢,日本住血吸虫症,大腸結核などの感染性大腸炎および放射線性大腸炎,虚血性大腸炎,肉芽腫性大腸炎を除外し,X線所見,内視鏡所見, および生検組織所見などから総合的になされる.

大腸癌
大腸癌のうち,直腸癌は50〜60%を占め,残りの結腸癌 colonic cancer の発生部位はS状結腸,上行結腸の順に多い.加齢と共に増加し60〜70歳代をピークとする.本症の多くは大腸ポリープ(とくに腺腫)およびポリポーシスに由来すると考えられている.組織学的には腺癌が90%を占め,大部分は高分化,中分化型である.肉眼的には胃癌同様ボルマンの分類が利用され,この1〜4型,壁外性進展の特殊型5型と6型に分けられる.転移はリンパ行性,血行性,腹膜播種性があるが,血行性による肝転移が比較的多い.大腸上部に発生した癌では自覚症状が乏しく,腹痛・貧血・腹部腫瘤触知で発見さ れることが多いが,大腸下部のS状結腸や直腸発生の癌では症状が認められやすく肛門出血を比較的早期に気付く.診断は注腸造影法および大腸内視鏡下の生検またはポリペクトミーからの組織診によりなされる.血清CEA(胎児性癌抗原)の測定は進行癌の存在,進展度に参考となる


F肝臓
門脈圧亢進症 portal hypertension
門脈血流路のどこかに狭窄や閉塞が起こり.門脈の圧が持続的に高くなった病態を総称する.うっ血をきたす原因部位により肝前性,肝内性,肝後性に分類される.肝前性は肝外門脈閉塞症で,門脈血栓症(感染,腫瘍),先天性門脈異常,クルヴェイエ・バウムガルテン症候群 Cruveilhier-Baumgarten syndrome がある.肝内性のうち肝内門脈閉塞症には Banti 症候群(狭義),sarcoidosis,日本住血吸虫症などがあり,肝内肝静脈閉塞症には肝硬変がある.肝後性は肝外肝静脈閉塞症で、バッド・キアリ症候群 Budd-Chiari syndrome,うっ血性心不全がある.症状としては食道(胃)静脈瘤,腹壁静脈怒張,痔核などがある.このうち臨床上問題となるのは食道静脈瘤であり,破綻を起こせば致命的な大出血(吐血)の原因となる.また脾内圧亢進のため脾腫を生じ脾機能亢進を招来する.一方肝内の血流うっ滞のためリンパ液産生が増加し,肝表面から腹水が漏出貯留する.

バッド・キアリ症候群 Budd-Chiari syndrome
下大静脈の横隔膜下での閉塞,あるいは肝静脈の閉塞により,門脈圧亢進症,下腿の浮腫や色素沈着,腹壁静脈の怒張などを呈する疾患群である.ほかに基礎疾患がなく,肝静脈や下大静脈部の先天性の発育障害ないしは発育奇形によると考えられている一次性(または特発性)のものと、悪性腫瘍・肝硬変・肝膿瘍・梅毒・白血病・外傷・Behchet病(ベーチェット症候群)や経口避妊薬服用者などにみられる血栓性静脈炎(静脈血栓症)など,原因の明らかなものを二次性として分類している.肝静脈だけに一次性の閉塞のみられるものはまれであるが,これをキアリ病 Chiari's disease と呼ぶこともある.急性型では突然の悪心,嘔吐,腹痛など激烈な症状で始まり1ヵ月以内に死亡する.わが国では急性型はまれである.慢性型にみられる腹壁静脈の怒張はとくに側腹部から背部にかけて著明にみられかつその静脈の流れはつねに上向性である点が肝硬変例での腹壁静脈怒張とは異なる.血管造影CT,腹部超音波により診断さ れる.

マロリー小体 Mallory body
Mallory により,慢性.進行性のアルコール性肝硬変に特徴的なものとして記載された肝細胞内に出現する鹿角状の好酸性硝子様構造物.インドの小児肝硬変,胆汁性肝硬変,ウィルソン病,肝細胞癌などでも認められているので,アルコール性肝障害に特異的なものとはいえないが,大酒家にみられた場合には診断上重要な指標となる.化学的にはリン脂質タンパク複合体とされ,電顕的には線維性構造物の集簇(族)からなる.

胆汁性肝硬変 biliary cirrhosis
遷延する胆汁うっ滞に続いて起こる病変.肝臓は硬く緑色調の強い顆粒状ないし結節状を示す.門脈域の幅広い線維化が進展して隣接門脈域間で結合し肝小葉を輪状に囲む.線維束は小葉中心帯と連なることもある.胆石症や慢性胆管炎など胆道系疾患による胆管狭窄や不完全閉塞でみられる続発性と原発性とがある.両者の相違は前者では門脈域の小葉間胆管が増生し,後者では消失することである.続発性では門脈域に炎症性細胞浸潤を伴う.

黄疸 jaundice,icterus
胆汁色素であるビリルビンが血中に増加した状態で高ビリルビン血症 hyperbilirubinemia ともいわれる.健常者では血清総ビリルビンは1mg/dL以下であり,そのほとんどは非抱合(間接)型である.臨床上明白に黄疸と指摘できるのは2〜3mg/dL以上の場合である.ビリルビンはアルブミンと弾性線維に強い親和性をもつので早期にとくに強膜また漸次全身の皮膚・粘膜が黄色調を呈するほかに,脳脊髄液,関節液,尿,乳汁,唾液中にもビリルビンを認める.黄疸をその成因から分類すると,1)ビリルビン過剰産生:溶血性黄疸,シャント高ビリルビン血症,2)肝細胞への摂取障害:新生児〔生理的〕黄疸,Gilbert 症候群(ジルベール病),肝炎後高ビリルビン血症,ある種の薬剤によるもの,Rotor 型(ローター症候群),3)肝内での抱合障害:新生児黄疸,Crigler-Najjar 型(クリダラー・ナジャー症候群),Lucey-Driscoll 型,Gilbert 症候群,後天性 glucuronyl transferase 異常症(薬剤性阻害など),4)肝内移送障害:Dubin-Johnson 型,Rotor 型肝炎,5)排泄障害:各種の胆汁うつ滞症,6)閉塞性障害:原発性胆汁性肝硬変(PBC),原発性硬化性胆管炎(PSC)などの胆管病変,および胆石,胆管癌などによる閉塞,に分けられる.また、ビリルビンの型による分類では,1 非抱合型高ビリルビン血症:溶血性黄疸,シャント高ビリルビン血症,新生児黄疸,と,2 抱合型高ビリルビン血症:肝炎肝硬変,Dubin-Johnson 型(デュビン・ジョンソン症候群)、Rotor 型,各種胆汁うっ滞症,その他に分けられる.
黄疸の発生機序


G胆嚢
胆石症 gallstone disease,cholelithiasis
〔発生〕 胆道にみられる結石を胆石と称する.肝内胆管,肝外胆管および胆嚢内に発生する.発生の機構については胆嚢内結石として頻度の高いコレステロール系石 cholesterol stone の生成についてとくに胆嚢胆汁の生化学的研究が進められている.コレステロールは胆汁中胆汁酸およびレシチンの混合ミセルに溶存されており,コレステロールが過飽和になると析出しやすくなる.ビリルビン系石 bilirubin stone の発生は,胆汁うっ滞と胆道感染〔症〕が主因である.
〔胆石の種類〕 コレステロール系石(純コレステロール石,混成石,コレステロール色素石灰石または混合石)は主として胆嚢内に生じる.ビリルビン系石は原則的には肝内・肝外の胆管系にみられる.その他の結石としていわゆる黒色石,寄生虫石,無機石,脂肪酸石灰石があげられる.黒色石は胆嚢内に多発する.日本人の胆石の頻度は従来はビリルビン系石が多かったが 近年では胆嚢内コレステロール系石が増加した.
〔診断・治療〕 腹痛,発熱,黄疸が三主徴である.


H膵臓
急性膵炎が発生するメカニズム シラバスに図で説明されています.そちらを参照にしてください.
急性膵炎とは,自己の産生・分泌する消化酵素によって膵組織が消化される病態(自己消化)をいう.自己消化の過程において,各種消化酵素やその酵素作用で生じた物質が腹膜腔や後腹膜腔へ滲出し,あるいは血中へ逸脱する.このために,しばしば組織障害は膵のみに留まらず短期間にいくつかの重要臓器にも波及する.膵の形態像から,間質の浮腫と膵周囲の脂肪壊死のみられる軽症型と,広範にわたる膵周囲および膵内の脂肪壊死,膵実質の壊死や出血のみられる重症型に大別される.主要な成因は胆石症であり,その他の成因としてアルコール過飲(慢性膵炎の発症,または急性増悪のことが多い),膵癌(膵管系の閉塞機序を介して)などがあげられるが.20〜30%では成因が不明である.急性膵炎はすべての年齢層に発症し,性別頻度には差がない.上腹部の激痛はほとんど必発するが,適切な処置によって数日後寛解する.この頃から膵周辺の惨出液のもたらす腸管麻庫に起因する腹部膨満感,腰背痛が出現する.他覚的には,発熱,上腹部の圧痛と抵抗または腫瘤,鼓腸などがみられる.急性膵炎の経過と予後は合併症の有無によって左右される.発病初期(およそ1週以内)の合併症としては,ショック(循環不全),急性腎不全,急性呼吸不全,播種性血管内凝固,膵性脳症が,また発病後期(およそ3週以後)の合併症としては,膵仮性嚢胞,膵膿瘍,消化管出血があげられる.血清膵酵素(なかでも膵性アミラーゼやリパーゼ)の著明な上昇,腹部の超音波断層やCTでみられる膵の腫大と内部像の不均一化が有力な診断根拠となる.


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