医療情報学Fのポイント


EBM(Evidence Based Medicine)

   EBMとは、直感や系統立たない臨床経験や病態生理を判断の根拠とせず、臨床研究からの事実をもとに判断し、実践する方法のことである。
   現実に行なわれている検査では、疾患の有無と検査結果は必ずしも一致しておらず、以下のような2×2表を書くことができる。

 疾患
ありなし

陽性真陽性
a
偽陽性
b
陰性偽陰性
c
真陰性
d

   この表の数値の中で重要なのは、感度と特異度の2つである。感度は、病気のある人の中で検査結果が陽性に出る確率であり、a/(a+c) で定義される。一方の特異度は、健康な人の中で検査結果が正しく陰性に出る確率であり、d/(b+d) で定義される。すなわち、感度が見逃しの少なさを、特異度が言い過ぎの少なさを表すと言うことができる。また、他には有病率 (a+c)/(a+b+c+d) や有効度 (a+d)/(a+b+c+d) なども重要な値である。
   感度・特異度はともに純粋に検査の能力を表す数値であり、両方ともが1に近いにこしたことはないが、診断基準の調節によって片方を上げたとしてももう片方が下がるという性質にあるため、両者を同時に上げるためには検査そのものの性能を上げるしかない。

   しかし、いくら検査の性能を上げても限界は存在する。そこで、検査の精度を調べるために、偽陽性率(=1−特異度)を横軸、感度を縦軸にとったROC曲線(Receiver Operating Characteristic Curve)とよばれるグラフがよく使われる。ROC曲線は、通常左上に膨らんだ曲線となるが、この左上への張り出しが大きければ大きいほど検査の能力は高いとされる。
ROC曲線

   また、(たばこ等の)因子や治療が患者の健康状態に与える影響を数値化したものとしてodds比とよばれるものが考えられている。odds比は論文のデータベースなどから知ることができるようになっている。odds比は、何の効果もない治療では1、効果のある治療であれば1以上、逆に逆効果を与えるような治療では1未満となる。



統計学用語

標準偏差(S.D.)と標準誤差(S.E.)
   標準偏差が分散の根で示されるのに対して、標準誤差は標準偏差を個体数の根で割った値でどちらも値の前に±をつける。
   標準偏差は、正規分布に従っているとみなせるデータについて使用する。このときは、±1S.D.ではデータのおよそ68%が、±2S.D.では95%がエラーバーの幅の中にあるといえるので、標準誤差の±1S.D.は、平均値の68%信頼区間を表していることになる。

P値(P value)
   薬あるいは治療が実は「無効」であった場合に、その同じ研究結果が見られる確率である。したがって、小さければ小さいほど「無効ではなさそうだ」と判断される。通常は、5%未満である場合に統計学的に意味のある差があると見なされる。

有意差検定
   有意差検定とは、ある調査結果が統計的に意味のある結果であるかどうかを判断するもの。たとえば、ある会社の担当者が行った調査で、東京と大阪でのある新製品Aの使用率はそれぞれ30%と20%という結果が出たとする。この10%の差から、社長へのプレゼンテーションで「東京と大阪での新製品Aの使用率には差がありました。」と言い切るためには統計的裏付けをとらねばならない。その裏付けとなる判断をするのが有意差検定(有意性検定)である。
   検定の手順としては、まず東京と大阪での使用率は同じであるという仮説をたてる(帰無仮説と言う)。ここで、実際の調査結果から2地域での「使用率が同じになる」確率を計算する。この確率が十分に小さければ使用率は同じであるという仮説を捨てて、「使用率は同じではない(=差がある)」、すなわち統計的にみて有意差があるとみなすことができるのである。なお、捨て去った「使用率は同じになる」確率のことを有意水準または危険率という。たとえば5%の有意水準とは、5%の確率で使用率に差があるという判断は誤りですよ、ということを意味している。また、この「5%の有意水準」を、「95%の信頼度」と言い換えることができる。95%の信頼度で有意差があるということは、上記の例では、「95%の信頼度(確かさ)で東京と大阪での新製品Aの使用率には差があります。」と社長にプレゼンテーションすることができるのである。

相関係数(Correlation coefficient)
   相関係数とは、2つの量的データの分布のばらつき方を調べ、2つのデータの間の関連性の強さを表したものである。その数値の範囲は、-1から1で、絶対値が1に近いほど点が直線的に配列している。x軸(一方)の変量が増えるとy軸(他方)の変量が増える関係がある場合は、散布図が右上がりとなり「正の相関」、逆にx軸の変量が増えるとy軸の変量が減少する関係がある場合は、散布図が右下がりとなり「負の相関」があるといい、バラバラの散布図は無相関という。
   相関の大体の目安は、その調査・研究領域で異なるが、0.6以上あれば、両者に相関性が統計学的に認められたと判断できる。相関係数の値と相関性との間にはおよそ以下の表のような関係がある。
相関係数の値相関係数の強弱
1〜0.7
0.7〜0.4
0.4〜0.2
0.2〜-0.2
-0.2〜-0.4
-0.4〜-0.7
-0.7〜-1
強い正の相関
中程度の正の相関
弱い正の相関
ほとんど関係がない
弱い負の相関
中程度の負の相関
強い負の相関



医用画像の原理と特徴

CT(Computed Tomography;コンピュータによる断層像)
   実際にはカバーの中で見えないが、X線を発生するX線管球とX線の量を測る検出器が向かい合うように設置されている。この一対の管球と検出器の間に対象物(例えば患者の頭部)を置いて、X線を照射しながら1回転させることによって、それぞれの角度でのX線の吸収のされかたを測定することができる。
   このようにして得られた情報をコンピュータで処理することによって、対象物中のそれぞれの位置でのX線の吸収値を、黒から白に至る輝度(明るさ)として表示したものがCT画像である。
   CT画像では、骨の部分などはX線の吸収が大きいので白く見え、空気などの吸収が少ない部分は黒く見える。また、この2つの中間の吸収を示す部分(例えば水や筋肉など)は灰色に見える。
   CT画像は対象物を輪切りにして、その切断面を見ているような感じになる。また、その切り出す厚さは1mm〜10mmまでX線の線束の幅を変えることにより任意に選ぶことができ、見たい部分にあわせて使い分けている。
   CTの特徴をまとめると、以下のようになる。
         ・得られる画像が輪切り像であること。
当たり前のことだが、実際に輪切りされるわけではないので、痛くない。
わずかなX線の吸収差を画像にすることができる。
脳内の出血などの場合、その漏出した血液の範囲を明瞭に識別できる。
ヨード造影剤を併用することにより血管の走行など、より多くの情報をもった画像を得ることができる。
CT画像をさらにコンピュータで処理することにより、さまざまな情報をもった画像を作ることができる。たとえば、身長方向に連続したCT画像を組み合わせることにより、輪切りだけではなくさまざまな切断面での画像を作ることができる。また顔面などで表面を強調させた画像を積み重ねることにより、まるでその人の顔を見ているような立体的でリアルな顔型をつくることも可能である。

MRI(Magnetic Resonance Imaging)
   核磁気共鳴技術を用いた画像診断法で、均一な強磁場内では、磁性核(特にプロトン)の磁気方向がそろい、同調されたパルス状のラジオ波のエネルギーを吸収し、励起状態の消退とともにラジオ波信号を放出する。この信号は、原子核の、および分子の化学的環境により強度が変化するが、信号の発生源を3次元的に特定できる磁場の勾配を利用して、一連の断層像を得ることができる。
   MRIの原理は1948年に確立されたが、コンピュータ、および代数的再構築などの数学理論が出現するまで実現しなかった。MRIは、X線撮影、あるいはCTと異なり、患者を被曝させることがない。さらに、MRIは人体内部の筋肉や骨格、血管、神経、臓器、および腫瘍を立体的に描出することができる。
   細かい原理については書き始めるときりがないので、http://web.sapmed.ac.jp/radiol/MRIprinciple.htmlを参考にしてください。

超音波画像
   この検査は、耳に聞こえないくらいの高い周波数の音(超音波)を体の外からあて、その反射を利用することにより、体内の臓器を画像化し観察する手軽で安全な検査である。
   超音波検査の特徴としては、以下のようなことを上げることができる。
         ・人体に無害である。
小さな病変を発見することができる。
痛みがほとんどない。
瞬時に画像を得ることができるので動く様子を観察できる。
超音波は、空気中を伝わらないので身体にガスの多い場合は、画像が得られないことがある。このような理由で肺や胃腸(消化管)の診断には適していない。


VR(Virtual Reality)

   Virtual Reality(仮想現実)とは、映像、音響あるいは触覚等により構成された仮想環境の中で、その場にいるかのような感覚を体験をすることを言う。
   近年、VRの医学への応用が急速に進展しつつある。VR技術は、基本的に医学の諸対象の映像化を飛躍的に進歩させる可能性をもっている。利用することの可能な技術は、すでに医学分野で適用されているか、あるいは実験段階・研究室段階で利用されている。
   CG技術の発展は、コストを低下させ、実行可能となってきた。VRと医学の映像が結びついて、診断や治療に相当な進歩が期待できるのも時間の問題と言えるであろう。特に手術に関していうと、VRの利用により、今まで多スライス画像をもとにして頭の中で行なわざるを得なかった手術計画を、手術前にリアルな立体画像で行なうことができるようになった。さらには外科手術の教育・訓練でも、シュミレーションという点でVRの利用が進められている。
   VRを外科へ応用するときのメリットとしては、低侵襲手術の実現、手術の自動化、医療コストの低減、離れた場所からの医療処置、特殊な症例についての訓練機会の均質化などが挙げられる。デメリットとしては、過度な現実感の実現のためのコンピュータへの過剰な負担、また外科の実施システムから人を極度に省くことの危険性があげられる。



参考ページ

患者ID自動認識技術を用いた画像(X線写真)ファイリングシステムの検討
平成11年に出題されたPACS(Picture Archive and Communication System)に関する記述があります。

電子カルテとプライバシー保護
文字通り電子カルテについてのページです。
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