視覚系
Visual system
〜最近はあまり出題されていませんが、1999年以前はよく出題されていました〜

目次
 1)視覚の主経路
 2)光学系としての眼球
 3)網膜の解剖と機能
 4)外側膝状核
 5)上丘
 6)視蓋前構造物と対光反応
 7)視交叉上核
 8)1次視覚野
 9)視覚連合野



1)視覚の主経路

   視覚系は、光エネルギーを視覚像へと変換する働きを担っている。光エネルギーは網膜後部の網膜で受容され、その情報は視床、視床下部、中脳などを経て皮質野に伝達される。主な皮質野への投射経路としては、視床の外側膝状核(LGN)から1次視覚野(Brodmannの17野、有線野)に至る線維(視放線)がよく知られている。他の皮質野(集合的に有線外野とよばれる)は、外側膝状核のみならず視床枕からも入力を受けている。
   光刺激は網膜の視細胞で受容され、双極細胞を通って神経節細胞に至る。神経節細胞の軸索は視神経を形成し、大脳底にある漏斗の前部で視交叉をつくる。ウサギなどではここで全交叉が起こるが、ヒトでは半交叉しか起こっていない。これによって、ものの奥行きが計算できるようになり、立体感をつくることができるようになると言われている。
   網膜から1次視覚野へは、網膜上の配列を保ったまま投射しているため、その経路が障害されると、特定の視野欠損をきたす。典型的には視交叉より前方の病変は単眼性視野欠損を、視交叉部の病変は両耳側半盲を、視交叉より後方の病変は両眼に同名半盲または4分の1半盲をきたす。



2)光学系としての眼球

   眼球に到達した光は、網膜上に正確な焦点を結ぶ必要がある。光の屈折は、角膜の湾曲度、眼球長軸の長さに依存している。光の屈折が正確に行われないと、読書の際に字が読みにくくなったり(遠視)、遠くのものがはっきりと見えにくくなったり(近視)、またそれらの両者が起こる。近視眼では、乱視(屈折率が眼軸からの角度により異なるために起こる)も伴うことがある。
   眼球の光学系機能としては、これらの光の屈折に加えて、光の非減衰性伝導も重要である。これには、角膜、眼房水、レンズ(水晶体)、硝子体のすべてが透明であることが必要である。これらの構成要素のいずれかが障害されると、視覚低下をきたし、細かいものが識別できなくなる。よく見られる疾患としては、角膜の炎症(=角膜炎)やレンズの透明度低下(=白内障)がある。



3)網膜の解剖と機能

   眼球に入ってきた光は、まず網膜のもっとも深層に位置する光受容体によって、電気信号に変換される。光受容体には杆体と錐体という2つの主要な型がある。杆体も錐体もともに感光色素(視物質)をもっており、ここで光化学反応が起こる。まず、受容器外節で捉えられた光子が、二次伝達系としてcGMPを用いた増幅処理を受ける。この結果、cGMP濃度が低下し、イオンチャネルの閉鎖が起こる。すると、光受容器へのNa+とCa2+の流入が起こり、過分極が生じる(視細胞電位とよばれる)。なお、この過分極の程度は光受容器の色素上皮で捕捉された光子の数に依存して等級づけられる。また、光に対する光受容器の反応の終結にはいろいろな要素が関係するが、細胞内Ca2+濃度の変化が重要で、これによって光に対する適応が生じると同時に光受容器反応が終結する。
   杆体は、黄斑部以外のすべての網膜に見られる。杆体は微弱な光に対して感受性があり、夜間の視力(暗視力)にとって重要である。杆体は、多数の受容体細胞が1つの神経節細胞に入力するという構造をとっている。そのため視覚識別が不可能な暗所でも、杆体は照明度に細かく反応する。すなわち夜間には、細部は分からないものの、物体があることは認知できるが、これは杆体の働きによるものなのである。
   一方、錐体は黄斑部でもっとも密度が高く、赤・緑・青の3種類のうち1つの光色素を含んでいる。錐体は日中の視力(明視力)にとって重要である。明視力は、錐体が中心視力をつかさどる黄斑部でもっとも密度が高いことに関連があり、黄斑部では錐体細胞は、神経節細胞とおよそ1対1の結合を有している。黄斑部の光受容体は、視力とともに色覚をつかさどっている。光受容体の中にある光色素が障害されると、色盲をきたす。

   光受容体は、水平細胞および双極細胞とシナプス結合をつくっている。
   水平細胞は、@双極細胞の光受容域を同心円状に配列するという働きと、A双極細胞の光感受性を背景光度に合わせて調節するという働きを行っている。まず@について。水平細胞は、多くの光受容体から入力を受け、1つの双極細胞とシナプス結合をつくり、光受容域からの情報を双極細胞に伝達している。双極細胞は、光刺激に対する応答の違いによってD型とH型の2種類に分けられる。同心円の中心点の光刺激に対しては、D型では脱分極を、H型では過分極を起こす。一方、同心円の周辺部の光刺激に対しては、水平細胞の抑制性シナプスの働きにより、中心点刺激とは全く逆に、D型では過分極を、H型では脱分極を引き起こす。なお、Aについては、その機序は十分には明らかになっていない。
   双極細胞は光受容体、水平細胞、アマクリン細胞からシナプス結合を受け、神経節細胞に情報を伝達する。双極細胞は、入力する光受容体の種類によって分類され(杆体のみ、錐体のみ、または両者)、光に対する応答様式の違いによっても分類されている。すなわち、D型の双極細胞は中心型(ON中心型)、H型の双極細胞は周辺型(OFF中心型)とよばれる。

   神経節細胞は硝子体液のもっとも近くに位置しており、双極細胞、アマクリン細胞から入力を受け、視神経を介して、大脳に軸索を送っている。神経節細胞からの神経線維は、網膜の内側面を走り、視神経乳頭で網膜を離れ眼球外に移行していく。視神経乳頭には光受容細胞がなく、盲点に対応している。神経節細胞の分類法としては、神経節細胞の形態、対応する双極細胞の光に対する反応性(周辺型と中心型)、およびその両者がある(XYWシステム)。X神経節細胞は全体の約80%を占め、視覚情報の細かい分析・色彩に関与する。Y神経節細胞は全体の約10%を占め、運動の検出に関与している。W神経節細胞は、脳幹部に投射しているが、その機能は十分に明らかとなっていない。神経節細胞から高次の視覚中枢に至る経路のうち、視覚情報の抽出は、神経節細胞のレベルですでに行われているのである。
   アマクリン細胞は、網膜の最後の構成要素である。アマクリン細胞は、双極細胞と他のアマクリン細胞からのシナプス入力を受け、それからの情報を双極細胞、他のアマクリン細胞、神経節細胞に伝えている。アマクリン細胞には多くの種類があり、錐体のみ、もしくは杆体のみから入力を受けているものもある。アマクリン細胞は多くの神経伝達物質を含んでおり、その種類によっても分類される。アマクリン細胞は光刺激に対してしばしば複雑な反応を示し、動くものの感知、背景照度の開始・停止などといった神経節細胞の応答様式に関連する。



4)外側膝状核

   霊長類の外側膝状核は6層からなっており、各層は同側または対側のいずれかの眼からの入力を受ける。内側の2層は大型ニューロンが豊富で大細胞層を形成し、残りの4層は小細胞層を形成する。これら2群のニューロンは、形態のみならず電気生理学的にも異なっている。
   小細胞性ニューロンは、色調(光の波長)感受性があり、空間分解能が高く、光刺激に対して持続性応答を示す。一方、大細胞性ニューロンは、色彩感受性がなく、空間分解能が低く、刺激に対して一過性の応答を示す。すなわち、大細胞性ニューロンはY神経節細胞と、小細胞性ニューロンはX神経節細胞と類似した性質を示し、2種類の網膜膝状核投射を反映している。小細胞性ニューロン・X神経節細胞は、色認知に関連しPチャネルを形成し、大細胞性ニューロン・Y神経節細胞は、動態認知に関連しMチャネルを形成する。
   外側膝状核は、1次視覚野の第4層、一部は第6層の細胞とシナプス結合する。MチャネルとPチャネルは、これらの層で異なる結合をしている。さらに、外側膝状核の層間部細胞からは、1次視覚野の第2・3層に投射線維が送られている。
   一方、W神経節細胞は、中脳に位置する上丘や視蓋前核、視床下部の視交叉上核などに投射している。

外側膝状核の層形成するチャネル入力する網膜神経節細胞の種類
第6層Pチャネル(小細胞)対側X神経節細胞
第5層Pチャネル(小細胞)同側X神経節細胞
第4層Pチャネル(小細胞)対側X神経節細胞
第3層Pチャネル(小細胞)同側X神経節細胞
第2層Mチャネル(大細胞)同側Y神経節細胞
第1層Mチャネル(大細胞)対側Y神経節細胞




5)上丘

   中脳に位置する上丘は、多層性の構造をもつ。このうち表層は視野の地図作製に関与し、深層は視覚・聴覚・体性感覚情報の統合に関与する。中間層は衝動性眼球運動にかかわっており、後頭葉皮質・大脳基底核から入力を受ける。外側膝状核に出力する線維と、視床枕を通って17野以外の有線外野に投射する線維がある。
   衝動性眼球運動は上丘内の視野地図と密接な関連を有している。もし視野の1点が光刺激を受けると、上丘表層の視野地図に対応した中間層が賦活され、光刺激点に向かう衝動性眼球運動が誘発される。このように、上丘の表層から深層に向かって、異なる感覚情報の統合がなされている。すなわち、表層から順に、@視野の部分光刺激に反応するニューロン;A光刺激された部位に黄斑を移動させる、すなわち衝動性眼球運動を起こすニューロン;B聴覚および体性感覚に反応するニューロン、すなわち空間のある部位から発した音に対して最大反応をしたり、または空間上の物体と身体的に接触した際に最大反応を示したりするニューロンである。したがって、上丘は単に衝動性眼球運動を指令するのみならず、行動上重要な刺激に対して衝動性眼球運動を起こしたり、さらに外的刺激に対するたような身体反応をつかさどっていると言える。これらの役割は、上丘と他の部位との線維連絡、例えば脳幹や脊髄(視蓋脊髄路)に反映されている。臨床上これらの部位の選択的病変は稀であるが、もし障害されると、無視現象を伴った衝動性眼球運動消失をきたすことになる。



6)視蓋前構造物と対光反応

   視索から視蓋前核に至った線維は、さらに両側のEdinger-Westphal核に至り、副交感神経の入力を瞳孔に送って、縮瞳を起こす(対光反射)。一眼の光刺激は、両眼の縮瞳を起こす。直接光刺激された側の眼の縮瞳は直接反応、直接的には光刺激されていない側の眼の縮瞳は間接反応とそれぞれよばれる。一側の視神経傷害は、同側の直接・間接の両反応の低下を起こすが、対側の光刺激による間接反応は保たれる(縮瞳の求心路障害)。



7)視交叉上核

   視床下部の視交叉上核は、網膜から直接の入力を受けており、サーカディアンリズム(24時間周期リズム)の生成・調節に関与していると言われている。



8)1次視覚野

   外側膝状核を出た線維の大部分は、後頭葉の鳥距溝に沿った部位にある1次視覚野(Brodmannの17野)へ入力する。この入力は網膜の部位局在を反映しており、網膜の隣接する部位からの入力は、視覚路の中でも隣接した軸索を走っていて、隣接した箇所に投射している。この配列は、視覚受容体が神経節細胞に投射する際に決定されるので、網膜上の単純な配列とは異なっている。すなわち、中心視力をつかさどる黄斑部からの入力が、投射線維の多くを占めている。
   外側膝状核からの投射線維の多くは、1次視覚野第4層に終わり、MチャネルとPチャネルのそれぞれの投射部位をもっている。この第4層への投射線維は非常に多く、これらはさらに4a層、4b層、4cα層、4cβ層に分けられ、それぞれ若干異なる投射部位をもつ。このうち4c層は、円形・左右対称な受容域を構成している。4c層のニューロンは、隣接するニューロンに対しても投射している。すなわち、複数ニューロンからの入力は1つのニューロンに集約し(単純細胞)、その受容野は、より複雑な光刺激に対して反応するようになる。単純細胞には、ある方向性をもつ線・棒状の光に対してのみ反応するニューロンなどがある。この単純細胞は、さらに他のニューロン(複雑細胞)に集中するように投射する。複雑細胞は主に第2・3層に見られ、ある線分に対して直角に移動するものだけに反応するニューロンなどが見られる。

   複雑細胞はさらに、ある方向と長さをもった線に対してのみ反応する高度複雑細胞または終末終止細胞に投射する。すなわちHubelとWisselの当初のモデルでは、1次視覚野の細胞構築は厳密な階層性をとり、各細胞はそのすぐ下層の細胞の受容野を引き継いでいるとされていた。
   その後彼らは、1次視覚野の細胞構築は、近似の性質をもつ円筒型の細胞群(コラム)からなることを発見した。コラムには2種類あり、1つは眼球情報を受容する細胞群(眼球選択的コラム)、もう1つは、ある眼球運動方向に対して最大に活性化される細胞群(方向選択的コラム)である。これらの2種類のコラムは直角に交叉して配列しており、両眼からの眼球選択的コラムと、対応する方向選択的コラムとを含む皮質は、ハイパーコラムと称される。このハイパーコラムは1つあたり約1mm2の脳表面積があり、両眼からの網膜情報による視野単位を解析できる。黄斑部では光受容体と神経節細胞が一体をなしており、ハイパーコラムに対応する視野単位は非常に小さい。一方、黄斑から離れれば離れるほど、視野単位は大きくなる。
   しかし後になって、第2・3・4b層(一部には第5・6層)でチトクローム酸化酵素豊潤ニューロンが発見された。このニューロンは、方向選択性はないものの、色彩感受性と、高い空間周波数感受性を示す。第2・3層のチトクローム酸化酵素豊潤ニューロンは、集合して"小塊(ブロッブ)"を形成する。小塊のうち少なくとも1つは眼球選択的コラムを含み、さらに小塊の間をつなぐ小塊間質とよばれる領域を含んでいる。小塊と小塊間質は、チトクロームの豊富な第4b層とともに、2次視覚野(V2野)、有線外野への投射線維をもつ。これらはそれぞれMチャネルとPチャネルに対応する。これらのチャネルとの接続から、視覚情報は縦の階層構造のみならず、横の平行構造によっても加工処理されていると考えられる。

   1次視覚野は、両眼視機能の最初の制御部位であるとともに、視野を種々の方向の小さい線分に分解したり、視覚イメージの構成要素を分解・統合し、それを高次の視覚領野へと送っている。高次視覚領野は、より複雑な視覚分析を行っている。ただし、意識される視覚イメージをすべて認識するためには、1次視覚野との連絡が不可欠である。臨床的に、両側の1次視覚野が障害されると、皮質盲となり、患者は目が見えなくなったと訴える。しかし、視覚刺激の位置は正確に言える場合がある(この現象を盲視という)。



9)視覚連合野

   視覚連合野は有線外野または視覚前野ともよばれ、1次視覚野より外側の、視覚情報にかかわる皮質野全体を指す。視覚連合野の数は動物種によって様々であるが、ヒトで最も多く、2次視覚野(V2)、3次視覚野(V3)、4次視覚野(V4)、5次視覚野(中側頭葉皮質)、下側頭葉皮質などに分類される。視覚連合野は、より複雑な視覚情報の加工にかかわっており、視覚情報処理の一面がより強調される(色彩、運動の認知など)。
   これらはそれぞれ働きが異なっている。1次視覚野を出た線維のほとんどはいったん2次視覚野に投射する。2次視覚野はチトクローム酸化酵素染色法を用いて染めると、濃い太い縞(厚線束)と細い縞(薄線束)、淡い縞(淡線束)の3領域に分けることができる。それぞれの領域は1次視覚野の異なる領域からの線維連絡を受け、記録されるユニットの応答の特性が異なり、またそこから出力する線維が送られる領域も異なる。このことから視覚中枢では少なくとも3つの情報処理チャネルが存在し、それぞれ色、形状、運動および立体視に関する処理が独立に行われていることが分かる。その経路をまとめると以下のようになる。

神経節細胞Y神経節細胞X神経節細胞
外側膝状核大細胞系小細胞系
1次視覚野(入力部)4cα層4cβ層
1次視覚野(出力部)4b層小塊小塊間質
2次視覚野厚線束薄線束淡線束
高次の視覚前野MT野

MST野

第7野
4次視覚野

LT野
(側頭葉)
 3次視覚野 
4次視覚野
分担機能運動・立体視色覚形状
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