大脳基底核
Cerebral Basal Ganglia
〜毎年何らかの形で出題されています〜

目次
 0)まずはじめに
 1)構造
 2)神経要素
 3)線条体のモザイク構造 
 4)連絡
 5)機能
 6)まとめ



0)まずはじめに

   神経細胞体の集合体のことを末梢神経系では神経節(ganglion)というが、中枢神経系では灰白質(gray matter)ないしは神経核(nucleus)とよぶ。大脳の白質内に存在する灰白質の塊のことを大脳基底核とよび、視床と並んで大きな組織である。大脳基底核の障害は、主に運動障害をもたらす。



1)構造

名称英語名略語特徴・構造・機能
尾状核Caudate nucleiCd灰白質の細長い曲がった塊で、側脳室前角中に突出する厚い前部(頭部)、側脳室の床面に沿って伸びる体部、側頭葉内を下方、後方および前方に曲がって下行し、側脳室に至る細長く曲がった部分(尾部)の3部からなる
被殻PutamenPut白質線維の板により、レンズ核が分割された3つの部分のうち、外側の大きな暗灰色の部分。内包を貫通する灰白質の帯を通して尾状核と結合する。組織学的構造は尾状核と類似し、この両者が線条体を形成する
淡蒼球Globus pallidusGPレンズ核の内部の比較的明るい灰白部分で、外節と内節の2部に分かれる。発生学的には間脳由来で、鉄が多い
視床
下核
Subthalamic
nuclei
STN凸レンズ様の境界が明瞭な核で、内包の大脳脚部背面に接して視床下部の腹側に位置し、黒質のすぐ上方にある。淡蒼球および同側運動皮質の外節から局所性に多量の線維を受けている。視床の中心内側からの求心性小線維束は視床下核の吻側部に終わっている。視床下核からは淡蒼球の内外節・黒質の網様体部として少数は同側の大脳脚橋核へ投射している
黒質Substantia
nigra
SN横断面では半月形の大細胞塊で、大脳脚の後面を越えて橋の吻方縁から視床下部へと広がっている。稠密で色の付いた(すなわち、メラニン含有)細胞の背側層(緻密部)と、広範に細胞が広がった腹方部(網様部)とがある。特に前者は線条体の方へ突出した多数の細胞を含み、伝達物質のドーパミンを含有するシナプスを有する。他の非ドーパミン性細胞は視床腹側核の吻方部・上丘の中間層・中脳網様体の一部へ突出している。黒質と線条体は、各種の神経伝達物質、特にGABAによって互いに連絡しあっている。黒質網様部は、視床下核・淡蒼球の外層・橋縫線の外側核・中脳の大脳脚橋核から求心性の線維を受けて、線条体に遠心性線維を出しており、パーキンソン病やハンチントン病に伴う代謝障害に関係する

   尾状核と被殻は組織学的に構造が類似しており、両者をあわせて新線条体(Neostriatum;CPu)とよばれる。また、被殻と淡蒼球の外節・内節は、前頭断面で見た時に隣接しており、髄板とよばれる白質線維の板によって境されているだけで、3者をあわせてレンズ核(Lenticular nuclei)とよぶ。しかし、この名称は解剖学的につけられたもので、組織学的な実態は表していない(つまり、機能や構造が大きく異なる)。
   また、大脳基底核には含めないが、被殻の外側には外包をはさんで前障(Claustrum)とよばれる薄い灰白層が見られる。前障は、島部と被殻と側頭葉の間の側頭部からなっており、大脳皮質の知覚領と相互連絡をもつ。



2)神経要素

新線条体 CPu
・投射ニューロン projection neuron(medium size spiny neuron)
      GABA作動性。ラットでは新線条体の全ニューロンの95%を占める。以下の3種からなる
            @
A
B
Substance P/Dynorphin/D1receptor
Enkephalin/D2R
NeurokininB
45%
45%
5%
・局所回路ニューロン interneuron
      ラットでは新線条体の全ニューロンの5%を占める。次の2種からなる
            ・large aspiny neuron
                  アセチルコリン作動性   Substance P receptorあり
            ・medium size aspiny neuron
                  GABA作動性で、次の3種からなる
                        @ somatostatin/neuropeptideY/NO/Substance P receptor
                        A parvalbumin/fast-spiking
                        B Ca/retinin

淡蒼球 GP および 黒質網様部 pars retisulata(SNr)
   淡蒼球は、外節 external segment(GPe)と内節 internal segment(GPi)の2部に分かれる。黒質網様部は内節とほぼ相同な働きをしている。淡蒼球および黒質網様部には2種類の投射ニューロンが存在する。
         @ GABA作動性/PV(+)  parvalbumin
         A GABA作動性/PV(-)

視床下核 STN
グルタミン酸作動性の投射ニューロン。興奮性

黒質緻密部 pars compacta(SNc)
ドーパミン・グルタミン酸作動性。神経メラニンが見られる


3)線条体のモザイク構造(線条体の局所回路)

   新線条体は、組織学的に海の上に島がバラバラ浮いてるというような構造をしている。この海の部分をmatrix(基質)とよび、島の部分をpatchとよぶ。matrixとpatchの間には軸索による連絡はなく、互いに独立している。両者には下表のような違いが見られる。
 μ-opioid receptorコリン作動性ニューロンsomatostatin線維
patchあり少ない少ない
matrixなし多い多い



4)連絡(入力/内部連絡/出力)

   大脳基底核は末梢受容器からの直接の入力を受けていないし、また末梢効果器への支配ニューロンに対しても直接の出力を与えていない。つまり脊髄と直接の結びつきをもたない脳部位である。主な入力を大脳皮質と視床から受け、出力を視床に与え、再び大脳皮質にこれを送るようになっている。図で示すと以下のようになっている。

大脳基底核の入力・相互連絡・出力経路


5)機能

   大脳基底核は、前頭前野などから高度に処理された感覚性情報を受け、ある種の運動プログラムに変換している。運動を制御する組織としては、大脳基底核の他に小脳もあるが、それぞれ働きが異なっている。
   小脳は、大脳皮質からの情報(今から行おうとしている運動の情報)と末梢からの情報(筋肉の収縮状況や位置の情報)の両方が入ってきており、この両者を比較・対照することによって、運動を正確かつ円滑に開始・継続させるのに役立っている。一方の大脳基底核は、むしろ記憶をもとにした予測や期待といったものに結びつくような運動(行動)に関与しており、前頭前野にある運動パターンの中から適切な運動の選択を行っていると考えられる。

   大脳基底核の病変によって起こる疾患としては以下のようなものがあげられる。
疾患名主な症状原因
パーキンソン病
Parkinson's disease
(PD)
akinesia(無動症)、tremor(振戦)、rigidity(固縮)を3大症状とする。知的障害はなく、その他に仮面様顔貌が見られることが多く、動けない、止まれないといった運動障害を訴える場合が多い黒質緻密部のニューロンの変性脱落

新線条体への抑制性ドーパミン作動性入力の低下

視床下核の活動亢進

淡蒼球内節ニューロンの活動亢進

視床への抑制性出力の亢進

補足運動野などの活動低下
ハンチントン舞踏病
Huntington's chorea
(HD)
中年に発症し、進行性の痴呆と、典型的には手と頚部のすばやい踊るような不随意運動である舞踏運動を通常伴う第4染色体短腕先端付近にある3塩基配列の伸長を
伴った常染色体優性遺伝の遺伝疾患。
新線条体の萎縮によって起こる
バリスムス
ballismus
激しい異常運動。手を振り回す視床下核の脳血管障害

淡蒼球内節・黒質網様部が興奮しない

視床の抑制がかからない
アテトーシス
athetosis
手指や手(時には足指や足)の屈曲、伸展、回内、回外などの、ゆっくりした、ねじるような不随意運動が、常に連続している
oral dyskinesia高齢者によく見られる口をモゴモゴさせる不随意運動淡蒼球への石灰の沈着



6)まとめ

   大脳基底核は運動の制御にかかわる非常に大事な組織である。その機能を一言で表現すると、普段は視床を通じて運動野を抑制しているが、刺激にしたがって脱抑制disinhibitionして、運動の開始に関わると言うことができる。
   大脳皮質からの入力線維はまず新線条体(尾状核・被殻)に投射する。尾状核と被殻は組織学的に非常に類似しており、まとめて新線条体とよばれているが、運動系が主に被殻を通るのに対して、非運動系は尾状核を通って、再び大脳皮質に投射される(並列路とよぶ)。
   新線条体からの経路は大きく分けて3つある。まず1つめは黒質網様部を通って直接視床→大脳皮質に投射する直接的経路。2つめはいったん淡蒼球外節→視床下核を介して、淡蒼球内節・黒質網様部を通り、視床→大脳皮質に投射する間接的経路。3つめが無名質に投射して、すぐに大脳皮質に戻るという経路である。また、大脳基底核には多くの重要なループが存在しており、その中でも新線条体→黒質緻密部→新線条体というループは特に重要で、黒質緻密部から線条体への投射はドーパミン作動性である。
   大脳基底核は運動の制御を行うだけでなく、前述の無名質を介しての経路により認知機能にも関与している。この機能は大脳基底核の腹側部で主に行われている。
   また、大脳基底核は眼球運動の制御においても重要な役割を担っており、大脳基底核病変の患者には異常眼球運動が起こることがあり、臨床的に重要である。
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