心筋細胞の働き


A) 心筋の電気生理学的特性:

心筋のイオンチャネルと細胞機能

   心筋の膜電位変化を理解するには、形質膜脂質2重膜がコンデンサであることを理解している必要がある(Q=CV)。心筋細胞の活動電位は主として細胞膜にあるイオンチャネルを通る膜電流により形成される。膜電流は電荷が細胞外から細胞内へ移動する内向き電流と、細胞内から細胞外へ移動する外向き電流に分類される。
   内向き電流を通すチャネルにはNa+チャネルとCa2+チャネルがある。Na+チャネルは細胞外からの急速なNa+の流入を担い、心筋細胞の興奮性および伝導性に関与するCa2+チャネルにはジヒドロピリジン感受性高閾値のL型と低閾値のT型の2種類があるが、このうち心拍数や心収縮に主要な役割を果たしているのはL型Ca2+チャネルである。
   外向き電流を通すおもなチャネルはK+チャネルである。K+チャネルには多くの種類があり、活動電位の再分極相の形成、静止膜電位の維持、ペースメーカー電位への寄与などの役割をはたしている。K+チャネルには正常の状態で機能しているものと、細胞内ATP濃度の低下など特殊な条件下で機能するものがある。生理的に機能しているK+チャネルには部位によって分布密度が大きく異なるものがあり、このため心筋は部位別に特徴的な静止膜電位および活動電位波形を示し、心筋の機能分化に寄与する。例えば心室筋細胞やプルキンエ線維では、静止時の膜はNa+に対する透過性(PNaが低く、K+に対する透過性(PK)が非常に高いため、静止膜電位は主として細胞内外のK+の濃度に規定される。洞房結節および房室結節ではPNa/PKが高いため、膜が脱分極し浅い静止膜電位を示す。これは静止膜電位の形成に重要な役割を果たす内向き整流K+チャネルGK1)が、心室筋には豊富にある結節細胞にはほとんどないためである。ムスカリン性K+チャネル(KACh)は結節細胞および心房筋に多く、心室筋にはほとんどの動物種で存在しない。そのためアセチルコリンやアデノシンの直接作用は結節細胞や心房筋細胞でみられるが、心室筋細胞ではほとんどみられない。遅延整流外向きK+チャネル電流は、心房筋細胞と心室筋細胞ではその特性が異なっている。また一過性外向きK+チャネル電流は、一般に心房筋細胞での発現が心室筋細胞よりはるかに高く、心房筋細胞の陽性(正の)階段現象に関与している。


◆心室筋、心房筋の活動電位の特徴。心室筋の活動電位の長さは300〜400msecで、一方活動電位は刺激伝導系によって80msec以内に全心室筋細胞に伝播するので、全ての細胞が同時に脱分極することができる。これによって、全ての心室筋細胞の同期した収縮が可能になる、心電図との関係を理解する。

◆心臓刺激伝導系。活動電位は洞房結節に存在する特殊な細胞の自発性活動電位に始まる。この活動電位は心房筋細胞に伝わり、続いて、房室結節に至る。房室結節では、細胞の静止電位が低く、活動電位はCaチャネルによっている。そのため、内向き電流密度は小さく、しかもギャップジャンクションも少ないため、興奮の伝播速度が遅い(0.1m/sec)。これによって、心房の収縮と心室の収縮に遅延、すなわち、房室結節伝導遅延をもたらす。活動電位は続いて、心室内の特殊伝導系、すなわち、ヒス束右脚、左脚を素速く伝導し、PurKinje線維網に伝わり、これを介して心室固有筋に伝わるヒス束とプルキンエ線維での活動電位伝導速度は心筋の中でも最も速く(2〜4m/sec)、心室全体にす速く興奮を伝え、これによって心室壁を構成するすべての細胞の同期した収縮をもたらす。

◆心筋の自働性と歩調取り電位の発生。洞房結節の細胞では拡張期に緩徐な脱分極が発生し、これによって自動的に活動電位が発生する。活動電位の立ち上がり相はNaチャネルによるのでなく、L型Caチャネルの活性化による。L型Caチャネルの不活性化と遅延整流Kチャネルの活性化によって活動電位再分極相が形成される、最大拡張期電位の後、活動電位によって活性化した遅延整流Kチャネルが脱活性化すること、内向き電流が次第に増加することなどによって、拡張期緩徐脱分極(slow diastolic depolarization: pACemaKer potential)が発生すると考えられている。

◆Naチャネルと興奮伝播、不応期の発生。洞房結節や房室結節の細胞を除く全ての細胞の活動電位立ち上がり相はNaチャネルの活性化による。続いて、Naチャネルは活動電位による脱分極によって不活性化する。静止電位における不活性化の解除は徐々に進行するので、活動電位再分極直後には、Naチャネルは殆どのものが不活性化されているため、どんな強い刺激によっても活動電位を発生することができない、この間を絶対不応期とよぶ。時間とともに不活性化は解除され、強い刺激を与えれば活動電位を発生することができる。不応期の存在は、心筋が連続して収縮し、ポンプ機能が損なわれることを防ぐために重要なメカニズムである。

◆ギャップジャンクションチャネルと興奮伝導。互いに接する心筋細胞問にはギャップジャンクションチャネルが存在し、電気的にそれらの細胞はつながっている(機能的合胞体、functional syncitium)。活動電位発生に伴うNa電流はこの電気的結合を介して、隣の細胞を脱分極することができ、これによって活動電位は細胞から細胞へ伝播していくことができる。ある細胞が機械的に傷害され、脱分極すると、それにつながった細胞も脱分極する。これは心筋細胞の死につながる可能性があるが、傷害された細胞では細胞内にCaが流入し、このCa濃度上昇によって、ギャップジャンクションチャネルは閉じる性質がある。これによって、傷害された細胞は切り放され、健常な細胞は生き残ることができる。この現象をhealing overとよんでいる。

◆Caチャネルと興奮収縮連関。心筋のCaチャネルはL型Caチャネルとして分類されているもので、いわゆるCa拮抗薬によってブロックされる。このチャネルは比較的ゆっくりと(時定数10〜20msec)不活性化され、このチャネルによるCaの細胞内流入は筋小胞体のCa放出チャネルに働いて、筋小胞体からのCaの放出をもたらす。これによって筋線維の収縮が発生する。外液からCaイオンを取り除くと、心筋の収縮が消失するのはこのメカニズムによる。

◆遅延整流Kチャネルと(活動電位)再分極。心筋の遅延整流Kチャネルは極めてゆっくり(時定数50〜100msec)と活性化するので、長い活動電位が可能となっている。

◆内向き整流Kチャネルと静止電位。内向き整流Kチャネルは静止電位付近での開口確立が、0.7〜0.8と極めて高く、しかも分布密度が高く、単一チャネルのコンダクタンスが比較的大きいため、静止膜のカリウムコンダクタンスを受け持っている。このチャネルはカリウムの平衡電位を越えて正電位側では、電位移動と共に閉じる(細胞内のポリアミンやMgイオンによって閉鎖される)。そのため、活動電位のプラトーレベルである+10〜30mVでは、殆ど完全に閉じている。したがって、長い活動電位が可能となっている。
   内向き整流特性とは、膜を脱分極させると電流が流れにくくなる特性。例えば内向き整流K+チャネルは、K+の平衡電位以下では内向き電流を通すが、K+の平衡電位以上では電流はほとんど流れない。異常整流特性ともいう。

◆ATP感受性Kチャネルとエネルギー代謝の破綻。細胞内のATP濃度が減少すると、開くカリウムチャネルが存在する。冠動脈血流障害で局所の酸素供給が不足すると、このKチャネルが開き、活動電位のプラトー相は著しく短縮し、収縮力が減弱する。これによって細胞のATP消費は抑制され、過度のATP減少による不可逆的な細胞傷害を防ぐと考えられる。

◆自律神経による心筋細胞活動調節。交感神経活動は神経末端からノルアドレナリンを放出し、細胞内cAMP濃度上昇、cAMP依存性プロテインキナーゼの活性化によって、心収縮力の増大(positive inotropic effect)、心拍動数の増加(positive chronotropic effect)をもたらす。L型Caチャネルのリン酸化による開口確率の上昇と、筋小胞体膜上のCaポンプの活性化による。交感神経および迷走神経の緊張は心拍数や心収縮を変化させるが、これは神経終末から放出される神経伝達物質が受容体を介して心筋のイオンチャネルの機能を調節するためである。


   膜受容体を介したイオンチャネルの機能調節には、神経筋接合部のニコチン性アセチルコリン(ACh)受容体に代表されるように受容体分子そのものがイオンチャネルとして機能する場合と、受容体分子とイオンチャネルが異なり細胞内二次メッセンジャーが信号を伝達する2つの場合があるが、心筋における調節機構はほとんどの場合後者であり、GTP結合タンパク(Gタンパク)を介する情報伝達系で制御されている。細胞膜受容体がアデニル酸シクラーゼなどの効果器を調節するとき、膜タンパクのGTP結合タンパクがそのトランスデューサーとして働く。αβγのサブユニットからなるヘテロトリマーである。

   β受容体は促進型Gタンパク(Gs)に共役しており、βアドレナリン受容体刺激はGsを介しアデニル酸シクラーゼ(AC)を提進し細胞内サイクリックAMP(cAMP)を増加させる。これはcAMP依存性プロテインキナーゼ(Aキナーゼ)の活性化をきたし、心筋のL型Ca2+チャネルをリン酸化しCa2+電流を増大させる。
   一方、ACを抑制する抑制型Gタンパク(Gi)に共役するm2ムスカリン受容体やアデノシン受容体(A1プリン受容体)の刺激は、それだけでは細胞内cAMP濃度にほとんど影響しないが、βアゴニストなどで細胞内cAMPを増加させておくとそれを減少させ、これに伴って増大していたCa2+電流も減少させる(ACh、アデノシンの間接作用)これはGsにより促進されたAC活性がG1の活性化により抑制されるためで、AC活性のGタンパクによる二重制御といわれる。


◆ムスカリン性受容体依存性Kチャネルと迷走神経支配。神経伝達物質であるアセチルコリンはムスカリン性受容体に結合し、活性化されたムスカリン性受容体はGTP結合タンパクを活性化する。このGTP結合タンパクによって、特異なKチャネルが活性化する。これによって膜電位は過分極する。これによって、洞房結節細胞で心拍動数を減少し、房室結節では伝導遅延を引き起こす。KAChの発現していない心室筋細胞ではみられない。しかしながら、心室筋細胞では、抑制性GTP結合タンパクを介して、β-受容体刺激によって活性化されたアデニレートサイクラーゼの活性を抑制し、β-受容体刺激に拮抗的に働く。



B) 心臓の機械的特性

◆心筋は横紋筋の一種で、細胞内にはアクチン、ミオシン、トロポミオシン、トロポニンが規則正しく、しかも密に分布している。これら筋繊維の半屈折率が異なるため、心筋細胞には約2ミクロンで繰り返す横紋が観察される。細胞内Caイオン増加による筋線維収縮のメカニズムは骨格筋と同様である。

◆心筋の興奮収縮連関。活動電位はT管に伝わり、この脱分極によりL型Caチャネル(dihydropyridine結合タンパクとして同定されたので、ジヒドロピリジン受容体ともよばれる)が活性化し、細胞膜を介してCaイオンの流入が起きる。T管に接合している筋小胞体膜にはCa放出チャネル(ryanodine結合タンパクとして同定されたので、ライアノジン受容体ともよばれる)が存在し、L型Caチャネルとカップルしている数個のCa放出チャネルが流入したCaと結合して活性化され、筋小胞体に蓄積していたCaイオンを放出する(Ca誘発Ca放出、Ca-induced Ca release、CICR)。細胞内のCaイオン濃度は一過性に数マイクロモルになる。外液のCaイオンを除去すると、心筋収縮は抑制される。

◆心筋収縮の階段現象(staircase pHenomenon)。筋小胞体から放出されたCaイオンの70〜80%は筋小胞体膜に存在するCaポンプの働きによって再び筋小胞体内に取り込まれる。残りはNa/Ca交換機転を介して、細胞外へ輸送される。心拍動数が増加すると、Caチャネルを介するCa流入が増す。さらに、静止膜電位にいる時間が活動電位を発生している時間に比較して相対的に減少するため、Na/Ca交換によるCa排出が抑制され、筋小胞体のCa蓄積量が増す。このため、1回の興奮収縮連関で放出されるCa量が増加し、収縮力が増強される。これを正の階段現象(positive staircase)とよぶ。逆の現象を負の階段現象とよぶ。

◆心筋の長さ張力関係、Frank Starlingの現象。心筋の静止長を伸ばしていくと、刺激による発生張力の振幅が大きくなる。筋節長が2.2ミクロンで最大発生張力を得ることができる。それ以上伸ばすと、逆に発生張力は抑制される。心臓の器官レベルで考えると、拡張期血液充満度が高くなり、心筋壁が伸展されると、心収縮力が増強されることになる。これによって心拍出量が自動的に増加する。

◆細胞内Ca濃度の調節。L-型Caチャネルを介して流入したCaイオンは細胞膜を介して細胞外へ排出される。これを担っているのがNa/Ca交換機転とよばれるもので、細胞膜に存在する膜貫通タンパクであるNCXによっている。NaやCaイオンが結合すると、タンパクの立体構造が変化し、イオン結合部位が膜の反対側に向かって開くことによって、イオン輸送が起きると考えられている。ATPを消費しない輸送で、NaイオンとCaイオンの電気化学的エネルギーの和で輸送が決定される。n個のNaイオンと1個のCaイオンの交換(n:交換比率、stoichiometry)であるとすると、この輸送の平衡電位(ENaCa)が決定できる。
ENaCa = (n×ENa−2ECa)/(n−2)
ENa、ECaはNernstの式で決定される平衡電位。n=3であると考えられている。いまENa=+50mV、ECa=+110mVであるとすると、ENaCa=-70mVとなり、静止電位-90mVでは、細胞内に3個のNa+が運ばれ、それと交換に1個のCa2+が細胞外に向けて運ばれることになる。すなわち、細胞膜を介するNaの濃度勾配を利用して、細胞からCaが運び出されることになる。


心筋細胞の収縮(参考)

心臓は生体内における血液循環ポンプとして、全身の重要臓器に十分な循環血液量を供給するという生命の維持に不可欠な役割を担っている。このポンプ機能の源は、個々の心筋細胞の収縮弛緩機能である。
   細胞内Ca2+は心筋細胞収縮弛緩の調節に中心的役割を演じているすべての収縮性調節は、
         @ 細胞内Ca2+動員機構
         A 収縮タンパク質Ca2+感受性
         B 両機構の修飾
により達成される。頻度収縮連関、ジギタリスなどの強心薬は主として@の機構を介し、Frank Starling機序は主としてAを、またカテコールアミンはBの機序を介して特徴的な収縮弛緩の調節をする。
   心筋細胞は内因性および外因性調節機構を介してその収縮性を非常に広範囲にわたり変化させうるという特徴を備えている。内因性調節機構としてはFrank Starling機序および頻度収縮連関がある。また外因性調節機構として最も重要なのは、交感神経興奮により遊離されるノルアドレナリンによるβ受容体を介する促進機構である。一方、抑制機構としてはムスカリンM2受容体およびアデノシン受容体を介するものがある。
   心筋細胞内カルシウム([Ca2+]i)は心筋収縮弛緩およびその調節の中心的機構であり、すべての調節はCa2+シグナルを介して達成される。心作用薬(強心薬および心筋収縮抑制薬)の作用も直接的または間接的にCa2+シグナルの修飾により発揮される。


収縮弛緩調節機構とCa2+シグナル

1. Frank Starling機序
   心筋細胞収縮性の内因性調節機構として最も重要な役割を演じている。“length-tension relation”(筋長・張力関係)または“ventricular function curve”(心室機能曲線)としても知られ、心筋収縮性の指標として古くから用いられている。これは心筋細胞が引き延ばされればその程度に応じて発生張力を増加するという心筋細胞がもっている基本的な性質で、太い線維と細い線維の重なりの程度が引き延ばしの程度により異なることによる。この調節は[Ca2+]iの変化にほとんど伴われずに起こる。    この機構は、心臓ポンプ機能が静脈環流量の増加に反応してただちに拍出量を増加させ、またすぐにもとの収縮状態に戻すという非常に都合のよい性質をもつ。収縮不全はこの機構の不全として最もはっきりと認識される。心不全による変化は膜受容体、イオンチャネル、Gタンパク質、Ca2+ポンプ、収縮タンパク質Ca2+感受性を含む多岐にわたる病態生理学的な変化を引き起こす。

2. 頻度収縮連関frequency-force relationship(FFR)
   心拍数が変化すると心筋細胞の収縮性はそれに応じて変化する。これによる収縮性の変化は実験動物、心筋の部位で異なる。この機構の中心的役割を演じているのは[Ca2+]動態の刺激頻度による修飾である。この機構の細胞レベルにおける機序としては、@刺激頻度上昇による膜脱分極時間の延長によって引き起こされる単位時間内L型Ca2+チャネル流入Ca2+量の増加、A細胞内Na+蓄積によるNa+Ca2+交換機構を介する[Ca2+]、上昇などが実験的に証明されている。心拍数上昇は心筋酸素消費量を増加させる主要な因子であり、また心室充満時間を減少させるので、この機構を介する収縮性増強の治療における意義は小さい、心拍数増加を伴う強心薬は、しばしば心筋酸素消費量増加によりむしろ不全心筋を悪化させる。これには健常者の心臓で観察される正の階段現象(positive staircase pHenomenon:刺激頻度の上昇による発生張力の段階的増加)が心不全患者の心臓では消失する、さらには負の階段現象(negative staircase pHenomenon)に逆転することも関与している。この機構は、生理的収縮頻度範囲内では主として細胞内CaTのピーク上昇に伴われて起こる。収縮頻度の著しい上昇はCaTをさらに顕著に上昇させるが、その上昇はもはや収縮張力上昇に反映されない。このことは、著しい頻拍は拡張期の短縮による血液循環に対する好ましくない影響とともに、細胞内Ca2+過剰負荷による心筋細胞傷害を起こす危険性をもつことを示唆している。

3. カテコールアミン、アセチルコリン
   カテコールアミン類(交感神経作動薬)によるβ受容体を介するcAMPの生成は、促進性GTP結合タンパク質Gsを介するアデニル酸シクラーゼの活性化サブユニット(Catalytic subunit:CS)への共役によって起こる。cAMP蓄積はプロテインキナーゼA(PKA)活性化による機能調節タンパク質のリン酸化により、Ca2+チャネルおよびCa2+ポンプ機能を修飾する。リン酸化によるタンパク質構造変化により、Ca2+チャネルの利用度(availability)は増加しCa2+流入量は増加する。
   SRのCa2+輸送制御タンパク質であるホスホランバンのリン酸化はSR内へのCa2+取り込み連度を促進し、上昇した[Ca2+]を静止レベルに戻す。この効果はカテコールアミンの弛緩促進効果に寄与する。SR内に取り込まれたCa2+は次回の収縮に際して、遊離Ca2+量を増加することにより収縮力増強作用に寄与する。収縮タンパク質リン酸化は、cAMPによる収縮タンパク質Ca2+感受性減少を引き起こす。



C) 心電図 cardiac electrogram

◆心電図が記録できるメカニズムを理解する。心室筋細胞の大きさは長さ120ミクロン、幅30ミクロン、厚さ7ミクロン程度の直方体に近い形をしている。心筋壁は無数の細胞でできているが、それぞれの細胞はギャップジャンクションを介して電気的につながっている。活動電位がこれら無数の細胞に伝播されるとき、脱分極した細胞から次に脱分極する細胞に向かって、ギャップジャンクションを通じて電流が流れる。この局所電流は細胞外に電位勾配を発生する。この電位差を体の表面で記録するのが心電図である、細胞の興奮がきわめて多数の細胞で同期しているため、細胞外に発生する電位差は比較的大きく、最大振幅は1mV程度になる。

◆心電図は心臓の電気的な活動を調べる目的で記録されるが、そのため、一定の記録方法が採用されている。心電図の12誘導:標準肢誘導(3)、単極肢誘導(3)、単極胸部肢誘導(6)。基本的な波形に、P波、QRS波、T波があるが、P波は心房内に興奮が伝播する時、QRS波は心室筋全体に興奮が伝播するとき、T波は心室筋全体に再分極が広がっていくときに記録される。



D) 血圧調節

   血圧の神経性調節の主役は交感神経系である。副交感神経系は、その迷走神経を介しての心拍減少作用で血圧調節に関与していることはよく知られたところであるが、その他の作用は十分明らかでない。慢性の血圧調節にわいて心臓血管系の細胞、腎の細胞などの機能、代謝、増殖、肥大などに神経系が関与することは当然考えられるが、その詳細は明らかでない。

   血圧を直接支配する血管運動中枢は脳幹部にある。脳橋の下1/3と延髄の上2/7の位置で網様体内に存在する。その側方部が血管の収縮緊張を高めるインパルスを出す部で、内方部は側方部を抑制して血管を拡張させる。孤束核(Nucleus Tractus Solitarius:NTS)を中心とする調圧反射がその中心的な役割をしている。
      1.間脳、中脳、脳橋の中には血管運動中枢を促進する細胞群と抑制する細胞群が広く分布している。
2.視床下部の後側方部は交感神経に強力な興奮性の影響を及ぼす。視床下部の前方には血管拡張性に作用する部がある。
3.大脳の運動性皮質、側頭葉の前力部、前頭葉の眼窩回などにも血管運動神経に影響する部のあることが知られており、運動性皮質には直接筋肉内血管拡張作用のあるインパルスを出す部の存在も知られている。
   血管運動中枢の心臓に対する作用の分布は、初めに述べた血管に対するものと同様で、外側部は興奮性に、内側部は迷走神経の背側運動核を介して抑制的に作用する
   血管運動中枢を出た交感神経インパルスは、脊髄の側索を下り、側柱核に達する。ここでニューロンの交代をして交感神経節に至る。ここより節後神経が出発して全身の血管および内臓に分布する。副腎髄質には、側柱核から直接、交感神経節でニューロンの交代をしない線維が分布、支配する。交感神経系は最終的には、その末端において主としてノルアドレナリン、ときに、アドレナリン、ドーパミンを放出してその作用を発揮する。作用を受ける側には、2種類の受容体α、βがあって、それぞれ異なった作用を発揮する。


心臓反射 cardiac reflex

   心臓を効果器とするような反射を心臓反射と称する。心臓反射は単独におこってくることはまれで、ほとんどの場合血管系を含む全身的な循環調節機序の一環として発現するものである。したがって心臓血管反射 cardiovascular reflexとよぶほうが適切である。刺激の種類や受容器の部位によって、いくつかのものに分類される

1) ベインブリッジ反射 Bainbridge reflex
   心臓へ戻る静脈還流量が増大するとき<心拍数の増加>をきたす反射で、迷走神経を切断すると消失する。この反射の受容器は左心房の肺静脈開目部付近にあると考えられている、還流血液量の増大によってこの部分が伸展刺激を受け、迷走神経求心枝を介して延髄の心臓血管中枢へ信号を送り込む。常に心拍数の増加をもたらすとは限らず、本来の心拍数が高いときはかえって徐脈をきたすことがある。

2) 圧受容体反射 baroreceptor reflex
   圧受容体反射には、動脈圧受容体反射と心肺圧受容体反射がある
   動脈圧受容体反射:動脈血圧が上昇するときは負のフィードバック機構が働いて末梢血管のトーヌスを減少し、血圧をもとのレベルに戻そうとする。これに伴って心拍数の減少がみられる。血圧変化を感受する圧受容体baroreceptorは頸動脈洞Carotid sinus、および大動脈弓aortic arcの血管壁に存在する。動脈圧の上昇により動脈壁が伸展されるとインパルスを発生する(イヌ;頸動脈洞は低血圧域110〜220mmHg、大動脈弓は高血圧域60〜160mmHg)。血圧が増大すると頸動脈洞からのインパルスは舌咽神経求心枝を経て、また大動脈壁からのインパルスは迷走神経求心枝を経て延髄の中枢へ伝えられる。伝達された信号は、反射弓の下行性神経である交感神経および迷走神経の活動を変化させる。まず心臓促進神経の緊張低下、ついで心臓抑制神経の緊張亢進がおこって心拍数が減少する。血圧が下降するときは逆の反応がおこる。
   ヒトでわかっているのは、大動脈弓圧受容体が低血圧域で働かないこと、また心拍調節に強く関与していること程度。
   心肺圧受容体反射:今日では肺静脈、左心房、右心房および左右心室(endeocard、myocard、epicard)にも類似のreceptorのあることが証明された(心肺圧受容体)。したがって圧受容器反射は動脈圧受容体反射と心肺圧受容体反射に大別できる。肺静脈圧。心房圧あるいは心室拡張期圧が上昇すると心肺圧受容体が刺激を受け、インパルスを発生する。発生したインパルスは、主として迷走神経を上行して脳幹部の血管中枢に到達し、末梢交感神経の興奮性を調節する。心肺圧受容体は、主として静脈還流量の変化を感受して、特に腎交感神経および抗利尿ホルモンを介して、体液量の調節に関与している。

3) 化学受容器反射 chemoreceptor reflex
   血液中のPCO2、pH、PO2などが変化すると心臓循環系および呼吸器系にいろいろな反射効果が現われる。この受容器は頸動脈小体carotid bodyと大動脈弓部に存在する大動脈小体aortic bodyである。PCO2が上昇したりpHあるいはPO2が減少したりすると、そのインパルスが舌咽神経および迷走神経を上行して延髄の呼吸中枢ならびに心臓血管中枢に達する。これによって一般に頻呼吸tachypnea−昇圧hypertension−速脈tachycardiaなどがおきる。


現象>>>
(1) 呼吸性不整脈 respiratory reflex
   呼吸運動に伴って心拍数が変化する。普通の呼吸数の場合、吸息相で心拍が促進し呼息相で減少する。迷走神経緊張が高い状態では呼吸性不整脈は顕著となる。この不整脈は中枢性のメカニズムと反射を介する効果とが重畳して現われてくるものである。すなわち吸息時に胸腔内の陰圧が高くなると静脈還流量が増大し、それに伴ってBainbridge反射による心拍増加がおこる。ついで左心室からの拍出量が増大すると、減圧反射とともに徐脈反射が誘発される。また肺を伸展すると頻脈をおこす反射の存在も知られている。この反射の求心路は迷走神経である。さらに延髄網様体において心臓血管中枢と呼吸中枢とはニューロンを介して互いに連絡を有しており、これによっても呼吸のリズムに同期した心拍の変動がもたらされる。

(2) アシュナー反射 Aschner's reflex
   ヒトの眼球を圧迫するとき徐脈をおこす反射で、求心性インパルスは三叉神経内を通って心臓血管中枢へ向かう。


血圧の調節に関与する機構を抑制機構と亢進機構に分ける

(抑制機構)

(1) 圧受容体反射機構
   頸動脈洞および大動脈弓に圧力を感受する受容器(baroreceptor)があり、圧情報を血管運動中枢に送り、反射的に圧の変動を修正する。この2つのbaroreceptorは最も早く発見され、明確に実証されたものであるが、今日では左心房、右心房および左右心室(endeocard、myocard、epicard)にも類似のreceptorのあることが証明された。さらに他臓器の血管系にも何らかの血流血圧情報に関係あるreceptorが存在するであろうことが考えられる。

(2) 化学受容体機構
   頸動脈体および大動脈体は本来血液のO2分圧を感受する化学受容体(chemical receptor)であるが、血圧が80mmHg以下になるとO2欠乏のsignalを出して、反射的に圧を上昇させる。

(3) stress relaxation機構
   末梢血管に長期にわたり、圧上昇による壁の伸展が続くと、その部の血管壁が白動的にrelaxして伸展し、その部の血圧が下がるようになる。

(4) 毛細血管−体液移動機構
血圧が急に上昇すると毛細血管圧も上昇して、水分・塩分が細胞間質に漏出して、循環血液量がそれだげ減少し、心拍出量が減り、血圧は正常化に向かう。


(亢進機構)

(1) 中枢神経虚血反応
   延髄の血管運動中枢が40mmHg以下の血圧低下により、虚血に陥ると交感神経中枢が興奮して末梢血管を収縮し、心臓を刺激して血圧を上昇させる。

(2) 腎−体液機構
   血圧が低下すれば、腎動脈圧も低下し、腎の水分・塩分排出能が低下して体内に水分・塩分が貯留し、血液量が大となり、血圧が上昇する。

(3) レニン−アンジオテンシン機構
   腎動脈の圧が低下すると、糸球体輸入細動脈の圧が低下し、これが刺激となって輸入細動脈の糸球体に入る直前の部分の壁細胞から一種のタンパク質が分泌される。これがレニンである。レニンはタンパク分解酵素で血中にあるレニン基質(肝で生成されるα2グロブリンに属するタンパク質)に作用して、アンジオテンシンIなるアミノ酸10個のポリペプチドを作る。アンジオテンシンIは血中に存在する転換酵素により、アンジオテンシンIなるアミノ酸8個のポリペプチドとなる。これは強力な血管収縮作用と心収縮増強作用がある。したがって腎動脈の血圧の低下は血圧の上昇を来す。

(4) アンジオテンシン−アルドステロン機構
   アンジオテンシンIは副腎皮質に作用してアルドステロンの分泌を促す。アルドステロンは腎の尿細管に作用して、強力にNaの再吸収を促す。さらに血中食塩の濃度の増加により抗利尿ホルモン(ADH)その他により水分の再吸収も促進される。その結果血液量が増加し、静脈還流が増し、心拍出畳が増大して、血圧の上昇を来す。

(5) その他の血圧調節機構
   以上はやや明確に知られている血圧調節に関与する諸機構の概要を述べたのであるが、そのほかに、プロスタグランディン、ADH、プラジキニン、ヒスタミン、セロトニンその他多数の物質が血圧調節機構に関与しているものと考えられる。そしてすべての機構が中枢神経系により、総括的に神経性、体液性に調節されて、1つの高度な調節システムが構成されている。


Na+利尿ホルモンについて
   本態性高血圧症の発症がNa+過剰摂取と密接な関係を有することは、本症についての疫学的研究、Dahl食塩感受性高血圧ラットの病態との類似、本症患者では利尿剤が有効であり、また一部の本症患者では明らかな食塩感受性を有するなどの事実から十分に推察することができる。1960年台後半から1970年台前半にかげ、輸血あるいは食塩負荷により細胞外液量を増加させた場合、Na+利尿ホルモンが出現することが指摘されていたが、その後Haddyら、およびde Wardnerらはこの利尿ホルモンはNa-K ATPase活性を抑制することにより利尿効果をもたらすことを見出した。これはきわめて重大な発見である。なぜならば、Na-K ATPase抑制作用、すなわちウアベイン作用は血管平滑筋の収縮を高めるように作用するからである。
   骨格筋のみならず、平滑筋においても、収縮タンパクの活性化には細胞内Caの増加が必須である。骨格筋では細胞内のCa貯蔵量が多いため、筋収縮は細胞外Caの細胞内への流入に依存しないのに対し、平滑筋収縮力は筋小胞体から遊離するCa2+の他に、細胞外から細胞内に流入するCa2+量に依存している。平滑筋細胞が収縮するためには細胞内Ca2+濃度が10-1M以上に上昇することが必要であり、弛緩状態における細胞内Ca2+濃度は10-1Mとされている。これに対し、細胞外Ca濃度は約10-3Mである。このように細胞内Ca2+濃度を低く維持するため平滑筋細胞も心筋細胞同様いろいろなCa排出機構(Ca2+ポンプ、CaCa2+交換機構、Na+Ca2+交換機構を有している。これらのいずれかのCa排出機構が障害されてもCa濃度上昇をもたらし、血管収縮を促進することになる。Na+貯留状態ではNa-K ATPase活性が抑制された結果細胞膜の脱分極が起こり、またNa濃度勾配の減少の結果、Ca2+の細胞内流入が促進される。



E) 血圧調節における腎の役割

   血圧の神経性調節には、交感神経が最も重要な役割を果たすが、慢性長期にわたる血圧調節のためには、交感神経系の腎に対する支配が重要な役割を果たすことが明らかになってきた。
   血圧の調節には多くの機構が参加している。そしてその多くが、サーホ制御機構)である。このmechanismは2component(構成要素)から成っている。
(1) 血圧がある生理的要求に適した値(setpoint)から外れると、その外れたという情報(出力情報の一部)を入力側にfeedbackして、白己修正してsetpointの血圧値に戻す能力である。
(2) は生理的要求に適した血圧、すなわち循環系を含めて、全身の細胞から、最適血流供給に必要な情報を集めて、これを処理し、最適血圧(setpoint)を設定する機構である。
   今まで述べた諸機構の大部分は(1)のcomponent。
   (1)のcomponentにおける腎の機能状態と水分塩分摂取量のバランスの重要性を、実験的、臨床的に明らかにしたのはGuytonおよびその共同研究者たちである。循環血液量が、水分・塩分の摂取量と腎からの排泄量によって決定されることは自明の理であるが。Guytonはこの水分・塩分の摂取量と血圧との関係を、実験的、臨床的に腎の機能状態をいろいろ変化させ図示し、これを腎機能曲線とよんだ。
   健康者と高血圧者との腎の機能曲線で最も重要なことは同一量の水分・塩分摂取量に対し、平衡点(equilibrium point)が正常血圧者に対し、高血圧著が血圧の高いほうにずれているということである。かくしてGuytonは血圧調節の2つの基本的法則を提唱した。
法則1. 塩分摂取、排泄の平衡点が高い血圧水準にshiftしていない限り、慢性の高血圧を発症させることはできない。
法則2. 食塩の摂取と排泄のバランスに対する平衡点が、高血圧レベルまで移動すると、その人は高血圧となり、平衡点の血圧レベルに達する。
   この2つの法則を認めるとすれば、普通の食塩摂取をしている人に高血圧が発症し、それが持続するためには腎機能状態が決定的に重要な役割を演ずることを認めざるをえない。そして腎は血圧の調節というServocontroller mechanismにおいて、setpointsetterの重要な構成因子ということになる。ただしsetpointsetterそのものであるかというと事情はそう簡単でない。腎の機能曲線は腎に影響を与える諸種の外的因子によって変化するからである。

   この腎機能状態に影響を与え、equilibrium pointを高血圧の側にshiftさせる因子として,腎の糸球存渡過量を下げる因子(A)と、尿細管における塩分の再吸収を促進する因子(B)とを挙げている。
(A) 腎の糸球存渡過量を下げる因子
   (1) 腎血管抵抗の増大
   (2) 腎の交感神経刺激
   (3) 腎に対するアンジオテンシンの血管収縮増強作用
   (4) 腎の血管抵抗を増大させる病理的作用
   (5) 糸球体濾過率を低下させる病理的作用
   (6) 血漿のコロイド浸透圧の増大
(B) 尿細管における塩分の再吸収を促進する因子
   (1) 食塩再吸収を増大させるアルドステロンの作用
   (2) 水および食塩の再吸収を増加させるアンジオテンシンの作用
   (3) その他今日いまだ知られていない再吸収を増加させる何らかの作用
この説に従えば臨床的な2次性高血圧症のすべては、上述のいずれかの項を満たすこととなり、その高血圧の発症の説明がつく。本態性圧症の原因となる案件もその中に含まれているであろう。


   Guytonは単に糸球体濾過量を下げる因子としてのみ、腎に対する交感神経系の刺激作用をあげている。しかし交感神経系は、@そのα作用によって、腎の小・細動脈を収縮させ、腎血管抵抗を増大させ、糸球体濾過量を減少させる、またAそのβ作用によって、レニン分泌を促進する。その結果、血中アンジオテンシンが増加し、Aの(3)が起こる。さらにアンジオテンシン1はアルドステロンの分泌を促進し、Bの(1)が起こる。交感神経はさらにそのα作用によって、尿細管に作用して、Naの再吸取を促進する(Bの(3))。かくして、腎に対する交感神経支配こそは3機能曲線のequilibrium pointをshiftさせる原因となる。つまり長期的な血圧値調節のSetpointを決める物理的なメカニズムの本態は腎そのものであるが(servomechanismの第1のcomponent)、そのsetpointをshiftさせるsetpointのsetterは交感神経系であるということになる(servomechanismの第2のcomponent)
   腎交感神経の化学伝達物質:NEが主たる伝達物質と考えられる。DAの腎静脈血中濃度はNEの約1/10〜1/20程度である。副交感神経の支配およびその生理機能に関する研究は乏しい。


1. 尿細管Na再吸収の調節(腎交感神経によるα作動性の尿細管再吸収促進)
   麻酔イヌの腎神経を切断し、その末相端を電気的に刺激する(RNS)と、腎静脈血中のノルエピネフリン(NE)・ドーパミン(DA)濃度は刺激の強さに依存して増加する。エピネフリンも腎静脈血中にはみられるが、RNSによる増加は認められない。本機構は特にNa摂取制限や水欠乏時に際し、RNAの亢進を通じてNa再吸収を促進させ、細胞外液量の保持に向けて作動するものと理解できる
   腎神経刺激のうち、刺激が強い時のUNaV減少はGFR減少に伴う2次的な変化の占める部分が大きい。しかし比較的弱い刺激では、RBF、GFR、血流分布の変化なしにUNaVのみが減少する。頸動脈洞の潅流圧を減少させ、反射的に遠心性の腎交感神経の活性(RNA)を亢進させた場合も同様にUNaVのみの減少が認められる。これらのUNaV減少反応は、αアドレナリン受容体遮断薬で消失する。左心房の仲展(これは迷走神経に含まれる求心性神経の活性を通じ結果として腎への遠心性RNAを減少させる)を行なうと、RBF、GFRの変化を伴わずにUNaVは増加する。RNA亢進によるNa再吸収促進機構は近位尿細管に存在する。
   除神経利尿現象:除神経腎では、近位尿細管での腎交感神経によるNa再吸収機構が作動していないため、この場合もRBF、GFRの変化を伴わずに尿量とUNaVの増加が生ずるのである。    自然発症高血圧ラット(SHR、ヒトの本態性高血圧に類似する):腎交感神経を切断すると高血圧発症の遅延が生し、これはUNaVの増大、すなわちNa貯留の減少と相関する。また、腎神経の再生と相伴って高血圧症が進展し、それもUNaVの低下すなわち貯留の増大と相関することが知られている。    片側腎交感神経切除:等張生理食塩水投与下の無麻酔ラットで・側腎の交感神経を切除しておくと、同側腎では尿量、UNaVの増加がみられるが、同時に神経健常の他側腎では尿量、UNaVの減少が生ずる。引き続いて他側腎も除神経すると、この尿量、UNaV減少は消失し細胞外液量の恒常性を調節する。

2. レニン遊離
   全身血圧調節機構の1つとしてレニンアンジオテンシン系があげられるが、腎におけるレニン産生・遊離はこの系を発動させる第1段階である。腎交感神経系の興奮はレニン遊離を引き起こす。立位、運動、出血、頸動脈狭窄時に観察されるレニン遊離反応は、循環カテコールアミン量の増大やRNAの亢進に起因している。逆に左心房の伸展を行ないRNAを低下させた場合にはレニン遊離は減少する。交感神経系によるレニン遊離反応はプロプラノロール投与により抑制されることから、β作動性であると考えられる。
   腎皮質内に存在するJG cellからのレニン遊離機構としては、腎交感神経β受容体機構のほかに、輸入細動脈壁張力の変化に反応するbaroreceptor機構、遠位尿細管へのNa転送の変化に反応するmaculadensa機構が知られている。
   RBF、GFRの減少を来さないようなきわめて弱いRNSを行なったときにはβ受容体機構のみを介してRSRが増加するが、高頻度のRNSのようにRNAが大きく亢進すると、α受容体を介したRBF、GFR、UNaVの減少が生じてくる。
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