◆心筋の興奮収縮連関。活動電位はT管に伝わり、この脱分極によりL型Caチャネル(dihydropyridine結合タンパクとして同定されたので、ジヒドロピリジン受容体ともよばれる)が活性化し、細胞膜を介してCaイオンの流入が起きる。T管に接合している筋小胞体膜にはCa放出チャネル(ryanodine結合タンパクとして同定されたので、ライアノジン受容体ともよばれる)が存在し、L型Caチャネルとカップルしている数個のCa放出チャネルが流入したCaと結合して活性化され、筋小胞体に蓄積していたCaイオンを放出する(Ca誘発Ca放出、Ca-induced Ca release、CICR)。細胞内のCaイオン濃度は一過性に数マイクロモルになる。外液のCaイオンを除去すると、心筋収縮は抑制される。
心臓は生体内における血液循環ポンプとして、全身の重要臓器に十分な循環血液量を供給するという生命の維持に不可欠な役割を担っている。このポンプ機能の源は、個々の心筋細胞の収縮弛緩機能である。
細胞内Ca2+は心筋細胞収縮弛緩の調節に中心的役割を演じているすべての収縮性調節は、
@ 細胞内Ca2+動員機構
A 収縮タンパク質Ca2+感受性
B 両機構の修飾
により達成される。頻度収縮連関、ジギタリスなどの強心薬は主として@の機構を介し、Frank Starling機序は主としてAを、またカテコールアミンはBの機序を介して特徴的な収縮弛緩の調節をする。
心筋細胞は内因性および外因性調節機構を介してその収縮性を非常に広範囲にわたり変化させうるという特徴を備えている。内因性調節機構としてはFrank Starling機序および頻度収縮連関がある。また外因性調節機構として最も重要なのは、交感神経興奮により遊離されるノルアドレナリンによるβ受容体を介する促進機構である。一方、抑制機構としてはムスカリンM2受容体およびアデノシン受容体を介するものがある。
心筋細胞内カルシウム([Ca2+]i)は心筋収縮弛緩およびその調節の中心的機構であり、すべての調節はCa2+シグナルを介して達成される。心作用薬(強心薬および心筋収縮抑制薬)の作用も直接的または間接的にCa2+シグナルの修飾により発揮される。
収縮弛緩調節機構とCa2+シグナル
1. Frank Starling機序
心筋細胞収縮性の内因性調節機構として最も重要な役割を演じている。“length-tension relation”(筋長・張力関係)または“ventricular function curve”(心室機能曲線)としても知られ、心筋収縮性の指標として古くから用いられている。これは心筋細胞が引き延ばされればその程度に応じて発生張力を増加するという心筋細胞がもっている基本的な性質で、太い線維と細い線維の重なりの程度が引き延ばしの程度により異なることによる。この調節は[Ca2+]iの変化にほとんど伴われずに起こる。
この機構は、心臓ポンプ機能が静脈環流量の増加に反応してただちに拍出量を増加させ、またすぐにもとの収縮状態に戻すという非常に都合のよい性質をもつ。収縮不全はこの機構の不全として最もはっきりと認識される。心不全による変化は膜受容体、イオンチャネル、Gタンパク質、Ca2+ポンプ、収縮タンパク質Ca2+感受性を含む多岐にわたる病態生理学的な変化を引き起こす。