(+)鎖RNAをゲノムとする直径約30nmの正二十面体の粒子
◇ポリオウイルス
- 急性灰白髄炎(小児麻痺)の病因ウイルス
- 99%以上は不顕性感染
- 自然宿主はヒトのみ → 最近WHOにより撲滅宣言がなされた
※ | 自然宿主がヒト以外に存在する場合、そのウイルスを地球上から撲滅することは事実上不可能。次に撲滅宣言がなされるのは麻疹ウイルスとされている。 |
- 経口感染 → 消化管の粘膜上皮細胞で増殖 →(局所リンパ節)→ 血中に侵入 →(ウイルス血症)→ 中枢神経に侵入 → 運動神経細胞の破壊
◇A型肝炎ウイルス
- 経口感染(汚染された食物や水を介して)→ 肝臓で主に増殖
- 潜伏期は約1ヶ月でその後に発熱・悪心・嘔吐・黄疸などが起こる。慢性化することは通常ない。小児では不顕性感染が多く、高齢者では重症化することが多い。
- 罹患頻度は衛生環境に影響される。発展途上国では幼児期に感染するが、先進国では成人まで感染しないことが多い。成人が感染すると発症率が高い。
- 予防は衛生環境の整備、免疫グロブリン製剤や不活化ワクチン
- 治療は対症療法のみで十分(水分、電解質補給)
分節状2本鎖RNAをゲノムとする直径60〜80nmのエンベロープをもたないウイルス
◇ロタウイルス
- 直径約70nm、外殻カプシドの表面は平滑でこれを車輪のリムに見立てると、内殻カプシドとの間にスポーク状の構造が見られる(rota=ラテン語で車輪の意味)
- 11個の分節に分かれた2本鎖RNAからなる。ウイルス株間でしばしば遺伝子分節の交換genetic reassortmentを起こす
- ゲノムのポリアクリロアミドゲル電気泳動のパターンは、electropherotypeとよばれ、特定のウイルス株を追跡するよい指標になるので、疫学的研究に使われる。種が異なる動物に由来するロタウイルスのゲノム相同性は低い。そのため、サルのロタウイルスをベースにして中和に最も適当なVP7遺伝子をヒトロタウイルスのものに置換した遺伝子組替え体ワクチンが臨床導入されようとしている
- 一般に不顕性感染であるが、乳幼児の胃腸炎の原因ウイルスである。発熱、嘔吐、米のとぎ汁様の白色下痢便、腹痛などが主な症状
- 経口的に摂取され、小腸に到達すると、絨毛突起先端部の上皮細胞で増殖し、細胞の脱落を起こす結果、小腸の吸収能が阻害され、下痢が引き起こされる
分節(−)鎖RNAをゲノムとする、らせん対称のカプシドをもつウイルス
◇インフルエンザウイルス
- A型、B型、C型があり、A型、B型は8つ、C型は7つの分節に分かれている
- 抗原不連続変異
インフルエンザウイルスのようなゲノムが分節になっているウイルスでは、ゲノムは分節ごとに別々に複製され、各分節が一組ずつ集合してウイルス粒子が形成される。そのため、異なる2種類のウイルスが同時に感染した場合は、別々に複製されている分節が相互に入れ替わって、遺伝的にさらに異なるウイルスが生成されることがある。これにより、今までとまったく異なる新たな抗原性をもったウイルスが生じる。これを抗原不連続変異といい、ヒト側に感染防御能がないために世界的大流行が起こりうる。1968年のホンコンかぜ、1977年のソ連かぜなどは抗原不連続変異が原因
- 抗原連続変異
インフルエンザウイルスHA分子には5箇所に互いに異なる抗原決定基がある。このHAゲノムRNAは、複製時に点突然変異point mutationを起こしやすい。一個のヌクレオチドの置換によりそれに対応するアミノ酸置換が起こり、抗原決定基が変化するためHA分子全体としての抗原性に一部ずれが生じる。A型、B型のインフルエンザウイルスに見られ、これにより小流行が起こる
(−)鎖RNAをゲノムとする、らせん対称のカプシドをもつウイルス
◇麻疹ウイルス
- 感染細胞は他の細胞と融合して多核巨細胞を形成する。これにはウイルスのF(fusion)タンパクとHNタンパクが関与している
- 気道感染 → 気管支上皮細胞などで増殖 → 扁桃や付属リンパ節でさらに増殖 → 第一次のウイルス血症 → 全身のリンパ組織に到達・増殖 →第二次のウイルス血症 → 全身の組織に感染が広がり、症状が悪化
- カタル症状として鼻水、くしゃみ、せきなどが出る
- 免疫能が低下し、合併症が起こりやすくなる。中耳炎、肺炎、咽頭炎などが一般的。重症の出血性麻疹や、ウイルスが中枢神経系で増殖して麻疹後脳炎などが起こることもある
- 抗原性変異が少なく、一度罹患したら終生免疫を獲得する → ポリオウイルスの次に撲滅宣言がなされるのは麻疹ウイルスとされている
(+)鎖RNAをゲノムとし、逆転写酵素をもつウイルス
◇レトロウイルスの増殖サイクル
大まかにたどると、
吸着・侵入→脱殻→ウイルスのもつ1本鎖RNAが2本鎖DNAへ逆転写される→細胞の染色体DNAに組み込まれる(プロウイルス)→転写、翻訳→ウイルスRNA、タンパクの集合→出芽
|
となる。
まずレトロウイルスのエンベロープに適合するレセプターに結合する(吸着)と、エンベロープと細胞膜が融合し、細胞内に侵入する。その後細胞質でカプシドタンパクが部分的に取り除かれ、RNAと分かれる(脱殻)。それからウイルスが持ち込んだ逆転写酵素によりウイルスRNAがDNAに転写され、2本鎖にされて環状DNAになる。これが核内で細胞の染色体DNAに組み込まれ、プロウイルスと呼ばれる。ウイルスゲノムの組み込みや次の転写・発現には、LTR(long terminal repeat;遺伝子の両端の繰り返し配列)が関与している。プロウイルスDNAのLTRに囲まれた部分が転写されてmRNAとなり、これがリボソームで翻訳されウイルス構造タンパクが合成される。同時にウイルスゲノムRNAも合成される。これらが集合してウイルス粒子へと組み立てられて、それが細胞膜から出芽する。
◇HTLV-1(human T-lymphotropic virus type-1)
- 主要な感染経路は、母乳、性交(主に男性→女性)、血液(生きた血球成分が含まれる場合にしか感染は起こらない)の3つ
- レセプターはT細胞上のCD4分子
- レトロウイルスの遺伝子には gag、pol、env がある。gag にはウイルス構造タンパクMA、CA、NCがコードされている。pol には逆転写酵素、ウイルスプロテアーゼ、インテグラーゼがコードされている。env にはエンベロープ膜タンパクがコードされている。HTLVは、さらに env と3'-LTRの間にpXとよばれる塩基配列をもち、自己の遺伝子発現の調節に関するTax、Rex、p21などをコードしている
- 成人T細胞白血病(ATL;adult T cell leuchemia)の原因ウイルスで、わが国でHTLV-1キャリアは約100万人、ATLの年間発症数は約1000名
◇HIV(human immunodeficiency virus;ヒト免疫不全ウイルス)
- 主な感染経路は、血液、性交、母乳の3つ
- レセプターはT細胞上のCD4分子
- 遺伝子は gag、pol、env のほかにtat、rev などがある。gag にはウイルス構造タンパクMA、CA、NCがコードされている。pol には逆転写酵素、ウイルスプロテアーゼ、インテグラーゼがコードされている。env にはエンベロープ膜タンパクがコードされている。tat は転写の開始と延長反応を促進する。rev はウイルスmRNAのうちスプライシングされていないものを安定化し、ウイルス構造タンパクをコードするmRNAの細胞質に移送させる作用がある
- 言わずと知れたAIDSの原因ウイルス
◇HIVの生活環
ウイルス粒子のエンベロープgp120と、宿主細胞表面の特定のレセプタータンパク(CD4)との結合により、HIV粒子が細胞に吸着する。この結合反応に伴い、gp120の分子構造に変化がおき、そのV3エピトープと呼ばれる部分が宿主細胞の別のタンパクと結合して、ついでgp41の働きによりウイルス粒子の膜と細胞膜との融合が起こる(@)。
この融合により、ウイルスのコアが細胞質と一体化し、ウイルスRNAゲノム上での逆転写酵素によるプロウイルスDNA合成反応が起こる(A)。この反応過程でプロウイルスDNAの両端にはLTR(長い末端の繰り返し)と呼ばれる配列が出来上がる。プロウイルスは逆転写酵素の持つインテグラーゼ活性により、宿主染色体DNAに挿入される(B)。こうしてHIVは宿主遺伝子の一部となり、細胞への一連の感染過程が終了する。
そのあと、HIVはプロウイルスの形で年余にわたり潜伏感染を続ける。その中でもプロウイルスの活性化は断続的に起こり、やがて転写が始まる。
HIVの感染と増殖により、CD4細胞の直接破壊が起こる。この際、ウイルスによるアポトーシスの誘導、細胞表面でのCD4分子とエンベロープとの相互作用に基づく膜レベルの異状によるネクローシス、またはCD4からのシグナル伝達系を含めての変化、rev タンパクによる歳帽子の誘導など複数の要素が関係している。ほかにも様々な要素により、免疫応答の中枢であるCD4リンパ球が継続的に破壊されていく。また、ウイルス遺伝子が変異を重ねることによって、自らの抗原性を変容し、感染初期に形成された免疫学的防御機構を無効にする。最終的にはCD4の破壊を中心に免疫系全体が破壊されていく。
(−)鎖RNAをゲノムとするウイルス
◇C型肝炎ウイルス(HCV)
- エンベロープを有する直径55〜65nmの球状粒子
- 感染経路は血液。これまでは輸血によるものが多かったが、現在はスクリーニングされている。垂直感染や性行為による感染も起こりうるが、感染能は低い
- 感染後1〜3ヶ月間の潜伏期を経て肝炎を発症するが、A型、B型に比べて症状は軽い。ただし免疫能が正常でも慢性肝炎になりやすく、10〜20年を経て肝硬変に進展、その後原発性肝がんとなる。
- 予防法としての免疫グロブリン製剤やワクチンは今のところない
- 治療はインターフェロンの長期投与が行われるが、効果のない症例が多い