リケッチャ

  1. 概念
       クラミジアと同様、生きた動物細胞(宿主細胞)の中でのみ増殖する小型の細菌であるが、クラミ ジアとは形態、代謝、増殖様式、自然界での存続や感染の様式などに違いがある。

  2. リケッチャ感染症の特徴
  3. リケッチャ属およびオリエンチア属とその感染症
    1. 病原体の一般的性状
      • 0.3〜0.5×0.8〜2.0μmの短桿菌または球桿菌状を呈する
      • 鞭毛や芽胞形成はない
      • リケッチャ属では細胞壁にペプチドグリカンやリポ多糖が存在し、形態学的にもグラム陰性菌に類似している
      • オリエンチア属では、ペプチドグリカン、リポ多糖が欠如している
      • リケッチャ属の一部は宿主細胞の核内でも増殖するが、主たる増殖の場は細胞質内である

    2. 主な感染症
      • 発疹チフス
           リザーバーは過去に感染歴をもつヒト、ベクターはシラミである。シラミがリケッ チャを保有するヒトを吸血した時、シラミ自身が感染を受ける。リケッチャはシラミの腸管 上皮細胞で増殖し、糞とともに排泄される。この感染シラミが他のヒトを吸血した時、多量 のリケッチャを含む糞が吸血部付近に排泄され、ヒトは吸血された部分を掻く時に傷口から 糞由来のリケッチャに感染する。潜伏期は1〜2週間で悪寒、発熱、頭痛、筋肉痛などをもっ て発症する。発症後5日以内に全身にバラ疹を生じる。意識障害、幻覚などの中枢神経症状 や頻脈、血圧低下などの循環器障害を示すこともある
      • Brill-Zinsser病
           発疹チフスに感染したヒトの体内に潜伏していた、発疹チフスの原因菌が、 長い年月を経て再燃したものである。通常の発疹チフスに比べ一般に症状が軽く、発疹の出 現もまれで、経過も短く、死亡率も低い
      • ロッキー山紅斑熱
           この病気の原因菌はダニに持続感染しており、経卵巣感染により成虫から 卵へと代々受け継がれる。ヒトは、このようなリケッチャ保有ダニにかまれた時に感染する。 したがって、ダニはベクターであると同時にリザーバーでもある
      • 日本紅斑熱
           西日本を中心にかなり広範に存在する紅斑熱。ベクターはマダニ類と考えられる。 ヒトへの感染はロッキー山紅斑熱と同様の様式による。潜伏期は2〜10日で、頭痛、発熱、 悪寒戦慄をもって急激に発症する。ほとんどの症例で皮膚の刺し口を認める。発熱と同時、 または2〜3日遅れて米粒大から小豆大の紅斑が多発する。紅斑部に掻痒感はなく、3〜4日 目から出血性となる。リンパ節の腫脹は少ない
      • ツツガムシ病
           かつては秋田、山形、新潟の3県を中心とした河川の流域地帯のみに発生する、 地域性の強い重篤な熱性疾患として知られていた(古典型ツツガムシ病)。しかし、第二次世 界大戦後、日本全国で見られるようになった(新型ツツガムシ病)。ベクターは小型のダニで あるツツガムシ。古典型と新型ツツガムシ病では、病原体の性状も若干異なるが、媒介ツツ ガムシの種類も異なる。ベクターであるツツガムシは一生の大半を地中で過ごすが、卵から 孵化した幼虫の時期に限って数日間だけ地上に出て哺乳動物に吸着し組織液を吸う。この時、 たまたま吸着されたヒトはリケッチャの感染を受ける。潜伏期は1〜2週間で、頭痛・関節痛 などを伴った急激な発熱、全身の発疹、リンパ節腫脹、刺し口の形成を4大主徴とする

  4. エールリキア属とその感染症
    1. 病原体の一般的性状
      • 直径0.4〜0.5μmの球菌状〜楕円状で、グラム陰性、多形性を示す
      • 宿主動物のマクロファージ、単球または顆粒球のファゴソーム内で増殖する点が特徴で、増殖 した菌が充満したファゴソームは封入体として観察される

    2. 主な感染症
      • 腺熱リケッチャ症
           西日本に多く見られ、発熱、リンパ節腫脹、単核球の増多を主徴とする。 臨床的にはEBウイルスによる伝染性単核症と類似。悪寒を伴う発熱、圧痛のある全身性の リンパ節腫脹、血液像におけるリンパ球の増多と異型リンパ球の出現などが見られる
      • その他のエールリキア症
           マダニ類がベクターと考えられ、ダニに受咬後1〜3週間の潜伏期 を経て、悪寒、発熱、頭痛、筋肉痛、疲労感などをもって発症する。吐気、嘔吐、食欲不振 を伴うことも多い

  5. Coxiella 属とその感染症
    1. 病原体の一般的性状
      • 0.2〜0.4×0.4〜1.0μmの小桿菌状を呈し、多形性を示す
      • グラム陰性菌に類似した細胞壁を有し、表層にリポ多糖が存在する

    2. Coxiella 感染症(Q熱)
      • 世界中に広く分布する人獣共通感染症
      • 感染の伝播には、ベクターの介在を必ずしも必要としない
      • 感染源として重要なのは、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの家畜
      • 急性Q熱の潜伏期は2〜3週間程度で、典型的な症状はインフルエンザに類似し、これに肺炎 や肺炎様の症状を伴うことが多い。主な症状は頭痛、眼球後部痛、全身倦怠感、食欲不振、筋 肉痛などである
      • 慢性Q熱のほとんどは心内膜炎の病像をとる

  6. Bartonella 属とその感染症
    1. 病原体の一般的性状
      • 0.3〜0.5×1〜3μmのグラム陰性桿菌
      • 偏性好気性

    2. 主な感染症
      • カリオン病
           南米アンデス山脈西側斜面の海抜800〜3000mの狭い地域に限局して存在する。 リザーバーはヒト、ベクターは吸血性のスナバエ。同一の菌が、オロヤ熱とペルーイボとい う2つの疾患の病原体となり、両疾患を一括してカリオン病という。オロヤ熱は発熱、溶血 性貧血、骨および筋肉痛、肝脾腫などを主徴とする。一方、ペルーイボは皮膚に血管腫様の 結節が多発する疾患である
      • 塹壕熱
           ヨーロッパ戦線において塹壕内の兵士に見られた熱性疾患。シラミがベクター。5日 程度続く発作性の発熱を数回繰り返す
      • Bartonella henselae 感染症
           この感染症の原因菌は、1992年にHIV陽性の有熱患者から分離 された。Bartonella henselae 感染症には少なくとも3つの病型がある。第1は、リンパ節 炎を主とした熱性疾患(ネコひっかき病…ネコによるひっかき傷や咬傷によって、発熱や有痛 性のリンパ節腫大をきたす)であり、主に免疫状態の正常なヒトに見られる。第2はHIV感 染などによる免疫不全のあるヒトに見られる細菌性血管腫(直径数mm〜数cmのドーム状に 隆起した病変が、単発性または多発性に発生)である。第3は免疫不全のあるヒトに見られる 菌血症性の発熱であり、時に心内膜炎を併発する

  7. リケッチャ症の予防
    1. 予防
         発疹チフス、ロッキー山紅斑熱、Q熱については、不活化ワクチンがあり、幹線のリスクが特 に高いヒトには使用されることもある。
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