3胚葉への過程

   発生第3週中に原腸形成が起こるが、これをきっかけに胚子内に3胚葉の全てが確立する。原腸形成は胚盤葉上層の表面に原始線条が形成されることで始まる。原始線条の通る横断面では細胞がフラスコ型をなし、胚盤葉上層と下層との間に新たな細胞層を形成している。やがて、胚盤葉上層の細胞が原始線条の方向に遊走して、胚盤葉上層から分離してその下層に滑り落ちる。この過程を陥入と呼ぶ。
   これらの陥入した細胞のうち、あるものは胚内内胚葉となり、あるものはこの内胚葉と胚盤葉上層との間で中胚葉を形成する。そして残存した胚盤葉上層が外胚葉となる。こうして、胚盤葉上層の細胞は3胚葉全ての源となる。




体節の形成と分化について

   胚子期において正中線に近接した中胚葉組織は肥厚した組織板である沿軸中胚葉を形成する。この沿軸中胚葉が発生第3週までに分節(体節分節)に組織される。この組織化は頭側から尾側へと行われる。頭方域ではこうした分節構造は神経分節形成(注:これは外胚葉が行う)と関連して進められる。後頭域から尾方では体節分節はさらに組織化され、体節となる。体節は発生の進行にともなって増え、42〜44対に達する。そしてこれらは後頭体節、頚体節、胸体節、腰体節、仙骨体節、尾骨体節に分けられる。第1後頭体節と尾骨体節の後半(注:これは進化の過程で人間が尾を失ったことに関係する)は後に退化する。
   その後、体節の腹内側の細胞が遊離して脊索側に移動し、全体として椎板と間葉となる。椎板は後に軟骨と骨要素へと分化する。間葉は特に何かに分化する組織というわけでなく、その起源に関わらず粗に組織化された結合組織をさす。
   一方、残存する体節の背側壁は皮筋板とよばれ、そのなかから筋板が形成される。この筋板は腹方に伸張し、各分節の筋肉を形成する。そしてその残りの皮筋板は表層外胚葉の下面に広がって、真皮(注:人間の皮膚は上皮と真皮からなり、上皮は表面で、外胚葉からできる。真皮はその内側にある)および皮下組織を形成する。




Rh不適合症について

   人の赤血球においてABO式の血液型が有名だが、それと同じようなものでRh式の血液型というものが存在する。これは赤血球の抗原に関係した血液型で、胎児がRh+で母体がRh-であった場合、絨毛の表面の小出血などが原因で母体の血液中に胎児の血液が混ざった際、母親に抗原抗体反応がおき、胎児の赤血球を異物として破壊するようになる。これは子宮内死亡を招く。このような胎児は無事出生しても直ちに血液を交換せねばならない。Rh免疫グロブリンをあらかじめ母体に投与することによりこの症状は予防できる。




出生前診断について

   出生前診断には、超音波検査法、羊水穿刺、絨毛膜絨毛生検の3種がある。
   最も胎児に及ぼす危険が少ないのが超音波検査法である。その名の通り超音波を用いて胎盤や胎児の画像を作成する。胎盤、胎児の大きさや、多胎および神経管の欠損のような奇形を決定することができる。
   羊水穿刺は注射針を用いて直接羊膜腔から羊水を取り出す方法である。取り出した羊水によってα-フェトプロテインの量を分析する。この物質は二分脊椎や無脳症のような神経管欠損、腹壁奇形のある胎児の場合にその濃度が高くなる。
   また、羊水中には脱離した胎児の細胞も含まれており、これを培養することでトリソミーやモノソミー(ダウン症候群に関係)、転座、断裂のような染色体異常を調べることができる。
   ただしこの方法の欠点は、羊水を20〜30ml取り出すことになるので、羊水の量が不十分な妊娠第14週間以前の胎児には行われない。そのためどうしてもスピードにかける。
   この欠点をカバーしているのが絨毛膜絨毛生検である。この方法は絨毛膜絨毛の小片を得る方法で、妊娠初期(第8週)に行える。この組織は盛んに分裂している胎児細胞を多数有しており、それにより染色体異常、先天性代謝異常のような生化学的欠陥を直ちに分析することができる。それに加え細胞培養を待つことなく直接細胞分析が可能である。異常の検査を早めに行えるというのは人工妊娠中絶の決定という観点から望ましいことである。
   ただし、羊水穿刺の胎児流産危険率が0.5%であるのに対し絨毛膜絨毛生検では0.8%と跳ね上がる。

   こうした検査のすべては日常検査としては用いられず、ハイリスク妊娠において使われる。具体的には、@高齢出産(35歳以上)、A家族歴に神経管の欠損がある場合、Bたとえばダウン症候群のような子を出産したことがある場合、C両親のどちらかに染色体異常がある場合、およびD母親がX連鎖劣性遺伝病(例:血友病)の保因者である場合、といったところである。




顔面形成とその異常について

顔面形成    胎生4週末に顔面隆起が出現する。これは主として第1鰓弓で形成されている。口窩の側方に上顎隆起、尾方に下顎隆起が区別される。さらに、脳胞腹側の間葉の増殖により形成される前頭鼻隆起は口窩の上縁を形成する。そしてこの両側に前脳腹方部の誘導により、体表外胚葉が肥厚して鼻板ができる。
   この鼻板は第5週中に陥入して鼻窩となる。ついで各鼻窩を取り巻く組織が隆起して外側鼻隆起と内側鼻隆起ができる。
   その後2週間で上顎隆起が大きくなり、内へ内へと内側鼻隆起が圧迫されついにはこの2者は癒合する。つまり、この2者で上唇を形成する。下唇は正中線を越えて合体する2つの下顎隆起で形成される。
   当初鼻涙溝で分離されていた上顎隆起と外側鼻隆起だが、その後合体する。その際、この溝の底の外胚葉は表層から切り離されて鼻涙管となる。その上端は涙嚢となる。
   上顎隆起は肥大し、頬と上顎骨を形成する。
   結局鼻は5つの顔面隆起で形成される。
   さて、この過程においていくつかの異常が発生しうる。
   1つは斜顔面裂であり、上顎隆起がそれに対応する外側鼻隆起と癒合しないことにより起こる。その結果、鼻涙管が体表に露出する。
   他には正中唇裂があり、両側の内側鼻隆起が正中線上で癒合不全を起こしたため生じる。これをもつ小児はしばしば精神発達遅滞を伴う。




神経管の発生と分化

   発生第3週の初めに脊索の誘導効果で現れる神経板は原始線条の方向ヘのびてゆく。その後、神経板の外側縁が隆起して、神経ヒダができる。やがてこのヒダは互いに正中線に近づき結局癒着して神経管を形成する。この形成は頭部から尾部へと進む。ただし頭尾の両側端では癒着が遅れ頭側神経孔と尾側神経孔とが一過性に神経管の孔として羊膜腔と交通させる。その後、頭側はほぼ25日で、尾側は27日で閉じ、中枢神経系は閉鎖した環状構造を示し、頭方部はより広がり脳胞となり、尾方部は細まって脊髄となる。




ニューロンの発生と分化について

   神経管の内側に並んだ神経上皮細胞は盛んに分裂して神経芽細胞を生じる。最初神経芽細胞は管腔に一過性樹状突起という中心突起を伸ばすが、これらの神経芽細胞が蓋層に遊走するとこの突起は消失するし、一過的に円形の無極神経芽細胞となる。その後分化が進むと相対する側から二つの突起を出し、双極神経芽細胞となる。突起の一方は急速に伸長して原始軸索となり、他方の突起は多数の細胞質分枝を生じて、原始樹状突起となる。その状態でこの細胞は多極神経芽細胞と呼ばれ、最終的にニューロンとなる。ニューロンになってしまうと、分裂能を失う。




哺乳類の性決定について

@性染色体の性
   最初に決定される性であり、XXが女、XYが男である。
A性腺の性
   受精卵が分化していく際、まず原始生殖細胞から原始生殖索が形成される。これは将来精巣または卵巣に分化していく部位であり、ここでY染色体の性決定領域SRYにある精巣決定因子TDF遺伝子が働くと原始生殖索を精巣へと分化する遺伝子が活性化される。また、Y染色体がない場合はTDFがないため、精巣へと分化できず原始生殖索は卵巣へと分化する。
B内性器の性
   受精卵が分化発育していくとき、内性器の器となるWolff管とMuller管が形成される。ここに、精巣から分泌されるテストステロンと、MIS(Muller管抑制ホルモン)が働くと、Wolff管から精巣上体、精管、精嚢などの男性内性器が形成され、Muller管は退縮する。このような分化は胎生第10週の時期に起こる。
   一方、この時期にテストステロン、MISが作用しないと、Muller管が分化をはじめ、卵管、子宮、膣の一部が形成され、Wolff管は退縮する。
C外性器の性
   外性器は精巣から分泌されるジヒドロテストステロンが外性器原基に作用して、陰茎、陰嚢が形成される。この分化も胎生10週から12週に起こる。もしこの時期にこのホルモンが作用しないと、外性器の原基は陰核、大小陰唇、膣へと分化する。




外生殖器の分化とそのメカニズム

   男性における外生殖器の発達は男性ホルモンアンドロゲンの影響によりなされる。生殖結節は急速に伸長して生殖茎となる。この伸長中に尿道ヒダが前方に引き寄せられ、尿道溝の側壁を形成する。この溝は伸長した生殖茎の尾方に向かって伸びるが最遠位端部の亀頭には達しない。この溝を覆う上皮は内胚葉由来で、尿道板と呼ばれる。その後胎生3ヶ月で尿道ヒダが両側から癒着し、尿道海綿体部が形成される。ただしこの管は亀頭には達せず、後に亀頭の頂端が陥没して外尿道口ができて貫通する。男性では陰嚢隆起と呼ばれる生殖隆起は尾方に移動し、陰嚢の各半分を形成する。両者は陰嚢中隔で互いに隔てられている。
男性外生殖器
   女性器の発生はエストロゲンの影響により行われる。生殖結節はほんのわずか伸長して陰核を形成し、尿道ヒダは男性と違い癒合せず、小陰唇を形成する。生殖隆起は肥大して大陰唇となる。尿生殖溝は体表に開き膣前庭となる。女性の生殖結節は発生初期においては男性よりも大きいため、妊娠3〜4週に性判定をする際は注意が必要である。
女性外生殖器




性分化異常について

   性分化と決定の異常がおきると、ある場合には患者は男女両性の特徴を備えることがある。これを半陰陽という。真性半陰陽は精巣と卵巣の両方の組織を持ち、両者は通常一緒になって卵精巣をなしている。核型は7割が46、XXで、子宮がある。外生殖器はどちらともつかないが主として女性型である。
   仮性半陰陽では表現型外観が遺伝的性を覆い隠しているものである。精巣を持つ患者を男性仮性半陰陽、卵巣を持つ患者を女性仮性半陰陽という。
   女性仮性半陰陽は先天的な副腎の異常によるもので、ステロイド系ホルモンの分泌異常をまきおこし、アンドロゲンが過分泌されて外生殖器が男性のものへと導かれる。
   男性仮性半陰陽は46、XYの核型をもち、その体細胞は通常性染色質陰性である。男性ホルモンとミュラー管抑制物質の産出が不十分であることにより起こる。
   卵巣性女性化症候群の患者の染色体構成は46、XYであるが、外見は正常の女性である。外生殖器の組織がアンドロゲンに反応せず、エストロゲン(注:女性ホルモン。男性でも分泌されているし、母体のエストロゲンも胎児に影響すると考えられる)の影響下で正常の女性のように外性器が発生分化する。しかしこの患者は精巣を持ちミュラー管抑制物質を分泌するので中腎傍管系は抑制され、卵管と子宮を欠如する。




先天異常の種類

   先天異常には次の4種がある。
@奇形
   環境因子、遺伝因子のいずれかまたは両方の作用によって起こる器官形成の異常。ある構造が欠如したり、変質したりする。大部分の奇形は各器官の原基ができる発生第3週から第8週におきはじめる。
A破壊
   いったん形成された構造が血管障害による腸管閉塞や羊膜索による欠損などの因子で破壊されること。
B変形
   長期にわたって胎児の一部分が機械的な力によって形にはめられて起こる。
C症候群、連合
   症候群は、特異的な共通した原因により起こるいくつかの異常の並存したものを言う。この言葉は、診断がつき再発危険率がわかっていることを示す。
   これに対して連合は2つ以上の異常が偶然より高い確率で併発するが、その原因は不明であるものを言う。




先天異常の原因

@遺伝子異常によるもの
   大きく分けて数的異常と構造的異常がある。
   数的異常は配偶子形成の際の染色体不分離による。このうち余分な染色体が1個ある場合をトリソミー、足りない場合をモノソミーという。染色体のどの部分が不分離になるかでそれぞれ症状は異なる。21番染色体が1本余分にある、21トリソミーはダウン症候群を招く。これは発育遅滞、精神発達遅滞、頭部顔面の異常、心臓奇形、筋緊張低下などである。
   また18トリソミーは通常2ヶ月までに乳児は死亡する。
   性染色体の不分離による異常もある。クラインフェルター症候群は性染色体がXXYまたはXXXYとなり、男性のみに現れる。不妊、精巣萎縮、精細管の異常、女性型乳房症をともなう。
   ターナー症候群は性染色体がX1本であり、外見は女性だが卵巣が欠如している。また、翼状頚や左右の乳房が開いた胸などの外見的特徴もある。
   一方、構造異常は通常染色体の切断によって起こる。例として5番染色体の短腕欠失によりおこるネコ鳴き症候群が有名である。
   また、15番染色体の長腕に微小欠失があるとアンジェルマン症候群(症状は精神発達遅滞・運動発達が悪い・笑い出したらとまらない、など)またはプラダー・ウィリィ症候群(症状は筋緊張低下・肥満・精神発達遅滞・性腺発育不全など)がおこる。前者は母親由来、後者は父親由来の染色体に異常があった時におきる。このように父母の由来の違いによって表現型が変わることをゲノム刷り込みという。
A外因によるもの
   胎盤はイメージに反してかなりの種類のウイルスや化学物質を素通りさせる。たとえば風疹のウイルスは様々な奇形をまきおこすし、HIVウイルスが感染する場合もある。また、かつて睡眠薬のサリドマイドが無肢症をまきおこしたし、解熱剤のアスピリンも奇形を誘発する危険があるとされる。
   アルコールも先天異常の原因となる。精神発達遅滞、発育不全と共に、胎児性アルコール症候群を起こすこともある。
   またかつて水俣病が発生したとき、脳性麻痺に似た神経症状を持った子供が多数生まれた。
   一方、外因にはこうしたもののほかに母親の代謝異常(糖尿病、フェニルケトン尿症)や、放射能、あるいは変わったところでは物理的な高温(サウナなど)も胎児に異常をおこす。




先天異常学の原則

@催奇性因子への感受性は受胎産物(胎児、胎盤など)の遺伝子型などによって左右される。
A催奇性因子への感受性は暴露のときの発生段階によって左右される。受精後3〜8週の胚子形成期は最も感受性が高い。
B異常発生の発現型は催奇性因子の量と暴露期間によって左右される。
C催奇性因子は発生途上の細胞や組織に特異な方法で作用して異常な胚子形成を開始させる。
D異常発生の発現型には死亡、奇形、発育遅滞、機能的障害がある。




鰓弓の形成と分化について

鰓弓    鰓弓は神経提細胞が顔面領域に移動して発生第4〜5週に出現する。各鰓弓を隔てるのが鰓溝である。一方この2者の発生にともなって、前腸最先端の咽頭腸の側壁に沿ってポケット状の突出ができる。これが咽頭嚢である。
   第1鰓弓は目の下方を前に伸びる上顎突起という背方部とメッケル軟骨を含む下顎突起という腹側部からなる。後にメッケル軟骨はキヌタ骨とツチ骨(3つの耳小骨のうちの2つ。残りはアブミ骨)の部分を残し退化する。
   上顎突起の間葉は顔面の各部分の骨になり、下顎突起は下顎骨を形成する。
   また、上顎突起の筋系は咀嚼筋などを形成する。
   第1鰓弓の神経は三叉神経で、結局顔面の神経は三叉神経の眼枝、上顎枝および下顎枝でまかなわれることになる。
   第2鰓弓はアブミ骨、側頭骨の茎状突起、茎舌骨靭帯を生じる。筋系としては表情筋、耳介筋などを形成する。第2鰓弓の神経である顔面神経はこれらを統括する。
   第3鰓弓は舌骨体の下部と舌骨の大角を生じる。舌咽神経によって支配される。
   第4および第6鰓弓は迷走神経の支配を受ける。

鰓弓咽頭嚢から分化鰓弓軟骨から分化
T中耳(耳管・鼓室)耳小骨のうちのツチ骨、キヌタ骨
U口蓋扁桃(いわゆるヘントウセン。風邪引いたら真っ赤になるやつ)耳小骨のうちのアブミ骨・茎状突起・茎舌骨靭帯
V上皮小体(甲状腺上のCaイオンの濃度調節をする)・胸腺(リンパ球の分化に関係)舌骨体
W上皮小体・胸腺の痕跡甲状軟骨
Y 輪状軟骨
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