1. オーガナイザーの概念についてカエルを例に説明できる。

   オーガナイザーの概念が最初に唱えられたのは、シュペーマンが色の異なる2種類のイモリ卵の原腸胚を使って組織片の移植実験をしたことによる。この際、原口背唇部(dorsal lip)を別の卵の予定皮膚領域に移植するとその胚にはもう1つの原口ができ、それぞれ原腸陥入が進んで双頭のイモリ幼生ができた。そして、本来の場所とは違うほうにできた胚(2次胚)は移植片の色ではなく、移植された場所の色をしていた。このことから、移植片自身は変化せず、何らかの作用を回りの細胞に及ぼして、2次胚を形成したことになる。
カエルの原腸胚初期 カエルの原腸胚初期
   上図はイモリと同様両生類で、初期発生の形式が似通っているカエルの原腸胚初期を表す。この後、原口から陥入が始まる。そのとき、原口の少し上の部分である原口背唇部がちょうど予定神経域の裏側に来る。ここで、原口背唇部はこの領域の細胞を神経へと誘導する。
   そして陥入することによりできた原腸は体軸を決定する。
   そもそも、受精のあとに灰色三日月環というものができ、後に原口背唇部となって、この部分が周囲の細胞の形を変えて発生を進めてゆくのである。
   このように、1つの組織が他の組織に働きかけてそれを変化させる、そのようそのことをオーガナイザーという。




2. 原腸陥入時の分化誘導について実験例をもとに説明できる。

   上でも述べたが、かつてシュペーマンの行ったイモリの卵を用いる移植実験について詳しく述べる。
   一方の色の卵の原口背唇部を他方の卵に移植するとそこから原腸陥入がおき、もう1つの胚ができる。このことから、原口背唇部が原腸の陥入を誘導するといえる。
   また、シュペーマンはもう1つ、誘導に関して重要な実験を行った。陥入直前の原腸胚の予定神経域の一部を、同じ状態の別の卵の予定表皮域に移植し、同様のことを陥入後の原腸胚でも行って、両者を比較した。
   すると前者では移植片は移植された場の運命に従って表皮に分化したのに対し、後者はもとの卵における運命である神経に分化した。このことより、陥入後に神経や表皮の外胚葉組織は誘導されるといえる。
   結局、原口背唇部のオーガナイザーが中胚葉組織を誘導し、原腸陥入を起こして、この中胚葉組織が外胚葉、内胚葉の基本パターンの誘導、特に神経の誘導をするのである。




3. 中胚葉、あるいは神経誘導分子の分子構造、機能について(5種類以上)説明できる。

Vg1
   未受精卵の段階から植物極側に局在する。TGF-βファミリー(細胞、または濃度により成長を促進したり抑制したりする成長因子の1群)に属し、完全長の前駆体から切断されることで活性型になる。
   活性型になったVg1が植物極側の割球から放出されることで、オーガナイザーを誘導する。この過程は濃度勾配により発現させる物質が異なり、モルフォゲンとしての働きをもっている。

Wnt
   植物極側の腹側割球にこれをコードするmRNAを入れると、オーガナイザーがもう1つ生じて体軸が2つになる。このまま発生が進むと双頭の固体ができる。

FGF(線維芽細胞成長因子)
   FGFのレセプターにdominant negative mutationを導入すると、後部と腹側の中胚葉が欠失。Vg1に対する応答を助ける役割が考えられている。

BMP4
   オーガナイザーに対抗して、中胚葉を後部と腹部の中胚葉にするための転写因子を誘導する。

Chordin
   背側の中胚葉であるオーガナイザーはBMP4による影響から自らを守るかのようにしてChordinとNogginを分泌している。ChordinのmRNAをカエルの腹部に入れると第2の軸が形成される。ChordinはNogginと共にBMP4に直接結合し、それを不活化する。

Noggin
   シュペーマンの言うオーガナイザーの正体の最有力候補。紫外線処理して原腸陥入のできなくなった卵に加えると原腸陥入を起こす。神経組織の誘導は背側中胚葉なしでもこれを加えると可能になる。

Sonic Hedgehog
   神経管から運動神経を誘導し、背側上皮から分泌されるBMP4の影響に対抗することで神経管の腹側が背側化されるのを防ぐ。
   この遺伝子にミューテーションがあると神経が正常に発達せず、単眼のこともが生まれたりする。
   余談だが、この遺伝子を見つけた人はセガのゲームの大ファンだったというウソのようなホントの話がある。




4. 原腸陥入時の細胞の動きについて(マウス)説明できる。

   哺乳類の原腸陥入は2層性胎盤が3層性胎盤に変わる過程を言う。その過程は原始線条の形成、脊索の形成、胚葉の形成という大きく3つの出来事からなる。
   原腸陥入の始まりはまず胚盤葉上層の尾方に原始線条が出現することで始まる。やがて原始線条の部分で胚盤葉上層がもぐりこみ始める。このとき一部は原始線条の深部表面から遊離して間葉を形成し、胚内中胚葉となる。残りは胚盤葉下層を押しのけて胚内内胚葉を形成する。間葉細胞はもぐりこんだあと様々な動きを示し、頭方向に向かう一群の間葉細胞は脊索になる。(マウスの場合の脊索は内胚葉に取り込まれた形で原腸の壁の一部をなす。)押しのけられた胚盤葉下層は卵黄嚢を形成する。胚内内胚葉は卵黄嚢の内側に沿って広がり、完全に覆い尽くす。(胚内中胚葉が形成され始めた時点での胚盤葉上層は胚内外胚葉と呼ばれるようになる。)マウスの場合、これは受精後6日のこと。




5. 体軸の決定機構(カエル、哺乳類、ショウジョウバエ)について説明できる。

ショウジョウバエの体軸決定
   ショウジョウバエの胚には背腹軸と前後軸の2本の軸がある。卵の極性をもたらす遺伝子(卵極性遺伝子:egg polarity gene)はこれらの体軸に対応して大きく2つに分けられる。これらの遺伝子はそれぞれ卵の細胞質内に濃度勾配(モルフォゲン勾配)をもたらすことで体軸を決定している。
   まず、背腹軸について述べる。
   まず、ショウジョウバエの卵巣内の濾胞細胞からシグナル分子が局所的に分泌されると、このシグナル分子が卵細胞の膜貫通型受容体であるTollにくっつき、卵細胞内にシグナルが送られて遺伝子調節タンパクであるDorsalが活性化される。Dorsalはもともと卵細胞内に均一に分布しているが、Tollタンパクの活性化の勾配(これは濾胞細胞からのシグナルが卵の腹側表面でだけ活性型として生産されるために生じる)に応じて、最終的には胚の多数の核のDorsalタンパクにも勾配ができる。
   Dorsalが活性化されると、Cactusというタンパクによる核内への移動阻害がとかれ、転写を開始する。その産物は腹側を最高として、背側に向かって滑らかな濃度勾配を示す。そして、この濃度に応じて様々な遺伝子がONにされたりOFFにされたりして、背腹軸が形成されるのである。
   次に前後軸について述べる。
   前後軸の形成には前部の形成に必須なbicoid、hunchbuck、そして後部の形成に必須なnanos、caudalがある。mRNAについてはbicoidは前部、nanosは後部の細胞骨格に結合していて、hunchbuckとcaudalは卵細胞全体に均一に分布している。ただしタンパクになるとhunchbuckは前部、caudalは後部に位置する。これらのうちbicoid やnanosはマターナル遺伝子に属し、母親バエの卵巣でmRNAが転写されて、卵の中に送り込まれてくる。
   この後の段階で、受精卵自身に含まれるギャップ遺伝子の転写が活性化される。bicoidは前方の、nanosは後方の形成を司るギャップ遺伝子を活性化する。  ギャップ遺伝子がコードするタンパクはさらに分節化を押し進めるペアルール遺伝子の転写を開始させる。ホメオティック遺伝子は分節化と同時進行で各分節を将来に備えて分化させていく。

カエルの体軸決定
   受精した際、外側の細胞質が内側の細胞質に対し30゜精子の侵入点に向かって回転する。このとき原腸陥入が始まる位置が決定され、背腹軸が決定される。植物極側の細胞は動物極側の細胞に働きかけて中胚葉を誘導し、シュペーマンのオーガナイザーを誘導する。その後、原腸陥入が始まると陥入してゆくオーガナイザーが前後軸を確立してゆく。

哺乳類の体軸決定
   背腹軸、左右軸、前後軸がある。
   背腹軸は発生が進行するにつれ、脊索が背腹を特定するような遺伝子発現を神経管にもたらすこと、胚盤葉下層が胚盤胞側に接していることが関係して決められるらしい。最初のきっかけは子宮に着床する部分で確率論的に決まる。
   左右軸は全体的なレベルと器官特異的なレベルという2つのレベルで制御されていることが示唆されている。遺伝子としては前者の例としてinv、後者の例としてivという遺伝子が見つかっている。遺伝子invをノックアウトすると心臓の配置が右か左かでランダムになり、脾臓などの位置と関係なく配置されてしまうので死を招くこともある。遺伝子ivをノックアウトすると、すべての器官が左右逆になってしまう。ただしこの場合、全部逆なのでマウスは生きることはできる。
   前後軸の決定はショウジョウバエ同様ホメオボックスをもつホックス遺伝子(Hox genes)によって行われる。ただし、ショウジョウバエにはhomeotic gene complex(HOM-C)として1セットな物が、マウスやヒトではHoxAからHoxDまでの4セットあるのでより複雑に調節されていることがわかる。

注:ホメオティック遺伝子とは受精卵から異なる生体表現型へ発生していく多様な経路を決定していく遺伝子の総称。ホックス遺伝子とはホメオボックスというある保存された領域を持つ遺伝子の総称。
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