1. 発生学の歴史と、その中で提唱された基本概念について、それを支えた研究者の名前を挙げながら説明できる。

モーガン
   当初遺伝は細胞質内のもので司どられると考えていた彼だが、論争に負けたことをきっかけに1910年ショウジョウバエの目の色の突然変異体とハエの性が関連していることを発見した。伴性遺伝の発見である。
   そして、3点交雑法を用いて、染色体地図を作り上げ、メンデルのかつて述べた遺伝要素が実在することを明らかにした。

フォークト
   胚の一部を生体に無害な物質で染色し、発生の各過程におけるその部分の動きをおいかける、局所生体染色法を確立した。それにより、予定運命図を作った。

シュペーマン
   イモリの胚を用いて欠如実験、移植実験、結紮実験を行い、その発生過程を明らかにした。原口上唇部あるいは灰色三日月環が分化を誘導する働きをもつことを見つけ、オーガナイザーという概念を確立した。

ルイス
   1978年ショウジョウバエの体節を決めるのに少なくとも8つの遺伝子が関係し、狭い領域に一列に並んでいることを、古典的な交雑による実験から予想した。さらにその並び方は頭のほうから尾のほうまで発現する場所と一致したならびになっていることを示した。体節決定にはこれらの遺伝子の産物の濃度勾配が重要であるということである。この予想は後に直接遺伝子を解析することで確認された。

ウィーシャウス
   分節構造を作る遺伝子には3つのクラス(ギャップジーン、ペアルールジーン、セグメントポラリティージーン)があり、これらが順に発現することを発見した。

ニュースライン   フォルハルト
   前方、後方、末端、背腹決定のシステムが母性由来の遺伝子産物の濃度勾配であることを突き止めた。例えば、bicoid遺伝子は母親の卵巣の中で転写されてmRNAの形で卵の頭のほうにのみ入れられる。これが卵の中で翻訳されて濃度勾配を作り、それにより頭尾の軸ができるのである。




2. ショウジョウバエの性決定過程に関わる分子をその構造とともに説明できる。

性決定の分子機構    ショウジョウバエの性決定に関わる分子で特に重要なのは、sis(sisterless)、dpn(deadpan)、Sxl(sex lethal)、Tra(transformer)、Tra2、dsx(double sex)である。以下これらの分子に注目しながら、見ていく。

   ショウジョウバエの性染色体はXY型だが、Y染色体はダミーであり、性決定はX/A ratioつまり常染色体と性染色体の比によってなされる。X/Aが大きい(つまり正常な場合XX型のとき)とSxlが発現し、逆に小さいと発現しない。Sxlはメスのみで発現する遺伝子である。
   このSxl発現の差は、X染色体上のsis-a、sis-bなどと、常染色体上のdpnなどからできるタンパクの比によって起こる。これらのタンパクは共にヘリックス―ループ―へリックス(HLH)の構造をもつ転写因子であり、ホモダイマー(ダイマー=二量体)やヘテロダイマーを形成する。ただし、このうちSxl promoterを活性化するのは前者のX染色体のダイマーのみなので、SxlはX/Aの高いときにのみ発現する。
   ショウジョウバエの性分化においては、オスになるのが既定の経路である。X/A ratio が小さいとき、SxlおよびTraはオス・メス両方で転写されるが、オスのそれはスプライシングによって停止コドンを中に含むため、できるペプチドが非常に短くなっており、機能しない。また、dsx転写産物はスプライシングをうけ、メスへの分化をストップする働きをもつ。
   一方X/A ratioが大きいとき、Sxlが発現し、メスへの分化が起こる。Sxlは二つの作用部位を持つスプライシング調節タンパクである。すなわち、@Sxl遺伝子をうつしたrRNAに作用してSxlタンパクの産生を続けさせる雌特異的スプライシングを起こす。また、ATraのmRNAに作用して活性のあるTra調節タンパクが作られる。TraタンパクはTra2タンパクと共にdsx転写産物の雌特異的スプライシング型を作る。このdsxはオスの性質をオフにする。ちなみに、dsxがまったく働かないとオス・メス両方の性質を備えたハエになる。
   SxlおよびTraタンパクは共にRNA上の特異的部位に結合するが、前者がスプライシングを阻止する作用を持つのに対し、後者はスプライシングを誘導する。




3. ヒトとショウジョウバエとの性決定の基本メカニズムの差について説明できる。

   ヒトとショウジョウバエの大きな違いは2つある。
   1つはY染色体の働きである。ヒトもショウジョウバエも性決定様式はXY型であるが、ショウジョウバエではY染色体がダミーで、性決定はX染色体と常染色体の比によって決まる。一方、ヒトではY染色体のあるなしによって性が決まる。
   もう1つはヒトでは1次性決定と2次性決定の2段階の性決定が行われるのに対し、ハエではホルモンを持たないので1段階ですべての性に関する器官が作られるという点である。
   ヒトの1次性決定とはY染色体のあるなしによって精巣または卵巣が形成されることをいい、2次性決定とはその後の精巣からの雄性ホルモンのあるなし、またはその効果のあるなしで外生殖器を中心とする体の性決定が行われることを言う。ちなみに、「効果のあるなし」とはホルモンがあっても受容体がない場合、その効果はなく、たとえXY型で精巣があっても体は女性となる場合があるということに言及したものである。
   ハエはホルモンを持たないので体のそれぞれ部分が自らの遺伝子の命令に従って、体のほかの部分とは独立してオス化またはメス化してゆく。発生のごく初期に1つの細胞でX染色体に異常があると、体がオスメスモザイク化することがある。




4. ヒトの性決定を調節している分子について少なくとも5つ以上挙げ、各々の機能について説明できる。

   性決定に関わる遺伝子で男性化に必要で代表的なものはSRY、SOX9、SF1であり、女性化に関わる代表的なものはDAX1、Wnt4aである。以下それぞれついて述べる。

<Y染色体上の因子:男性化>
SRY
   ヒトの男性化はY染色体の存否が決定的な要素を成す。しかし、XX型の男性やXY型の女性が存在することからY染色体のある部位のみが性決定に働くと予想され、その領域がSRYと名付けられた。その後研究はその領域の正確な場所を探すことに向けられた。その結果、223個のアミノ酸のペプチドをコードする遺伝子がこの領域から見つけられ、改めてSRYと名付けられた。このペプチドはDNAに結合しこれを曲げる転写因子である。
   多くの証拠から、SRYは1次性決定において精巣決定因子として働くと思われる。例えば、XX型の男性にはSRYが見つかっており(何らか組換えが生じてY染色体からSRYがX染色体に乗り移ったと考えられる)、一方XY型の女性にはSRYがなくなっていたり変異を起こしたりしていた。また、SRYを導入したトランスジェニックマウスは精巣があり、男性型を示した。
   しかし、SRYは精巣決定に必須だが、これだけで性決定すべてが支配されるわけではない。

<常染色体上の因子:男性化>
SOX9
   これもSRYと同様の形式の転写因子である。この遺伝子に異常があると、大概は生後すぐに死亡するが、生き延びて成長したXY型のヒトは女性の形質や両性具有の形質を示す。SOX9はSRY発現のすぐあとに発現して働き、SRYの補因子か、SRYに活性化されている因子かもしれないと考えられている。
SF1
   SRYの補因子または被活性化因子と考えられる因子として、もう1つSF1がある。SF1は転写因子で性ホルモンのもととなるステロイド生合成に関わるいくつかの遺伝子を活性化すると思われる。実際、テストステロン合成に働いていることが確認されている。さらにSF1は精巣形成にも役立つと考えられる。

<X染色体上の因子:女性化>
DAX1
   XY型女性でXの短腕が重複している女性が見つかり、その後その領域が2倍になるとSRYの働きが打ち消されることがわかった。この領域内の重要な遺伝子がDAX1と名付けられた。これは精巣の発生により抑えられているが、2倍になると抑制を上回ると考えられる。

<常染色体上の因子:女性化>
Wnt4a
   Wnt4aも卵巣決定に重要とされており、この発現はXX型の性腺で卵巣ができ始めるころから起こりその後しばらく維持される。これをもたないマウスは卵巣を作れず、精巣に特異的な遺伝子を発現させてしまう。SRYが働くとWnt4aの働きは抑制されるらしい。
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