Alzheimer病 Alzheimer's disease (AD) |
【疫学】 | 最も頻度の高い痴呆性疾患で、全痴呆性疾患の約70%を占める 多くは孤発例。10%前後は家族内発症(家族性Alzheimer病とよばれる) ε4のアポリポ蛋白をもつ患者に好発する |
【症状】 | 初期…記銘障害(エピソード記憶の完全脱落、物取られ妄想etc.)、見当識障害、抑うつ症状、人格変化etc. 中期…上記症状の悪化、失語、失行、失認、保続、多幸、多彩な行動・心理症状etc. 末期…要介護、意思疎通困難、常時失禁、弄便、異食、寝たきり状態etc. ※仮性痴呆を示すうつ病とは逆に、夕方以後に増悪することが多く、夜間せん妄も時に認められる |
【検査】 | 痴呆評価尺度…遅延再生課題↓↓、保続etc. 画像診断…CT・MRIにて大脳の全般的萎縮とSylvius裂・脳室の拡大、SPECT・PETにて血流・代謝の低下(頭頂・側頭葉で初発、後に前頭葉に拡大) 髄液検査…タウ蛋白↑、βアミロイド(Aβ)↓ |
【病理】 | ・老人斑…難溶性のAβが中心に沈着してできた鍍銀染色で明瞭に染まる異常構造物 ・神経原性変化(NFT)…タウ蛋白の過剰リン酸化に伴う微小管の不安定化による神経細胞の脱落 ・神経細胞の高度の脱落…大脳皮質、海馬、コリン作動性神経などでみられる |
【治療】 | 根本的治療法なし。痴呆対応型共同生活介護(グループホーム)や薬物による対症療法(抗AChE薬である塩酸ドネペジルの投与) |
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脳血管性痴呆 cerebral vascular dementia |
【疫学】 | Alzheimer病と並んで頻度の高い痴呆の原因疾患 |
【原因】 | ・一発の大きな脳出血or脳梗塞で一挙に痴呆に至る場合…遷延性の意識障害を伴うことが多い ・多発梗塞性痴呆(MID)…神経細胞の脱落は前頭葉の皮質下、基底核に好発 ・Binswanger型脳症…びまん性に大脳白質が侵される |
【症状】 | 前駆症状…脳卒中やTIA発作の既往etc. 初期…局所神経症状、意欲の低下、抑うつ、健忘、まだら痴呆(ある事象の判断力は衰えるが、別の事象の判断力は正常)、感情不安定、感情失禁(突然何の脈絡もなく泣いたり、笑ったりする)、夜間せん妄、仮性球麻痺による誤嚥etc. ※失行・失認・失語、反響言語などの症状は少ない 進行期…階段状に増悪していく。人格は末期まで保たれ、病識もある |
【検査】 | 画像診断…多発梗塞性痴呆では、CTにて多発性の低吸収域、MRIのT2強調画像にて多発性の高信号域。Binswanger型脳症では、CTにて白質のびまん性低吸収域、MRIのT2強調画像にて白質のびまん性高信号域 |
【鑑別】 |
| Alzheimer型痴呆 | 脳血管性痴呆 |
発症様式 | 徐々に発症 | 急性発症or脳卒中の発症と時間的関連をもって発症 |
経過 | 進行性悪化 | 動揺性階段状悪化 |
痴呆の性質 | 全般性痴呆 | まだら痴呆 |
病識 | 早期になくなる | 末期まで残る |
人格 | 早期より崩壊する | 比較的よく保たれる |
随伴症状 | 神経学的局所症候(−) 徘徊、多動、濫集傾向を伴いやすい | 神経学的局所徴候(+) 感情失禁を伴いやすい |
CT・MRI | 脳萎縮、脳室拡大 | 器質性血管病変 |
SPECT | 両側性(特に頭頂葉・側頭葉)の血流低下 | 斑状の血流低下 |
脳波 | 全般的徐波化 | びまん性α波 |
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前頭側頭型痴呆 fronto-temporal dementia (FTD) |
【概念】 | 前頭葉および側頭葉の前方部分が萎縮し、特異な精神症状をきたす疾患群 |
【分類】 | - Pick病
- 概念…前頭葉or側頭葉が限局性萎縮(葉性萎縮)をきたし、特異な精神症状をきたす疾患
症状…前頭葉型は人格荒廃で初発し、次第に欲動的脱制止、考え無精、滞続言語などを呈するようになる。側頭葉型は失語症(感覚失語)で初発し、進行すると人格変化を伴うようになる 検査…CT・MRIにて前頭葉or側頭葉の萎縮、SPECTにて萎縮部位の血流低下 病理…Pick細胞(タウ蛋白の過剰リン酸化により、細胞質内に嗜銀性の球型封入体が形成された細胞)
- 前頭葉変性症(FLD)
- 概念…前頭葉および側頭葉前方部分の萎縮+黒質変性により、特異な精神症状をきたす疾患
症状…前頭葉型Pick病とほぼ同様の症状+進行時のパーキンソニズム 病理…Pick細胞(−)、老人斑(−)、神経原性変化(−)
- 運動ニューロン型
- 症状…前頭葉型Pick病とほぼ同じ症状+進行時のALS様の運動ニューロン症状
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びまん性Lewy小体病 diffuse Lewy body disease (DLBD) |
【概念】 | 脳幹から大脳皮質にかけてびまん性にLewy小体(αシヌクレインを主成分とするエオジン好性の神経細胞内封入体)を有し、痴呆とパーキンソニズムをきたす疾患 |
【疫学】 | わが国では、Alzheimer病、脳血管性痴呆に次いで3番目に多い痴呆性疾患 |
【分類】 | ・通常型…老年期に痴呆症状を発症し、比較的早期にパーキンソニズムが出現 ・純粋型…初老期にパーキンソニズムを発症し、経過ともに痴呆症状が出現 |
【症状】 | Alzheimer病類似の痴呆症状(ただし、生々しい幻視の反復、動揺性の認知障害、抗精神病薬に対する感受性の著しい高さという3点で異なる)+パーキンソニズム |
【検査】 | 画像診断…Alzheimer病ほどの脳萎縮はみられず、診断的価値は低い |
【病理】 | びまん性に分布するLewy小体の他、通常型ではAlzheimer病類似の病理所見(老人斑、神経原性変化)がみられる |
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進行性核上性麻痺 progressive supranuclear palsy(PSP) |
【概念】 | パーキンソニズム、眼球運動障害、仮性球麻痺、痴呆などを呈する非遺伝性疾患 |
【原因】 | 脳幹の神経核にある神経細胞の脱落、神経原性変化 |
【症状】 | パーキンソニズム…初老期〜老年期の初発症状。L-DOPA抵抗性 眼球運動障害…後頸筋の筋固縮による下方注視麻痺が中心。姿勢異常(極端な後屈姿勢)を伴う 仮性球麻痺…嚥下困難、構音障害etc. 皮質下痴呆…獲得した知識の操作能力の低下があり、物忘れと思考過程の緩慢化が特徴的 人格変化…意欲の減退、感情変化(易怒性、多幸etc.)etc. ⇒これらの症状は数年の経過で増悪し、やがて寝たきりとなって死亡する |
【検査】 | 画像診断…CT・MRIにて中脳・橋・延髄の高度な萎縮 |
【病理】 | 神経細胞・グリア細胞に神経原性変化 |
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皮質基底核変性症 corticobasal degeneration (CBD) |
【概念】 | 大脳皮質と基底核に著明な萎縮を認める非遺伝性の疾患 |
【症状】 | 初老期〜老年期に、失語・失行・失認+皮質性感覚障害(alien hand etc.)+L-DOPA抵抗性のパーキンソニズム+痴呆を発症。進行性の経過をたどり、数年で寝たきりになって死亡する |
【病理】 | 神経原性変化(−)、ballooned neuron(+) |
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Huntington病 |
【概念】 | 舞踏病と痴呆を特徴とする神経変性疾患。AD遺伝性のtriplet repeat病である |
【疫学】 | 30〜50歳くらいが好発年齢 |
【症状】 | 舞踏病で初発し、進行とともにPSP同様の皮質下痴呆と人格変化が現れる。緩徐進行性で、最終的には無言無動状態となり、寝たきりとなって死亡する |
【検査】 | 画像診断…線状体(特に尾状葉)の著明な萎縮、側脳室前角の対称性拡大(butterfly appearance) |
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Creutzfeldt-Jakob病 (CJD) |
【概念】 | プリオン蛋白(PrP)の変性により、痴呆とミオクローヌスを中心とする神経症状を呈する疾患 |
【疫学】 | 大半が孤発例(50〜80歳に発症)。一部、感染例や遺伝例もある |
【症状】 | 記銘障害、痴呆、人格変化、異常行動(運動失調、ミオクローヌス、錐体路徴候、錐体外路徴候etc.)などを呈する。急速に進行し、数ヶ月以内に無言無動状態に陥り、発症から平均1年半で死亡する |
【検査】 | 脳波…周期性同期性放電(PSD) |
【病理】 | 海綿状脳症(脳がスポンジ状に変性) |
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エイズ痴呆症候群 AIDS dementia complex(ADC) |
【概念】 | HIV感染症のAIDS期およびAIDS関連症候群期(ACR期)に、皮質下痴呆を中心とする中枢神経症が生じた状態。まれではあるが、無症候期にも起こることがある |
【疫学】 | 頻度は20〜70% |
【原因】 | HIV感染が直接の原因 |
【症状】 | 初期…記銘障害、無気力、集中力低下etc. 中期…思考過程・言語の緩慢化、認知障害、運動障害etc. 末期…無言無動状態、意思疎通困難、対麻痺、失禁、寝たきり状態etc. |
【検査】 | MRI…T2強調画像にて白質を中心とするびまん性の高信号域 |
【病理】 | 特に大脳白質から深部灰白質にかけて、多核白血球・リンパ球・Mφなどが浸潤し、神経細胞の破壊とグリア細胞の増殖がみられる |
【治療】 | 通常のHIV感染症と同じ(逆転写酵素阻害薬、プロテアーゼ阻害薬などの多剤併用療法) |
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進行麻痺 general palsy |
【概念】 | 梅毒の起炎菌であるTreponema pallidumによって起こる脳炎。第4期梅毒に分類される |
【症状】 | 初期…人格変化(無気力、抑制欠如etc.)、記銘障害、知能低下etc. 進行期…麻痺性発作(痙攣、卒中様症状etc.)、精神症状の進行、Argyll Robertson瞳孔、言語蹉跌(つまずきことば)etc. |
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