喉頭軟弱症 laryngomalacia |
【原因】 | 喉頭軟骨が軟弱で、吸気時に披裂軟骨が下方へ吸い込まれ、それに喉頭蓋が崩れるように被さるために起こる |
【症状】 | 出生後3週間以内に、吸気時に高調で叫ぶような喘鳴を呈する(就寝時には目立たず、号泣や怒責で強くなる)。全身状態は良好で、発育も正常 |
【検査】 | 喉頭ファイバースコープ⇒吸気時に披裂軟骨が下方に吸い込まれ、喉頭蓋が崩れるように被さる所見 |
【治療】 | 特に必要ない |
【予後】 | ほとんどが6ヶ月から2歳頃までに自然に軽快する |
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先天性喉頭喘鳴 congenital laryngeal stridor |
【概念】 | 新生児期に喘鳴をきたす疾患の総称 |
【原因】 | 大半が喉頭軟弱症。他には、顎・舌の奇形、甲状腺肥大による気道の圧迫、気道の異物etc. |
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急性喉頭蓋炎 acute epiglottitis |
【概念】 | 喉頭蓋に生じた急性の炎症性疾患 | |
【疫学】 | 欧米では4〜6歳の幼児に好発、日本ではむしろ成人に多い |
【原因】 | 起炎菌としてはインフルエンザ菌が最多。他には黄色ブドウ球菌、溶連菌etc. |
【症状】 | 感冒症状に続発して、咽頭痛、嚥下困難、全身状態不良、ふくみ声(嗄声はまれ)、急激な吸気性の呼吸困難(←喉頭浮腫による)などを呈する |
【検査】 | 頸部単純Xp⇒腫れた喉頭蓋の輪郭が追える 喉頭ファイバースコープ⇒喉頭蓋の腫脹※間接喉頭鏡検査は気道閉塞を惹起する危険があるので、行わない方が無難 |
【治療】 | 気道確保の準備、抗生物質の全身投与、ステロイドの点滴静注(⇒喉頭粘膜の浮腫を抑制) |
【予後】 | 呼吸困難から窒息死に至ることもあるので、一刻も目を離せない疾患である |
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急性声門下喉頭炎 acute subglottic laryngitis |
【概念】 | 声門下の急性炎症性疾患。アメリカではクループ症候群とよばれる |
【疫学】 | 3歳以下の乳幼児に好発。冬季に多い |
【原因】 | パラインフルエンザウイルスなどのウイルス、インフルエンザ菌、溶連菌、黄色ブドウ球菌etc. |
【症状】 | 喘鳴(吸気時に著明)、咳嗽(金属性or犬吠様)、嗄声(←声帯への炎症の波及による)、呼吸困難etc. |
【検査】 | 間接喉頭鏡検査⇒声門下腔の腫脹・発赤 胸部Xp⇒肺野全体の透過性低下 |
【治療】 | アドレナリン・ステロイドを含む吸入液を用いたネブライザー療法、抗生物質・ステロイドの全身投与、輸液(⇒咳嗽の持続による脱水を改善)、酸素投与(←呼吸困難の徴候がある場合) |
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声帯結節 vocal cord nodule |
【概念】 | 声帯縁に沿って生じた小さな結節様隆起。謡人結節ともよばれる |
【原因】 | 声帯の酷使によって生じた粘膜の肥厚に起因 |
【疫学】 | 小学校入学前後の年齢の男児に多い |
【症状】 | 気息性嗄声 |
【検査】 | 間接喉頭鏡検査or内視鏡検査⇒声帯の前中1/3境界部に両側性の結節 |
【治療】 | 声帯の安静がまず第1。高度なものでは、喉頭微細手術を行う |
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声帯ポリープ vocal cord polyp |
【概念】 | 声帯縁に生じた有茎性の浮腫性腫瘤 |
【原因】 | 声帯の酷使と喫煙習慣が誘因となる |
【症状】 | 粗そう性嗄声(低調音が混ざって、異様にガラガラに聞こえる) |
【検査】 | 間接喉頭鏡検査or内視鏡検査⇒声帯縁に生じた有茎性の浮腫性腫瘤(呼吸とともに振子様に動く。声帯の前中1/3境界部に好発。通常、一側性) |
【治療】 | 声帯の安静と禁煙をまず指導するが、これだけでは腫瘤は消失しないので、喉頭微細手術を行うことが多い |
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ポリープ様声帯 polypoid vocal cord |
【概念】 | 声帯が全長にわたって浮腫性に腫脹した状態 |
【病理】 | 粘膜固有層の浮腫性変化 |
【原因】 | 声帯ポリープと同じ |
【症状】 | 声帯ポリープと同じ |
【治療】 | 喉頭微細手術 |
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喉頭外傷 |
【疫学】 | 頻度的にはまれ |
【原因】 | 首を伸ばした状態で前方から鈍的外力が作用して生じることが多い |
【症状】 | 呼吸困難、嗄声、皮下気腫、縦隔気腫、重症例ではショック状態 |
【検査】 | 経鼻的喉頭ファイバースコープによる喉頭の観察 |
【治療】 | ステロイドの点滴静注(⇒喉頭粘膜の浮腫の進行を抑制)、挿管の準備を行う。受診時にすでに呼吸困難を訴えている場合には、外傷部位の下方で速やかに気管切開を行う |
【予後】 | 初期の適切な治療を怠ると、窒息死の可能性が十分にある |
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喉頭乳頭腫 laryngeal papillomatosis |
【概念】 | 喉頭に生じた良性腫瘍 |
【原因】 | HPV(特に6型と11型)の感染 |
【分類】 |
| 小児型 | 成人型 |
原因 | HPVの産道感染 | HPVへの感染 |
症状 | 嗄声が主症状 (多発性の場合には呼吸困難をきたすこともある) | 嗄声が主症状 |
検査 | 内視鏡検査⇒赤みを帯びた柔らかそうな腫瘤が多発 | 内視鏡検査⇒白色の硬そうな腫瘤が単発 |
治療 | レーザー照射が第1選択 | 喉頭微細手術orレーザー照射 |
予後 | 非常に再発しやすい | 再発はまれだが、長期間経過後に癌化する |
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喉頭癌 carcinoma of the larynx |
【疫学】 | 耳鼻咽喉科領域の悪性腫瘍の中で最多。好発年齢は60〜80歳代で、男女比は10:1 |
【原因】 | 喫煙が重要な危険因子 |
【病理】 | ほとんどが中〜高分化型の扁平上皮癌 |
【分類】 | - 部位別分類
| 部位 | 頻度 | 症状 | リンパ節転移 | 予後 |
声門癌 | 声門部から発生 (声帯に原発) | 約60% | 早期から嗄声(原則として粗そう性嗄声)、癌の進展とともに増悪 | 喉頭癌の中で最もリンパ節転移が遅れる | 最も良好 |
声門上癌 | 声門上腔から発生 (後頭蓋、喉頭室、 仮声帯などに原発) | 約35% | 早期の自覚症状に乏しい(咽喉の異物感、嚥下痛くらい)、進行すると嗄声 | 頸部リンパ節転移を起こしやすい | 声門癌より明らかに劣る |
声門下癌 | 声門下腔から発生 | 数% | 無症状(咳嗽くらい)に進行、声門部に進展して初めて嗄声をきたす | 高率に傍気管リンパ節転移 |
- TNM分類
T分類 |
声門癌 | 声門上癌 | 声門下癌 |
T1:声門部に限局、声門運動正常 T1a:一側声帯に限局 T1b:両側声帯を侵す T2:声門下部or声門上部に進展、 声門固定(−) T3:一側or両側の声門固定(+) T4:甲状軟骨を破壊して喉頭外に 進展 | T1:声門上部の1亜部位に限局、 声帯運動正常 T2:声門上部の隣接亜部位、声門 部、舌根・後頭蓋谷・梨状陥凹の 粘膜浸潤(+)、声帯固定(−) T3:声帯固定(+)、喉頭内限局 T4:甲状軟骨を破壊して喉頭外に 進展 | T1:声門下領域に限局 T2:声門に進展、声帯固定 (−) T3:声帯固定(+) T4:甲状軟骨、輪状軟骨を 破壊して喉頭外に進展 |
N分類 |
N0:頸部リンパ節触知(−)
N1:同側に1個の転移巣(最大径≦3cm)
N2:最大径≦6cmの転移巣 N2a:同側の1個の転移巣(最大径>3cm) N2b:同側多発の転移巣 N2c:両側or反対側の転移巣
N3:最大径>6cmの転移巣 |
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【治療】 |
| T1と大部分のT2 | 一部のT2とT3、T4 |
声門癌 | 根治的放射線照射が第1選択。他には、レーザー照射(T1のみ)、喉頭部分切除術 | 原則として喉頭全摘出術※。頸部リンパ節転移があれば頸部廓清術を追加 |
声門上癌 | 根治的放射線照射が第1選択。他には、水平部分切除術 | 原則として喉頭全摘出術。頸部リンパ節転移があれば頸部廓清術を追加。T4の一部には放射線照射を追加することもある |
声門下癌 | 根治的放射線照射が第1選択 | 喉頭全摘出術+傍気管リンパ節廓清 |
※喉頭全摘出後は、頸部に永久気管孔を設け、ここを通じて呼吸することになる。その結果、声帯機能・発声機能は完全に失われるので、代用音声が使用される。代用音声の方法としては、以下の3方法がある
| 振動の エネルギー源 | 振動体 | 長所 | 短所 |
食道発声 | 上部食道内の空気 | 下咽頭食道部の粘膜 | 道具不要、熟練者では自然に近い発声が得られる | 練習必要、聴き取りにくい声、音声持続時間が短い |
人工喉頭 (タピアの笛、電気
人工喉頭etc.) | 永久気管孔から出される呼気流 | 人工喉頭のゴム膜 | 練習不要、比較的聴き取りやすい声 | 道具必要、抑揚に乏しい、機械的で不自然 |
気管食道瘻形成術 (T-E shunt) | 気管からの呼気流 | 下咽頭食道入口部の粘膜 | 道具不要、練習不要、比較的聴き取りやすい | 誤嚥の危険性 |
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混合性喉頭麻痺 associated laryngeal paralysis |
【概念】 | 舌咽神経・迷走神経・副神経・舌下神経が同時に障害された病態。比較的よくみられるのは、\・]・XIの組み合わせで、Vernet症候群(頸静脈孔症候群)とよばれる |
【原因】 | 延髄の核性病変or延髄から出て間近の末梢性病変 |
【症状】 | \・]神経障害⇒軟口蓋麻痺、嗄声 XI神経障害⇒胸鎖乳突筋・僧帽筋の麻痺 |
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反回神経麻痺 reccurent nerve palsy |
【概念】 | 迷走神経の枝である反回神経(下喉頭神経)の麻痺 |
【疫学】 | 喉頭の運動神経障害としては最多 |
【原因】 | 原因不明のものが半数を占めるが、原因の分かっているものとしては外傷、機械的圧迫(大動脈瘤などによる)、悪性腫瘍の浸潤(肺癌の大動脈弓下リンパ節転移、Pancoast腫瘍、食道癌・悪性縦隔腫瘍・甲状腺癌の浸潤etc.)、感染症、手術合併症(甲状腺手術時の損傷etc.)などがある |
【症状】 | - 片側性麻痺
- 麻痺側声帯が正中位or正中から少しずれた位置で固定すると、嗄声のみ(気息性嗄声で、息切れを伴う)
健側声帯による代償が効かないくらいの開大位で固定すると、失声と誤嚥を呈する(気息性で、高度の息切れを伴う)
- 両側性麻痺
- 声帯が開大位で固定すると、気息性嗄声(時には失声)となり、高度の息切れ、誤嚥を伴う
両側声帯が正中位で固定すると、体動時呼吸困難を呈し、さらに悪化すると安静時呼吸困難も呈する
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【検査】 | 間接喉頭鏡・内視鏡検査にて声帯の運動(−)、音声の持続時間↓、基礎疾患の検索 |
【治療】 | 保存的治療…(炎症に対して)ステロイド、ATP製剤、Vit. B12製剤、血管拡張薬などの投与 手術療法…(嗄声に対して)麻痺側声帯の内転、(体動時呼吸困難に対して)片側声帯の外転、(安静時呼吸困難に対して)気管切開 |
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機能性失声 (心因性失声) functional aphonia |
【概念】 | 器質的異常がないのに、失声を呈する疾患。転換性障害の一症状として現れる |
【検査】 | 間接喉頭鏡検査or内視鏡検査⇒発声しても声帯は動かないが、咳払いをすると声帯は動く |
【治療】 | 精神的なアプローチが必要 |
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構音障害 articulation disorders |
【概念】 | 内言語には異常がないにもかかわらず、語音の生成に異常がある状態 |
【原因】 | 器質性構音障害…構音器官(舌、口唇、口蓋etc.)の形態上の障害がある状態。口蓋裂、舌癌手術後etc. 麻痺性構音障害…構音器官が動かない状態。舌下神経麻痺、顔面神経麻痺etc. 機能性障害…構音器官の構造・運動に異常がないのに、構音に異常がある状態。聾唖、誤った習慣etc. |
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