産褥の概念
   分娩後、母体が妊娠前の状態に戻っていく期間。臓器によって回復に要する期間は異なるが、産褥の期間はほぼ6週間
産褥期の身体的変化
子宮体部の変化
子宮の復古
分娩直後…重量は約1kgで、子宮底はほぼ臍高(およそ妊娠20週時の大きさ)
   ※子宮底が最も高くなるのは分娩後12時間頃
産褥7日目…妊娠12週時の大きさで、子宮底は恥骨結合の高さ
6週間以内…正常大に復古、100g以下となる
子宮頸管の変化産褥期間中次第に閉鎖していく(産褥7日目には1横指開大)が、外子宮口には横裂が残る
子宮頸部の復古は子宮体部より速やかである
腟の変化分娩により過度に伸展された腟壁は徐々に回復し、ほぼ3週間後に分娩前の状態に戻る
乳房の変化分娩後胎盤が排出されると、血中のエストロゲン・プロゲステロンの急激な減少により、乳腺におけるプロラクチン受容体のブロックが解除されるために、乳汁分泌が開始される。その結果、産褥2〜4日には初乳が、4〜10日には成乳が分泌される。児が吸啜運動を行うと、乳頭が刺激され、プロラクチン・オキシトシンの分泌が促進され、乳汁分泌・乳汁排出が起こる
   ※初乳は児にIgA・Mφなどの免疫物質と蛋白を与え、成乳は児に糖分・脂肪分などの栄養分を与える
悪露悪露=産褥期に子宮・腟より排出される分泌物の総称
   ・赤色悪露産褥2〜4日頃まで。大部分は胎盤剥離面からの血液による
   ・褐色悪露…産褥5日頃から10〜14日頃まで。胎盤剥離面からの血液成分中のHbの変色による
   ・黄色〜白色悪露…産褥10日頃以後。黄白色のクリーム状。産褥1ヶ月でも認められることがある
体重の変化分娩により体重は約5.5kg減少する。産褥期にはさらに約4kgの体重減少が認められる
体温の変化産褥4日目頃までは、体温が37.5℃程度に一過性に上昇することがある
循環器系の変化分娩直後には子宮から全身循環系に血液の再配分が起こるので血圧は上昇する
呼吸器系の変化産褥期では残気量は増加するが、肺活量は減少する
泌尿器系の変化尿の過度充満・残尿量の増加(分娩後24時間以内)、軽度の蛋白尿(分娩後1〜2日間)、一時的な排尿困難・尿閉
排便の変化分娩後は便秘傾向となる場合が多い
疼痛後陣痛(子宮収縮によるもので、子宮復古を促進する生理的現象)の他、会陰裂傷・切開縫合部の疼痛が局所麻酔の効果低下後に出現してくる
※授乳の禁忌…@乳児が罹患していない急性伝染病に母親が罹患した場合、A次子を妊娠した場合、B母親に慢性疾患(悪性腫瘍、てんかん、糖尿病、甲状腺機能亢進症、重症腎炎、心不全etc.)がある場合etc.
産褥期の異常
産褥出血
postpartum
hemorrhage
【概念】分娩後の出血
【分類】
早期出血
概念…分娩後24時間以内に経腟的に起こる500ml以上の出血
疫学…全分娩の約1〜8%
原因…子宮弛緩(←多胎、羊水過多、多産婦、遷延分娩、子宮筋腫、子宮収縮薬による誘発、過強陣痛、常位胎盤早期剥離etc.)、会陰切開・裂傷、胎盤・卵膜遺残、血液凝固能低下etc.
   ※胎盤片の残留が原因として最多
合併症…ショック、貧血、Sheehan症候群、腎機能低下、母体死亡
予防…胎児娩出後の子宮収縮剤の投与
治療…子宮収縮薬の追加投与、輸血、原因究明と原因に応じた治療
晩期出血
概念…分娩後24時間以後に経腟的に起こる出血
原因…胎盤・卵膜の小片や凝血塊の遺残、脱落膜炎
症状…鮮血様出血、凝血塊、内診にて軟で腫大した子宮、内子宮口の開大
治療…子宮内容除去術、抗生物質投与








乳房うっ積
【原因】乳汁産生のために、乳房への動脈血流が増加し相対的な静脈血還流不全が生じ、乳房内に血液・リンパ液がうっ滞するために起こる
【症状】産褥2〜3日に、両側性に乳房に熱感を伴った緊満感、疼痛、硬結を認める
【治療】冷罨法、乳房マッサージ(ただし、搾乳は禁忌)
乳頭亀裂
【原因】児が吸啜することにより乳頭に機械的・化学的損傷が加わるために起こる
【症状】産褥数日に、乳頭表皮に小水疱、表皮剥脱、出血、疼痛(授乳時、接触時)が出現する
【治療】授乳時間の短縮、ビタミン含有軟膏・キシロカインゼリー・抗生物質軟膏の塗布
うっ滞性
乳腺炎
【原因】乳管周囲組織の血液・リンパ液うっ滞や浮腫による乳管圧迫、乳汁の凝固や剥脱上皮による後天性乳管閉塞、オキシトシン分泌不全による乳汁排出障害etc.
【症状】産褥3〜4日頃に、乳房の腫脹・緊満・硬結、軽度の疼痛が出現する。発赤・熱感・波動感はない
合併症…細菌感染の併発による急性化膿性乳腺炎
【治療】乳汁排出(乳房マッサージ、授乳、搾乳)、冷罨法、局所の安静、NSAIDs投与、抗生物質投与
急性化膿性
乳腺炎
【原因】起炎菌…黄色ブドウ球菌、レンサ球菌etc.
【分類】実質性乳腺炎…乳管を経て波及する上行性感染。乳管、乳腺実質さらには周囲の間質組織に及ぶ
間質性乳腺炎…乳頭亀裂部位より侵入しリンパ行性に感染が波及するもの。比較的症状が強い
【治療】授乳の中止、抗生物質投与、膿瘍の切開・排膿、搾乳、冷罨法












子宮内感染
【病態】外陰・腟からの上行性感染⇒産褥子宮内膜炎(⇒骨盤内膿瘍)、卵管炎(⇒卵巣膿瘍⇒Douglas窩膿瘍)
【原因】起炎菌…大腸菌、嫌気性菌、MRSA etc.
誘因…前期破水、絨毛膜様膜炎、頻回の内診、遷延分娩、妊娠中毒症、産科手術、帝王切開術etc.
【症状】発熱(産褥2〜3日に多い)、頻脈、子宮・下腹部の圧痛、イレウス、低血圧、(最終的には)敗血症
【治療】子宮腟内遺残の除去、膿瘍の切開・排膿、抗生物質投与
尿路感染
【原因】起炎菌…大腸菌、プロテウスetc.
誘因…分娩時の神経圧迫による一時的な膀胱機能低下、膀胱浮腫、尿意消失、尿道カテーテルetc.
【症状】尿閉、頻尿、腰背部痛、発熱、頻脈、恥骨結合上部圧痛
【検査】細菌尿、尿培養検査
【治療】安静、利尿、抗生物質投与
産褥血栓性
静脈炎
【概念】産褥期に起こる血栓性静脈炎
【誘因】帝王切開が誘因として大きいが、産科手術の既往のない人にもみられることがある
【症状】発熱(微熱程度)、鼠径部リンパ節腫脹下肢の疼痛・浮腫(左側に好発)、Homan徴候(足の屈曲時に腓腹筋に疼痛を訴える)、白股腫(ろう白色に輝く下肢)etc.
【治療】安静、臥床、下肢の挙上、弾性ストッキングの着用、薬物療法(抗生物質、抗凝血薬、血栓溶解薬etc.)
産褥熱
puerperal
fever
【概念】産褥に発症する細菌感染症(子宮内感染、尿路感染、血栓性静脈炎、急性化膿性乳腺炎)のうち、特に分娩時の性器創傷により発生した細菌感染症で、分娩後24時間以降から産褥10日以内に38.0℃以上の発熱が2日間以上持続するもの。狭義には産褥子宮内感染症と同義
【疫学】産褥第3〜4日頃に好発
【原因】起炎菌…腸内・腟周囲常在菌(大腸菌、ブドウ球菌、溶連菌、嫌気性菌etc.)が原因となることが多い
マタニティー・
ブルー
【概念】産褥3〜10日に発症する一過性の軽い抑うつ状態
【疫学】出現頻度は10〜25%
【症状】軽度の抑うつ感、涙もろさ、不安感、集中力の低下(産褥3〜10日に発症し、約2週間で軽快消失)
【治療】周囲の受容的・支持的な対応、入眠薬・精神安定薬の投与、在宅ケア、育児の相談、同じ環境にある母親とのコミュニケーションetc.
【予後】一般に予後良好で、特別な治療は不要な場合が多いが、約5%の症例で産褥期うつ病に移行する
産褥精神病
【分類】早発型…分娩後1ヶ月以内に発症するもの。大半を占める。主症状は統合失調症に類似する
晩発型…分娩後1ヶ月以降に発症するもの。主症状はうつ状態
【症状】うつ状態(産褥期うつ病)…抑うつ感、不安、いらだち、不眠、蓄積疲労など。最も頻度が高い
神経症様状態…精神症状(不安、抑うつetc.)、身体症状(疲労感、頭痛、不眠、動悸etc.)
幻覚妄想状態…幻覚(被害的な幻聴が多い)、妄想など。人格は比較的保たれる
錯乱状態…徘徊、興奮、幻覚、妄想など。急激に発症するが、予後良好。しかし、再発しやすい
【治療】精神科医との連携、褥婦の心理的負担の除去、褥婦の社会的環境の調整、(幻覚妄想状態・錯乱状態に対しては)薬物療法
【予後】出産のたびにくり返すことが多く、くり返すごとに次第に重症化する傾向がある
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送