炎
症
性
疾
患 | 乳頭炎・乳輪炎 thelitis, areolitis |
【概念】 | 乳頭部の強い吸啜刺激によって起こる乳頭上皮の剥脱・亀裂・びらんなどに続発する表在性の炎症 |
【疫学】 | 授乳期に多い |
【症状】 | 合併症…細菌侵入による乳腺炎 |
【予防】 | 乳頭部のマッサージ、扁平or陥没乳頭の改善 |
【治療】 | 抗生物質軟膏の塗布 |
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急性乳腺炎 acute mastitis |
【疫学】 | 産褥期(特に授乳期)に多い |
【分類】 | うっ滞性乳腺炎…乳汁が乳腺にうっ滞することによる。産褥3〜4日目に多い 急性化膿性乳腺炎…細菌感染が加わり、乳管・乳腺実質・乳腺間質が侵される。分娩後1〜3週間に多い 乳腺膿瘍…さらに炎症が拡大して、乳腺組織に膿瘍を形成した状態 |
【症状】 | うっ滞性乳腺炎…乳房の緊満感、疼痛、圧痛、発赤、乳管閉塞部位の硬結 急性化膿性乳腺炎…乳房痛(自発痛、圧痛)、乳房内硬結、発赤、熱感、発熱、悪寒・戦慄、患側腋窩リンパ節腫脹 乳腺膿瘍…弛張熱、悪寒、硬結、発赤、腫脹、波動を伴う強い圧痛・自発痛、腫瘤触知 |
【予防】 | 適切な哺乳、搾乳、乳頭清拭、褥婦・児の感染巣の速やかな治療 |
【治療】 | 搾乳、マッサージ、冷罨法、抗生物質の投与、局所の安静、膿瘍に対しては穿刺排膿 |
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慢性乳腺炎 chronic mastitis |
【原因】 | 分泌物の乳管内うっ滞、ケラチン塞栓などの化学的刺激を主因とする。乳管拡張症や陥没乳頭を伴う場合が多い |
【症状】 | 発赤、浮腫、圧痛、自発痛、境界不鮮明な皮膚の硬結、腫瘤、腋窩リンパ節の有痛性腫脹 |
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Mondor病 |
【概念】 | 中年女性の前胸壁に発生する、皮下浅在静脈の血栓性静脈炎 |
【症状】 | 軽度疼痛性のひきつれ感を訴え、軽度圧痛性の索状物が触知される |
【予後】 | 2〜3週間で自然に消退する |
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乳腺症 mastopathia |
【概念】 | 炎症でも腫瘍でもない乳腺特有の疾患 |
【疫学】 | 乳腺疾患中最も頻度が高い。30〜40歳代に好発し、閉経後にはみられない |
【原因】 | エストロゲンのプロゲステロンに対する相対的過剰 |
【症状】 | 緊満感、自発痛、軽い圧痛、腫瘤(通常両側性で、弾性硬、境界不明瞭のことが多く、大小の顆粒状結節が集合した塊のように触れる。平手で触れにくい(Ko¨nig徴候)。月経前に増強)、まれに乳頭からの血性分泌物 |
【検査】 | 超音波検査…被曝の心配がなく、診断能も高いので、外来ではまず優先される マンモグラフィー⇒しばしば石灰化 |
【病理】 | 増殖・萎縮・化生の3病変を現す複雑な部分像を呈する。嚢胞、閉塞輸出管腺症、硬化性腺症、アポクリン上皮化生、輸出管乳頭腫症などが主な組織所見となる |
【治療】 | 経過観察でよいが、疼痛に対してはホルモン療法(エストロゲン・黄体ホルモン合剤、ダナゾール療法、GnRHアゴニスト療法、テストステロンetc.)が有効。乳癌との鑑別が困難な場合は細胞診・生検が必要 |
【予後】 | 悪性化の危険率は高くない |
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腫
瘍
性
疾
患 | 乳腺線維腺腫 fibroadenoma mammae |
【概念】 | 線維成分と腺組織がともに増殖する良性腫瘍 | |
【疫学】 | 乳房良性腫瘍のうちで最も多い。10歳代後半〜20歳代に好発 |
【症状】 | 腫瘤(片側性のことが多いが、しばしば多発し、両側性のこともある。腫瘤は硬く、卵状で表面平滑、境界明瞭、移動性に富む)、時に軽度の圧痛 |
【検査】 | マンモグラフィ(⇒halo sign) |
【治療】 | 若年者では経過観察。中・高齢者では乳癌でないことを確認するために腫瘍核出術を行う |
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乳管内乳頭腫 intraductal papilloma |
【概念】 | 乳頭近くの主乳管に発生することが多い乳頭状の良性腫瘍 | |
【疫学】 | 頻度は乳癌の1/10以下。40歳前後の女性に好発 |
【症状】 | 特定の乳管に限局した乳頭異常分泌(血性or漿液性)が主訴。腫瘤は触知しない場合が多い |
【検査】 | 乳癌との鑑別のために細胞診・組織診 |
【治療】 | 経過観察or乳管(腺葉)区分切除術 |
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葉状腫瘍 phyllodes tumor |
【概念】 | 乳腺に特異的な線維上皮腫瘍で、良性から悪性まで含む。腫瘍は分葉状 | |
【疫学】 | まれな疾患。幅広い年齢層にみられる |
【症状】 | 腫瘤(クルミ大〜小児頭大におよぶ孤立性、境界鮮明、硬い部分と柔らかい部分が混在した分葉状腫瘤)、皮膚の壊死・潰瘍 |
【治療】 | 良性で大きくないものは腫瘤摘出術or乳腺部分切除術。大きなものでは乳腺全切除or単純乳房切断術 |
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乳癌 carcinoma mammae |
【概念】 | 乳管上皮or小葉上皮から発生する上皮性悪性腫瘍 |
【疫学】 | 近年増加傾向。40〜50歳代に最も多いが、60歳以上・30歳代にも多い。出産経験がない女性や高齢で妊娠した女性に多い。部位的には外上方4分の1が最も多い |
【原因】 | 遺伝、動物性脂肪の摂取過多、高齢での初産、出産数の減少etc. |
【分類】 | - 特殊な乳癌
・乳房Paget病…乳頭・乳輪を中心とした湿疹様変化を伴う特殊なタイプの乳癌で、全乳癌の約1%を占める。原発巣は乳管であるが、乳頭に浸潤して、乳頭のびらんや痂皮形成を起こす。乳癌とは違い、乳腺内に腫瘤は触知されない。生検にて、細胞質が大きくて明るい腫瘍細胞(Paget細胞)が認められる。治療は乳癌に準じた根治手術が行われるが、乳癌よりも予後良好 ・男性乳癌…全乳癌の約0.6%を占め、好発年齢は50〜60歳代で女性乳癌よりも平均年齢が高い。診断・治療は女性の場合に準じるが、予後は女性に比べ不良である
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【症状】 | 腫瘤…通常片側性、無痛性、弾力性(−)、硬い、孤立性、境界は比較的明瞭、表面は凹凸不整、移動性(−) 皮膚症状…進行例では、ひきつれ、陥没、pointing、潰瘍、乳頭陥凹、乳頭分泌、橙皮様皮膚、えくぼ症状etc. 転移…腋窩・鎖骨上リンパ節に転移しやすく、さらに静脈角から血行に流入する。また骨・肝転移もよくみられる |
【検査】 | マンモグラフィー⇒spiculationを伴う辺縁不整で不整形の濃厚腫瘤陰影(触診より小さい)、多数の不揃いな微細石灰化像 ※マンモグラフィーは、若年者・妊娠期・授乳期ではdense breastのため診断価値が低い 超音波検査⇒不整形腫瘤像、低く不均一な内部エコー、後方エコーの減衰〜欠損、縦横比>1、外側陰影(−) 骨シンチ…骨転移の検索 |
【治療】 | 乳腺部分切除術、乳腺皮下切除術、胸筋温存乳房切除術、拡大乳房切除術などの手術療法が基本で、術後放射線療法、化学療法、ホルモン療法(抗エストロゲン療法)※などを追加する。再発例では内分泌療法・放射線療法が主 ※ホルモン療法は腫瘍細胞がエストロゲン受容体(+)の場合のみ有効 |
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女性化乳房症 |
【概念】 | 男性の乳腺肥大 |
【原因】 | 生理的反応として思春期男子や高齢者に起こることがある他、慢性肝疾患、ビタミンB2複合体欠乏、睾丸腫瘍、副腎皮質腫瘍、下垂体腫瘍、甲状腺機能亢進症、Klinefelter症候群、異所性ホルモン産生腫瘍(肺癌etc.)、Kennedy-Alter-Sung症候群、薬剤(エストロゲン製剤、スピロノラクトン、シメチジン、ジギタリスetc.)などによって起こることもある |
【症状】 | 乳腺肥大、軽度の自発痛・圧痛 |
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