公衆衛生と予防の考え方
健康の概念と公衆衛生
定義
WHO憲章の健康の定義
「単に疾病がないとか、虚弱でないだけでなく、身体・精神的・社会的に完全に良好な状態(well-being)である」
最高の健康水準を享受することは、すべての人間の基本的な権利であるとしている
Winslowによる公衆衛生の定義
「組織化された地域社会の努力を通じて、疾病を予防し、寿命を延長し、身体的・精神的健康と能率の増進を図る科学・技術」
内容…環境衛生、感染症対策、衛生教育、保健・医療制度の組織化、社会保障制度の改善
指標
地域別比較のための健康状態を示す健康指標
@年齢調整死亡率   A乳児死亡率   B0歳平均余命   CPMI(50歳以上死亡割合)
健康総合指標(死亡統計を用いて国際間の健康水準を比べるための包括的健康指標)by WHO
@(粗)死亡率   A1歳平均余命   BPMI(50歳以上死亡割合)

予防医療
 一次予防二次予防三次予防
疾病の
自然史
疾病前(感受性期)疾病段階前期
(不顕性期〜顕性期)
疾病段階後期
(顕性期〜回復期)
予防手段の
5段階
@健康増進
健康教育栄養指導、食生活、環境整備、健康相談、生活指導、健康日本21
A特殊予防
予防接種、事故防止、職業病予防、アレルゲン対策、發癌物質対策
B早期発見、早期治療
不顕性期には、総合的な健康診断、選択的な検診スクリーニング検査、適切な治療(回復を目的とした効果的治療)
顕性期には、健康障害の進行・進展予防、合併症の予防
C機能障害防止
後遺症予防、再発予防、適切な治療(悪化防止)
Dリハビリテーション
機能回復訓練、作業療法、職業訓練、雇用促進
目的罹患率の低下死亡率の低下
生存期間の延長
ADL・QOLの向上
社会復帰
具体的
事例
・母親学級
・母子健康手帳
・産前産後の休暇
・作業条件の改善
外傷患者に対する破傷風トキソイド注射
・BCG接種
・感染症患者の入院措置etc.
喫煙者に対する喀痰細胞診検査
・癌集団検診(胃・子宮・肺)
・老人健康診査の眼底検査
高血圧患者に対する服薬指導
糖尿病患者に対する栄養指導
・フェニルケトン尿症に対する低Phe食
・核黄疸に対する交換輸血
肺気腫患者に対する禁煙指導
・塵肺健康診断etc.
・人工透析
・術後のICU管理
・職場の適正配置
・社会復帰施設の利用
・更生医療etc.
健康保持・増進
プライマリヘルスケア(PHC)
概念WHOが提唱する総合的な保健医療活動。治療や予防、健康の保持・増進のため、地域住民が第一次的に利用する保健サービス。米国Institute of Medicineでは、「患者各人の抱える問題の大部分に対応し、患者と継続的な共同関係を築き、家族や地域という枠組みの中で責任をもって診療する臨床医によって提供される、統合された、容易に享受できる医療サービス」と定義している。1978年のアルマ・アタ宣言の根幹をなす考えである
理念
開発途上国における医師不足、高度医療のための医療資源の不足を前提とした上で、より効率的に保健師・助産師スタッフを活動させ、保健予防に必要な安価な医療資源の十分な供給を目指す。その際には、地域の実情にあった適正技術の開発・導入が重視される
PHCの4原則(by Kaprio)…@ニーズ指向性のある保健活動、A住民の主体的参加、B既存資源の有効利用、C保健活動での協調と統合
業務
@当面の健康問題とその予防・対策に関する教育   
B安全な水の十分な供給と基本的な環境衛生
D主要な伝染病に対する予防接種
F一般的な疾病と傷害の適切な処置
A食糧の供給と適正な栄養摂取の推進
C家族計画を含む母子保健サービス
E地方流行病の予防・対策
G必須医薬品の準備

ヘルスプロモーション
概念
人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス。1986年のオタワ憲章で定義された概念
PHCが主に発展途上国での保健医療活動の理念として提唱されたのに対して、ヘルスプロモーションは先進諸国における生活習慣病を主体とする慢性疾患の問題に対応するために打ち出された概念である

健康日本21
概念2010年をめざした健康づくり運動として、2000年より開始された「21世紀における国民健康づくり運動」。1次予防に主眼を置き、大きな課題となっている生活習慣や生活習慣病を9つの分野で選定し、取り組みの方向性と具体的な数値目標を設定している。また、都道府県や市町村も地域の特色を生かして、実状に応じた地方計画を策定することとされている
目的21世紀の日本を、すべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会とするため、壮年期死亡の減少、健康寿命の延伸及び生活の質の向上を実現する
施策
9つの分野と主な目標値
栄養・食生活・適正体重(18.5≦BMI<25.0)を維持している人の増加
・20〜40歳代の1日当たりの平均脂肪エネルギー比率を25%以下に減少
・成人の1日当たりの平均食塩摂取量を10g未満に減少
身体活動・運動・成人の日常生活における歩数を男性9200歩、女性8300歩に増加
・運動習慣者(1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上持続している人)の増加
休養・こころ
の健康づくり
・最近1ヶ月間にストレスを感じた人の1割以上の減少
・睡眠によって休養が十分にとれていない人の1割以上の減少
・自殺者を2万2千人以下に減少   ※現在は年間約3万2千人
たばこ・喫煙が及ぼす健康影響についての知識の普及(100%)
※喫煙が及ぼす健康影響…循環器系に対する急性影響(ニコチンによるカテコラミン遊離のために血圧↑)、肺癌・喉頭癌などの悪性腫瘍、虚血性心疾患、慢性気管支炎・COPDなどの呼吸器疾患、胃・十二指腸潰瘍などの消化器疾患、乳幼児突然死症候群(SIDS)、流・早産、死産、低出生体重児、胎児の先天異常、新生児死亡etc.
・未成年の喫煙をなくす(0%)
・公共の場や職場における分煙の徹底と効果の高い分煙に関する知識の普及
・禁煙支援プログラムの普及
※日本の喫煙状況…成人喫煙率は男性で約48%(低下傾向)、女性で約14%(横ばい)と、多の先進諸国に比べ高率。20〜30歳代の女性の喫煙率が増加傾向にある他、高校3年生男子の約1/4が毎日喫煙者
アルコール・「節度ある適度な飲酒」としては、1日平均純アルコールで約20g程度である旨の知識の普及(100%)
・未成年の飲酒をなくす(0%)
歯の健康・80歳において20歯以上の自分の歯を有する者、60歳において24歯以上の自分の歯を有する者の増加
糖尿病・糖尿病検診者の増加
・糖尿病合併症の減少
循環器病・健康診断を受ける人の増加
がん・各がん検診の受診者の5割以上の増加(胃、子宮、乳、肺、大腸)   ※現在の受診率は10%程度

健康増進法
第1条   目的
   国民の栄養改善その他の国民の健康増進を図るための措置を講じ国民保健の向上を図る
第2〜5条   責務規定と関係者の協力
国民:健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、自らの健康状態を自覚し健康の増進に努める
国及び地方公共団体:健康の増進に関する正しい知識の普及、情報の収集・整理・分析・提供、研究の推進、人材の育成・資質の向上を図り、関係者に対し必要な技術的援助を与える
健康増進事業実施者:健康教育、健康相談その他国民の健康の増進のために必要な事業を積極的に推進する
関係者は、国民の健康増進の総合的な推進を図るため、相互に連携を図りながら協力するよう努める
第7条   基本方針の策定(by厚生労働大臣)
第8条   健康増進計画の策定(by都道府県・市町村)
第9条   健康診断指針の策定(by厚生労働大臣)
第10条   国民健康・栄養調査(by厚生労働大臣)
   国民の健康増進の総合的な推進を図るための基礎材料として、国民の身体状況、栄養摂取量、生活習慣の状況を知る
※知事に任命された国民健康・栄養調査員(医師・栄養士・保健師etc.)が行う
第16条   生活習慣病の発生状況の把握
   国及び地方公共団体は生活習慣病の発生状況の把握に努める
第17条   市町村による生活習慣相談等の実施
   市町村は健康増進を図るため、栄養の改善その他の生活習慣の改善に関する相談に応じ、栄養指導その他の保健指導を行う
第21条   特定給食施設における栄養管理
   特定給食施設(継続的に1回100食以上or1日250食以上食事を供給する施設)の設置者は管理栄養士をおかなければならない
第25条   受動喫煙の防止
   学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない(あくまでも努力義務
施設内全面禁煙、喫煙室の設置、強制排気・換気などが推奨されている
第26条   特別用途の表示
   特別用途食品:乳児用・幼児用・妊産婦用・病者用等、特別の用途を表示
第31条   栄養表示基準
   栄養成分のうち、その欠乏又は過剰摂取が国民健康に影響を及ぼすものについて成分の量、熱量を表示する
生活習慣病と保健対策
生活習慣病の概念
定義食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が、その発症・伸展に関与する疾患群
従来の「成人病」という言葉よりも、より一次予防に重点を置いたものとなっている
疾患
@U型糖尿病
D循環器病(先天性を除く)   
H慢性気管支炎
A肥満
E大腸癌(家族性を除く)   
I肺気腫
B高脂血症(家族性を除く)   
F高血圧症
Jアルコール性肝疾患
C高尿酸血症
G肺扁平上皮癌
K歯周病
3大生活習慣病(悪性新生物、脳血管疾患、心疾患)による死亡は、国民総死亡の約60%
(40〜89歳では悪性新生物が死亡原因として最多であるが、90歳以上では心疾患が死亡原因として最多)

悪性腫瘍・生活習慣病などのリスク要因
 危険因子防御因子















胃癌塩辛い食品、喫煙、燻製製品、ヒトロソアミン土壌、腸上皮化生、Hp
   ※高脂肪食は無関係
Vit. C、野菜、果実
食道癌喫煙飲酒、熱い飲食物野菜、果実
結腸癌高脂肪食、肉食、低い身体活動、腸内細菌叢の変化、遺伝(家族性大腸腺腫症)
   ※喫煙、カフェイン摂取は無関係
食物繊維
肝細胞癌HBV・HCVキャリア、アフラトキシン、住血吸虫、飲酒 
肺癌喫煙(特に扁平上皮癌)、大気汚染、石綿(扁平上皮癌、悪性中皮腫)
   ※肥満は無関係
野菜、果実
膵癌高脂肪食、喫煙 
口腔癌喫煙、ビンロウ樹の実、飲酒 
咽頭癌EBウイルス(上咽頭癌)、飲酒 
喉頭癌喫煙、男性、アルコール 
乳癌高齢初産、乳癌の家族歴、肥満、未婚で妊娠回数が少ない、無授乳、脂肪の過剰摂取、低年齢初経、高年齢閉経母乳授乳
子宮頸癌若年での初交、早婚、多産、性交回数が多い、貧困、不潔、Herpes Smiplex Virus 2型、HPV、流産、人工妊娠中絶回数が多い 
子宮体癌肥満、DM、ピル・エストロゲン常用、未婚、妊娠回数が少ない、乳癌後のタモキシフェン内服 
膀胱癌喫煙、鎮痛剤乱用、ビルハルツ住血吸虫、サッカリン、防腐剤 
皮膚癌日光(紫外線)、ヒ素(Bowen病) 
白血病放射線、ベンゼン、地域集積性(ATL)、Down症児(AMLのM7) 
骨腫瘍電離放射線 
甲状腺癌ヨード欠乏or過剰 
Burkitt腫瘍EBウイルス 
脳出血HT、重筋肉・夜勤労働、蛋白摂取不足、低Alb血症、食塩、家族歴、初老期の男性、過度の習慣性飲酒、ストレス、寒冷 
脳梗塞HT、運動不足、DM、肥満、食塩、喫煙、家族歴、加齢、高脂血症有酸素運動
虚血性心疾患HT、高脂血症、喫煙、HDL-Chol低値、DM、肥満、過度の飲酒運動不足、年齢、性別、ストレス適度の飲酒、HDL-Chol高値
高血圧疾患寒冷、食塩、肥満、飲酒減量
U型糖尿病家族歴、肥満、脂肪の過剰摂取、運動不足、喫煙、薬剤(降圧薬etc.) 
肝硬変HCV、HBV、多量の飲酒 

がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針
 対象年齢実施回数一次検診精密検査
胃癌40歳以上年1回問診
胃間接X線透視
内視鏡検査
肺癌問診
胸部Xp
ハイリスク者への喀痰細胞診
   (50歳以上の男性で喫煙指数≧600、
     6ヶ月以内に血痰あり)
断層X線
CT
気管支鏡検査(生検)
腫瘍マーカー(NSE etc.)etc.
大腸癌問診
便潜血検査
(免疫潜血検査2日法)
注腸X線検査(二重造影法)
S状結腸内視鏡検査+注腸X線検査(二重造影法)
全大腸内視鏡検査   のいずれか
乳癌2年に1回問診、視診、触診
マンモグラフィー
エコー
吸引細胞診etc.
子宮癌20歳以上問診、視診、内診(双合診)
子宮頸部の擦過細胞診
子宮体癌の有症状者・ハイリスク者に対する
   医療機関の受診の勧奨or子宮体部細胞診
子宮頸癌:コルポスコピーによる円錐切除組織診
子宮体癌:ヒステロスコピーによる組織生検
総合がん
検診
40歳
50歳
各1回上記の5つのがん検診を同時に実施
   (ただし肺がん検診の胸部Xpは直接撮影によるものとする)
直腸鏡による直腸検査(医師が必要と認めた場合)

有訴者率と通院者率
有訴者率約1/3(65歳以上では約1/2)
自覚症状として多いのは「腰痛」「肩こり」「手足の関節が痛む」etc.
通院者率約3割(65歳以上では6割以上。15〜84歳では男性の方が多い)
通院者の傷病で多いのは「高血圧症」「腰痛症」「虫歯」「肩こり症」etc.(65歳以上では高血圧症が著しく多い)
高血圧性疾患、糖尿病、虚血性心疾患、脳血管疾患、悪性新生物を合計すると、受診者数は約1300万人
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