逆流性食道炎/ 食道潰瘍 reflux esophagitis/ esophageal ulcer |
【概念】 | 逆流性食道炎=胃液・腸液・胆汁などが逆流し、食道粘膜にびらんや小潰瘍を形成する疾患 食道潰瘍=粘膜を超えて、粘膜下層や筋層にまで欠損がみられる状態 |
【疫学】 | 高齢者に多い |
【原因】 | 下部食道括約筋(LES)圧の低下が原因。多くは特発性に起こるが、食道裂孔ヘルニア、全身性強皮症(SSc)、胃全摘or噴門側胃切除後などの基礎疾患に続発して起こる場合もある |
【症状】 | 胸やけ、酸っぱいものが逆流する感覚、胸骨後部痛 合併症…円柱上皮化生(Barrett食道)し、食道腺癌の発生母地となる |
【検査】 | 食道造影検査⇒下部食道にニッシェや狭窄像 内視鏡検査⇒食道粘膜の発赤・びらん・小潰瘍、潰瘍 食道機能検査…LES圧測定(⇒LES圧の低下)、食道内pH測定(正常では食道内pHは5〜7) |
【治療】 | 生活指導…食後の横臥の回避、就寝時Fowler体位(頭を高くする)、腹圧を上昇させる動作の回避 薬物治療…H2受容体拮抗薬、PPIが中心 |
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食道カンジダ症 esophageal cadidiasis |
【概念】 | 食道粘膜にカンジダが増殖した疾患(表在性真菌感染症の一種) |
【疫学】 | ほとんどは日和見感染症として発症する |
【症状】 | 嚥下時の違和感・疼痛etc. |
【検査】 | 食道内視鏡検査⇒偽膜に覆われた白斑状の隆起 |
【治療】 | アムホテリシンB(AMPH-B)の経口投与 |
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食道アカラシア esophageal achalasia |
【概念】 | 食道の蠕動運動が不足するとともに、嚥下時にLESが弛緩しないために、食物の通過障害をきたす疾患(機能性疾患の一種) |
【疫学】 | あらゆる年齢層に発症するが、20〜40歳代に比較的多い |
【原因】 | Auerbach神経叢の後天的な変性 |
【症状】 | 嚥下時の胸のつかえ感(特に冷たい食物)や食物の口内逆流による嘔吐などが初発症状で、緩徐に進行し最終的に嚥下困難をきたす 合併症…停滞性食道炎、食道癌 |
【検査】 | 食道造影検査⇒下部食道の辺縁スムーズな狭窄とその上の拡張 内視鏡検査⇒時に停滞性食道炎がみられる。また、食道癌のhigh risk groupであり、経過観察のためにも必須 食道内圧検査⇒LES圧の上昇、嚥下性収縮波の欠如、蠕動波の著明な低下 |
【治療】 | 内科的治療…ストレスの回避、薬物療法(Ca拮抗薬、硝酸薬)、食道強制拡張術(バルーン拡張術)、ボツリヌス毒素のLES内注入 外科的治療…粘膜外筋層切開術(Heller手術)、噴門形成術 |
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食道憩室 esophageal diverticulum |
【概念】 | 食道に生じた後天性の憩室 |
【分類】 |
| 部位 | 成因 | 種類 |
Zenker憩室 | 咽頭食道移行部 | 圧出型 | 仮性憩室 |
Rokitansky憩室 | 気管分岐部 | 牽引型 | 真性憩室 |
横隔膜上憩室 | 噴門よりやや口側 | 圧出型 | 仮性憩室 |
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【症状】 | 原則として無症状だが、Zenker憩室ではしばしば口臭や嚥下時違和感を呈する 合併症…憩室炎(⇒まれに出血、穿孔) |
【検査】 | 食道造影検査、内視鏡検査 |
【治療】 | 不要。重篤な憩室炎を反復する場合や出血・穿孔をきたした場合には摘出手術の適応 |
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食道癌 esophageal carcinoma |
【概念】 | 食道にできた悪性腫瘍 |
【疫学】 | 60歳代に好発。男女比4:1。罹患率は胃癌の約1/9 |
【原因】 | 喫煙、大量飲酒、Barrett食道、腐蝕性食道炎、食道アカラシア、低栄養(微量元素欠乏)、慢性刺激などが発症の要因と考えられている。また、頭頸部癌との重複癌もしばしば認められる |
【病理】 | 90%以上は扁平上皮癌 |
【分類】 | - 発生部位による分類
- 頸部食道(Ce)、胸部上部食道(Iu)、胸部中部食道(Im)、胸部下部・腹部食道(E)の4つの部位に分けられる。Imが最多(全体の半数以上)
- 深達度による分類
- ・進行癌…筋層に浸潤したもの
・表在癌…粘膜下層にとどまるもの m1:基底膜を破る m2:粘膜固有層にとどまる m3:粘膜筋板に接するor浸潤する sm1:粘膜下層の上1/3まで浸潤 sm2:粘膜下層の中1/3まで浸潤 sm3:粘膜下層の下1/3まで浸潤 ・早期癌…表在癌のうち転移のないもの(m1、m2と、リンパ節転移のないm3、sm1)
- 肉眼的分類
- ・進行癌…1型(隆起型)、2型(潰瘍限局型)、3型(潰瘍浸潤型)、4型(びまん性浸潤型)
・表在癌…0-T型(表在隆起型)、0-Ua型(表在軽度隆起型)、0-Ub型(表在平坦型)、0-Uc型(表在軽度陥凹型)、0-V型(表在陥凹型)
- 癌の進展
- 浸潤…気管・気管支、大動脈、肺、心嚢、胸管、反回神経etc.
転移…リンパ節(頸部、縦隔、腹部)、肺、肝、腹膜播種etc.
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【症状】 | 表在癌の多くは無症状で、進行癌に至ると嚥下困難をきたす 浸潤による症状…嚥下時の咳嗽や嚥下性肺炎(←気管・気管支浸潤)、大出血(←大動脈浸潤)、嗄声(←反回神経浸潤) 転移による症状…反回神経麻痺(←腫脹したリンパ節による圧迫)、Horner症候群(←頸部交感神経節の圧迫) |
【検査】 | 食道造影検査(二重造影法)⇒進行癌では辺縁隆起や食道壁の伸展障害(表在癌では所見に乏しい) 内視鏡検査⇒ヨード染色では不染帯、トルイジンブルー染色では青く染まる 超音波内視鏡検査(EUS)⇒表在癌の深達度やリンパ節転移の有無を評価 その他…胸腹部CT(リンパ節転移・遠隔転移の有無を評価)、腫瘍マーカー(扁平上皮癌ではSCC、腺癌ではCEA。時にPTHrP)、気管支鏡(気管支浸潤が疑われる場合) |
【治療】 | 内視鏡的粘膜切除術(EMR)…m1・m2およびリンパ節転移のないm3・sm1に適応 食道切除術…右開胸による食道広範切除+頸胸腹部3領域リンパ節廓清+胃or結腸による再建 その他、放射線療法や化学療法、気管食道瘻に対するステント留置なども行われる |
【予後】 | 5生は40%台。部位別では頸部食道癌の予後が最悪 |
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食道平滑筋腫 esophageal leiomyoma |
【疫学】 | 食道の良性腫瘍の大半を占めるが、食道癌に比べるとまれ |
【症状】 | 通常は無症状で、検査で偶然に発見される場合が多い |
【検査】 | 食道造影検査、内視鏡検査⇒粘膜面が正常のなだらかな隆起性病変(粘膜下腫瘍) |
【治療】 | 原則として経過観察。増大傾向があれば外科的に摘出 |
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Mallory-Weiss 症候群 |
【概念】 | 激しい嘔吐の反復によって、食道胃接合部の粘膜に裂創が生じ、ここからの出血により吐血を呈する疾患 |
【原因】 | アルコール過飲後、過食、抗癌剤の投与、ゾンデの留置etc. |
【症状】 | 激しい嘔吐の反復後に新鮮血の吐血 |
【検査】 | 緊急内視鏡検査⇒食道胃接合部の粘膜の裂創とそこからの出血が確認される |
【治療】 | 特別な治療を行わなくても自然に止血する。出血が続く場合には、内視鏡下に100%エタノールや高張食塩水+アドレナリンなどの局注、出血部位の焼灼etc. |
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特発性食道破裂 spontaneous rupture of esophagus |
【概念】 | 特発性に食道壁全層が破ける疾患。Boerhaave症候群ともよばれる |
【疫学】 | 下部食道の左側に好発 |
【原因】 | 腹腔内圧の上昇 |
【症状】 | 激しい嘔吐後に、胸骨後部・背部・心窩部に激痛が生じ、時にショック状態に陥る他、縦隔気腫や頸部の皮下気腫が出現する |
【検査】 | 胸部Xp(⇒縦隔気腫、頸部皮下気腫)、食道造影検査(⇒造影剤の食道からの漏洩)、内視鏡検査(⇒破裂部位の直視) |
【治療】 | 飲食禁止、中心静脈栄養、胸腔ドレナージ、抗生剤投与などの保存的治療をまず行うが、多くの場合外科的な閉鎖術が必要となる |
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食道胃静脈瘤 varicies of esophagus and stomach |
【疫学】 | 中下部食道と胃噴門に好発 |
【原因】 | 門脈圧亢進症に伴う左胃静脈or短胃静脈の逆流 |
【分類】 | Lm:中部食道静脈瘤、Li:下部食道静脈瘤、Lg-c:胃噴門部静脈瘤、Lg-f:胃穹窿部静脈瘤 |
【症状】 | 静脈瘤のみでは無症状。破裂すると、新鮮血の吐血が起こる |
【検査】 | 食道造影検査⇒輪郭の不整な陰影欠損像(真珠の首飾り様orいも虫状)、食道壁伸展性は良好 内視鏡検査⇒初期は直線状、やがて連珠様、最終的には結節様となる。破裂前にはRC signも認められる |
【治療】 | 急性出血時⇒内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)が第1選択で、補助的にバソプレシン(ADH)の点滴静注を行うことがある。これらの手技で止血困難な場合にはSengstaken-Blakemore管(SB管)を用いて圧迫止血が行われる 待期例・予防例⇒内視鏡的硬化療法(EIS)が第1選択。再発性のものに対しては、経皮経肝静脈瘤塞栓術(PTO)、経皮的肝内門脈短絡術(TIPS)、バルーン下逆行性経静脈的塞栓術(B-RTO)、Hassab手術などが行われる |
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