腸炎 enteritis |
【概念】 | 十二指腸・小腸・大腸に生じた炎症性疾患 |
【分類】 | - 感染性腸炎
・細菌性腸炎…コレラ、赤痢、腸チフス、パラチフス、カンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオ、毒素原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、ウェルシュ菌、黄色ブドウ球菌、ボツリヌスetc. ※MRSA腸炎…術後や免疫能の低下した患者に対するセフェム系抗生物質の投与で生じる。抗生物質の投与開始後2~7日に、発熱・腹痛・嘔吐・水様性の下痢などで発症するが、中でも緑色便が本症に特異的。治療は補液とバンコマイシンの経口投与 ・ウイルス性腸炎…ロタウイルスが臨床上重要 ・原虫性腸炎…アメーバ赤痢、クリプトスポリジウムetc. ・寄生虫性腸炎…鉤虫症、糞線虫症、日本住血吸虫症etc. ・真菌性腸炎…消化管カンジダ症etc. ・抗生物質起因性腸炎…抗生物質投与中に起こった菌交代現象に起因する腸炎
| 原因抗生物質 | 起炎菌 | 症状 |
偽膜性大腸炎 | 抗生物質(特にクリンダマイシン、アンピシリン、セフェム系) | Clostridium difficile | 粘血便を伴う下痢、腹痛、しぶり腹、発熱etc. |
出血性大腸炎 | ペニシリン系 | Klebsiella oxytoca | 下血、下痢、腹痛 |
- 非感染性腸炎
・炎症性腸疾患(IBD)…Crohn病、潰瘍性大腸炎 ・消化管アレルギー…乳幼児に発症。三大原因食物は鶏卵、牛乳、大豆
| 症状 | 検査 | 治療 |
Ⅰ型 アレルギー | 食物摂取後数分~2時間以内に、口唇や咽頭などの掻痒感、血管性浮腫、悪心・嘔吐、腹痛、下痢などを呈する | 便中の好酸球↑、食物除去試験、誘発試験 | 除去食療法、クロモグリク酸の内服 |
Ⅲ型・Ⅳ型 アレルギー | 食物摂取後2時間~2日に、悪心・嘔吐、腹痛、下痢、血便、蛋白漏出性胃腸症などをきたす | 血便、便中の蛋白量↑、食物除去試験、誘発試験 | 除去食療法 |
|
|
急性虫垂炎 acute appendicitis |
【疫学】 | 生涯罹患率は、約7% |
【病態】 | 粘膜下リンパ濾胞の過形成、糞便のうっ滞、糞石、異物、寄生虫、腫瘍などが原因となって、虫垂内腔が狭窄⇒粘液性の分泌物の貯留⇒虫垂内圧↑⇒虫垂の浮腫(カタル性虫垂炎)⇒虫垂内での細菌の増殖⇒虫垂全層への白血球浸潤(蜂窩識炎性虫垂炎)⇒さらなる内圧の上昇による虫垂の一部の梗塞性壊死(壊疽性虫垂炎)⇒腹腔内穿孔(腹膜炎) |
【症状】 | 心窩部や臍周囲の疼痛(初期は漠然とした鈍い内臓痛、後に限局性の体性痛に変わる)、悪心・嘔吐、発熱、麻痺性イレウス、便秘(幼児では下痢)etc. 他覚所見…McBurney圧痛点(右上前腸骨棘と臍を結ぶ線の外寄り1/3の点)、Lanz圧痛点(左右の上前腸骨棘を結ぶ線の右寄り1/3の点)、Rosenstein徴候(左側臥位で圧痛が増強)、Rovsing徴候(左下腹部を圧迫すると、右下腹部に疼痛)、腹膜刺激症状(筋性防御、Blumberg徴候)etc. |
【検査】 | 血液検査⇒WBC数→~↑、核の左方移動、ESR↑、CRP↑ 腹部エコー⇒ソーセージ様の低エコー域、(時に)内部に高エコー域の糞石 ※正常の虫垂、壊疽性虫垂炎に至った虫垂はエコーで描出されない |
【治療】 | カタル性虫垂炎⇒禁食、抗生剤投与(第三世代セフェム、カルバペネムetc.) 穿孔を生じたケース、腹膜刺激症状を伴うケース⇒一刻も早く虫垂切除術(絶対的な手術適応) |
|
腸結核 tuberculosis of the intestine |
【概念】 | 血行性に散布された結核菌が腸管に存在するリンパ濾胞に侵入し、ここに肉芽腫(結核結節)を形成する疾患 |
【分類】 | 活動性の肺結核に伴う続発性腸結核と、それ以外の原発性腸結核に分けられる。近年は後者の方が多い |
【病理】 | リンパ組織の豊富な回盲部に好発。病変は非連続性で、腸管全層に及ぶ。輪状潰瘍、帯状潰瘍を形成し、瘢痕となって狭窄を残す |
【症状】 | 腹部違和感、腹痛、下痢、下血、嘔吐、微熱、易疲労感、体重減少etc. |
【検査】 | 注腸造影検査⇒輪状潰瘍、帯状潰瘍、腸管の狭窄所見、盲腸の短縮、回盲弁閉鎖不全、萎縮瘢痕帯 内視鏡検査⇒輪状潰瘍、帯状潰瘍、萎縮瘢痕帯 その他⇒ESR↑、CRP↑、ツ反(+)、糞便の結核菌培養(+)~(-) |
【治療】 | 抗結核薬の投与 |
【予後】 | 自然治癒傾向がある上、抗結核薬に対する反応性がよく、予後は比較的良好 |
|
潰瘍性大腸炎 ulcerative colitis (UC) |
【概念】 | 大腸の粘膜を侵し、びらんや潰瘍を形成する原因不明の疾患 | |
【疫学】 | 欧米に多い。好発年齢は20~35歳。罹患率はCrohn病の約4倍 |
【原因】 | 自己抗体(抗大腸粘膜抗体)の関与が考えられている |
【病理】 | 粘膜と粘膜下層に限局した病変が直腸に始まり、連続性に上行しながら伸展していくが、大腸以外の腸管には病変は及ばない。肉眼的には偽ポリポーシスが認められ、組織学的には杯細胞の減少と陰窩膿瘍が認められる |
【症状】 | 下痢、粘血便、下腹部痛、しぶり腹、発熱、体重減少、貧血etc. 合併症…中毒性巨大結腸症、大腸癌、肛門周囲膿瘍、結節性紅斑、壊死性膿皮症、関節炎、強直性脊椎炎、ぶどう膜炎、ばち状指etc. |
【検査】 | 血液検査⇒WBC数↑、Plt数↑、ESR↑、CRP↑、小球性低色素性貧血、重症例では低蛋白血症 内視鏡検査⇒潰瘍、びらん、出血、活動期には血管透見像の消失、偽ポリポーシス 注腸造影検査⇒粗そう、鋸歯状陰影、ニッシェ、偽ポリポーシス、lead pipe(←ハウストラの消失) |
【治療】 | 一般療法…ストレスの回避、中等度以上では安静 薬物療法…サリチル酸誘導体(サラゾピリン、メサラジン(ペンタサ))が第1選択。重症例に対してはステロイドが第1選択 外科療法…急激に全身状態が悪化した例、大出血をきたした例、中毒性巨大結腸症や腸管穿孔をきたした例、癌化のみられる例などで絶対適応
|
|
Crohn病 |
【概念】 | 口腔から肛門までありとあらゆる消化管を非連続性に侵す原因不明の疾患 |
【疫学】 | 欧米に多い。好発年齢は10歳代後半~20歳代。近年増加傾向にある | |
【原因】 | Mφの機能異常が原因と考えられている |
【病理】 | 病変は非連続性(skip lesion)で、好発部位は回腸末端。肉眼的には初期にはアフタ様びらんであるが、やがて縦走潰瘍や敷石像を形成し、狭窄をきたすこともある。組織学的には全層性炎症で、粘膜に非乾酪性肉芽腫を認める他、腸管壁の壊死と裂溝の形成が認められる |
【症状】 | 腹痛、腹部腫瘤、腹膜炎症状、便潜血反応(+)、発熱、体重減少、貧血、痔瘻、肛門周囲膿瘍etc. 合併症…腸管の狭窄、瘻孔形成、蛋白漏出性胃腸症、結節性紅斑、壊死性膿皮症、関節炎、強直性脊椎炎、ぶどう膜炎、ばち状指etc. |
【検査】 | 血液検査⇒ESR↑、CRP↑、低Alb血症、低Chol血症、各種ビタミン欠乏症 内視鏡検査⇒アフタ様びらん、縦走潰瘍、敷石像 注腸造影検査⇒区域性病変。小さなバリウム斑(←アフタ様びらん)、縦走潰瘍、結節様の透亮像(←敷石像)、裂溝、狭窄 |
【治療】 | 栄養療法…第1選択の治療法。原則として成分栄養を経口的or経鼻腸管的に行う 薬物療法…活動期にステロイド、軽症例・再発防止目的でサリチル酸誘導体etc. 外科手術…栄養療法や薬物療法で改善しない狭窄・瘻孔・膿瘍・肛門周囲膿瘍などの比較的限局した病変を有する症例が手術適応となる |
|
腸ポリープ polyps of the intestine |
【概念】 | 腸管の粘膜上皮が局所的増殖により内腔に隆起した病変 |
【病理】 |
腺腫性 ポリープ | 最多(全体の約80%)。絨毛腺腫、腺管腺腫、腺管絨毛腺腫に分けられる。癌化の危険性があるが、中でも特に絨毛腺腫で癌化の危険性が高い |
過誤腫性 ポリープ | 組織奇形の一種で、本来的に良性腫瘍。過誤腫性ポリープをきたす代表的疾患として、若年性ポリープとPeutz-Jeghers症候群がある |
炎症性 ポリープ | 炎症性腸疾患で、粘膜面に潰瘍が生じたために、正常粘膜部位が相対的に隆起したことによる。典型例は潰瘍性大腸炎でみられる炎症性ポリポーシス |
|
【症状】 | 原則として無症状。絨毛腺腫では下痢と低K血症を起こしやすく、若年性ポリープでは下血をきたしやすい |
【検査】 | 内視鏡検査 |
【治療】 | ポリペクトミー |
|
消化管ポリポーシス polyposis of the gastrointestinal tract |
【概念】 | ポリープが多数(一般的には100個以上)存在する状態 |
【分類】 |
| 家族性腺腫性 ポリポーシス(FAP) | Peutz-Jeghers 症候群 | 若年性 ポリポーシス | Cronkhite-Canada 症候群 |
遺伝型 | AD遺伝 (APC遺伝子の異常) | AD遺伝 | AD遺伝と不明 の2種類 | 遺伝性なし |
好発年齢 | 25歳頃 | 10~20歳代 | 幼児期 | 中年以降 |
組織型 | 腺腫 | 過誤腫 | 過誤腫 | 腺窩上皮の過形成と嚢胞形成 |
好 発 部 位 | 胃 | ○ | ○ | ○ | ◎ |
小腸 | △ | ◎ | × | ○ |
大腸 | ◎ | ○ | ◎ (特に直腸) | ◎ |
癌化率 | 高い | 低い |
検査 | 無数の小円形ポリープ | 大きなポリープが散在 | 比較的大きなポリープが散在 | 無数の小円形ポリープ。イクラ様外観 |
合併症 | ・下血(大量出血はまれ) ・Gardner症候群では骨腫、軟部組織腫瘍 ・Turcot症候群では中枢神経系腫瘍(ほとんどが神経鞘腫) | ・口唇・口腔粘膜・手足などに色素沈着 ・腸重積、イレウス ・血便 | ・腸重積、イレウス、下血 ・先天奇形(腸の回転異常、水頭症、心疾患、Meckel憩室、口蓋裂、多指症etc.) | ・背中・手足などへの色素沈着(皮膚の黒ずみ)、爪甲の萎縮、頭髪・眉毛・腋毛などの脱落 ・下痢、蛋白漏出性胃腸症、低Ca・K血症 |
治療 | ・全大腸切除+直腸粘膜抜去、回腸肛門吻合 | ・ポリペクトミー ・腸重積の時には外科的治療 | ・ポリペクトミー ・腸重積の時には外科的治療 | ・蛋白漏出に対して、ステロイド投与や高カロリー輸液 ・抗プラスミン薬の投与 |
|
|
大腸癌 carcinoma of the large bowel |
【概念】 | 大腸に生じる悪性腫瘍 |
【疫学】 | 近年増加傾向 好発部位…直腸(約50%)、S状結腸(約25%) ※数%の確率で多発 |
【原因】 | 食生活の欧米化(高脂肪、低線維成分)、APC遺伝子・MCC遺伝子・p53遺伝子などの機能喪失etc. |
【病理】 | ほとんどが腺癌で、特に粘液産生性の高分化型が多い。肛門に近い部位に生じる大腸癌は、一部分が扁平上皮への分化傾向を示し、腺扁平上皮癌とよばれる |
【分類】 | - 深達度による分類
- ・進行癌…筋層に浸潤したもの
・早期癌…粘膜下層にとどまるもの
- 肉眼的分類
- ・進行癌…1型(隆起型)、2型(潰瘍限局型)、3型(潰瘍浸潤型)、4型(びまん性浸潤型)。2型が大半を占める
・早期癌…0-Ⅰ型(表在隆起型)、0-Ⅱa型(表在軽度隆起型)、0-Ⅱb型(表在平坦型)、0-Ⅱc型(表在軽度陥凹型)、0-Ⅲ型(表在陥凹型)。Ⅰ型が最多
- Dukes分類
| 漿膜浸潤 | リンパ節転移 |
Dukes A | - | - |
Dukes B | + | - |
Dukes C | + | + |
- 癌の進展
- 転移…血行性転移(肝が最多)、リンパ行性転移(大腸壁に接したリンパ節、上下腸間膜動脈リンパ節に沿ったリンパ節に転移する。下部直腸癌ではさらに鼠径部リンパ節への転移もみられる)
|
【症状】 | 早期には無症状。左半結腸から直腸にかけての癌の場合には、比較的早期から腹部不快感、イレウス、粘血便、しぶり腹などがみられる。その他、ばち状指がみられることもある |
【検査】 | 便潜血検査(免疫学的反応法)⇒無症状の時期から陽性 注腸造影検査⇒進行癌ではしばしばapple core sign 内視鏡検査…生検にて確診。必要に応じてインジゴカルミン色素染色 転移巣の検索…腹部エコー、CT、IVP、膀胱鏡検査etc. その他…腫瘍マーカーとしてCEA、下部直腸癌に対して直腸指診 |
【治療】 | 進行癌⇒外科的切除。上行結腸癌に対しては右半結腸切除術、横行結腸癌に対しては横行結腸切除術、下行結腸癌・S状結腸癌に対しては左半結腸切除術が行われる。直腸癌に対しては、腫瘍の下端が歯状線から8cm以上離れていれば前方切除術、離れていなければ腹会陰式直腸切断術(Miles手術)が行われる。原発巣のコントロールが可能な場合、肝転移巣に対しても手術適応がある 早期癌⇒隆起性病変に対してはポリペクトミー、平坦or陥凹型病変に対してはEMRが行われる。リンパ節転移のリスクの高そうなsm癌に対しては、追加的腸切除とリンパ節廓清を行う |
【予後】 | 悪性腫瘍の中では予後良好。5生はDukes Aで約90%、Dukes Bで約70%、Dukes Cで約50% |
|
消化管カルチノイド carcinoid of the alimentary tract |
【概念】 | 原腸由来のKulchitsky細胞から発生する腫瘍。しばしば転移するが、発育は緩徐である |
【疫学】 | 好発部位…虫垂が最多。小腸が次ぐ |
【病態】 | 腫瘍から、平滑筋収縮作用を有するセロトニン(5-HT)などの化学伝達物質(オータコイド)が分泌される。しかし、分泌されたセロトニンは肝で不活性型の5-HIAAに分解される |
【症状】 | 一般に消化管カルチノイドはカルチノイド症候群を呈しにくい。肝転移時や肝機能低下時には、カルチノイド症候群(皮膚紅潮、下痢、気管支喘息発作、右心系の弁膜症(TR、PS)etc.)をきたす |
【検査】 | 生化学検査⇒尿中5-HIAA↑、(肝転移時には)血中セロトニン↑ 消化管造影検査・内視鏡検査⇒粘膜下腫瘍の所見 組織学的検査…鍍銀染色(+) |
【治療】 | 腫瘍摘出 |
|
消
化
管
憩
室 | Meckel憩室 |
【概念】 | 回盲弁の約50cm口側に、卵黄腸管(臍腸管)の遺残として発生する先天性の単発性の真性憩室 |
【病理】 | 腸間膜の付着部位と反対側に生じ、約20%で異所性胃粘膜が認められる |
【症状】 | ほとんどは無症状。一部、異所性胃粘膜による消化性潰瘍のために、下血(鮮血便となることが多い)・貧血・穿孔をきたすことがある。また、合併症として、腸重積、イレウス、腸軸捻症、憩室炎などがある |
【検査】 | 99mTc-O4-シンチにてhot |
【治療】 | 無症状の場合は治療不要。急性腹症発症時や消化管出血反復時には、憩室切除術を行う |
|
十二指腸憩室 |
【概念】 | 十二指腸下行脚のVater乳頭近くに生じる後天性の圧出型の仮性憩室 |
【疫学】 | 消化管憩室の中で最多 |
【症状】 | 基本的に無症状だが、時に憩室炎を起こす。総胆管結石を合併しやすい |
|
大腸憩室 |
【概念】 | 結腸に好発する後天性の圧出型の仮性憩室。小さい憩室が多発する傾向にある |
【疫学】 | 高齢者に多く、男性に多い。近年増加傾向 好発部位…日本では右側結腸、欧米では左側結腸 |
【原因】 | 便秘、腸管内圧の亢進etc. |
【症状】 | 基本的に無症状だが、憩室炎を起こす頻度が高い。憩室炎を起こすと、発熱・腹痛などがみられ、最悪の場合、大腸穿孔による腹膜炎に至ることもある |
【検査】 | 注腸造影検査⇒多発性の小さなバリウム溜り |
【治療】 | 便秘を避ける食生活、憩室炎に対する抗生剤投与などの内科的治療が原則。憩室炎の反復・出血・大腸穿孔などでは手術が行われる |
|
吸収不良症候群 malabsorption syndrome |
【概念】 | 経口摂取した栄養素の消化・吸収過程に障害があるために、栄養失調をきたす病態 |
【分類】 |
消化障害性 吸収不良症候群 | 膵液分泌不全…慢性膵炎、膵癌、嚢胞性線維症etc. 胆汁分泌不全…肝硬変、閉塞性黄疸etc. 胃液分泌不全…胃切除後etc. |
続発性 吸収不良症候群 | 広範な小腸粘膜障害…Crohn病、放射性腸炎etc. 慢性感染症…盲管症候群、条虫症、鉤虫症etc. リンパ管の閉塞…Whipple病、悪性リンパ腫、うっ血性心不全、収縮性心膜炎etc. 小腸の運動障害…迷走神経切除、消化管アミロイドーシス、全身性強皮症etc. 短腸症候群 |
本態性 吸収不良症候群 | 全栄養素の吸収障害…セリアック・スプルー、乳児難治性下痢症etc. 個別の栄養素の吸収障害…乳糖不耐性、先天性エンテロキナーゼ欠損症、メチオニン吸収不全症、二塩基アミノ酸吸収不全症etc. |
|
【症状】 | 脂肪の吸収障害⇒脂肪便、体重減少、低Ca血症、脂溶性ビタミン(Vit. A、D、K)の欠乏症(夜盲、骨軟化症orくる病、出血傾向)、テタニーetc. ※便秘(-) 蛋白の吸収障害⇒低蛋白血症、体重減少、筋力低下、小児では発育障害、浮腫、腹水etc. 糖の吸収障害⇒体重減少、浸透圧性下痢、腸内細菌叢の異常増殖、腹痛、腹部膨満感etc. 水溶性ビタミンの吸収障害⇒B1欠乏による知覚障害、B2欠乏による口内炎、B6欠乏による皮膚炎、B12欠乏による巨赤芽球性貧血etc. |
【検査】 | 脂肪の吸収障害⇒TG↓、Chol↓、遊離脂肪酸↓、脂肪便(ズダンⅢ染色(+)) 蛋白の吸収障害⇒低Alb血症 糖の吸収障害⇒血糖値↓、出納試験(D-キシロース試験にて尿中D-キシロース排泄量↓) |
【治療】 | 脂肪の吸収障害⇒蛋白・糖を中心とした高カロリー食、低脂肪食、MCT油補充、成分栄養、完全中心静脈栄養、脂溶性ビタミンの補充 蛋白の吸収障害⇒アミノ酸の投与 |
【各論】 | - セリアック・スプルー
- 概念…小腸の絨毛が萎縮し、小腸の吸収面積が激減するために、全栄養素の吸収が障害される疾患
疫学…白人に多い。日本での患者の報告はない 治療…無グルテン食
- Whipple病
- 概念…PAS陽性物質(桿菌)を貪食したMφの浸潤によって小腸粘膜が肥厚し、同時に起こる小腸のリンパ流の閉塞によって吸収不良をきたすきわめてまれな疾患
治療…適切な抗生物質の投与
- 乳糖不耐性
- 概念…乳糖分解酵素(ラクターゼ)の先天的欠損により、乳糖の吸収障害をきたす疾患
疫学…黄色人種や黒人に多い 治療…乳糖除去食、(軽症例では)乳糖分解酵素製剤の投与
- 短腸症候群
- 概念…小腸を広範に切除したために、残存する小腸が100cm以下になった病態
症状…一般的な吸収不良症候群の症状に加えて、巨赤芽球性貧血、胆石、下痢etc.
- 盲管症候群
- 概念…小腸の内容物が停滞し、腸内細菌叢が異常に増殖した結果、吸収不良をきたした病態
原因…消化管の側端吻合や側側吻合などの不自然な吻合や術後の癒着、憩室、消化管アミロイドーシスetc.
|
|
蛋白漏出性胃腸症 protein losing gastoenteropathy |
【概念】 | 消化管粘膜から血漿蛋白(特にAlb)が胃腸腔内に漏出し、その結果、低蛋白血症(低Alb血症)をきたす病態 |
【分類】 |
リンパ系の異常 | 腸リンパ管拡張症※、悪性リンパ腫、フィラリア、肝硬変、収縮性心膜炎etc. |
毛細血管透過性の亢進 | 消化管アレルギー、Scho¨nlein-Henoch紫斑病、原発性アミロイドーシスetc. |
消化管粘膜の異常 | Me´ne´trier病、Crohn病、偽膜性腸炎、盲管症候群、セリアック・スプルー、Cronkhite-Canada症候群etc. |
※原発性リンパ管拡張症の場合、通常3歳以前に乳児難治性下痢症として発症 |
【症状】 | 浮腫、体重減少、筋力低下、(小児では)発育不全、消化器症状、易感染傾向、脂肪漏出の合併による症状(脂肪便、脂溶性ビタミン欠乏症、低Ca血症、テタニー)etc. |
【検査】 | 血液一般検査⇒低蛋白血症、低Alb血症、γ-グロブリン↓、血清Ca↓、血清鉄↓、血清銅↓ 蛋白漏出の検査…α1-AT試験にてα1-ATクリアランス(=便中の濃度×便量/血漿中の濃度)↑ |
【治療】 | 基礎疾患の治療、高蛋白食、高カロリー食、低脂肪食、MCT油補充、Albの点滴静注、利尿薬投与 |
|
過敏性腸症候群 irritable bowel syndrome |
【概念】 | 便秘・下痢・腹痛などの消化器症状を訴えるものの、その原因となる器質的病変がみつからない疾患 |
【疫学】 | 消化器疾患の中で最多(全体の1/3を占める) |
【症状】 | 便秘or下痢(しばしば交互に出現)、腹痛・腹部膨満感(排便・放屁により軽快)、兎糞状の便(時に粘液が付着)、パニック障害、血便(-) |
【検査】 | 腹部単純Xp⇒ガス貯留 |
【治療】 | ストレスの回避、規則正しい食事、排便習慣、抗不安薬・抗コリン薬の投与 |
|
虚
血
性
腸
疾
患 | 急性広範囲腸壊死 acute massive intestinal ischemia |
【概念】 | 急性の経過で、小腸と大腸が広範囲に壊死に陥った病態 |
【原因】 | 上腸間膜動脈or下腸間膜動脈の根元における閉塞。大半が基礎疾患にAfを有する |
【症状】 | 締めつけられるような腹痛(多くは持続性)、麻痺性イレウス、腹部膨満感、腸雑音の消失、下血、下痢、脱水状態、穿孔etc. |
【検査】 | 腹部単純Xp(⇒麻痺性イレウスの所見)、腹部動脈の血管造影(⇒血管の閉塞所見) |
【治療】 | 酸素投与、輸液、抗生物質投与、経カテーテル血栓摘除術、壊死腸管の切除 |
|
腸管アンギーナ intestinal angina |
【概念】 | 上下の腸間膜動脈や腹腔動脈などの腹部の太い血管が徐々に狭窄していく疾患 |
【疫学】 | 高齢者に多い |
【原因】 | 動脈硬化 |
【症状】 | 食物が小腸を通過する食後20~60分頃に、腹痛をきたす。その結果、食事摂取量が減少し、しばしば栄養不良をきたす。また、聴診にて血管雑音を聴取する |
【検査】 | 腹部血管造影(⇒血管の狭窄) |
【治療】 | 経カテーテル血栓摘除術orバイパス形成術 |
|
虚血性大腸炎 ischemic colitis |
【概念】 | 限局性の虚血が急激に生じる疾患 | |
【疫学】 | 好発部位…左半結腸(脾彎曲~S状結腸) |
【原因】 | HT、Af、虚血性心疾患、動脈硬化、DM、便秘・腸炎などの腸管内圧を亢進させる消化器疾患etc. |
【症状】 | 左下腹部を最強点とする腹痛、暗赤色の下血(←粘膜下出血による)、しぶり腹、下痢※etc. ※典型的には、左下腹部痛で発症し、下痢→下血→血液そのものの排泄という順序で進行していく 多くの場合には1週間以内に軽快するが、狭窄を残したり、壊死を起こしたりする場合もある |
【検査】 | 注腸造影検査⇒鋸歯状陰影、母指圧痕像、縦走潰瘍、区域性伸展不良etc. 内視鏡検査⇒境界鮮明な暗黒色粘膜の隆起(←粘膜下組織の浮腫、出血による) |
【治療】 | 絶食による腸管の安静、下痢に対する輸液による保存的治療がまず行われる。腸管の壊死に陥った場合は、手術を行う |
|
腸閉塞(イレウス) intestinal obstruction |
【概念】 | 何らかの原因で腸内容の通過が障害された病態 |
【分類】 | - 機械的イレウス(腸管の閉塞によるイレウス。90%以上を占める)
- ・単純性イレウス…血行障害を伴わない
(例)術後の癒着(大半を占める)、炎症性瘢痕、腫瘍、異物、腸管外からの圧迫etc. ・絞扼性イレウス(複雑性イレウス)…血行障害を伴う (例)腸重積、腸軸捻症、鼠径ヘルニア嵌頓etc.
- 機能的イレウス(腸管の機能障害によるイレウス)
- ・麻痺性イレウス…腸管の蠕動運動の低下による
(例)急性腹膜炎、腸間膜動脈閉塞症、DM、開腹後etc. ・痙攣性イレウス…腸管の分節運動の過剰による (例)鉛中毒、ヒステリーetc.
|
【症状】 | 嘔吐、脱水症状、腹部膨満感、排便・排ガスの停止、腹痛(単純性イレウスでは周期的な疝痛、絞扼性イレウスでは持続的な鋭い痛み) 合併症…bacterial translocation、(絞扼性イレウスでは)腸管壊死に伴う穿孔 他覚的所見…打診上鼓音(鼓腸)、腸雑音(⇒単純性イレウスでは亢進(金属音)、絞扼性・麻痺性イレウスでは低下or消失)、腹膜刺激症状、絞扼性イレウスではWahl徴候(絞扼された腸管を腫瘤として触知) |
【検査】 | 血液検査⇒血液濃縮所見、WBC↑(絞扼性イレウスでは後に急激な低下)、電解質異常(上部消化管閉塞では低Cl血症を伴う代謝性アルカローシス、下部消化管閉塞では低Na血症・低K血症を伴う代謝性アシドーシス) 腹部単純Xp⇒上部小腸閉塞ではherring bone appearance(輪状ヒダの明瞭化)、tripple bubble sign。下部小腸閉塞ではstep ladder appearance |
【治療】 | 絞扼性イレウス以外⇒保存的療法(禁食、経鼻チューブによる腸内容の吸引、輸液、電解質の調整、予防的抗生物質投与etc.)をまず行う。保存的治療に抵抗する単純性イレウスの多くは、待期的手術の適応となる 絞扼性イレウス⇒緊急手術 |
|
腸軸捻症(腸捻転) volvulus |
【概念】 | 腸管が腸間膜を軸として捻れた疾患 | |
【疫学】 | ほとんどがS状結腸に起こる |
【原因】 | 先天的に長い腸間膜、腸間膜の瘢痕収縮etc. |
【症状】 | 急激なイレウス症状(絞扼性イレウスになりやすい) |
【検査】 | 腹部単純Xp⇒S状結腸軸捻症ではcoffee bean sign、小腸軸捻症では無ガス像 注腸造影法⇒S状結腸軸捻症ではくちばし状(bird peak sign) |
【治療】 | まずは内視鏡で整復を試みるが、多くは開腹手術が必要となる
|
|
腸重積 invagination |
【概念】 | 腸管が隣接する腸管に嵌入してしまった状態 |
【疫学】 | 約90%は生後2歳未満の乳幼児(特に4ヶ月~1歳の乳児)に発症し、回盲部に好発 残りの約10%は、ポリープ・腫瘍・Meckel憩室などの基礎疾患を有する年長児から成人に発症 |
【症状】 | 乳幼児の場合…急激に間欠的な腹痛・啼泣・嘔吐をきたし、不機嫌、顔面蒼白を呈する。苺ゼリー状の粘血便の排泄がみられ、ソーセージ様の腫瘤が触知される。放置すると、絞扼性イレウスに至る 年長児・成人の場合…比較的緩徐に発症する | |
【検査】 | まず浣腸による便性の観察、続いて腹部エコー(⇒target sign)、確定診断にバリウムによる注腸造影(⇒カニのはさみのように写る嵌入腸管) |
【治療】 | 非観血的整復法…高圧浣腸法、空気注腸による整復法、エコー下生食注腸による整復法などが原則 開腹手術(Hutchinson法)…絞扼性イレウスに陥っている場合、腹膜炎を合併している場合、全身状態が不良な場合に行われる |
|