急性胃粘膜病変 acute gastric mucosal lesion (AGML) |
【概念】 | 内視鏡下に、びらん性胃炎、出血性胃炎、急性胃潰瘍が確認される病態 |
【原因】 | アルコール、刺激性の高い食物の摂取、薬剤性(NSAIDs、PG合成阻害薬etc.)、ストレス、手術時、中枢神経障害時(=Cushing潰瘍)、熱傷時(=Curling潰瘍)、感染症(Hp、腸チフス、インフルエンザウイルスetc.)、アレルギ―性機序(サバなどの魚類、牛乳、卵などの摂取)etc. |
【症状】 | 突然の心窩部不快感、腹痛、悪心・嘔吐etc. |
【検査】 | 内視鏡検査⇒胃粘膜の発赤、充血、浮腫、びらん、出血etc. |
【治療】 | 絶食、輸液が基本。必要に応じて、H2受容体拮抗薬の投与、内視鏡下止血術を行う |
|
慢性胃炎 chronic gastritis |
【概念】 | 胃粘膜における表層性胃炎に始まり、萎縮性胃炎の過程を経て、最終的に胃萎縮に至る進行性過程の総称。すなわち、慢性胃炎は、胃粘膜の欠損(表層性変化)とその再生過程における不完全構築(萎縮性変化)よりなるダイナミックな状態である |
【分類】 | -
形態学的分類(Schindler分類)
| 組織像 | 内視鏡像 |
表層性胃炎 | 胃粘膜の表層部を中心に炎症細胞が浸潤 | 胃粘膜の発赤と浮腫が著明 |
萎縮性胃炎 | 胃底腺の組織が萎縮し、腸上皮化生が認められる | 胃粘膜の変色、菲薄化、血管の透見 |
- 病態生理学的分類(Strickland-Mackay分類)
| 発生部位と変化 | 原因 | 特徴 |
A型胃炎 | 胃体部に高度の萎縮 | 自己免疫 (壁細胞抗体etc.) | 胃酸分泌の著明な低下、高ガストリン血症がみられる他、ペプシノーゲンTの分泌が低下する。ECLカルチノイド腫瘍を高頻度に伴う |
B型胃炎 | 前庭部に萎縮性変化 (過形成性胃炎) | Hp感染 | 慢性萎縮性胃炎→腸上皮化生→癌化という進行パターン |
AB型胃炎 | 前庭部から胃体部に 病変部が広がっていく |
- The Sydney System
- 1990年、シドニーで開催された世界消化器病学会で、これまでの胃炎分類を統合し、混乱を解消する目的で提唱された。このシステムは生検組織所見とHp感染の有無を基本としており、大きく組織学的区分と内視鏡的区分に分かれている。それぞれについて部位と性状を客観的に記載することで、報告に統一性をもたせ、多施設間での比較を可能にしようとしている。日本ではまだ一般化していない
|
【症状】 | ほとんど無症状。時に心窩部不快感、胸やけ、悪心などを訴える |
【検査】 | 内視鏡検査⇒萎縮性胃炎では粘膜の変色、菲薄化、血管の透見etc. |
【病理】 | HpはGram陰性桿菌であるが、Gram染色では偽陰性を示すことが多く、Giemsa染色が推奨される |
【治療】 | A型慢性胃炎⇒Vit. B12の筋注etc. B型慢性胃炎⇒Hp除菌etc. |
|
Me´ne´trier病 (胃巨大皺襞症) |
【概念】 | 胃皺壁が巨大に肥大して、蛇行し、蛋白漏出性胃腸症を呈する疾患 |
【病理】 | びまん性多発腺腫(胃小窩を覆う上皮細胞が増殖し、肥厚性胃炎ともよばれる)、壁細胞・主細胞の消失 |
【症状】 | 心窩部痛、食欲不振、悪心・嘔吐、低蛋白血症による浮腫・体重減少etc. |
【検査】 | 上部消化管造影・胃内視鏡検査⇒巨大皺襞(ただし、胃壁の伸展性は保たれる) 胃液の分泌…無酸症or低酸症、ペプシノーゲンの分泌↓ |
【治療】 | 軽症であれば成分栄養、重症例では胃切除 |
|
胃・十二指腸潰瘍 gastroduodenal ulcer |
【概念】 | 潰瘍が治癒と再発を反復しながら慢性化した状態(消化性潰瘍) |
【疫学】 | 胃潰瘍は40歳代に好発、十二指腸潰瘍は30歳代に好発 好発部位…粘膜の性状が変わるところで、胃酸から遠い方に生じやすい(二重規制説)。つまり、胃潰瘍は幽門部(年齢とともに口側に移動)に好発し、十二指腸潰瘍は球部(特に前壁)に好発。なお、十二指腸潰瘍は多発傾向がある |
【原因】 | 攻撃因子の過剰…胃酸過多、Hp感染etc. 防御因子の低下…粘液産生の低下、粘膜の血流低下、NSAIDsの服用(⇒PG合成低下)etc. |
【症状】 | 心窩部痛(空腹時、特に夜間に強い)、胸やけ、げっぷ、悪心・嘔吐etc. 合併症…出血(⇒吐血or下血)、穿孔・穿通(十二指腸潰瘍に多い)、狭窄(十二指腸潰瘍に多い) |
【検査】 | 上部消化管造影法⇒ニッシェ、粘膜襞の集積像、線状潰瘍、(十二指腸潰瘍では)タッシェ・クローバー様変形etc. 内視鏡検査⇒白苔を有する粘膜欠損。潰瘍の時相(活動期・治癒期・瘢痕期)により所見が異なり、経過観察・治癒判定に有用 胃液検査⇒(一般に)胃酸分泌量↑ Hpの検出…ウレアーゼ法、尿素呼気試験、血中抗体価測定etc. |
【治療】 | 生活指導(ストレスの回避、禁煙、刺激物の回避)、薬物療法(H2ブロッカー、PPI etc.)※、Hpの除菌療法(PPI、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤併用療法) ※突然の薬物休止は、一気に胃酸分泌を促し、潰瘍の悪化を招くことがある(リバウンド) 出血⇒内視鏡的止血術(100%エタノールの局注、高張食塩水+アドレナリンの局注、焼灼術)をまず行う。コントロール不良の場合には、緊急開腹手術を行う 穿孔・穿通⇒まず保存的治療(絶食、抗生剤投与)を行い、コントロール不良の場合には単純閉鎖術を行う。汎発性腹膜炎に至っている場合は、緊急開腹手術の適応となる |
|
胃癌 gastric cancer |
【概念】 | 胃粘膜の上皮細胞から発生する悪性腫瘍 |
【疫学】 | 好発部位…前庭部(40%強)、胃体部(約40%) |
【病理】 | ほとんどが腺癌。高分化型と未分化型(粘液産生能が強いタイプを印環細胞癌という)に分けられる |
【分類】 | - 深達度による分類
- ・進行癌…筋層に浸潤したもの
・早期癌…粘膜下層にとどまるもの
- 肉眼的分類
- ・進行癌(Borrmann分類)…1型(隆起型)、2型(潰瘍限局型)、3型(潰瘍浸潤型)、4型(びまん性浸潤型)。2型と3型が多い
・早期癌…0-T型(表在隆起型)、0-Ua型(表在軽度隆起型)、0-Ub型(表在平坦型)、0-Uc型(表在軽度陥凹型)、0-V型(表在陥凹型)。Uc型が最多 ※分化癌は隆起型、未分化癌は陥凹型を示す
- 癌の進展
- 浸潤…膵、横行結腸、(噴門の胃癌では)下部食道etc.
転移…Virchow転移(左鎖骨上窩リンパ節転移)、肝、肺、骨、脳、腹膜播種(卵巣に転移したKrukenberg腫瘍、Douglas窩に転移したSchnitzler転移)
|
【症状】 | 特有の症状はない。併存する潰瘍により、心窩部痛、食欲不振、胸やけなどをしばしばきたす |
【検査】 | 上部消化管造影検査⇒隆起性病変では陰影欠損、陥凹性病変ではニッシェ様陰影、早期胃癌では粘膜襞の急激な中断・先細り・肥厚・癒合 内視鏡検査 |
【治療】 | 内視鏡的粘膜切除術(EMR)…早期癌のうち、潰瘍を伴わない直径2cm以下のm癌に対して行われる 適応となる組織型は、分化型癌(tub1、tub2、pap)のみ 外科手術…胃摘出(全摘or幽門側切除術)+所属リンパ節郭清 |
【予後】 | 早期胃癌の10生は90%以上だが、漿膜下に浸潤した進行胃癌の10生は約30% |
|
MALTリンパ腫 MALT lymphoma |
【概念】 | 粘膜関連リンパ組織(MALT)を発生母地とする悪性リンパ腫。胃の悪性リンパ腫の大部分を占め、ほとんどはnon HodgkinのB細胞リンパ腫に属する |
【原因】 | Hp感染が誘因として重要 |
【症状】 | 特有の症状はないが、しばしば心窩部痛、食欲不振、胸やけなどがみられる |
【検査】 | 上部消化管造影検査⇒潰瘍型(Uc型に類似の所見)or腫瘤型(粘膜下腫瘍の所見)or巨大皺壁型 内視鏡検査・生検⇒中心に胚中心細胞を有するリンパ濾胞の形成 |
【治療】 | Hp除菌が第1選択。その他、高悪性度の症例や進行した症例では、Stageに応じた外科手術、放射線照射、化学療法が必要となる |
|
gastrointestinal stromal tumor (GIST) |
【概念】 | 消化管の筋層に存在する消化管運動のペースメーカーであるCajal介在細胞由来と考えられている間葉系腫瘍。間葉系腫瘍のうち、腫瘍細胞がCD117(膜貫通性チロシンキナーゼ受容体のc-kit)陽性のものをGISTとよぶことになっている。GISTでは、多くの例でc-kit遺伝子の一部に変異がみられ、その結果としてチロシンキナーゼのリガンドを介さない活性化(自己リン酸化現象)が起こる。それによりチロシンキナーゼが常に活性化され、さらなるリン酸化現象に拍車をかけることにより細胞分裂が促進され腫瘍化につながるとされている |
【疫学】 | 好発部位…胃に多く発生し(70%)、次に小腸に多い(20〜30%) 好発年齢…中・高年齢層(60〜80歳)に多くみられる | |
【症状】 | 従来の平滑筋原性の粘膜下腫瘍とほとんど同じで、上腹部痛、胃部不快感、出血、腫瘤触知etc. |
【検査】 | 内視鏡検査⇒従来の平滑筋原性の粘膜下腫瘍とほとんど同じ所見 免疫組織学的染色⇒CD117(+) |
【治療】 | 一般に外科切除が行われる。化学療法や放射線治療は無効。最近、チロシンキナーゼ阻害薬であるGleevecという新薬が治験を終了し、用いられ始めている |
|
胃ポリープ gastric polyp |
【概念】 | 粘膜上皮が局所的増殖により内腔に隆起した病変で、悪性でないもの |
【分類】 | - 形態分類(山田・福富分類)
- 無茎性のT・U型と、有茎性のV・W型に分類
- 病理分類
- ・過形成性ポリープ…粘膜の修復過程で上皮細胞が過剰に増殖してできたもので、Hpと関連がある。悪性化はまれ
・腺腫性ポリープ…原因不明の良性腫瘍。直径2cmを超えるものでは、しばしば癌化がみられる
|
【症状】 | 無症状 |
【検査】 | 上部消化管造影検査(⇒陰影欠損)、内視鏡検査・生検 |
【治療】 | 小さなポリープは経過観察でO.K.だが、大きなポリープに対してはポリペクトミーを行う |
|
胃粘膜下腫瘍 submucosal tumor of the stomach |
【概念】 | 粘膜下層or筋層から発生する腫瘍 | |
【疫学】 | 比較的まれな疾患で、胃癌や胃ポリープに比べかなり頻度は低い |
【分類】 | - 良性胃粘膜下腫瘍
- 平滑筋腫が大半。その他、脂肪腫、血管腫、神経鞘腫、迷入膵、好酸球肉芽腫etc.
- 悪性胃粘膜下腫瘍
- MALTリンパ腫が最多で、平滑筋肉腫がこれに次ぐ
|
【症状】 | 特有の症状はない。時に心窩部痛、食欲不振、胸やけ、消化管出血などをきたす |
【検査】 | 上部消化管造影・内視鏡検査⇒正常粘膜に覆われた境界明瞭or不明瞭な隆起性病変で、bridging foldや臍(←中心壊死による)をしばしば伴う 超音波内視鏡検査…確定診断、手術適応の決定に有用 ※内視鏡下生検では、質的診断が困難であり、有用でない |
【治療】 | 良性腫瘍では経過観察でO.K.だが、悪性腫瘍or悪性腫瘍の可能性が否定できない場合には外科的に胃摘出術を行う |
|
胃切後症候群 postgastrectomy syndrome |
【概念】 | 胃切除後に患者のQOLが低下した状態
| 機序 | 症状 | 治療 |
ダン ピング 症候群 | 早期 ダンピング 症候群 | 空腸の急激な拡張⇒蠕動運動↑、腸管粘膜の血流↑↑⇒突然の循環血漿量↓ | 食後30分以内に、発汗、動悸、めまい、脱力感、失神、悪心・嘔吐、腹部膨満感、腹痛etc. | 食事療法(頻回少量の食事、食物の浸透圧活性を低くする) |
後期 ダンピング 症候群 | 血糖値の急激な上昇⇒インスリンの反応性過分泌⇒反応性低血糖 | 食後2〜4時間に、冷汗、動悸、手指振戦などの交感神経刺激症状、空腹感etc. | 食事療法(頻回少量の食事)、発症時には炭水化物の経口摂取・ブドウ糖の静注 |
輸入脚症候群 | BillrothU法により生じた輸入脚における通過障害⇒輸入脚の内圧↑ | 突然、胆汁と膵液を含んだ嘔吐をきたす | 軽症例では食事療法(低脂肪食)etc.、重症例では再手術(Braun吻合を追加) |
逆流性食道炎 | 胃全摘or噴門側胃切除によるLES機能不全 | 胸やけ、嘔吐etc. | 軽症例では食後の横臥の回避などの保存的治療、重症例では再手術(LESの形成) |
小胃症状 | 食物をいったん貯蔵するスペースの物理的な減少 | 少量の食事による満腹感、摂取カロリーの不足による栄養不良 | 食事療法(少量頻回の食事) |
貧血 | 鉄欠乏性貧血 | 胃液の産生低下⇒Fe3+の還元ができない⇒鉄の吸収不良 | 貧血症状 | 鉄剤の経口投与 |
巨赤芽球性貧血 | 内因子の分泌低下⇒Vit. B12の吸収低下 | 胃全摘後5年以上経過してから、貧血症状が出現 | Vit. B12製剤の筋注 |
胃切除後骨障害 | CaとVit. Dの吸収低下 | 骨粗鬆症と骨軟化症が合併 | Ca・Vit. Dの補充 |
|
|
急性胃拡張 acute dilation of the stomach |
【概念】 | 器質的な通過障害がなく、急性に胃壁の緊張状態が失われ、蠕動運動も停止し、胃が単なる袋となって急激に伸展拡張する疾患 |
【原因】 | 開腹手術後数日以内に起こることが最も多い。その他、敗血症、DM、重篤な肝疾患、腎疾患、上腸間膜動脈性十二指腸閉塞症などが原因となる |
【症状】 | 食物の胃内大量貯留による腹部膨満、頻回の嘔吐、脱水症状(口渇、乏尿、頻脈)、低Na血症、低K血症、(最悪の場合には)ショック状態 |
【検査】 | 腹部単純Xp⇒胃の中に充満した大量の内容物とガス像 |
【治療】 | 絶食、胃内容吸引、輸液、電解質補正 |
|
上腸間膜動脈性 十二指腸閉塞症 superior mesenteric artery syndrome |
【概念】 | 上腸間膜動脈によって十二指腸水平脚が圧迫され、イレウスをきたす疾患 |
【疫学】 | 若い女性、経管栄養患者、完全静脈栄養患者に多い |
【症状】 | 急性型…突然の腹痛、腹部膨満感、悪心・嘔吐(胆汁を含む)、腹部陥凹etc. 慢性型…年余にわたる腹部膨満感、間欠性の腹痛、便秘、消化不良、腹部陥凹Setc. 症状は、腹臥位or左側臥位にて軽快 |
【検査】 | 腹部単純Xp⇒胃泡の拡大、double bubble sign 上部消化管造影⇒十二指腸の拡張 |
【治療】 | 原則として保存的に治療。急性型では、胃内容吸引、輸液による脱水の改善、電解質バランスの補正を行い、慢性型では、少量頻回の食事摂取を行う。保存的治療に抵抗する場合には、外科的治療の適応となる |
|