大動脈瘤 aortic aneurysm |
【概念】 | 大動脈が限局性に50%以上拡張した状態 |
【分類】 |
| 概念 | 形態 |
真性大動脈瘤 | 内膜・中膜・外膜の3層構造を保ったまま拡張したもの | 多くは紡錘状 |
仮性大動脈瘤 | 大動脈壁が破れ、周囲に流出した血液が血腫を作り、これを結合組織や周辺臓器が覆いかぶさるようにしてできあがったもの | ほとんどが嚢状 |
解離性大動脈瘤 | 内膜に亀裂が生じ、壁内に流入した血液によって中膜が広範囲に2層に解離したもの | |
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【原因】 | 粥状硬化…大動脈瘤の大半を占め、中高年の男性、腹部大動脈※に好発 ※腹部大動脈瘤の90%以上は、腎動脈分岐部以下の腹部大動脈に発生する 炎症…感染性心内膜炎の続発症、不適切な心カテ操作、梅毒、大動脈炎症候群、血管Behcet病などが原因 Marfan症候群…上行大動脈瘤or大動脈解離に、大動脈弁輪拡張(annulo-aortic ectasia)によるARを合併 外傷(非穿通性外傷)…交通事故、墜落事故などが原因。病理学的には仮性大動脈瘤となる |
【症状】 | 破裂前…原則として無症状だが、腹部大動脈瘤では無痛性の拍動性腫瘤の触知を自覚することもある。その他、圧迫症状として、胸部大動脈瘤の場合は上大静脈症候群・嗄声・呼吸困難・嚥下困難、腹部大動脈瘤の場合は腹痛・腰痛などが生じることがある 破裂後…激しい疼痛、出血性ショックなどをきたし、予後不良 |
【検査】 | 超音波検査、動脈造影 |
【治療】 | 外科手術(瘤切除+人工血管置換術)…適応は圧迫症状出現時、直径≧6cm(腹部の場合)、直径≧5cm(胸部の場合)etc. ※胸部下行大動脈手術の合併症として、前脊髄動脈症候群が重要 |
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大動脈解離 dissection of the aorta |
【概念】 | 大動脈の内膜に亀裂が生じ、壁内に流入した血液によって中膜が広範囲に2層に解離した状態。動脈瘤を形成するとは限らないので、解離性大動脈瘤より大動脈解離という名称の方が好まれる |
【病態】 | Marfan症候群、HTなどの基礎疾患⇒中膜の嚢胞性壊死⇒内膜の亀裂⇒entry、偽腔、reentryの形成 |
【分類】 | - DeBakey分類
T型 | entryが上行大動脈にあり、解離が腹部大動脈にまで及ぶ |
U型 | entryが上行大動脈にあり、解離が上行大動脈に限局 |
Va型 | entryが下行大動脈にあり、解離が胸部大動脈に限局 |
Vb型 | entryが下行大動脈にあり、解離が腹部大動脈にまで及ぶ |
- Stanford分類
A型 | 上行大動脈に解離がある (⇒できる限り早期に人工血管置換術を行う) |
B型 | 上行大動脈に解離がない (⇒とりあえず保存的治療を行う) |
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【症状】 | 突然の激しい疼痛(胸痛、背痛etc.)、顔面蒼白、血圧↑(大量出血時、心タンポナーデ合併時には↓)etc. 解離が心嚢内や大動脈起始部に及んだ場合⇒心タンポナーデ、AR、ARによる急性左心不全症状 血管分岐部を圧迫した場合⇒Valsalva洞の圧迫症状(急性心筋梗塞)、鎖骨下動脈の圧迫症状(上肢の血圧の左右差、典型的には右上肢の脈拍欠損)、総頸動脈の圧迫症状(意識障害、片麻痺etc.)、肋間動脈の圧迫症状(Horner症候群、嗄声、上大静脈症候群、前脊髄動脈症候群etc.)、腸間膜動脈の圧迫症状(腹痛、麻痺性イレウスetc.)、腎動脈の圧迫症状(腎血管性高血圧)、総腸骨動脈の圧迫症状(下肢の血圧低下、しびれ、冷感、疼痛etc.) |
【聴診】 | 血管雑音(−)、時にHTによる収縮期雑音、時にARによる心雑音 |
【検査】 | 血液検査⇒WBC↑、ESR↑、CRP↑、心筋逸脱酵素→ 胸部Xp⇒上部縦隔陰影の著明な拡大 心エコー⇒A型であればintimal flap、時に心タンポナーデ 胸腹部CT⇒大動脈の拡張、造影にて偽腔やintimal flapが分かる 大動脈造影…術前検査として行われる ECG⇒特異的な所見なし。心筋梗塞との鑑別に重要 |
【治療】 | 初期治療…モルヒネによる除痛、速やかな降圧(トリメタファン、Ca拮抗薬、硝酸薬etc.)、β-blockerの投与 手術療法(人工血管置換術)…A型は緊急手術の適応。B型に対してはまず保存的治療が行われるが、血管狭窄症状を呈するケース、疼痛が持続するケース、大動脈瘤の直径≧5cmのケースなどでは手術適応となる ※ARを伴うものではBentall手術 |
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大動脈炎症候群 (高安動脈炎) aortitis syndrome |
【概念】 | 大動脈とその気管分岐動脈に非特異的炎症が起こり、その結果生じた血管内腔の狭窄に基づく一連の症状を呈する疾患。肺動脈にも狭窄が起こるが、臨床症状を呈することはほとんどない |
【疫学】 | 若年女性に好発。東洋人に多い |
【症状】 | 血管狭窄症状…腕頭動脈・鎖骨下動脈の狭窄症状(脈なし病※1)、総頸動脈の狭窄症状(めまい、頭痛、頸動脈洞の被刺激性亢進※2、網膜の虚血etc.)、下行大動脈の狭窄症状(異型大動脈縮窄症※3、続発性アルドステロン症etc.)、腎動脈の狭窄症状(腎血管性高血圧)、大動脈起始部の狭窄症状(心筋梗塞、AR etc.)
※1 脈なし病…橈骨動脈の拍動が触知できない。上肢のしびれ・冷感などを呈する ※2 頸動脈洞の被刺激性亢進…首を上に向けたり、頸動脈洞を圧迫したりすると、失神しやすくなる ※3 異型大動脈縮窄症…大動脈縮窄症と同様の所見(上肢の血圧>下肢の血圧)を呈する病態 その他の症状…動脈瘤、全身症状(発熱、倦怠感、易疲労感etc.) |
【聴診】 | 血管雑音(+) |
【検査】 | 血液検査⇒ESR↑、CRP↑、γ-グロブリン↑、時に抗大動脈抗体(+) 胸部Xp⇒大動脈の石灰化、AR合併時には心陰影の拡大 大動脈造影⇒大動脈やその分岐血管の狭窄像、不整像 ※活動期における大動脈造影は禁忌 眼底検査⇒軟性白斑、花冠状吻合(動静脈吻合)、網膜剥離etc. |
【治療】 | 活動期のステロイド投与が中心。その他、必要に応じて降圧療法、抗血小板療法(アスピリンetc.)、経皮的血管形成術などを行う |
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急性動脈閉塞症 acute arterial occlusion |
【概念】 | 突然四肢の主幹動脈が閉塞した状態で、一刻を争う緊急疾患である |
【原因】 | 塞栓症…ほとんどが心原性で、Af・MS・左房粘液腫・IE・人工弁置換後などの基礎疾患をもつ場合が多い 血栓症…動脈硬化に、脱水・低血圧・多血症などの血栓誘発因子が加わることによって発症する場合が多い |
【症状】 | 5つのP(疼痛、脈拍消失、蒼白、知覚異常、運動麻痺)が突然出現 阻血状態が長期化すると、溢血斑・水疱の形成、皮膚・筋肉の壊死、筋拘縮などを呈する |
【治療】 | 発症後6〜8時間のgolden time内で、筋肉の壊死がない場合⇒ヘパリン静注(二次血栓形成を予防)+塞栓・血栓摘除術(Fogartyカテーテルを使用)。さらに、血栓症の場合には必要に応じてバイパス術を追加 筋肉の壊死がある場合or golden time以降⇒患肢の切断が必要(筋腎障害性代謝異常症候群※予防のため)※筋腎障害性代謝異常症候群(MNMS)…多量の筋肉が壊死した場合には、ミオグロビン・CK・LDH・GOT・K+・乳酸などが患肢に蓄積する。その後、血行が再開すると、高ミオグロビン血症・高K血症・乳酸アシドーシスを生じ、一挙に急性腎不全や心停止を引き起こす |
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慢性動脈閉塞症 chronic arterial occlusion |
【分類】 |
| 閉塞性動脈硬化症(ASO) | 閉塞性血栓性血管炎(TAO;Buerger病) |
概念 | 四肢の主幹動脈(特に膝から上の下肢の太い動脈)に粥状硬化が生じ、その内腔が徐々に狭窄or閉塞するために、末梢組織の虚血症状を呈する疾患 | 原因不明に、四肢遠位部の小動脈に肉芽腫性の炎症が生じ、その内腔が血栓によって閉塞するために、末梢組織の虚血症状を呈する疾患伴走する静脈にも同様の病変を伴う |
疫学 | 50歳以上の男性に好発(中でも動脈硬化性疾患を合併している場合が多い) | 20〜40歳の喫煙男性に好発 |
症状 | 5つのP(疼痛、脈拍消失、蒼白、知覚異常、運動麻痺)が段階的に出現 Fontaine分類により重症度分類がなされる T度(冷感・しびれ) U度(間欠的跛行) V度(安静時疼痛) W度(潰瘍・壊死) | (上下肢の)指趾末端に難治性の潰瘍 静脈に血栓性静脈炎⇒自然に消失するが、部位を変えて再発するため、遊走性血栓性静脈炎とよばれる |
検査 | 下肢血圧測定⇒上下肢血圧比<0.9 カラーDopplerエコー⇒血流速度↓ サーモグラフィ⇒阻血部位の輻射熱低下 血管造影⇒血管の途絶像、周囲の開存血管の動脈硬化像(壁の不整)、側副血行路 | 血管造影⇒血管の途絶像(先細り閉塞する場合が多い)、樹根状〜クモ足状の細い側副血行路、cork screw sign これらの所見は前腕or下腿に限局し てみられ、肘や膝を超えることはない!! |
治療 | 病変が限局している場合⇒バルーンカテーテルを用いた経皮的血管形成術(PTA) 病変が広範囲に及んでいる場合⇒バイパス手術(人工血管や自家静脈グラフトを使用) | 一般療法…禁煙指導、患肢の保温、清潔保持 薬物療法…PG製剤・抗血小板薬を使用 手術療法…腰部交感神経切除術病変が小血管にあるため、PTAや バイパス手術を行うことができない!! |
※Leriche症候群…腹部大動脈末端部に限局したASO。両側腸骨動脈の閉塞による末梢組織の虚血症状として、下肢の脈拍欠損・蒼白、間欠的跛行、インポテンツなどをきたす |
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