狭心症 angina pectoris
概念一過性の心筋虚血による可逆性病変
病態・酸素供給の不足…冠動脈に生じた動脈硬化(プラーク形成)、冠動脈の攣縮
・酸素需要の過剰…心拍数↑↑、心筋収縮力↑↑、後負荷(∝収縮期血圧)↑↑
     ←臨床的には、心筋の酸素需要は、心拍数×収縮期血圧で推定される
分類
病変による分類
 原因症状
器質性狭心症冠動脈に生じた動脈硬化じわじわと段階的に進行していくため、原則として労作狭心症
冠攣縮性狭心症心筋表面を走行する太い冠動脈の攣縮真夜中〜早朝に、一挙に95%以上の狭窄をきたすため、原則として安静狭心症
多くの場合、発作時の心電図でST上昇を認める(=異型狭心症
※異型狭心症は、ECGの誘導でU・V・aVFにST上昇があることから、右冠動脈病変が多い
心筋梗塞に移行する危険性の有無による分類
不安定狭心症…心筋梗塞に移行する危険性の高いもの
   ・最近になって、悪化してきているもの
   ・新規発症のもの(一般に48時間以内)
   ・安静にしていても症状が出現するもの(安静狭心症)
安定狭心症…心筋梗塞に移行する危険性の低いもの
症状
狭心痛(胸痛、前胸部痛、胸部不快感、胸部圧迫感などと表現される)
   ・持続時間は、通常は数分以内。どんなに長くても30分以内
   ・圧痛はなく、冷汗を伴い、左肩へ放散することが多い
   ・疼痛の範囲は漫然としており、手掌以上の広がりをもつことが特徴的
   ・労作狭心症では、一定以上の労作で出現するが、安静にすると消失する
   ・安静狭心症(≒冠攣縮性狭心症)の発作は、ほとんどが明け方に起こる
      ※運動負荷中の突然の血圧下降は、左主幹部病変or重症の三枝病変を示唆する
随伴症状…太い冠動脈(特に右冠動脈の場合)が一挙に狭窄してしまう冠攣縮性狭心症では、刺激伝導系が虚血に陥るため、発作性心室頻拍(⇒動悸を訴える)や房室ブロック(⇒Adams-Stokes発作を起こすこともある)などの不整脈を引き起こすことがある
検査
心電図
・労作狭心症⇒運動負荷心電図により、ST低下、陰性U波      ※不安定狭心症疑いの場合、運動負荷心電図は禁忌
・安静狭心症⇒ACh負荷心電図orホルター心電図により、ST上昇(←異型狭心症)、陰性U波
心筋シンチ(201Tlや99mTc-MIBIをトレーサーに用いる)
・労作狭心症⇒運動負荷・β1受容体刺激薬負荷・冠動脈血管拡張薬負荷を組み合わせることにより、虚血部位はcoldになる。安静にして数時間後にもう一度撮影すると、201Tlの再分布が見られる(99mTc-MIBIでは再分布は起こらない)
心エコー…発作時にのみ局所壁運動異常がみられる
冠動脈造影
・器質性狭心症⇒冠動脈の内腔の狭窄
・冠攣縮性狭心症⇒過呼吸or ACh負荷orエルゴノビン負荷により、冠動脈が全体的に狭窄
治療
発作時の薬物療法…ニトログリセリンの舌下錠、二硝酸イソソルビド(ISDN)の内服
非発作時の薬物療法…β受容体遮断薬冠攣縮性狭心症では禁忌)、Ca拮抗薬(冠攣縮性狭心症では第1選択)、持続型硝酸薬、抗血小板薬(アスピリン)
経皮的冠動脈形成術(PTCA)…薬物に抵抗性の器質性狭心症が適応であるが、多枝病変や左冠動脈の主幹部病変は禁忌。急性冠閉塞や再狭窄(30〜40%)などの合併症      ※一般に治療が必要となるのは75%以上の狭窄
冠動脈バイパス手術(CABG)…左冠動脈の主幹部病変、多枝病変、びまん性の閉塞病変、ステント留置が困難な細い血管の複数病変、PTCA後の再狭窄などが適応(ただし、ejection fraction≦0.3の低左室機能の症例は手術適応から除外される。また、陳旧性の完全閉塞病変も適応外)
心筋梗塞 myocardial infarction(MI)
概念遷延化した心筋虚血のために心筋が壊死に陥り、不可逆的な障害を残した病態
症状
前駆症状…不安定狭心症が約半数の例でみられる
発作時の症状…胸痛(肩や腕などに放散、通常は30分以上、安静によっても軽快しない、ニトログリセリン無効)、冷汗、顔面蒼白、不安感、悪心・嘔吐etc.
検査心電図…T波増高⇒ST上昇⇒異常Q波⇒陰性T波⇒冠性T波という経過で変化する
陳旧性心筋梗塞では、異常Q波、陰性T波、R波の減高   
   ただし、心内膜下梗塞(非貫壁性梗塞)の場合は、このような変化はみられず、ST低下などをきたす
心筋梗塞の部位診断
   T    U    V   aVR  aVL  aVF  V1  V2  V3  V4  V5  V6 
前壁中隔      QQQQ  
側壁Q   Q     QQ
広範前壁(前壁側壁)Q   Q QQQQQQ
高位側壁Q   Q       
下壁 QQ  Q      
後壁側壁 QQ  Q    QQ
純後壁      RR    
※AMI時の心筋の変化は、@虚血(冠動脈閉塞直後)、A傷害(15〜30秒後)、B壊死(15〜30分後に始まる)、C線維化と進んでいき、4〜6時間でほぼ心筋梗塞は完成する。ECG上では、@によりT波の増高、AによりST部分の上昇、Bにより異常Q波が出現する。
血液検査…H-FABP、WBC、ミオグロビン、CK、GOT、LDH、トロポニンT、トロポニンI、ミオシン軽鎖-T、CRP、ESRなどの上昇(or亢進)が一定の時間経過で認められる。また、これらの生化学的マーカーの変動を追うことで、再灌流療法の成否の判定や再梗塞の有無の判定を行うことも可能である
   ※CK-MB、トロポニンT・Iは心筋特異性が高い      ※ミオシン軽鎖のピーク値は心筋梗塞のサイズを反映する
心エコー…局所壁運動異常(+)
心筋シンチ…201Tl・99mTc-MIBIで梗塞巣はcoldに、99mTcピロリン酸・99mTc-PYPで梗塞巣はhotに
合併症
早期合併症
発症後2週間以内に生じる
不整脈発症後2〜3日以内の不整脈の出現率は90%以上。以下のような不整脈が認められる
PVC…最も頻度が高い。VTVfに移行する危険性が高い      ・洞性徐脈、房室ブロック…RCA病変による下壁梗塞にしばしば合併      ・脚ブロック…左冠動脈病変による。障害は永続的で予後不良      ・その他、PSVT、AF、Af etc.
ポンプ失調心不全(ほとんどが左心不全)+心原性ショック(心拍出量↓⇒急激な血圧↓)。入院早期における最大の死因。梗塞部位が大きい場合に起こりやすい
心破裂自由壁破裂自由壁破裂の心電図(EMD)3〜10%の発生率。ほとんどが24時間以内にみられる。高齢者に多く、発症後の血圧が高い症例や安静を保てない症例、女性、血栓溶解療法後などで特にリスクが高い。一挙に心タンポナーデに陥り、心拍出量が激減、ショック状態となり、血圧測定不能となる。心電図上電気収縮解離(EMD)の状態で、救命はほとんど不可能で、そのまま突然死に至る
心室中隔穿孔1〜3%の発生率。発症後1〜2週間以内に生じる。前壁中隔梗塞に多くみられる。胸骨左縁に全収縮期逆流性雑音を聴取し、すぐに左心不全状態に陥る。ショック状態に陥ることもあり、予後不良
乳頭筋機能不全症候群後乳頭筋に起こりやすい。比較的まれな合併症で、MRが突然発症する。あっという間に急性左心不全に陥る
急性心膜炎発症後数日以内に起こる。予後は比較的良好
後期合併症
発症後2週間以降に生じる
心室瘤心室瘤の左室造影心室が限局性に膨隆したもの。心拍出量は減少し、時に心不全に陥る。しばしば不整脈をきたし、血栓形成傾向を呈する。心電図上ではST上昇の長期に及ぶ持続が特徴的
心筋梗塞後症候群
Dressler症候群
発症後2〜8週間の間に起こる急性心膜炎。発熱、胸痛などの症状を呈し、胸膜摩擦音を聴取し、心エコーで心膜腔や胸膜腔に貯留液を認める。血液検査では炎症所見をみることが多い。予後は良好で、ステロイドが著効するが、まれに心タンポナーデに至ることもある
予後現在の最大の死因はポンプ失調。予後を規定する因子としては、駆出率、梗塞巣のサイズ、VT、Vfなどで、狭心痛の強さは予後とは無関係。また、貫壁性梗塞と心内膜下梗塞を比較した場合、後者の方が一般に予後不良
治療
プライマリケア
絶対安静、CCU搬送、O2吸入、胸痛に対して塩酸モルヒネの静注、心室性不整脈に対してリドカインの静注、徐脈性不整脈に対してアトロピンの静注or一時的心臓ペーシング、降圧療法etc.
再灌流療法
経皮的冠動脈形成術(PTCA)またはt-PAウロキナーゼによる血栓溶解療法。適応は原則として発症後6時間以内の症例で、このgolden timeを経過していても、心筋のviabilityが認められれば行う場合が多い
   ※大動脈解離の合併が疑われる場合には、血栓溶解療法・抗凝固療法は禁忌
薬物療法
虚血心筋を保護するために硝酸薬(ニトログリセリン、ISDN etc.)の点滴静注やβブロッカーの静注。その他、リモデリングを抑制するためにACE阻害薬の投与も行われる
急性期合併症に対する治療
不整脈⇒心室性不整脈に対してはリドカインの静注、徐脈性不整脈に対してはアトロピンの静注or一時的心臓ペーシング
ポンプ失調⇒Forrester分類にしたがって治療を行う。薬物によるコントロールが困難な場合は補助循環を行う
心破裂⇒外科的修復が必要で、緊急開胸術・開心術や経皮的心肺補助循環(PCPS)などが必要となる

心筋梗塞の検査所見の経時変化
検査項目発症後の時間
直後2時間3時間4時間6時間12時間24時間 2日  3日  7日 2週間3週間4週間5週間6週間


T波↑↑↑↑↑↑↑↑冠性T波 
ST変化 ↑↑↑↑↑↑ 
Q波 異常Q波



WBC  
ミオグロビン ↑↑↑↑↑↑ 
CK-MB ↑↑↑↑↑↑ 
CK ↑↑↑↑↑↑ 
トロポニンT ↑↑↑↑↑↑↑↑ 
ミオシン軽鎖-T ↑↑↑↑↑↑ 
GOT ↑↑↑↑↑↑ 
LDH ↑↑↑↑↑↑ 
CRP  
ESR 
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