肺塞栓症 pulmonary embolism |
【概念】 | 肺塞栓症=塞栓子が肺動脈を詰まらせた病態 肺梗塞=肺塞栓or肺血栓(臨床上きわめてまれ)が完全に肺動脈を詰まらせ、その末梢組織が壊死した状態 |
【原因】 | 塞栓子…下肢の深在静脈からの血栓が最多 危険因子…下肢の静脈炎、心疾患によるうっ血、悪性腫瘍、妊娠、産褥、骨折、術後、肥満、長期臥床、経口避妊薬の長期服用etc. |
【症状】 | 小さな塞栓子が肺動脈の細い分枝を詰まらせた場合…ほとんど無症状 大きな塞栓子が肺動脈の太い分枝を詰まらせた場合…急性肺塞栓症をきたす
- 突然呼吸困難が起こり、どんどんと増悪する。呼吸は浅く速い過換気のパターンとなる。その他、交感神経の興奮による発汗・頻脈、低O2血症によるチアノーゼ、胸痛、血痰、肺高血圧症の症状、右心不全徴候などの症状を呈する。胸部の聴診では、細気管支の収縮による連続性ラ音や、肺高血圧に伴うⅡP亢進などが認められる
- 多数の小さな塞栓子がいくつもの肺動脈の分枝を長期間にわたって繰り返し詰まらせた場合…肺高血圧症の症状を呈する
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【検査】 | 胸部Xp⇒肺動脈陰影の急激な中断・先細り、肺野の透過性亢進(Westermark徴候)、対側肺野の代償性の血管陰影増強、肺高血圧の持続に伴うknuckle徴候(左右の肺動脈陰影の拡張)、胸膜に接した異常陰影、胸水貯留etc. 肺動脈造影…確定診断 肺シンチ…肺換気シンチ(133Xe)では正常、肺血流シンチ(99mTc-MAA)では欠損像 血液検査⇒FDP↑、LDH↑、Bil↑、WBC↑etc. 呼吸生理⇒VA/Q↑↑、PaCO2↓、呼吸性アルカローシス、PaO2↓ ECG⇒肺高血圧に伴う右心負荷所見(右軸偏位、肺性P波、右室肥大など。典型的にはSⅠQⅢTⅢパターン) |  |
【治療】 | 酸素吸入、モルヒネによる除痛、血栓溶解療法(ウロキナーゼ、t-PA etc.)、再発防止のための抗凝固療法(急性期にはヘパリン、落ち着けばワーファリン)などを行う。肺動脈の太い分枝が閉塞している場合には、外科的塞栓除去術が適応になることもある |
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原発性肺高血圧症 primary pulmonary hypertension |
【概念】 | 心臓・大血管・肺などに異常が認められないにもかかわらず、肺高血圧を呈する疾患 |  |
【疫学】 | 比較的若年(20~40歳)の女性に好発 |
【病理】 | 肺動脈の内膜の線維化、中膜の筋性肥大 |
【症状】 | 自覚症状…かなり進行するまで無症状。やがて労作時呼吸困難や胸痛が出現し、次第に進行して、右心不全徴候を認めるようになる 他覚的所見…聴診にてⅡP↑、機能的PRに伴う拡張期逆流性雑音(Graham-Steel雑音)、胸骨左縁に収縮期の拍動、Ⅳ音聴取etc. ※ばち指がみられる頻度は少ない |
【検査】 | 胸部Xp⇒末梢の肺紋理の減少(肺野の透過性↑)、左第2弓の突出 心エコー⇒右室の拡大 心カテ⇒右室収縮期圧↑、肺動脈楔入圧→ ECG⇒右心負荷の所見(右軸偏位、肺性P波、右室肥大、V1における上向きQRS波etc.) |
【治療】 | 有効な治療法が現在のところなく、Ca拮抗薬・PGI2・NOなどによる薬物療法が試みられている |
【予後】 | きわめて予後不良で、多くは診断確定後数年以内に右心不全で死亡する |
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肺性心 cor pulmonale |
【概念】 | 肺高血圧に起因する右心不全 |
【分類】 | 肺血管型…肺血管床の減少or肺動脈内腔の狭窄による。反復性肺微小塞栓症、原発性肺高血圧症etc. 換気障害型…PaO2↓による肺血管の収縮が原因。肺気腫、慢性気管支炎、肺結核後遺症etc. |
【症状】 | 自覚症状…右心不全徴候 他覚的所見…原発性肺高血圧症と同様の聴診所見 |
【検査】 | 右心不全の所見 |
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肺動静脈瘻 pulmonary arteriovenous fistula |
【概念】 | 肺動脈と肺静脈が毛細血管を経ないで短絡した疾患 |  |
【分類】 | 先天性…Osler-Rendu-Weber病(遺伝性出血性末梢血管拡張症:HHT)の一症状として起こる場合が多い 後天性…肝硬変が代表的 |
【症状】 | 自覚症状…シャント量が多ければ、労作時呼吸困難、チアノーゼ、続発性多血症などをきたす。また、動静脈瘻の破綻により、喀血が起こることがある。さらに、肺の毛細血管における塞栓子のフィルター機構が働かないために、脳塞栓や脳膿瘍のリスクが高まる 合併症…先天性の場合には、HHTのその他の症状(鼻出血、口腔出血、消化管出血、血尿etc.)を伴う 他覚的所見…ばち状指がしばしばみられる。聴診にてシャント部位に一致した連続性雑音を聴取(吸気時に増強) |
【検査】 | 胸部Xp⇒周囲との境界が明瞭な腫瘤状陰影 血管造影(肺動脈造影or DSA)…確定診断 血液検査⇒多血症 血ガス⇒PaO2↓(100%O2吸入にても改善しない)、A-aDO2↑ |
【治療】 | 無症状でも治療対象となり、塞栓術が行われることが多い
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肺水腫 pulmonary edema |
【概念】 | 肺血管の外側に異常な水分が貯留し、肺胞が水浸しになった(orなりかかった)状態 |
【分類】 | 間質性肺水腫(間質まで水浸しになった状態)、実質性肺水腫(肺胞まで水浸しになった状態) |
【原因】 | 毛細血管透過性↑…毛細血管内皮細胞の障害に起因。ARDSとしてまとめられる 毛細血管の静水圧↑…左心不全に起因 毛細血管の膠質浸透圧↓…ネフローゼ症候群、肝硬変などに起因(頻度的にはまれ) その他…尿毒症、脳血管障害、頭部外傷、高地登山、自然気胸、急速な脱気、睡眠剤中毒、化学物質の吸入などで起こる |
【症状】 | 実質性肺水腫の自覚症状…呼吸困難、頻呼吸、頻脈、起坐呼吸、湿性咳嗽(ピンク色でバブル状の大量の喀痰を伴う) 実質性肺水腫の他覚的所見…打診にて濁音、聴診にて水泡音(断続性ラ音) |
【検査】 | 胸部Xp⇒肺野透過性↓(典型的には蝶形陰影)、cuffing sign(気管支壁の肥厚、輪郭の不明瞭化)、微量の胸水貯留(特に葉間胸水の貯留がみられ、Kerley B lineは臨床上重要) 呼吸生理⇒VA/Qの不均等の拡大、静脈混合率↑、PaO2↓、A-aDO2↑、PaCO2↓、呼吸性アルカローシス、静肺コンプライアンス↓、重症例では拘束性障害 心カテ⇒心原性肺水腫では肺動脈楔入圧↑、左房圧↑ |
【治療】 | 起坐位、モルヒネの筋注or静注(⇒静脈拡張、過呼吸抑制)、O2吸入(PaO2の上げすぎには注意が必要)or PEEP、利尿薬の投与、カテコラミンの投与、エチルアルコールの吸入(⇒泡沫状の喀痰の表面張力を変化させる)、pH≦7.15では重炭酸Naの投与etc. ※体位ドレナージによる排痰は不可能 |
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成人呼吸促迫症候群 adult respiratory distress syndrome (ARDS) |
【概念】 | 急性の透過亢進型肺水腫。SIRSにおける肺症状である |  |
【原因】 | エンドトキシン、刺激性ガスの吸入、パラコート、外傷性ショック、出血性ショックetc.⇒毛細血管内皮細胞に大量の接着分子を発現⇒炎症反応を惹起⇒毛細血管内皮細胞の急激な破壊⇒毛細血管透過性↑↑⇒透過亢進型肺水腫 |
【病理】 | 硝子膜形成、線維化、肺胞の虚脱 |
【症状】 | 自覚症状…急激に呼吸困難が起こり、雪だるま式に悪化、多呼吸、血痰、喀痰、右心不全・左心不全徴候、ショックetc. 他覚的所見…チアノ-ゼ、打診にて濁音、聴診にて水泡音・捻髪音etc. |
【検査】 | 胸部Xp⇒butterfly shadow、全肺野の透過性↓、心拡大(-) 呼吸生理⇒VA/Qの不均等の拡大、静脈混合率↑、PaO2↓、A-aDO2↑、静肺コンプライアンス↓↓、PaCO2は初期には↓・末期には↑ |
【治療】 | 持続的陽圧法(CPPV)によるO2吸入※、輸液のきつめの管理、利尿薬の投与、ステロイドの投与etc. ※気道内圧を必要最小限に抑える必要があるため、多少の高炭酸ガス血症は許容される |
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乳糜胸 |
【原因】 | 開胸術が原因のことが多い |
【治療】 | 脂肪制限食+中心静脈栄養+脂肪成分の投与(経静脈的or MCTによる経口的) |
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