代謝異常が関与する肺疾患
肺胞蛋白症
pulmonary
alveolar
proteinosis
【概念】肺胞内に蛋白質が蓄積する原因不明の疾患
肺胞蛋白症の胸部Xp(肺門中心のbutterfly shadow)
肺胞蛋白症のPAS染色(PAS陽性の無構造物質が肺胞腔に充満)
【疫学】きわめてまれな疾患。20〜40歳代に好発し、男女比は2:1
【病理】PAS反応(+)のジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)が主成分の蛋白質が肺胞内に蓄積
【症状】自覚症状…約1/3が無症状。進行時の症状としては、呼吸困難、湿性咳嗽などをきたし、最終的には呼吸不全に至ることがある。また、気道感染を契機に急激に呼吸不全に至ることもある
【検査】
胸部Xp⇒肺水腫と同様に、肺門部から肺野に広がるびまん性斑状陰影(典型例では蝶形陰影)、末梢気管支の透亮像
呼吸生理⇒拘束性障害、拡散障害
血液検査⇒WBC↑、LDH↑、RBC↑、抗GM-CSF抗体(+)
確定診断…喀痰検査、BAL、TBLBにてPAS(+)物質の検出
   ※BALの外観は米のとぎ汁様の白色混濁液
【治療】気管支肺胞洗浄が最も有力な治療法。気道感染の徴候が出現した場合には、早期の抗生物質投与が必要

 
肺胞微石症
pulmonary
alveolar
microlithiasis
【概念】肺胞に多数の微細な結石(主成分はリン酸Ca)が蓄積する原因不明な疾患
【疫学】きわめてまれな疾患
【原因】肺胞内の代謝異常⇒表面活性物質の性状の変化⇒結石
【症状】無症状の期間が長い。進行すれば労作時呼吸困難や咳嗽を訴え、数十年の経過で呼吸不全に陥る
【検査】胸部Xp⇒びまん性にばらまかれたX線透過性の低い無数の結石(砂嵐状、雪嵐状)
【治療】特異的な治療法なし
無気肺
無気肺
atelectasis
【概念】肺の含気量が減少したために肺が萎縮した状態
【原因】
閉塞性無気肺区域気管支よりも中枢の気管支の閉塞で起こる
炎症性疾患による分泌物の貯留、気管支腔内に突出した腫瘍、異物などが原因となる
圧迫性無気肺胸水、気胸、肺癌、縦隔腫瘍などの胸腔内の占拠性病変による気管支の圧迫で起こる
粘着性無気肺表面活性物質の不足により起こる。NRDS etc.
瘢痕性無気肺肺線維症などが原因となる
円形無気肺胸水の貯留や胸膜肥厚に伴う強膜の線維化と収縮、さらにその不規則かつ複雑な折れ込みの結果、起こると考えられている。石綿肺、結核性強膜炎などの胸膜炎後に発生することが多い
【症状】自覚症状…原疾患固有の症状が中心
他覚的所見…声音伝導↓、打診にて濁音、聴診にて肺胞呼吸音↓
円形無気肺の胸部CT(胸膜に接する腫瘤陰影、comet tail sign)
【検査】胸部Xp⇒無気肺の部分は透過性が低下。その他、気管支の偏位、横隔膜の挙上、健常肺の代償性過膨脹etc.
胸部CT⇒高吸収域
※円形無気肺では、胸水or肥厚した胸膜に接する腫瘤陰影(胸膜と腫瘤陰影の角度は鋭角)、腫瘤に向かう肺血管・気管支の円弧状の収束(comet tail sign)
気管支鏡検査(中高年の患者の場合)⇒肺癌の有無を確認
呼吸機能⇒A-aDO2
【治療】原因疾患の治療
過換気症候群と低換気症候群
過換気症候群
hyperventilation
syndrome
【概念】心理的な理由で、過換気発作を反復する心身症
【疫学】男女比は約1:3で、若い女性に多い。発作の持続時間としては30〜60分のものが最も多い
【症状】PaCO2↓による症状…頭痛、めまい、時に失神etc.
遊離Ca2+↓による症状…テタニー(口唇周囲・手足のしびれ、痙攣etc.)
その他の症状…呼吸困難感、強い不安感、パニック状態etc.
【検査】呼吸性アルカローシス(PaCO2↓、pH↑)、アルブミンの陰イオン化による遊離Ca2+↓(総Ca→)
【治療】発作時にはペーパーバッグ再呼吸法。発作間欠時には精神療法、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬の投与etc.
低換気症候群
hypoventilation
syndrome
【概念】肺に器質的な障害がないのに、なお肺胞低換気をきたす一連の疾患
【分類】
原発性肺胞低換気症候群
概念上気道・呼吸筋・末梢神経などに器質的異常がないにもかかわらず、肺胞低換気をきたす疾患群
原因延髄の化学受容体・呼吸中枢の機能的異常⇒PaCO2↑に対する反応性↓⇒不随意的呼吸運動の障害
症状随意的過換気により症状改善。睡眠中に特に呼吸性アシドーシスが進行し、これが致死的状態に至れば「オンディーヌの呪い」とよばれる
Pickwick症候群(肥満低換気症候群)
原因高度の肥満による呼吸運動の際の喉頭圧迫に伴う閉塞性低換気+延髄の化学受容体・呼吸中枢のCO2感受性低下による中枢性低換気
症状高度の肥満、呼吸性アシドーシス(睡眠中に増悪)、日中の傾眠傾向、周期的無呼吸、頭痛、時に筋痙攣、肺高血圧症、右室肥大、右心不全、体動時呼吸困難、チアノーゼetc.
検査呼吸性アシドーシス(PaO2↓、PaCO2↑、pH↓)、低O2血症による続発性多血症拡散能→
治療肥満に対する治療+必要に応じてSASの治療
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
概念睡眠中に10秒以上の気流停止(無呼吸発作)を7時間の睡眠中に30回以上反復し、かつ無呼吸発作が非REM睡眠時にも出現するもの
原因新生児の場合は喉頭の発育異常、幼児から学童の場合はアデノイド増殖症・扁桃肥大、中高年以降は肥満による上気道の狭窄が主。その他には、軟口蓋低位、過度のアルコール摂取、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬の使用etc.
症状睡眠中の無呼吸発作、高いいびき、夜間頻尿、異常睡眠、日中の傾眠傾向、頭痛(特に起床時)、重症例では肺高血圧症etc.
合併症…HT、AMI、狭心症、脳血管障害、GERD etc.
検査パルスオキシメーターでスクリーニングした後、入院管理の上に終夜ポリソムノグラフィを行い診断
その他、低O2血症による続発性多血症も認められる
治療減量の他、経鼻的持続陽圧法(nasal CPAP)が有効。その他、薬物療法としてアセタゾラミド(⇒呼吸中枢を刺激)、手術療法として口蓋垂軟口蓋咽頭形成術etc.
肺循環障害
肺塞栓症
pulmonary embolism
【概念】肺塞栓症=塞栓子が肺動脈を詰まらせた病態
肺梗塞=肺塞栓or肺血栓(臨床上きわめてまれ)が完全に肺動脈を詰まらせ、その末梢組織が壊死した状態
【原因】塞栓子…下肢の深在静脈からの血栓が最多
危険因子…下肢の静脈炎、心疾患によるうっ血、悪性腫瘍、妊娠、産褥、骨折、術後、肥満、長期臥床、経口避妊薬の長期服用etc.
【症状】
小さな塞栓子が肺動脈の細い分枝を詰まらせた場合…ほとんど無症状
大きな塞栓子が肺動脈の太い分枝を詰まらせた場合…急性肺塞栓症をきたす
突然呼吸困難が起こり、どんどんと増悪する。呼吸は浅く速い過換気のパターンとなる。その他、交感神経の興奮による発汗・頻脈、低O2血症によるチアノーゼ、胸痛血痰、肺高血圧症の症状、右心不全徴候などの症状を呈する。胸部の聴診では、細気管支の収縮による連続性ラ音や、肺高血圧に伴うUP亢進などが認められる
多数の小さな塞栓子がいくつもの肺動脈の分枝を長期間にわたって繰り返し詰まらせた場合…肺高血圧症の症状を呈する
【検査】
胸部Xp⇒肺動脈陰影の急激な中断・先細り、肺野の透過性亢進(Westermark徴候)、対側肺野の代償性の血管陰影増強、肺高血圧の持続に伴うknuckle徴候(左右の肺動脈陰影の拡張)、胸膜に接した異常陰影、胸水貯留etc.
肺動脈造影…確定診断
肺シンチ…肺換気シンチ(133Xe)では正常、肺血流シンチ(99mTc-MAA)では欠損像
血液検査⇒FDP↑、LDH↑、Bil↑、WBC↑etc.
呼吸生理⇒VA/Q↑↑、PaCO2、呼吸性アルカローシス、PaO2
ECG⇒肺高血圧に伴う右心負荷所見(右軸偏位、肺性P波、右室肥大など。典型的にはSTQVTVパターン)
肺塞栓症の胸部Xp(胸水貯留、肺動脈主幹部拡張、横隔膜の挙上、肺野透過性亢進)
【治療】酸素吸入、モルヒネによる除痛、血栓溶解療法(ウロキナーゼ、t-PA etc.)、再発防止のための抗凝固療法(急性期にはヘパリン、落ち着けばワーファリン)などを行う。肺動脈の太い分枝が閉塞している場合には、外科的塞栓除去術が適応になることもある
原発性肺高血圧症
primary pulmonary
hypertension
【概念】心臓・大血管・肺などに異常が認められないにもかかわらず、肺高血圧を呈する疾患原発性肺高血圧症の胸部Xp(右肺動脈の拡張、左第2弓の突出、末梢の肺紋理減少)
【疫学】比較的若年(20〜40歳)の女性に好発
【病理】肺動脈の内膜の線維化、中膜の筋性肥大
【症状】
自覚症状…かなり進行するまで無症状。やがて労作時呼吸困難や胸痛が出現し、次第に進行して、右心不全徴候を認めるようになる
他覚的所見…聴診にてUP↑、機能的PRに伴う拡張期逆流性雑音(Graham-Steel雑音)、胸骨左縁に収縮期の拍動、W音聴取etc.
   ※ばち指がみられる頻度は少ない
【検査】胸部Xp⇒末梢の肺紋理の減少(肺野の透過性↑)、左第2弓の突出
心エコー⇒右室の拡大
心カテ⇒右室収縮期圧↑、肺動脈楔入圧→
ECG⇒右心負荷の所見(右軸偏位、肺性P波、右室肥大、V1における上向きQRS波etc.)
【治療】有効な治療法が現在のところなく、Ca拮抗薬・PGI2・NOなどによる薬物療法が試みられている
【予後】きわめて予後不良で、多くは診断確定後数年以内に右心不全で死亡する
肺性心
cor pulmonale
【概念】肺高血圧に起因する右心不全
【分類】肺血管型…肺血管床の減少or肺動脈内腔の狭窄による。反復性肺微小塞栓症、原発性肺高血圧症etc.
換気障害型…PaO2↓による肺血管の収縮が原因。肺気腫、慢性気管支炎、肺結核後遺症etc.
【症状】自覚症状…右心不全徴候
他覚的所見…原発性肺高血圧症と同様の聴診所見
【検査】右心不全の所見
肺動静脈瘻
pulmonary
arteriovenous
fistula
【概念】肺動脈と肺静脈が毛細血管を経ないで短絡した疾患
肺動静脈瘻の胸部Xp(左下肺野の腫瘤陰影)
肺動静脈瘻の肺動脈造影(造影剤の集積)
【分類】
先天性…Osler-Rendu-Weber病(遺伝性出血性末梢血管拡張症:HHT)の一症状として起こる場合が多い
後天性…肝硬変が代表的
【症状】
自覚症状…シャント量が多ければ、労作時呼吸困難、チアノーゼ、続発性多血症などをきたす。また、動静脈瘻の破綻により、喀血が起こることがある。さらに、肺の毛細血管における塞栓子のフィルター機構が働かないために、脳塞栓や脳膿瘍のリスクが高まる
合併症…先天性の場合には、HHTのその他の症状(鼻出血、口腔出血、消化管出血、血尿etc.)を伴う
他覚的所見…ばち状指がしばしばみられる。聴診にてシャント部位に一致した連続性雑音を聴取(吸気時に増強)
【検査】胸部Xp⇒周囲との境界が明瞭な腫瘤状陰影
血管造影(肺動脈造影or DSA)…確定診断
血液検査⇒多血症
血ガス⇒PaO2↓(100%O2吸入にても改善しない)、A-aDO2
【治療】無症状でも治療対象となり、塞栓術が行われることが多い

 
肺水腫
pulmonary edema
【概念】肺血管の外側に異常な水分が貯留し、肺胞が水浸しになった(orなりかかった)状態
【分類】間質性肺水腫(間質まで水浸しになった状態)、実質性肺水腫(肺胞まで水浸しになった状態)
【原因】毛細血管透過性↑…毛細血管内皮細胞の障害に起因。ARDSとしてまとめられる
毛細血管の静水圧↑…左心不全に起因
毛細血管の膠質浸透圧↓…ネフローゼ症候群、肝硬変などに起因(頻度的にはまれ)
その他…尿毒症、脳血管障害、頭部外傷、高地登山、自然気胸、急速な脱気、睡眠剤中毒、化学物質の吸入などで起こる
【症状】
実質性肺水腫の自覚症状…呼吸困難、頻呼吸、頻脈、起坐呼吸、湿性咳嗽(ピンク色でバブル状の大量の喀痰を伴う)
実質性肺水腫の他覚的所見…打診にて濁音、聴診にて水泡音(断続性ラ音)
【検査】胸部Xp⇒肺野透過性↓(典型的には蝶形陰影)、cuffing sign(気管支壁の肥厚、輪郭の不明瞭化)、微量の胸水貯留(特に葉間胸水の貯留がみられ、Kerley B lineは臨床上重要)
呼吸生理⇒VA/Qの不均等の拡大、静脈混合率↑、PaO2↓、A-aDO2↑、PaCO2↓、呼吸性アルカローシス、静肺コンプライアンス↓、重症例では拘束性障害
心カテ⇒心原性肺水腫では肺動脈楔入圧↑、左房圧↑
【治療】起坐位モルヒネの筋注or静注(⇒静脈拡張、過呼吸抑制)、O2吸入(PaO2の上げすぎには注意が必要)or PEEP利尿薬の投与、カテコラミンの投与、エチルアルコールの吸入(⇒泡沫状の喀痰の表面張力を変化させる)、pH≦7.15では重炭酸Naの投与etc.      ※体位ドレナージによる排痰は不可能
成人呼吸促迫症候群
adult respiratory
distress syndrome
(ARDS)
【概念】急性の透過亢進型肺水腫。SIRSにおける肺症状であるARDSの胸部Xp(CTR正常、上肺野優位の両側の肺うっ血)
【原因】エンドトキシン、刺激性ガスの吸入、パラコート、外傷性ショック、出血性ショックetc.⇒毛細血管内皮細胞に大量の接着分子を発現⇒炎症反応を惹起⇒毛細血管内皮細胞の急激な破壊⇒毛細血管透過性↑↑⇒透過亢進型肺水腫
【病理】硝子膜形成、線維化、肺胞の虚脱
【症状】自覚症状…急激に呼吸困難が起こり、雪だるま式に悪化、多呼吸、血痰、喀痰、右心不全・左心不全徴候、ショックetc.
他覚的所見…チアノ−ゼ、打診にて濁音、聴診にて水泡音・捻髪音etc.
【検査】胸部Xp⇒butterfly shadow、全肺野の透過性↓、心拡大(−)
呼吸生理⇒VA/Qの不均等の拡大、静脈混合率↑、PaO2↓、A-aDO2↑、静肺コンプライアンス↓↓、PaCO2は初期には↓・末期には↑
【治療】持続的陽圧法(CPPV)によるO2吸入、輸液のきつめの管理、利尿薬の投与、ステロイドの投与etc.
※気道内圧を必要最小限に抑える必要があるため、多少の高炭酸ガス血症は許容される
乳糜胸
【原因】開胸術が原因のことが多い
【治療】脂肪制限食+中心静脈栄養+脂肪成分の投与(経静脈的or MCTによる経口的)
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