糖尿病性腎症 diabetic nephropathy |
【概念】 | 糸球体の微小血管障害によって生じた糖尿病の腎合併症 | |
【病理】 | @びまん性病変…びまん性にメサンギウム基質の拡大、糸球体基底膜の肥厚 A結節性病変(Kimmelstiel-Wilson病変)…沈着した糖蛋白に脂質が加わったもの。本症に比較的特異的 B滲出性病変…糸球体係蹄の一部・Bowman嚢にPAS陽性の硝子様物質が沈着 Cその他…輸入・輸出細動脈壁や毛細血管内腔の硬化 |
【疫学】 | 血液透析の原因疾患の第1位 |
【分類】 | - 糖尿病性腎症の病期分類
病期 | 臨床的特徴 | 病理学的特徴 (糸球体病変) | 主な治療法 (重要度順に記載) |
尿蛋白 | GFR(CCr) | 血清Cre |
第1期 腎症前期 | 正常 | 正常 (時に濾過過剰) | 正常 | @:なし〜軽度 | 血糖コントロール |
第2期 早期腎症 | 微量Alb尿 (30〜300mg/日) | @:軽度〜中等度 A:時に存在 | 厳格な血糖コントロール・降圧治療 |
第3期A 顕性腎症前期 | 持続性蛋白尿 (<1g/日) | ほぼ正常 (CCr≧60ml/分) | @:中等度 A:多くは存在 | 厳格な血糖コントロール・降圧治療・蛋白制限食 |
第3期B 顕性腎症後期 | 持続性蛋白尿 (≧1g/日) | 低下 (CCr<60ml/分) | @:高度 A:多くは存在 | 厳格な降圧治療・蛋白制限食・血糖コントロール |
第4期 腎不全期 | 著明低下 (CCr≦30ml/分) | 上昇 | 荒廃糸球体 | 厳格な降圧治療・低蛋白食・透析療法導入 |
第5期 透析療法期 | 透析療法中 | | 移植 |
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【症状】 | DM発症から微量Alb尿の出現までに5〜15年、蛋白尿の出現までにさらに5年以上、末期腎不全に至るまでにさらに5年以上要する。第3期Aまでは腎機能は正常だが、第3期B以降は腎機能が低下し、ネフローゼ症候群を呈するようになる。また、高血圧の合併も多くみられる |
【検査】 | 尿検査⇒第2期までは異常なし(スルホサリチル酸法でも偽陰性)、第3期以降は蛋白尿(+) 血液検査⇒血漿レニン活性↓、アルドステロン↓(←傍糸球体装置の破壊による) 腎エコー⇒腎の大きさは正常〜肥大 ※造影剤で急性腎不全をきたしやすいため、血管造影は極力避ける |
【治療】 | 血糖コントロール…いずれの病期においても重要な治療方針(第2期以前では症状が改善される) 降圧療法…第2期以降に対して行われる。ACE阻害薬が第1選択(ただし、腎不全期には使用不可能) 低蛋白食…第3期に対して行われる。第4期への移行を遅らせることができる その他…ネフローゼ症候群に対して抗血小板薬・ループ利尿薬の投与 ※ステロイドは禁忌 |
【予後】 | ネフローゼ症候群を呈する症例では、血清Creが2.0mg/dlを超えてから透析導入までの期間が平均1.8年と短い |
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ループス腎炎 lupus nephritis |
【概念】 | SLEに起因する腎障害 |
【疫学】 | SLE患者の約70%にみられる |
【分類】 | - ループス腎炎のWHO分類
| 病理 | 腎症状 |
T型 正常糸球体 | 正常 | 正常 |
U型 メサンギウム増殖性腎炎 | 比較的軽度のメサンギウム病変※1、メサンギウム領域への免疫複合体の沈着 | 軽度〜中等度の蛋白尿 |
V型 巣状分節性糸球体腎炎 | 一部の糸球体の一部分にのみ、中等度のメサンギウム病変、内皮細胞の増殖、硬化性病変、wire loop lesion※2、ヘマトキシリン体etc. | 持続的蛋白尿 |
W型 びまん性糸球体腎炎 | びまん性に中等度から高度のメサンギウム病変、内皮細胞の増殖、半月体形成、wire loop lesion、ヘマトキシリン体etc. | ネフローゼ症候群、血尿、GFR↓、急速進行性糸球体腎炎 |
X型 びまん性膜性糸球体腎炎 | 基底膜の肥厚、係蹄壁に沿ったIgGと補体成分の顆粒状沈着(膜性腎症に類似) | 難治性のネフローゼ症候群 |
Y型 進行した硬化性糸球体腎炎 | 糸球体全体の硬化 | 末期腎不全 |
※1 メサンギウム病変…メサンギウム細胞の増殖と基質の増加 ※2 wire loop lesion…内皮細胞下に免疫複合体が沈着したために、毛細血管壁が太く塗りつぶされて針金のようにみえる所見
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【治療】 | ステロイドが第1選択。重症例に対しては、免疫抑制薬の併用、ステロイドパルス療法、血漿交換療法、シクロホスファミドのパルス療法も行われる |
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強皮症腎 scleroderma kidney |
【概念】 | 全身性進行性硬化症(PSS)に伴う腎病変 |
【病理】 | 弓状動脈から小葉間動脈までの小血管が侵される(輸入細動脈は侵されない)。血管内皮細胞が障害され、内膜が線維性に増殖して、内腔が狭くなり、腎は虚血状態に陥る |
【症状】 | 軽度の蛋白尿、中等度の高血圧、軽度の腎機能低下を呈する程度 強皮症腎クリーゼ(SRC)…輸入細動脈の攣縮によって起こる悪性高血圧症。冬の寒い日に起こりやすい。症状としては、意識混濁、血圧↑↑、Raynaud現象etc. |
【検査】 | 血液検査⇒血漿レニン活性↑etc. |
【鑑別】 | 強皮症腎クリーゼは、急速進行性糸球体腎炎(RPGN)とTTP/HUSとの鑑別が必要 |
【治療】 | 強皮症腎クリーゼ⇒まずACE阻害薬による降圧 |
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結節性多発性 動脈炎(PN)に 伴う腎障害 |
【概念】 | 全身の中小動脈に壊死性血管炎をきたす疾患 | |
【分類】 |
| 血管炎の部位 | 症状 |
肉眼的PN | 弓状動脈 | 腎虚血症状(高血圧、疼痛、血尿etc.)が前面に出て、腎機能低下は比較的軽度 |
顕微鏡的PN | 小葉間動脈 輸入細動脈 | 増殖性腎炎、半月体形成が生じ、臨床的には急速進行性糸球体腎炎となる。放置すれば末期腎不全に至る。P-ANCAが高率で陽性となる |
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【治療】 | ステロイドを中心に、免疫抑制薬・抗血小板薬を併用
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Wegener肉芽腫 症に伴う腎障害 |
【概念】 | 上気道・下気道・腎に壊死性肉芽腫性炎症を起こす疾患 |
【症状】 | 腎病変は、顕微鏡的PNとほぼ同じで、半月体形成性の急速進行性糸球体腎炎となる |
【検査】 | C-ANCA(+) |
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Sjo¨gren症候群 に伴う腎障害 |
【病理】 | 外分泌腺(涙腺、唾液腺etc.)、腎間質に多数のリンパ球浸潤 |
【症状】 | 遠位尿細管性アシドーシス(T型RTA) |
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紫斑病性腎症 purpura nephritis |
【概念】 | アレルギ―性紫斑病で生じる腎炎 |
【疫学】 | 3〜7歳に好発 |
【病理】 | IgA腎症とほぼ同じ(腎糸球体メサンギウムにIgAの沈着) |
【症状】 | 三徴(皮膚症状、関節症状、腹痛)が軽快する頃(約1週間目頃)に、約1/3の症例で腎炎症状を呈する。血尿で発症し、時に軽度の蛋白尿を伴う。まれにネフローゼ症候群を呈する |
【予後】 | 比較的良好で、数週間以内に軽快することが多いが、急速進行性糸球体腎炎となったり、腎炎症状が遷延し徐々に腎機能が悪化していくケースもある |
【治療】 | 通常は対症療法で十分だが、急速進行性糸球体腎炎を呈する場合には、ステロイドパルス療法や血漿交換が必要となる |
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アミロイド腎 renal amyloidosis |
【原因】 | ALアミロイドが蓄積する疾患…原発性アミロイドーシス、骨髄腫 AAアミロイドが蓄積する疾患…続発性アミロイドーシス(RA、SLE、結核、悪性腫瘍etc.) 変異したトランスサイレチンが蓄積する疾患…家族性アミロイドニューロパチー(FAP) β2-MGの代謝産物が蓄積する疾患…透析アミロイドーシス |
【病理】 | 糸球体メサンギウム領域から係蹄壁に及ぶアミロイド沈着(HE染色・PAS染色では無構造な沈着物。Congo red染色では赤紫色に染まり、さらに偏光顕微鏡で覗くとエメラルド様の緑色の複屈折像)
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【症状】 | アミロイドが蓄積するまでは無症状。蓄積量の増加に従って、軽度の蛋白尿からネフローゼ症候群に至るとともに、腎機能も徐々に低下していく 合併症…起立性低血圧、腎静脈血栓症etc. |
【治療】 | 治療法なし |
【予後】 | 極めて不良で、ネフローゼ症候群発症後or末期腎不全移行後の平均余命は1年弱 |
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骨髄腫に伴う腎症 |
【病理】 | 尿細管上皮細胞の萎縮、尿細管管腔の拡大、慢性間質性腎炎の所見(間質の線維化etc.)、糸球体へのALアミロイドの蓄積etc. | |
【症状】 | 骨髄腫腎(BJPによる近位尿細管障害)…続発性Fanconi症候群(糖尿、汎アミノ酸尿、低P血症、近位尿細管性アシドーシスetc.) 糸球体障害…ネフローゼ症候群、腎機能低下をきたし、最終的には末期腎不全に至る 尿濃縮力低下(高Ca血症による続発性腎性尿崩症、高尿酸血症による痛風腎が原因)…多尿、口渇、多飲 |
【治療】 | 水分摂取、高Ca血症に対するループ利尿薬の投与、高尿酸血症に対するアロプリノールの投与、過粘稠度症候群に対する血漿交換療法etc. |
【予後】 | 予後不良で、経過中に突然に急性腎不全をきたすことがある。特に造影剤使用時に起こりやすい |
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myeloma_kidney
痛風腎 gouty kidney |
【概念】 | 腎臓に痛風結節が生じた場合 |
【疫学】 | 髄質の間質に好発 |
【病態】 | 管腔中に生じた尿酸結晶は尿細管上皮細胞に再吸収され、化学反応を起こして上皮細胞を破壊し、さらには尿細管基底膜も破壊して間質に沈着する。そこにMφが遊走してきて、線維芽細胞が増殖し、肉芽組織が形成される |
【症状】 | 主たる症状は濃縮力障害。約1/3で尿路結石の合併がみられる |
【治療】 | 水分摂取、尿のアルカリ化(NaHCO3、クエン酸塩etc.)、尿酸産生抑制薬(アロプリノール)の投与、必要に応じて降圧療法 |
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