気管支喘息 bronchial asthma |
【概念】 | 広範かつ種々の程度の気道閉塞と気道の炎症をきたす疾患 |
【分類】 | - アトピー型
- 概念…発作を誘発する抗原に対する特異的なIgE抗体が証明されるもの
疫学…90%以上が5歳までの幼児期に発症し、遺伝的素因を有する場合が多い。有病率は3〜6%で、近年増加傾向 原因…ほとんどが吸入抗原(ダニ、ハウスダストetc.) 誘因…寒冷刺激(秋口の冷え込み、朝方の冷え込みetc.)、ペットの飼育、喫煙etc. 予後…約70%は成人になるまでに寛解
- 非アトピー型
- 概念…発作を誘発する抗原に対する特異的なIgE抗体が証明されないもの
疫学…40歳以上の成人に多く、遺伝的背景はほとんど認められない
- アスピリン喘息
- 原因…アスピリンをはじめとするNSAIDの服用
疫学…副鼻腔炎の合併が高率にみられる 症状…非常に激しい喘息発作 検査…血清IgE↓、特異型IgE抗体(−)、皮内反応(−)
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【病態】 | - アトピー型
即時型反応 | Th2からのIL-4の分泌⇒IgEの産生⇒T型アレルギー反応⇒気管支平滑筋の攣縮、気道壁の浮腫⇒可逆的な気道の狭窄 |
遅発型反応 | Th2からのIL-5の分泌⇒好酸球・リンパ球・肥満細胞などの気道粘膜への浸潤⇒抗原暴露の数時間後に再び気管支攣縮と気道壁の浮腫⇒可逆的な気道の狭窄 |
発作の反復 による変化 | 気道粘膜の上皮細胞の剥離、気道過敏性の亢進、気道の過分泌状態、分泌物の粘稠性の上昇、気道壁のリモデリング(気道壁の永続的な肥厚)etc. |
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【症状】 | - 自覚症状
- 発作時以外⇒原則として無症状
発作時⇒呼気性の呼吸困難、湿性咳嗽、努力呼吸、過換気などを呈する。発作は季節の変わり目に多く、特に秋の台風シーズンに好発。1日の中では明け方に特に多い。呼吸困難の程度によって、小発作(仰臥可能)、中発作(仰臥不可能)、大発作(動けない)に分けられ、中発作or大発作が24時間以上持続した場合は発作重積状態とよばれる
- 他覚的所見
- 発作時の聴診所見…連続性ラ音(高音の笛声音)、気管支呼吸音の呼気延長。呼吸音減弱時には、症状の軽快と気道の完全閉塞の両方の可能性がある
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【検査】 | 喀痰検査⇒痰は粘稠性、多数のEosino.、Charcot-Leyden結晶、Curschmannらせん体、creola小体etc. 胸部Xp⇒非発作時・小発作時には原則として正常。中発作以上では肺の過膨脹 呼吸生理⇒非発作時は原則として正常。発作時は閉塞性障害(1秒率↓)、PaO2↓、PaCO2↓ 気道可逆性の検査…β2受容体刺激薬吸入による1秒率の改善、ACh・ヒスタミン吸入による1秒率の悪化 免疫学的検査⇒Eosino.↑。アトピー型ではRAST法、皮内反応、誘発テストにて特異的IgE抗体(+) |
【治療】 | 生活指導…抗原暴露の回避、ストレスの回避、規則正しい生活、適度な運動(水泳etc.)、禁煙etc. 薬物療法
β2受容体刺激薬 | 吸入薬は即効性がある。軽症例では、吸入薬の頓用が第1選択 |
ステロイド製剤 | 中等症以上には吸入ステロイド(ベクロメタゾンetc.)が第1選択。直接的な気管支拡張作用はない |
テオフィリン製剤 | 注射薬のアミノフィリンは中等度以上の発作時に欠かせない。有効血中濃度域が狭く、血中濃度のモニタリングが必要 |
抗アレルギー薬 | 発作予防薬として広く用いられている。発作抑制効果はない |
吸入抗コリン薬 | あくまで補助的に使用される。即効性はない |
抗ヒスタミン薬 | 積極的には使用されない |
特異的減感作療法 発作重積状態に対する治療…急速輸液、β2受容体刺激薬の皮下注or吸入(第1選択)、テオフィリンの点滴静注がまず行われる。これらの治療に反応しなければ、ステロイドの大量静注を行う。これでも症状の改善がみられない場合は、気管内挿管・人工呼吸(従量式)・酸素投与※に踏み切る ※喘息単独ではCO2ナルコーシスになることはない |
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好酸球性肺炎 (PIE症候群) eosinophilic pneumonia |
【概念】 | 好酸球の肺の間質への浸潤を特徴とする疾患群 |
【原因】 | 不明のものが大半だが、寄生虫感染症、薬物アレルギー、カビアレルギーなどが原因となることもある。機序としてはT型アレルギー、V型アレルギーが考えられている |
【分類】 |
単純性肺好酸球増加症 (Lo¨ffler症候群) | 症状…ほとんど無症状だが、時に軽い喘息や息切れを呈する 予後…予後良好で、無治療でも1ヶ月以内に消失 |
遷延性肺好酸球増加症 | 疫学…20〜50歳の女性に好発 症状…軽い喘息・息切れが数ヶ月以上持続 |
喘息を伴う肺好酸球増加症 | 原因…ほとんどがアスペルギルス感染症(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症) |
熱帯性肺好酸球増加症 | 原因…ほとんどがフィラリア感染症 症状…中等度〜重症の呼吸困難 |
アレルギ―性血管炎 | 原因…結節性動脈周囲炎、その類縁疾患、Wegener肉芽腫症etc. |
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【検査】 | 胸部Xp⇒浸潤陰影(肺野末梢中心。非区域性で、移動性を有する) 免疫学的検査⇒BALF・末梢血中のEosino.↑↑、IgE↑ 呼吸生理⇒軽症例では正常だが、ある程度進行すると拘束性障害、拡散障害 |
【治療】 | ある程度進行した遷延性好酸球増加症⇒ステロイドの投与 | |
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アレルギー性気管支 肺アスペルギルス症 allergic bronchopulmonary aspergillosis (ABPA) |
【原因】 | アスペルギルスの吸入の反復に対するアレルギー反応(T型、V型)。気管支喘息の既往がある場合が多い |
【病態】 | ・T型アレルギー反応…気管支内の分泌物の過剰などの気管支喘息症状 ・V型アレルギー反応…免疫複合体の気管支壁への沈着、好酸球浸潤、気管支壁の破壊etc. |
【症状】 | 気管支喘息症状(特に粘稠性に富む褐色の痰を喀出)の急性増悪と寛解を反復しているうちに、肺の線維化が進行し、常に呼吸困難を呈するようになる。その他、全身倦怠感、微熱(急性増悪時には高熱)を伴う |
【検査】 | 胸部Xp⇒非区域性の移動する浸潤陰影。時に気管支拡張症の所見、無気肺の所見を合併 免疫学的検査⇒Eosino.↑、IgE↑、アスペルギルスに対する沈降抗体(+)、即時反応(+)、Arthus反応(+) 喀痰検査⇒多数のEosino.、Grocott染色にてアスペルギルス 呼吸生理⇒拘束性障害、拡散障害 |
【治療】 | 急性期⇒ステロイドの全身投与が第1選択で、気管支拡張薬、抗真菌薬なども併用される 慢性期⇒急性増悪の予防のために必要最小限のステロイドを内服 |
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過敏性肺臓炎 hypersensitivity pneumonitis |
【概念】 | 肺胞隔壁を病変の主座とするアレルギ―性疾患(V型、W型)。外因性アレルギ―性胞隔炎ともよばれる |
【疫学】 | 約75%が毎年梅雨時から夏季にかけて発症(夏型過敏性肺臓炎) |
【原因】 | トリコスポロンの吸入、トリレンジイソチアネート(TDI)の吸入などが原因として多いが、農夫肺(かびを含んだ有機粉じんの吸入が原因)、砂糖きび肺(砂糖きびの吸入が原因)、鳥飼病(鳥の糞などの異種抗原の吸入が原因)なども知られている。引っ越し作業などが原因として多い |
【病理】 | 病変の主座は肺胞隔壁。肥厚、非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫(サルコイド様肉芽腫)、Masson小体、線維化などが認められる |
【症状】 | 大量の抗原⇒急激に発熱、乾性咳嗽、呼吸困難が出現。抗原暴露の数時間後に発症し、半日くらいでピーク 比較的少量の抗原⇒亜急性に発症。発熱、咳嗽、呼吸困難、全身倦怠感、体重減少、食欲不振などが出現し、数日から数週間でピーク 慢性期⇒急性型・亜急性型の発作の反復により起こる。微熱、乾性咳嗽、呼吸困難etc. ※急性に発症する場合が多く、ばち指はまれ。両側肺門リンパ節腫脹もみられない 聴診所見…線維化が進行すれば捻髪音、急性期には水泡性ラ音 |
【検査】 | 胸部Xp⇒びまん性間質性陰影(急性期にはスリガラス状陰影、経過とともに小粒状陰影が主体となる) 呼吸生理⇒間質性肺炎と同様(拘束性障害、拡散障害) 血液検査⇒IgG↑、IgE→、RF(+)、ツ反(−)、原因抗原に対する沈降抗体(+)などがみられる。さらに急性期にはWBC↑、CRP↑、ESR↑ BALF⇒Lympho.↑↑(ほとんどがT細胞、夏型過敏性肺臓炎ではCD4≪CD8) |
【治療】 | 抗原からの隔離が重要。重症例ではステロイドの投与が行われることもある ※IgEに対して行われる減感作療法は、T型アレルギー反応にのみ有効なため、本症では無効 |
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サルコイドーシス sarcoidosis |
【概念】 | 肺をはじめとする諸臓器に非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫を形成する原因不明の疾患 | |
【疫学】 | 20歳代の男女と40〜50歳代の女性に好発。寒冷地に多い。白人・黒人に多く、黄色人種には比較的まれ |
【病態】 | W型アレルギー反応が病態の中心 |
【症状】 | 呼吸器症状…半分以上は無症状。進行例では、間質性肺炎に共通の乾性咳嗽と呼吸困難がみられる ※ばち状指は少ない 皮膚病変…結節性紅斑、瘢痕浸潤、皮膚サルコイド(鼻周囲に皮膚から隆起する淡紅色の結節etc.) 眼病変…ぶどう膜炎 心病変…不整脈(完全房室ブロック、心室頻拍、右脚ブロック、心室性期外収縮etc.)、虚血性心疾患様の症状 その他の症状…口腔内乾燥症、顔面神経麻痺、尿崩症etc. |
【検査】 | 胸部Xp⇒第1期には両側肺門リンパ節腫脹(BHL)のみ。第2期にはBHL+肺野のびまん性小粒状陰影など。第3期には肺野のびまん性小粒状陰影のみ ※病変は上肺野優位 67Gaスキャン※⇒病変の活動性に応じて集積 ※炎症を反映するもので、疾患特異性は低い 呼吸生理⇒進行例では拘束性障害、拡散障害 血液検査⇒Lympho.↓(特にT cell)、ACE↑(活動性の指標)、リゾチーム↑、LDH→、Ca→〜↑ 免疫学的検査⇒PHAによる芽球化反応↓、ツ反(−)、γ-グロブリンの多クローン性↑ BALF⇒T細胞↑(CD4≫CD8) 生検⇒非乾酪性類上皮細胞性肉芽腫病変(Langhans型の巨細胞etc.) |
【治療】 | 第1期・第2期は原則として経過観察とする場合が多い。第3期は必要に応じてステロイドの投与(心臓病変に対しては絶対的適応) |
【予後】 | 第1期のほとんど、第2期の70%以上は無症状のうちに自然退縮。第3期は自然退縮率が低い。死因としては心病変による致死的不整脈が重要 |
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Goodpasture症候群 |
【原因】 | 抗糸球体基底膜抗体(抗GBM抗体)によるU型アレルギー反応⇒肺胞と糸球体の基底膜の破壊 |
【病理】 | 肺胞…基底膜の破壊、肺胞内出血、肺胞内担鉄細胞 腎糸球体…半月体形成を伴う急速進行性糸球体腎炎 | |
【症状】 | 呼吸器症状…急速に血痰、咳嗽、呼吸困難etc.(⇒鉄欠乏性貧血を引き起こす) 腎症状…呼吸器症状とほぼ同じor少し遅れて、血尿、蛋白尿etc.(急速に悪化して、急性腎不全に至るケースが多い) 胸部の他覚的所見…打診にて濁音、聴診にて断続性ラ音 |
【検査】 | 胸部Xp⇒肺気腫と同様に、肺門部から肺野に広がるびまん性斑状陰影(典型例では蝶形陰影)、末梢気管支の透亮像 呼吸生理⇒拘束性障害、拡散障害 喀痰検査⇒鉄染色にて担鉄細胞(ヘモジデリンを貪食したMφ) 血液検査・尿検査⇒血尿、蛋白尿、Cre↑、BUN↑、鉄欠乏性貧血、抗GBM抗体(+) |
【治療】 | 血漿交換の他、病初期のステロイド・パルス療法も有効 |
【予後】 | 予後は不良 |
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アレルギ―性 肉芽腫性血管炎 allergic granulomatous angitis(AGA) |
【概念】 | PNと同様の全身性の壊死性血管炎+好酸球浸潤に富む肺の肉芽腫を認める疾患。Churg-Strauss症候群ともよばれる |
【症状】 | 前駆症状…患者のほとんどはアレルギー体質で、気管支喘息とそれに伴う末梢血中の好酸球増加 症状…多発性単神経炎、皮下出血、消化管出血、心筋梗塞などの血管炎症状(腎不全はまれ) |
【検査】 | 胸部Xp⇒好酸球性肺炎の所見 血液検査⇒Eosino.↑、IgE↑ |
【治療】 | ステロイド |
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Wegener肉芽腫症 |
【概念】 | 上気道・下気道・腎臓に壊死性肉芽腫を伴う壊死性血管炎 |
【原因】 | C-ANCA(PR3-ANCA) |
【症状】 | 上気道症状…鼻閉、鼻出血、鞍鼻、鼻中隔穿孔 下気道症状…咳嗽、血痰、呼吸困難etc. 腎症状…半月体形成を伴う急速進行性糸球体腎炎 |
【検査】 | 胸部Xp⇒空洞を伴う多発性結節陰影・浸潤陰影 血液検査⇒C-ANCA(+) |
【治療】 | ステロイドとシクロホスファミドの併用療法 |
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肺好酸球性肉芽腫症 |
【概念】 | Letterer-Siwe病、Hand-Schu¨ller-Christian症候群とともにLangerhans細胞性組織球症(histiocytosis X)として包括される疾患 |
【原因】 | 喫煙との関連が指摘されている | |
【症状】 | 乾性咳嗽、息切れetc. 合併症…気胸(5〜10%) ※骨病変・尿崩症はまれ |
【検査】 | 血液検査⇒CRP↑、WBC↑ 胸部Xp⇒上・中肺野を中心としたびまん性線状陰影・網状陰影 胸部CT⇒網状・嚢胞状・結節状陰影 |
【病理】 | 肉芽腫、Langerhans細胞(核にはグローブ状の深い切れ込みが存在する)の増殖、著しい好酸球の浸潤 |
【治療】 | 禁煙 |
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