甲状腺ホルモンとその異常症
甲状腺ホルモン
 特徴作用分泌促進因子分泌抑制因子
サイロキシン
(T4
甲状腺から分泌されるホルモンの93%を占める。分泌後、脱ヨード化を受け、1/3はT3に、1/2はrT3に変換される中枢神経の活性化作用
心に対する作用…心の交感神経β1受容体の発現を促進、心拍数↑、心拍出量↑
筋に対する作用…蛋白異化、腱反射
代謝系への作用…腸管からの糖の吸収速度↑、血清CHO↓、蛋白異化作用
成長促進作用
TSH
 
トリヨードサイロニン
(T3
最も強い活性をもつ。甲状腺から分泌されるホルモンの5%を占めるTSH
飢餓状態、全身性消耗性疾患、外傷、手術後など(低T3症候群)
逆トリヨードサイロニン
(rT3
不活性型。甲状腺から分泌されるホルモンの2%を占めるTSH
低T3症候群
 

甲状腺ホルモンの異常症
甲状腺機能
亢進症

hyper-
thyroidism
【概念】血中の遊離甲状腺ホルモンが過剰になって臨床症状を呈した病態
【原因】甲状腺ホルモンの自律的産生…機能性甲状腺腫(Plummer病)、機能性甲状腺癌
TSH or TSH様物質の刺激過剰…Basedow病、TSH産生腫瘍、hCG産生腫瘍
濾胞上皮細胞の破壊…亜急性甲状腺炎無痛性甲状腺炎
甲状腺ホルモンorヨードの過剰摂取
【疫学】ほとんどがBasedow病
【分類】
Basedow病(Graves病)
原因TSH類似作用をもつTSH受容体抗体(TRAb)が原因。感染症、手術、外傷、分娩、131I治療、精神的ショック、抗甲状腺薬の急激な内服中止などを契機に甲状腺クリーゼをきたすこともある
疫学男女比は1:4で、20〜50歳に好発。家族的集積傾向がある
症状
Merseburgの3徴=甲状腺腫+眼球突出+動悸
びまん性甲状腺腫…柔らかく、静脈雑音が聴取される
眼症状…眼球突出、von Graefe徴候1、Stellwag徴候2
1 von Graefe徴候…下方視の際、上眼瞼下縁と角膜の間に強膜が見える
2 Stellwag徴候…瞬きを繰り返すうちに、その回数が減少し、痙攣様になる
循環器症状…頻脈、Af、動悸、収縮期血圧↑、脈圧↑
精神症状…落ち着きがない、不隠状態、せん妄、手指・眼瞼の振戦
神経筋症状…筋力低下、筋無力症様の筋萎縮、腱反射↑、低K性周期性四肢麻痺3
3 低K性周期性四肢麻痺…過食・運動・飲酒などが誘因となって起こる、近位筋優位の弛緩性麻痺
消化器症状…食欲亢進、体重減少、下痢、腹痛、食後の一過性高血糖、反応性低血糖
その他…発汗過多、体温上昇、異常な暑がり、限局性の粘液水腫、ばち指、骨粗鬆症、不眠etc.
甲状腺クリーゼ(甲状腺機能の急激かつ極度の亢進状態)…不隠(せん妄)、頻脈、発汗、発熱、下痢、ショックetc.
検査甲状腺機能⇒T4→〜↑↑、T3↑↑、TSH↓↓、123I摂取率↑↑(T3抑制試験でも変化なし)
自己抗体…TSH結合阻害免疫グロブリン(TBII)(⇒病勢と相関)、甲状腺刺激抗体(TSAb)(⇒眼球突出と相関)、甲状腺刺激阻害抗体(TSBAb)etc.
その他の一般検査⇒T-Chol↓、骨型ALP↑、ChE↑、OGTT(⇒oxyhyperglycemia)、肝機能異常
治療
薬物療法(第1選択)…遅効性の抗甲状腺薬メチマゾールプロピルチオウラシル)、即効性の無機ヨード、心臓を保護するβブロッカー      ※抗甲状腺薬使用時は無顆粒球症の副作用に注意
手術療法…甲状腺亜全摘を行う。適応は主として若年者で抗甲状腺薬で寛解しない場合
放射線療法…β線を放出する131Iを使用。調節が難しく、甲状腺機能低下症に陥るケースが多い
甲状腺クリーゼ時⇒全身管理(気道確保、輸液、冷却etc.)、無機ヨード・βブロッカーの投与、ステロイドの投与
Plummer病(機能性甲状腺腫)
原因甲状腺ホルモンを自律的に分泌する腺腫
症状結節性甲状腺腫…良性腫瘍で周囲組織との癒着はなく、可動性(+)。通常、単発性
Basedow病同様の甲状腺機能亢進症状(ただし、眼球突出はまれ)
検査甲状腺機能⇒T4→〜↑↑、T3↑↑、TSH↓↓、123Iシンチ(⇒結節部のみの集積)
治療腫瘍の外科的切除(葉切除)
【鑑別】
 Basedow病Plummer病亜急性甲状腺炎ヨード過剰摂取
T4、T3
TSH
123I uptake↑(腫瘍部のみ)↓↓(時に0%)
甲状腺機能
低下症

hypo-
thyroidism
【概念】甲状腺ホルモンの作用が不足したために臨床症状を呈した状態。発育期以前に生じたものをクレチン症という
【原因】原発性…慢性甲状腺炎(橋本病)、甲状腺摘出後、放射線療法後、亜急性甲状腺炎の一時期、ヨード不足・ヨード過剰、甲状腺発生異常(無形成、低形成etc.)、甲状腺ホルモン合成障害
続発性…脳腫瘍、Sheehan症候群、特発性下垂体前葉機能低下症
【疫学】橋本病が大半を占める。クレチン症は新生児マススクリーニング対象疾患の中で最多甲状腺機能低下症の胸部Xp(きんちゃく型の心陰影拡大)
【症状】
クレチン症…元気がない、体温低下、黄疸の遷延、筋緊張低下、巨舌、臍ヘルニア、徐脈、便秘、知能低下、低身長、骨年齢の著明な遅延、腹部膨満、嘔吐、哺乳微弱、浮腫、胎便排泄遅延、末梢チアノーゼetc.
成人の甲状腺機能低下症…基礎代謝低下、低体温、異常な寒がり、倦怠感、体重増加、精神活動の鈍化、無気力状態、傾眠傾向(過眠)、心収縮力低下・心音減弱、徐脈、発汗減少、カロチン黄疸、巨舌・粘液水腫・浮腫・心嚢液貯留・胸水・嗄声・筋肥大(←ムコ多糖類の貯留)、便秘、貧血、筋力低下、深部腱反射の遅延・低下、脱毛etc.
   ※粘液水腫…圧痕を残さず、non pitting edemaとよばれる
合併症…高PRL血症による月経異常・乳汁漏出
【検査】甲状腺機能⇒T4↓、T3↓、123I摂取率↓、TSH↑↑or↓(原発性で↑↑、続発性で↓)、TRH負荷試験(⇒続発性のうち、下垂体性と視床下部性を鑑別)
一般検査⇒Chol↑、カロチン↑、CK↑、LDH↑、貧血、AST↑、ALT↑、Ca↓、尿中17-OHCS・17-KS↓
心電図⇒低電位、T波平低化、QT時間延長
心エコー⇒心嚢水貯留
【治療】合成T4製剤の補充(少量から開始して漸増。高PRL血症合併時も同様
   ※ブロモクリプチンは用いない
副腎不全合併時にはステロイドの補充を先行させる
甲状腺ホルモン
不応症
resistance to
thyroid
hormone
(RTH)
【原因】甲状腺ホルモン受容体の異常(AD遺伝)
【疫学】全世界で約500例
【分類】
全身型RTH(GRTH)
概念…全身の甲状腺ホルモン受容体の異常
症状…生下時から甲状腺機能低下症(臨床症状はそれほど強くない)、甲状腺腫
下垂体型RTH(PRTH)
概念…下垂体の甲状腺ホルモン受容体のみの異常
症状…甲状腺機能亢進症(negative feedbackがかからないため)
【検査】甲状腺機能⇒T4↑、T3↑、TSH↑(TSH産生腫瘍と同様のパターン)
【治療】全身型で甲状腺機能低下症をきたしている場合⇒甲状腺ホルモンの補充
下垂体型で甲状腺機能亢進症をきたしている場合⇒治療困難
甲状腺炎
thyroiditis
【分類】
急性化膿性甲状腺炎      ※症状は亜急性甲状腺炎に似るが、治療方針は全く逆
急性化膿性甲状腺炎の頸部エコー(隔壁と後方エコー増強を伴う膿瘍形成)
原因甲状腺の急性細菌感染
疫学比較的まれ。小児に好発。下咽頭梨状窩瘻のある児に特に起こりやすい
症状突然の発熱、甲状腺部の疼痛・発赤etc.
検査甲状腺ホルモンの異常(−)
治療抗生物質の投与、膿瘍形成時には切開排膿
亜急性甲状腺炎
原因ウイルス感染と考えられている
疫学男女比は1:10で、30〜50歳代に好発。HLA-Bw35の検出率が高い
症状前駆症状…感冒様症状
初期症状…甲状腺部の自発痛(耳介後部・下顎部に放散)、急速に増大する圧痛のある硬い甲状腺腫(移動性あり)、発熱(夜に高い弛張熱)、一過性の甲状腺機能亢進症
検査一般検査⇒ESR↑↑、CRP↑、WBC→〜↑
甲状腺機能⇒病初期にはT4↑、T3↑、TSH↓、123I摂取率はほぼゼロ
甲状腺エコー⇒不均一な低エコー領域
予後数ヶ月以内に自然軽快する
治療軽症例に対してはNSAIDs、中等度以上の症例に対してはステロイドを使用。甲状腺機能亢進症状が強い時はβブロッカーを使用するが、抗甲状腺薬は禁忌
慢性甲状腺炎(橋本病)
原因甲状腺の構成成分に対する自己抗体
疫学甲状腺機能低下症のほとんどを占める。男女比は1:20で、20〜50歳代に好発する。家族的集積傾向がみられる
分類甲状腺腫を欠くものは萎縮性甲状腺炎(広義の橋本病)とよばれる
症状
びまん性のゴム様の硬い甲状腺腫、甲状腺機能の進行性低下(初診時には正常のことが多い)
※中には一過性の甲状腺機能亢進症を呈することがあり、無痛性甲状腺炎とよばれる
合併症…副腎皮質機能低下症(Schmidt症候群
検査一般検査⇒γ-グロブリン↑、ESR↑、CRP→WBC→
自己抗体…抗サイログロブリン抗体(感度50%)、抗ミクロゾーム抗体(感度95%)、TSH結合阻害免疫グロブリン(TBII)、甲状腺刺激阻害抗体(TSBAb)etc.
甲状腺機能⇒病初期は正常で、経過とともに低下(T4・T3↓、TSH↑)するが、無痛性甲状腺炎では亢進(T4・T3↑、TSH↓)する。甲状腺組織の破壊のため、123I 摂取率↓
病理リンパ球浸潤、リンパ濾胞形成、甲状腺上皮細胞の破壊、結合組織の増殖
治療
甲状腺機能が正常で、無症状の場合⇒経過観察
甲状腺腫による頸部圧迫症状が強い場合、甲状腺機能低下時⇒合成T4製剤の投与
無痛性甲状腺炎の場合⇒経過観察でO.K.。症状が強ければβブロッカーの投与
Schmidt症候群の場合⇒甲状腺ホルモンの投与+ステロイドの投与
   ※症状が悪化するため、甲状腺ホルモン単独の投与は禁忌(Sheehan症候群も同様)
予後慢性甲状腺炎を発生母地として悪性リンパ腫が発生する可能性があるため、定期的なフォローアップは必要
甲状腺腫
goiter
【概念】甲状腺が腫大している状態
【分類】
 中毒性非中毒性
びまん性Basedow病単純性甲状腺腫
橋本病
結節性Plummer病甲状腺腺腫
腺腫性甲状腺腫
甲状腺悪性腫瘍
【検査】超音波検査、甲状腺シンチ(123I と99mTcが一般的。悪性腫瘍の検索には201Tlや67Gaも有用)、穿刺吸引細胞診
【各論】
単純性甲状腺腫(非中毒性甲状腺腫)
概念…甲状腺機能の異常を伴わない原因不明のびまん性甲状腺腫
疫学…若年女性にしばしばみられる
治療…積極的な治療は不要。甲状腺腫が大きく圧迫症状がみられる場合には甲状腺ホルモンの投与
甲状腺腺腫
概念…甲状腺に生じる良性腫瘍。大半が濾胞腺腫
症状…通常単発性の結節性甲状腺腫(表面平滑な可動性の腫瘤として触れる)
検査…超音波検査(⇒周辺にhaloを有する低エコー域)
治療…ある程度の大きさで充実性の場合は手術・エタノール注入療法、それ以外の場合は保存的に経過観察
腺腫様甲状腺腫
概念…腺腫のようにみえるものの、過形成によって結節性甲状腺腫をきたした疾患
検査…超音波検査(⇒多数の低エコー域が散在)
治療…巨大なものや縦隔に進展するものなどでは手術、それ以外は経過観察
甲状腺の悪性腫瘍
 分化癌未分化癌髄様癌悪性リンパ腫
乳頭癌濾胞癌
由来濾胞上皮細胞傍濾胞細胞(C細胞)リンパ球

頻度80%以上約10%数%1〜2%数%
男女比1:51:51:21:2〜31:5
好発年齢30〜50歳代40〜60歳代60歳以上30〜50歳代60歳以上
原因被曝etc. 乳頭癌・濾胞癌から転化約20%はMENU型に合併ほとんどが橋本病に合併



甲状腺腫硬い、結節性硬い、結節性急速に腫大結節性急速に腫大
発育緩徐緩徐急速比較的緩徐比較的急速
転移主にリンパ行性主に血行性転移しやすい主にリンパ行性主にリンパ行性
その他頸部圧迫感・疼痛、嗄声、呼吸・嚥下困難、全身症状etc.嗄声、呼吸・嚥下困難etc.






血液検査サイログロブリン↑サイログロブリン↑炎症所見カルシトニン↑CEA↑、Ca→橋本病の所見
エコー辺縁不整の不均一な低エコー域、内部に散在性の高エコー域
甲状腺乳頭癌の頸部エコー(微細石灰化)
境界不整な低エコー域
(濾胞腺腫との鑑別は困難)
著しく不整で不明瞭な境界、不均一な低エコー域、内部に粗大な石灰化比較的辺縁がスムーズな低エコー域、内部に粗い石灰沈着低エコー域
シンチ123I ⇒cold
99mTc⇒cold
201Tl⇒hot
123I ⇒cold
99mTc⇒cold
123I ⇒cold
99mTc⇒cold
67Ga⇒hot
123I ⇒cold
99mTc⇒cold
67Ga⇒hot
細胞診乳頭状orシート状の配列、すりガラス状の核、核内細胞質封入体濾胞状構造
(濾胞腺腫との鑑別は困難)
結合傾向弱い、著しい異形成、盛んな細胞分裂結合がゆるい、間質にアミロイド分化度の低い異形成のリンパ経細胞
その他頸部軟Xp(⇒砂粒状石灰化頸部軟Xp(⇒粗大石灰沈着)CTスキャン頸部軟Xp(⇒粗大石灰沈着) 
治療外科的摘出(第1選択)
合成T4製剤の投与
甲状腺全摘後の131I大量投与
手術適応なし。化学療法と放射線療法(60Co照射)が中心腫瘍摘出T・U期は放射線照射。V・W期は化学療法+頸部放射線照射
予後極めて良好
(10生:90%以上)
乳頭癌より不良
(10生:80〜90%)
最悪(1年以上の生存はまれ)濾胞癌より不良濾胞癌より不良
 乳頭癌濾胞癌未分化癌髄様癌悪性リンパ腫
甲状腺嚢胞
【症状】可動性良好な前頸部腫瘤、甲状腺機能正常
【検査】頸部エコー(⇒被膜を有するhypoechoic mass)、穿刺吸引細胞診(⇒漿液性内容のみ)
【治療】経過観察or経皮的エタノール注入療法
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