髄
膜
炎 | 細菌性髄膜炎 (急性化膿性髄膜炎) bacterial meningitis |
【疫学】 | 本症の3/4は4歳以下の小児に起こる |
【原因】 | 生後3ヶ月未満…B群レンサ球菌(GBS)、大腸菌、ブドウ球菌、緑膿菌が多い それ以降の小児…インフルエンザ菌、肺炎球菌、髄膜炎菌が多い 成人…肺炎球菌、髄膜炎菌が多い。高齢者ではさらにグラム陰性桿菌、黄色ブドウ球菌なども多い |
【症状】 | 発熱、頭痛、悪心・嘔吐、意識障害、髄膜刺激症状(項部硬直、Kernig徴候)、脳浮腫、頭蓋内圧亢進、脳ヘルニアによる昏睡状態 合併症…痙攣、水頭症、脳梗塞、感音難聴、SIADH、急性副腎皮質不全(起炎菌が髄膜炎菌の場合。Waterhouse-Friedrichsen症候群とよばれる) |
【検査】 | 髄液検査⇒米のとぎ汁様の混濁、圧↑↑、細胞数(主に多核白血球)↑↑、蛋白↑↑、糖↓↓ 髄液の微生物学的検査…塗抹、染色、培養 |
【治療】 | GBS・肺炎球菌・髄膜炎菌に対してはPCGが第1選択。インフルエンザ菌・大腸菌に対しては第三世代セフェムが第1選択。小児ではこれらの抗生物質を投与する直前or同時にステロイド(特にデキサメサゾン)を投与する治療法が主流となってきている |
【予後】 | 死亡率が1割(放置した場合には半数以上)、後遺症出現率が約3割 |
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ウイルス性髄膜炎 |
【疫学】 | 夏に好発 |
【原因】 | エンテロウイルス(特にエコーウイルス、コクサッキーウイルス)が70%以上を占める。次いで多いのはムンプスウイルス |
【症状】 | 発熱、頭痛、嘔吐、髄膜刺激症状を呈するが、細菌性髄膜炎に比べてはるかに軽症。合併症や後遺症もあまりない |
【検査】 | 髄液検査⇒水様〜日光微塵の外観、圧↑、細胞数(リンパ球中心)↑、蛋白↑、糖→ |
【治療】 | 対症療法のみ |
【予後】 | 多くは軽症にとどまり、予後は良好 |
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結核性髄膜炎 |
【疫学】 | ほとんどが乳幼児に発症 |
【症状】 | 亜急性髄膜炎の1つで、緩徐に発症。食欲不振・不機嫌・頭痛・軽度の発熱が2〜3週間続いた後、髄膜刺激症状、悪心・嘔吐、高熱、意識障害などが出現 合併症…痙攣、脳神経障害(特にY麻痺、Z麻痺)、四肢麻痺、SIADH、水頭症※※結核菌は主に脳底部のクモ膜下腔で炎症を起こすため、脳槽における髄液循環が障害される |
【検査】 | 髄液検査⇒日光微塵〜スリガラス様の外観、圧↑〜↑↑、細胞数(リンパ球中心)↑〜↑↑、蛋白↑〜↑↑、糖↓、Cl↓、ADA値↑、トリプトファン反応(+) 髄液の微生物学的検査…塗沫染色(Ziehl-Neelsen染色)、培養検査、核酸検査 |
【治療】 | 抗結核薬の三者or四者併用療法 |
【予後】 | 予後不良で、生存しても何らかの後遺症を残す |
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真菌性髄膜炎 |
【疫学】 | compromised hostに好発 |
【原因】 | 大半はクリプトコッカスが原因 |
【症状】 | 亜急性の経過をとる。頭痛・軽度の発熱で始まり、次第に髄膜刺激症状、悪心・嘔吐、痙攣、意識障害などが出現 合併症…脳神経麻痺、SIADH、水頭症 |
【検査】 | 髄液検査⇒日光微塵〜スリガラス様の外観、圧↑〜↑↑、細胞数(リンパ球中心)↑〜↑↑、蛋白↑〜↑↑、糖↓、Cl↓ 髄液の微生物学的検査…塗沫染色(墨汁染色)、培養検査、抗原・抗体検査、核酸検査 |
【治療】 | アムホテリシンBの静注と5-FCの経口投与が中心。その他、フルコナゾールの静注も有効 |
【予後】 | 予後はきわめて不良 |
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脳膿瘍 brain abscess |
【概念】 | 脳実質内に化膿性の膿瘍を形成する疾患。限局性の病変 | |
【原因】 | 基礎疾患…頭蓋骨内の炎症(真珠腫性中耳炎、副鼻腔炎etc.)、右→左シャントをもつ心疾患etc. 起炎菌…レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、バクテロイデスetc. |
【症状】 | 亜急性〜慢性に発症するケースが多い。脳浮腫による頭痛、頭蓋内圧亢進症状(嘔吐、痙攣、意識障害)、神経学的局所徴候、髄膜刺激症状などをきたす。発熱や悪寒はまれ |
【検査】 | 画像診断…CT(⇒リング状の造影効果を有する低吸収域、周辺の浮腫)、MRI ※髄液検査は、脳ヘルニアを誘発する危険性があるので、むしろ禁忌 |
【治療】 | 感受性のある抗生物質の投与を行う。これで消失しなければ、CTガイド下の穿刺吸引・ドレナージ、開頭による膿瘍摘出を行う |
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ウ
イ
ル
ス
性
脳
炎 | 単純ヘルペス脳炎 herpes simplex encephalitis |
【原因】 | ほとんどがHSV-Tが原因。成人の場合はほとんどが回帰感染。大脳辺縁系が特に強く障害される |
【症状】 | 発熱、頭痛、精神症状(行動異常、見当識障害、性格変化、幻覚etc.)、嘔吐、痙攣、意識障害(せん妄etc.)、多彩な神経症状(片麻痺、失語症、運動失調、脳神経麻痺etc.)、髄膜刺激症状etc. |
【検査】 | 髄液検査⇒ウイルス性髄膜炎と同じ所見の他、キサントクロミー(+)、オリゴクロナルバンド(+)、HSV-T抗体価↑、しばしば血性 画像診断…CT(⇒限局性の低吸収域。側頭葉・前頭葉下面が侵されやすい)、MRI(⇒T2強調画像で高信号)、SPECT(⇒血流増加) 脳波検査⇒左右非対称性の全般性の徐波化、一側or両側の側頭部に出現する発作波、周期性の複合波(PLEDとよばれる) | | |
【治療】 | アシクロビルなどの抗ヘルペス薬の投与 |
【予後】 | 死亡率は30%以下、後遺症発現率は40%程度 |
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エイズ痴呆症候群 AIDS dementia complex(ADC) |
【概念】 | AIDS期・AC期にみられる痴呆(皮質下痴呆)を中心とした中枢神経症。HIVがMφ由来のミクログリアに感染して起こる |
【症状】 | 記銘障害、無気力、集中力低下、思考過程・言語の緩慢化、認知障害、運動障害などが出現。進行すると、無言無動状態となり、意思の疎通が困難となる |
【検査】 | MRI⇒T2強調画像で白質を中心とするびまん性の高信号域 |
【治療】 | 逆転写酵素阻害薬・プロテアーゼ阻害薬などによる多剤併用療法 |
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遅 発 性 ウ イ ル ス 感 染 症 | 亜急性硬化性全脳炎 subacute sclerosing panencephalitis (SSPE) |
【疫学】 | 2歳以下で麻疹に罹患した、6〜9歳の小児に好発。わが国での発生は年間10件前後 |
【原因】 | 麻疹様ウイルス(SSPEウイルス) |
【症状】 | 第1期…性格変化、知能低下、行動異常、言語障害etc. 第2期…痙攣、ミオクローヌス、協調運動障害、錐体路徴候etc. 第3期…昏睡、後弓反張、除脳硬直、不規則ないびき・呼吸etc. 第4期…寡黙、脳皮質機能消失、病的笑い、叫び、眼球異常運動etc.※これらの症状は亜急性に進行し、数ヶ月〜1年くらいで植物状態に陥る。発熱や頭痛はみられない |
【検査】 | 髄液検査⇒IgG↑↑、オリゴクロナルバンド、麻疹抗体価↑ 脳波検査⇒徐波化がみられる。重症例では周期性同期性放電(PSD)がみられ、suppression-burst(高振幅の徐波と抑制が交互に出現)が出現する |
【治療】 | 確立された治療法はないが、IFN-αの髄注が行われることもある |
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進行性多巣性白質脳症 progressive multifocal leukoencephalopathy (PML) |
【疫学】 | compromised hostに好発 |
【原因】 | パポバウイルスの一種であるJCウイルス(JCV)が乏突起膠細胞に感染することが原因 |
【症状】 | 多彩な神経症状(性格変化、痴呆、錐体路徴候、視覚異常、感覚障害etc.) |
【検査】 | CT(⇒白質に多発する低吸収域)、MRI(⇒T2強調画像で白質に多発する高信号域) |
【治療】 | 確立された治療法なし |
【予後】 | 常に進行性で、数ヶ月以内に死亡 |
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プ
リ
オ
ン
病 | 孤発性Creutzfeldt- Jakob病(CJD) |
【疫学】 | 発症率は100万人に1人。50〜60歳の初老期に好発 | |
【症状】 | 不安、抑うつ、易疲労感などで初発。2〜3ヶ月の間に、痴呆症状(記銘障害、見当識障害、意欲低下、異常行動etc.)が次々と出現し、週単位で増悪。その他、さまざまな神経学的症状(運動失調、ミオクローヌス、錐体路徴候、錐体外路徴候etc.)を伴う |
【検査】 | 脳波検査⇒周期性同期性放電(PSD) 画像診断…CT・MRI(⇒中期以降著明な脳萎縮) 髄液検査⇒14-3-3蛋白(+)以外はすべて正常 剖検脳⇒海綿状変化を認める |
【予後】 | 常に進行性で、1年以内に無言無動状態に陥り、発症から平均1年半で死亡 |
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遺伝性プリオン病 hereditary prion disease |
【原因】 | 20p上に存在するプリオン遺伝子の変異(AD遺伝) |
【分類】 |
| 遺伝性CJD | Gerstomann-Stra¨ussler- Scheinker病(GSS病) | 致死性家族性不眠症 (FFI) |
原因 | いくつかの異なる遺伝子異常が知られている。コドン200(Glu→Arg)、コドン180(Val→Ile)etc. | いくつかの異なる遺伝子異常が知られている。コドン102(Pro→Leu)、コドン105(Pro→Leu)etc. | コドン129がMet/Metのホモ接合遺伝子の個体に、コドン178(Asp→Asn)の点変異が加わった場合に起こる |
症状 | 孤発性CJDとほぼ同様の症状を示すが、原因遺伝子異常により経過は異なる | 中高年に小脳失調、痙性麻痺、痴呆などを呈する。ミオクローヌスはまれ | 中高年に治療抵抗性の不眠で発症し、やがて孤発性CJD様の症状が加わり、2年以内に死亡する |
検査 | 原則として孤発性CJDと同様 | 脳波上のPSDはめったにみられない。剖検脳ではアミロイド斑が目立つ | 脳波上のPSDはまれ。剖検脳では海綿状変化を認める |
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感染性プリオン病 infectious prion disease |
【分類】 |
| 医原性CJD | 新変種型CJD |
原因 | コドン129がMet/Metホモ接合子である人に、ヒト乾燥硬膜や死体から抽出した成長ホルモン製剤を使用した場合に起こる | ウシ海綿状脳症(BSE)に感染した牛を食べたことが原因。コドン129がMet/Metホモ接合子である人に好発する |
症状 | 孤発性CJDに比べて、小脳失調や眼球運動障害の出現率が高いが、ミオクローヌスDの出現率は低い | 平均発症年齢は30歳。不安、抑うつ、行動異常などが強く、小脳失調が必発で、痴呆やミオクローヌスはかなり遅れて出現する |
検査 | 孤発性CJDに比べて、脳波上PSDの出現率は低い | 脳波上PSDはめったにみられない。剖検脳にて海綿状変化に囲まれたアミロイド斑 |
対策 | 3%ドデシル硫酸Na(SDS)を用いた煮沸orオートクレーブを用いた長時間高圧蒸気滅菌が有効 | BSE感染牛の食用禁止etc. |
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HTLV-1関連ミエロパチー HTLV-1 associated myelopathy(HAM) |
【原因】 | HTLV-1の垂直感染、血液感染、性行為感染 |
【疫学】 | 中年以降に好発 |
【症状】 | 潜伏期は一般に垂直感染で長く、血液感染で短いといわれる。歩行障害で初発し、緩徐に進行して、両下肢の痙性対麻痺に至る。自律神経症状も高率に認められ、直腸膀胱障害で初発することもある。感覚障害はほとんどみられない |
【検査】 | 血液検査・髄液検査⇒抗HTLV-1抗体(+) |
【治療】 | ステロイドとIFNαの投与 |
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神経梅毒 syphilis of the nervous system |
【原因】 | Treponema pallidumが脳or脊髄に感染することによって生じる |
【分類】 | - 無症候型神経梅毒
- 髄液で異常(梅毒反応陽性)が認められるものの、神経学的には無症状
- 髄膜血管型神経梅毒
- 髄膜炎を中心とするものと血管病変(主に脳卒中症状)を中心とするものがある
- 実質型神経梅毒 脳そのものを侵すもの
| 脊髄癆 | 進行麻痺 |
概念 | 脊髄の後根と後索が著明に萎縮 | Treponema pallidumによる脳炎 |
症状 | 後根刺激⇒数分〜数時間続く電撃痛(特に下肢) 後索障害⇒深部感覚障害、Romberg徴候(+)、運動失調 後根障害⇒深部腱反射↓ (特に膝蓋腱反射の消失をWestphal徴候とよぶ) 自律神経障害⇒膀胱直腸障害 瞳孔症状…Argyll Robertson徴候 | 人格変化、記銘障害、知能低下、麻痺性発作(痙攣、卒中様症状etc.)、Argyll Robertson瞳孔、言語蹉跌etc. |
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【検査】 | 血液検査⇒血清の梅毒反応(+) 髄液検査⇒梅毒反応(+)、細胞数(特にリンパ球)↑、圧↑、蛋白↑、糖→、γ-グロブリン↑ |
【治療】 | 原則としてPCG |
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