末梢神経障害
末梢神経障害の病理学的分類
 概念疾患障害の種類末梢神経伝導速度
軸索障害軸索が中心に侵される中毒性ニューロパチー、代謝性ニューロパチーetc.感覚障害が中心ほぼ正常
髄鞘障害髄鞘が変性・脱落Guillain-Barre´症候群、CIDP、CMT etc.運動障害が中心大きく低下

末梢神経障害の臨床学的分類
 概念疾患原因
単神経障害単一の末梢神経障害アミロイドーシス、骨髄腫、膠原病(SLE・PN etc.)、DM etc.機械的損傷・圧迫・乏血
多発単神経障害単神経障害複数生じた場合。通常、神経障害は左右不対称で、不規則に分布する全身の血管炎(PN、悪性関節リウマチetc.)、全身の肉芽腫性病変(サルコイドーシスetc.)、DM etc.血行障害、圧迫etc.
多発神経障害
(ポリニューロパチー)
左右対称性に生じた広範な神経障害。原則として四肢遠位部に症状が強く出るDM、Guillain-Barre´症候群、CIDP、CMT、ジフテリアetc.遺伝的要因、代謝異常、中毒、免疫応答etc.

Guillain-Barre´症候群
(GBS)
【病理】末梢神経(特に神経根)の血管周囲に単核球の細胞浸潤と節性脱髄がみられ、急性炎症性脱髄性多発神経根炎(AIDP)ともよばれる
【疫学】30歳以下の男性に多い
【原因】急性上気道炎や胃腸炎などの先行感染がみられることが多い。起炎菌としては、Campylobacter jejuni、CMV、EBV、マイコプラズマetc.
【症状】
下位運動ニューロン障害…前駆症状の1〜3週間後に、下肢遠位部に両側対称性に運動麻痺が急速に生じる。運動麻痺は次第に上行し、10日〜2週間くらいでピークに達する。脳神経障害(特に顔面神経)もみられることがある
感覚障害…運動障害に比べて軽度
自律神経障害…時に起立性低血圧、排尿障害、不整脈etc.
【検査】
末梢神経伝導速度⇒伝導速度↓(伝導ブロック)
髄液検査⇒蛋白細胞解離(細胞数→、蛋白↑)
血液検査⇒半数以上の症例で抗GM1ガングリオシド抗体(+)
【治療】軽症例⇒経過観察
重症例⇒血漿交換γ-グロブリン大量静注療法(IVIg療法)呼吸管理      ※ステロイドは無効
【予後】ほとんどの症例が6ヶ月以内にほとんどor完全に機能回復
Fisher症候群
【概念】Guillain-Barre´症候群の亜型
【症状】急性に外眼筋麻痺、運動失調、深部反射↓をきたす
【検査】
髄液検査⇒蛋白細胞解離
血液検査⇒抗GQ1bガングリオシド抗体(+)
慢性炎症性脱髄性
多発神経根炎

chronic inflammatory
demyelinating
polyradicuropathy
(CIDP)
【概念】神経根への細胞浸潤と節性脱髄を反復し、慢性に経過する疾患
【症状】筋力低下と感覚障害が慢性に進行or軽快と再発をくり返す。自律神経障害もしばしば認められる
※Guillain-Barre´症候群との相違点…感覚ニューロンも運動ニューロンと同様に障害される
【検査】
末梢神経伝導速度⇒伝導速度↓
髄液検査⇒約70%の症例で蛋白細胞解離
【治療】γ-グロブリン大量静注療法(IVIg療法)が第1選択で、血漿交換、ステロイドの経口投与も有効
Charcot-Marie-Tooth病
(CMT)
【概念】下肢遠位部に始まり、筋力低下と筋萎縮が緩徐に進行する疾患群
【分類】CMT1(節性脱髄が主体。頻度が高い。AD遺伝が主)、CMT2(軸索変性が主体)、CMT4(AR遺伝)
【疫学】10〜20歳代に好発CMTの凹足
【症状】下肢遠位部の筋力低下、凹足、大腿遠位部・下腿遠位部の筋萎縮(逆シャンペンボトル型)、下垂足に伴う鶏歩(腓骨神経麻痺による)、アキレス腱反射↓、Romberg徴候(−)、Babinski徴候(−)
【検査】
末梢神経伝導速度⇒CMT1では↓↓、CMT2では→
血液検査⇒CK→
【病理】CMT1ではonion-bulb形成
【予後】緩徐に進行するが、生命予後は良好
糖尿病性ニューロパチー
【原因】ポリオール代謝活性の亢進⇒NADPHの不足⇒生体に酸化ストレス
脂質代謝の亢進⇒ジアシルグリセロールの産生↑⇒PKCの増産⇒血管病変⇒神経の虚血
非酵素的糖化反応の亢進⇒糖化最終産物の増産⇒血管病変⇒神経の虚血
【症状】
単神経障害・多発単神経障害
しばしば急性に発症し、動眼神経(散瞳はみられない)、正中神経、尺骨神経、腓骨神経、腰仙髄神経叢などが侵される。経過は比較的良好で、数ヶ月で自然に軽快する
多発神経障害
感覚性or感覚運動性ニューロパチー…初発症状は両下肢の異常感覚が多い。アキレス腱反射消失、下肢の振動覚低下などを認め、さらに進行すると手袋靴下型の感覚障害、Romberg徴候陽性の運動失調などをきたし、運動神経障害合併時には筋力低下・筋萎縮が認められる
自律神経性ニューロパチー…起立性低血圧、排尿障害、陰萎、心血管障害(脱交感神経現象、無痛性心筋梗塞etc.)、消化器症状(便秘、腹部膨満感、呑酸症etc.)などを呈する。感覚性ニューロパチーを合併する場合がほとんど
【治療】血糖コントロールが重要で、アルドース還元酵素阻害薬の投与も試みられている。その他、異常感覚に対する対症療法としては、抗てんかん薬・抗不整脈薬・抗うつ薬が用いられることもある
薬物性ニューロパチー
【原因】SMONをきたす薬剤…キノホルム
SMON(subacute myelo-optico-neuropathy)…末梢神経の軸索変性による下肢末端の異常感覚を初発症状とし、亜急性に進行して、上行していく。末梢神経以外にも、脊髄後索・錐体路・視神経が侵され、深部感覚低下による運動失調、運動麻痺、視神経萎縮による進行性の視力低下などがみられる
ポリニューロパチーをきたす薬剤…イソニアジド(Vit. B6との併用で予防可能)、ビンクリスチン
中毒性ニューロパチー
【各論】
 症状病理
有機水銀中毒
(Hunter-Russell症候群)
求心性視野狭窄、小脳性運動失調、感覚障害軸索変性が中心
鉛中毒低色素性貧血、運動神経優位のニューロパチー(特に橈骨神経麻痺)前角細胞障害が主
慢性砒素中毒皮膚症状(発疹、角化、皮膚癌etc.)、粘膜症状(鼻中隔穿孔、肺癌etc.)、多発神経障害軸索変性が中心
ノルマルヘキサン中毒軸索・脱髄病変 
家族性アミロイド
ポリニューロパチー
familial amyloid
polyneuropathy
(FAP)
【原因】トランスサイレチンの異常(AD遺伝)
【症状】
初発症状…自律神経障害(下痢と便秘の繰り返しが特徴的)、下肢末梢から上行する温痛覚障害
   ※細い線維・無髄線維ほど侵されやすいため、初期は解離性感覚障害となる
進行期の症状…深部感覚障害、運動神経障害
随伴症状…心伝導障害、腎障害etc.
【検査】末梢神経伝導速度(⇒伝導速度↓)、体性感覚誘発電位(⇒異常)、髄液検査(⇒蛋白細胞解離)、針筋電図(⇒神経原性変化)etc.
【治療】DMSO(ジメチルスルホキシド)やL-threo DOPSが有効だが、唯一の根治療法は肝移植
【予後】緩徐に進行し、約10年で寝たきり状態となり、やがて死に至る(予後不良)
傍腫瘍性ニューロパチー
paraneoplastic
neuropathy
【概念】悪性腫瘍の患者でみられる、腫瘍細胞の神経浸潤や治療の副作用などでは説明のつかない神経障害
【種類】感覚障害を中心とするニューロパチーが最多で、他には皮質性樟脳萎縮症の一部、Lambert-Eaton症候群etc.
【原因】肺小細胞癌が最多
【症状】感覚障害(異常感覚、深部感覚障害etc.)、自律神経障害、大脳辺縁系障害(行動異常、情緒障害、記銘障害etc.)、小脳症状etc.
単神経障害
三叉神経痛
trigeminal
neuralgia
【分類】特発性…原因不明。40歳以降の女性に好発
続発性…外傷、感染(特に帯状疱疹ヘルペス)、髄膜腫、動脈硬化、蛇行動脈、副鼻腔炎などが原因
【症状】
持続時間が数秒〜数十秒の発作的な顔面の疼痛(V2・V3領域に好発。圧痛点があり、不用意な接触や冷水刺激などで疼痛が誘発される)が主症状。発作間欠時には感覚異常(−)
随伴症状…同側顔面の紅潮、発汗、流涙、鼻汁、唾液分泌過多etc.
【治療】カルバマゼピンが第1選択。薬物療法で効果が得られない場合には、神経ブロックや神経血管減圧術などが行われる
動眼神経麻痺
【原因】DM、脳動脈瘤(ほとんどが内頸-後交通動脈瘤)etc.
【症状】外転筋・上斜筋以外の外眼筋麻痺、眼瞼下垂、瞳孔散大、対光反射の消失etc.
糖尿病性動眼神経麻痺⇒最初に眼球運動が障害される
脳動脈瘤による動眼神経麻痺⇒最初に瞳孔が障害される

上下肢の絞扼性末梢神経障害
 障害神経障害筋知覚障害部位特異的症状
手根管症候群正中神経母指球筋母指〜環指橈側1/2母指対立運動障害、猿手、Tinel sign(+)、Phalen test(+)、若い成人女性に多い
円回内筋症候群母指球筋、長い屈筋群母指対立運動障害、猿手、Tinel sign(+)
前骨間筋症候群母指球筋、長い屈筋群、回内筋群×上記+tear drop sign
肘部管症候群尺骨神経骨間筋群、母指内転筋、小指球筋環指尺側1/2〜小指鷲手、Tinel sign(+)、Froment sign(+)、指交叉試験(+)
尺骨神経管症候群
(Guyon管症候群)
回外筋症候群
(橈骨神経管症候群)
橈骨神経長い伸筋群母指〜中指の背側、手背橈側、前腕の背橈側下垂指or下垂手、Tinel sign(+)
梨状筋症候群坐骨神経ハムストリング筋群、膝より下のすべての筋膝から下のすべての皮膚(ただし、伏在神経の分布域は除く)鶏歩、下垂足、Tinel sign(+)、Freiberg test(+)、Lasegue test(+)
Hunter管症候群伏在神経
(大腿神経の枝)
下部下腿内側面、足の内側縁〜母指の下面しびれ・疼痛が主症状
足根管症候群脛骨神経足底、足趾しびれ・疼痛が主症状、足の底屈が不能
腓骨神経麻痺総腓骨神経前脛骨筋、長・短指伸筋、第三腓骨筋、長母指伸筋、長・短腓骨筋下腿前外側〜足背下垂足or下垂趾、Tinel sign(+)
・Tinel sign(+):障害部位を軽く叩くと、その神経の支配域に放散痛。知覚神経を含めた障害を表す
・Phalen test(+):手関節を掌屈し続けると、60秒以内に症状が増悪。手根管症候群の可能性が高い
・tear drop sign(+):母指と示指できれいな丸を作れない。前骨間神経麻痺による
・Froment sign(+):両手で紙を引っ張ると、患側の母指IP関節が屈曲。尺骨神経麻痺による
・指交叉試験(+):中指を示指の上に乗せることができない。骨間筋群麻痺のため
・Freiberg test(+):股関節を他動的に屈曲内旋すると、疼痛が誘発。坐骨神経麻痺による
・Lasegue test(+):股関節を屈曲して仰臥し、膝を伸展させた場合、下肢を背屈して大腿背側に疼痛or筋攣縮が生じる。腰部神経根or坐骨神経が刺激されていることを示す
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