自
己
免
疫
性
水
疱
症 | 天疱瘡 pemphigus |
【概念】 | 棘融解を伴う自己免疫性表皮内水疱性疾患 | |
【病因】 | デスモゾーム構成蛋白の細胞膜であるデスモグレイン(Dsg)を抗原とする病因的自己抗体の産生 |
【疫学】 | 好発年齢は40〜70歳。患者数はわが国で4000人弱 |
【検査】 | Nikolsky現象(+)、抗表皮細胞間IgG抗体(+) |
【各論】 | - 尋常性天疱瘡
概念…Dsg3に対する自己抗体が産生されて、基底層直上に水疱形成がみられる 疫学…天疱瘡の65%を占める 症状…皮膚の間擦部や粘膜を中心に突然破れやすい弛緩性水疱が多発。難治性のびらんを生じ、軽快と再発をくり返す。時にびらん面に二次感染を起こし、広範囲の場合には電解質異常をきたすことがある 検査…Tzanck試験(+)(棘融解細胞が認められる) 治療…比較的大量のステロイドの内服がfirst choice。その他、ステロイドパルス療法や免疫抑制療法、血漿交換が行われることもある
- 増殖性天疱瘡
- 概念…Dsg3に対する自己抗体が産生されて、基底層直上に水疱形成がみられる
疫学…非常にまれ 症状…間擦部や粘膜を中心に小水疱や小膿疱を形成。滲出液が多く、悪臭を伴い増殖性のびらん面へと進行 治療…尋常性天疱瘡に準じる
- 落葉状天疱瘡
- 概念…Dsg1に対する自己抗体が産生されて、顆粒層部に水疱形成がみられる
疫学…天疱瘡の25%を占める 症状…脂漏部位を中心に小水疱が多発するが、すぐに破れて痂皮を形成し、治癒後は色素沈着を残す(明らかな水疱を見ることはまれ)。皮疹が広範囲に体表面にできると紅皮症になる 治療…ステロイド内服が基本(軽症例ではDDS内服のみの場合もある)
- 紅斑性天疱瘡(Senear-Usher症候群)
- 概念…Dsg1に対する自己抗体が産生されて、顆粒層部に水疱形成がみられる
疫学…天疱瘡の10%を占める 症状…顔面にSLE様の蝶形紅斑を認め、脂漏部位に小水疱・痂皮が生じる。SLEとの合併がしばしばみられる 検査…時に抗核抗体(+)、ループスバンドテスト(+) 治療…落葉状天疱瘡に準じる
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水疱性 類天疱瘡 bullous pemphigoid |
【概念】 | 高齢者に好発する自己免疫性表皮下(基底膜直上)水疱性疾患 | |
【疫学】 | 60歳以上の老人に多く、最も発症頻度の高い自己免疫性水疱症。悪性腫瘍を合併することがある |
【病因】 | 基底膜ヘミデスモゾーム部に存在する類天疱瘡抗原(BP230とBP180)に対する自己抗体の産生 |
【症状】 | 全身に紅斑を伴う緊満性水疱が多発し、強い掻痒感を伴う。粘膜疹を伴うこともある |
【検査】 | Nikolsky現象(−)、抗基底膜部IgG抗体(+)、基底膜部へのIgG・C3の線状沈着、表皮下水疱、水疱内への好酸球浸潤 |
【治療】 | ステロイド内服が基本。他には、テトラサイクリン+ニコチン酸アミドの内服、血漿交換などが行われることがある |
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疱疹状皮膚炎 dermatitis herpetiformis |
【疫学】 | 青壮年期に好発。欧米では比較的よくみられるが、日本では極めてまれ。HLA-B8,DRW3と強い相関を示す |
【症状】 | 皮疹…全身に対称性に浮腫性紅斑が出現し、その辺縁には環状の小水疱(表皮下水疱)がみられる。皮疹出現時に著しい掻痒と灼熱感を伴う 合併症…グルテン過敏性腸炎が9割にみられ、穀物摂取時に腹痛、下痢を起こす |
【検査】 | ヨードカリ貼布試験(+)etc. |
【病理】 | 水疱隣接部生検⇒表皮下水疱、真皮乳頭への好酸球浸潤、微小膿瘍形成、真皮乳頭へのIgA・C3の顆粒状沈着etc. |
【治療】 | DDS(ジアミノジフェニルスルフォン)が非常に有効。その他、食事療法としてグルテン除去食、ヨード除去食 |
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妊娠性疱疹 |
【概念】 | 妊娠中・産褥期に生じた類天疱瘡 |
【症状】 | 妊娠7ヶ月以後の妊婦の臍部を中心として、浮腫性紅斑と緊満性小水疱が出現し、徐々に拡大していく。時に粘膜疹を伴う |
【検査】 | 表皮下水疱、抗基底膜部IgG抗体(+)、基底膜部へのIgG・C3の線状沈着 |
【予後】 | 軽症で予後は良好 |
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腫瘍随伴性 天疱瘡 |
【概念】 | B細胞性悪性リンパ腫、Castleman腫瘍などの血液系悪性腫瘍に天疱瘡を合併したもの |
【症状】 | Stevens-Johnson症候群様の重篤な粘膜病変が特徴で、水疱・びらん・多形滲出性紅斑様皮疹などが全身に生じる |
【検査】 | 抗表皮細胞間IgG抗体(+) |
【予後】 | 非常に重篤で、死の転帰をとる |
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遺
伝
性
水
疱
性
疾
患 | 先天性 表皮水疱症 epidermolysis bullosa hereditaria (EB) |
【概念】 | 先天性素因に基づく基底膜部の接着能の低下により、生直後から水疱が生じ、生涯にわたって反復する疾患 |
【疫学】 | わが国での推定患者数は約600人 |
【病因】 | 表皮真皮境界部に存在する種々の分子の先天性異常 |
【症状】 | 皮疹…水疱形成を反復する。水疱は外力が働く部分にできやすく、比較的軽微な機械的刺激で起こる 合併症…消化器系粘膜の障害、泌尿器系障害、進行性筋ジストロフィーetc. |
【治療】 | 対症療法のみ。軽症例では外力の回避、二次感染予防目的でのびらん部位への抗生剤含有外用薬の塗布。重症例では、全身管理が必要 |
【各論】 | - 単純型表皮水疱症
- 概念…AD遺伝。ケラチンK5やK14遺伝子の異常のために、基底細胞や有棘細胞が細胞融解
症状…表皮内水疱でびらんとなるが、治癒後瘢痕は残らない 予後…症状は生涯継続するが、比較的軽症で、思春期以降は軽快する
- 接合部型表皮水疱症
- 概念…AR遺伝。ラミニン5の異常のために、基底膜部(基底板と基底細胞膜との間)で解離
症状…接合部水疱やびらんは瘢痕を残さずに治癒 亜型…Herlitz致死型では出生時すでに全身に水疱とびらんを形成しており、易感染性で、栄養不良、出血により数ヶ月で死亡する。その他の亜型でも先天性の合併症を有する場合があり、予後はよくない
- 栄養障害型表皮水疱症
- 概念…AD or AR遺伝。Z型コラーゲンの異常のために、真皮係留線維が解離
症状…出生時〜小児期に、四肢末梢の水疱(表皮下水疱)やびらんで始まり、治癒後に瘢痕を残す。粘膜侵襲が強く、食道狭窄による栄養障害をきたす他、爪の変形・脱落、指趾の萎縮・拘縮・骨萎縮などをきたすこともある。また、広範囲に生じるびらんのために電解質異常や二次感染、長い病期後に癌化が起こることもあり、予後はよいとはいえない。なお、症状はAR遺伝のものの方が強い
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家族性 良性慢性天疱瘡 (Hailey-Hailey病) benign familial chronic pemphigus
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【疫学】 | 多くは青年〜壮年期に発症 |
【病因】 | AD遺伝。細胞膜Ca2+ポンプに関連したATP2C1遺伝子の異常による |
【症状】 | 間擦部に弛緩性水疱が生じ、すぐに破れてびらん・痂皮を形成する。表皮は乳頭状に肥厚して、しわの方向に亀裂が入り、ひび割れたようにみえる。皮疹は寛解と増悪をくり返すが、特に夏季に増悪しやすく、二次感染を合併することもある |
【検査】 | 表皮基底膜直上に棘融解による表皮内水疱が認められる(尋常性天疱瘡に類似)。異常角化細胞も認められる |
【治療】 | 根本的治療法なし。対症的には、摩擦の回避、清潔、局所感染への対応、エトレチナートの内服etc. |
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